広い海を、一隻の船が進んでいた。
場所は、海賊達の墓場として知られる過酷極まりない海『
海賊船や海軍船など、相応に設備を整え、屈強な護衛を揃えた者達であっても、ただ征くだけでも相当な危険を伴う海である。
その海の上で、幸運にも荒れることなく穏やかなひと時に……甲板の上で、1人の少女が本を読んでいた。
「……きゃっ!?」
突然、船が大きく揺れた。
穏やかでも新世界の海。いきなり不意の波に襲われることもあれば、船底に巨大な魚が接触してくることもあるだろう。少女には、そんな想像ができていなかった。
だからこそ、『危ないから着くまでは船の中にいるのよ』という母親の言うことを聞かずに、外に出てきてしまったのだ。
燃料等の節約のため、船内は薄暗く、本を読むには少し心もとない明りしかなかったから。
幸いにも、それなりに大きく揺れはしたが、彼女自身が海に落ちるようなことはなかった。
しかし、驚いた拍子に手を放してしまった本が、甲板に落ちて、傾いたそこを滑っていって……船の淵の手すりの間の隙間から、そのまま……
「あ……あぁあっ!!」
慌てて女の子はその手すりのところまで駆け寄り、隙間から下を見下ろすが……どこにも本は見えなかった。
ただただ、青い海が広がっているだけだ。
海に落ちてしまった。お気に入りの本だったのに。
その事実を突きつけられて、女の子の心の中は、悲しい気持ちで埋め尽くされていく。目には涙が溜まり始め……数秒もすれば、泣きだしてしまうのではないかと思われた。
……しかし、
「はい、コレ」
「え?」
ふいに、隣からそんな声が聞こえて、女の子が振り向く。
するとそこには、さっきまでいなかったはずの……1人の女性が立っていた。白い……否、白金にきらめく髪が特徴的な、背の高い美女だった。
その手には……
「あっ……私の本!」
「落ちそうになってたから拾ってあげたよ。よかった、間に合って」
女性が差し出してくれていた本を、ひったくるように手に取り、裏表紙に自分の名前を見つけた女の子は……間違いなく自分の本だと確信した。
泣きそうだった顔が、あっという間に笑顔に変わる。
「よかったぁ……ありがとう、おばちゃん!」
「おばっ!?」
無邪気な子供の、悪意無き心の刃が女性を襲った。
女性はしかし、大人げなく怒るようなことはせず、少しだけ顔を引きつらせながらも……勤めて穏やかな口調で、優しく女の子に聞いた。
「本読むの、好きなの?」
「うん!」
「その本、面白い?」
「うん! あのね、この本に出てくる女の子、すごいんだよ! 私と同い年なのに……」
本当に、よほどその本が好きなのだろう。キラキラと輝くような笑顔で、自分がその本のどんなところが好きなのか、どんな場面で心が躍ったかなど、熱く語っていく女の子。
思いついたことをそのまま喋るせいで、場面が行ったり来たりするし、何度も同じことをしゃべっていたりするのだが、女性は嫌な顔一つせずにそれを聞いていた。
たっぷり5分ほどもそうして喋っていた少女。
なぜかそれを聞いて嬉しそうにしている女性が、彼女の頭を撫でてやっていると、
「リコ~~!? どこに行ったの~~!?」
「あ、ママだ」
そんな声が聞こえてしばし。1人の女性が、船の中から甲板に出てきた。
その声に、はっとして振り返る女の子。
「リコ! あなたこんなところに……外に出ちゃダメだって言ったでしょう! 『金獅子海賊団』が守って送ってくれるとはいえ、海は危険なんだから! さっきも船が揺れたでしょう? 大丈夫だった?」
「ごめんなさい、ママ……でも、平気だったよ? このおばちゃんが……」
「この、って……? 誰もいないじゃない?」
「え? 何言って……」
母親の方を見ていた少女が、振り返ると、そこには……先ほどまで自分と話していたはずの女性が、忽然といなくなっていた。
右を見ても左を見ても、どこにもいない。足跡も足音もなく、まるで最初からいなかったかのように……消えていた。
しかし、今のが気のせいでは絶対にないことは、まだ彼女の頭に残る、やさしくなでられた心地よく、暖かい感触が証明している。
「…………あれえ?」
その少女が、もし、右左だけでなく『上』を見ていたら……翼を広げて飛び去るところだった、その『おばちゃん』を見つけられていたかもしれないが……少女は、安心した様子の母親に連れられて、さっさと船の中に引っ込んでしまった。
……その、数分後。
「ただいまー」
「おかえりー、なのですよ。気分転換の散歩は楽しかったですか、スゥ?」
「うん、ばっちり。いやあ、思いがけずファンとの交流もしちゃったりしてね。癒された~……」
「……よくわかりませんが、まあ、リフレッシュできたならよかったのですよ」
新世界、とある島。
そこは、いくつもの島々から構成される『大国』の、さらに中心部に位置する島で……ちょうど、かつて『ビッグ・マム』が支配していた『
大きく違うのは、この島々は最初からここにあったわけではなく……ある大海賊の手によって、よそから運び込まれて作られた、人造の諸島であることだ。
金獅子海賊団の重要拠点の1つとなっているこの国、この島の……さらに中心部にある巨大な宮殿のような建物。『官邸』と呼ばれるそこに……スゥは、窓から入って降り立った。
それに文句を言う者はいない。そこはスゥの部屋だし、さらにはその『官邸』そのものが、実質的にスゥの所有物、彼女の自宅に等しいものだからだ。
部屋で待っていた、彼女の側近……ブルーメは、呆れ交じりに笑って主を出迎えた。
「一応今日、これからの予定を確認しておくのですよ、スゥ。と言ってもまあ、政治その他はいつも通り、大親分直参の閣僚達に任せてしまうとして……書類に決済印だけほしいとのことなので、チェックをお願いするのです」
そう言ってブルーメは、傍らに置いてあった箱を、スゥのついた机の上にどさっと置く。
バインダーでとめられた、そこそこの量の書類が入っているのを見て、うわあ、という顔になるスゥ。
「はいはい、了解。……決済って言っても私、ホントに言われたとおりにハンコ押すだけだから、飛ばしてもらっても問題ないんだけどね。この国だって基本、運営はパパ達に任せてるんだし」
「だとしても、『国』という体裁を成しているという証明のためには必要なことなのですよ。それに……スゥにとって面白くない、やってほしくない運営がされていないか、確認する意味でも重要なことなのです。一応とはいえ、あなたの国なのですからね」
聞いている間にも、スゥはすさまじい速さで書類を読んで内容を把握し、きちんと内容に納得した上でハンコを押していく。
どうでもいいように言いつつも、適当にハンコだけ押して終わりにしないあたりに、スゥの生来の真面目さや、この『国』に住む民達の生活をきちんといいものにしておきたいとは思っている、優しさが見て取れて……ブルーメはくすりと笑ってしまった。
「それ終わったら、ビューティがおやつを用意してくれているのですよ。だから頑張ってください……『合衆国アルカディア』初代大統領、ベネルディ・トート・スゥ閣下」
「マジで!? よっし、やる気出たァ……一気に終わらせちゃうから待っててね!」
☆☆☆
所変わって……新世界は『海軍本部』。
その一角にある、畳づくりの会議室で、海軍本部准将・ブランニューは熱弁をふるっていた。
会議参加者には、元帥のクザンを含め、大将・中将クラスが数多くおり、仕事で出ている者以外は原則全員出席の形で開催されていた。
議題は……スゥと『金獅子海賊団』。そして、彼女達がつい最近興した『国』についてだ。
「この『合衆国』とは、『王国』とも『帝国』とも違う全く新しい国家の形態です! 歴史上、同じような体制をとった国が存在した記録はどこにも見ることはできませんが……当の『海賊文豪』が執筆した、最新にして最大の問題作の中にその存在があります!」
「最近の著作となると……『コードギアス』か」
「はい。七武海撤廃に伴いいち海賊に戻り、同時に新たな『海の皇帝』に名を連ねた『海賊文豪』ですが、政府に気兼ねなく執筆できるようになるやいなや、これを発表しました。世界全体の大半を支配する強大な『帝国』に対し、その国に捨てられた皇子と、占領された国出身の騎士が、それぞれに立ち上がり打倒さんとする『反逆』の物語! 『煌帝』サボの出現もあり、昨今非常に活発な『革命』の追い風になりかねないとして出版停止を政府が決定するも、裏ルートで今なお世界中に出回っている危険な著書です。ですが、この著書に関する話はまた別に……」
「ああ、そうだったな……今は『合衆国』か」
「はい。この『合衆国』ですが、中央集権的で、国の方針や1つ1つの政策を一部の特権階級のみが決定する『王国』とは違い、そこに住む市民から代表者を募って『議会』を開催し、そこで出た意見や要望を元に国家運営の方針を決めるという、いわば『民が参加する政治形態』なのです」
「バカな……政治などわからん市民の意見など取り入れたところで、まともに国家の運営ができるはずがない!」
「こう言ってはなんですが、まともな教育を受けていない者達の意見など聞いても……混乱して空中分解するだけなのでは?」
「多くの有識者達も同意見でした。運営する組織が大きくなればなるほど、末端の意見を取り入れて運営に反映させるなど至難の業……しかしながら、これまでのナワバリ各所の運営ノウハウによるものか、現状、破綻させずに運営できているようです」
ばかな、とか、ありえない、とかの声があちこちから聞こえる中、ブランニューは続ける。
「調べたところ、完全に民達の代表者に政権を渡しているのではなく、あくまで彼らの意見を『参考に』しているだけで、実権はやはり『金獅子海賊団』の指導部が握っているようです。国家元首にあたる『大統領』に『海賊文豪』が、政治・軍事の両方における最高執行権者である『総統』にシキが就任している時点でそれがうかがえる……」
「それじゃあ……普通の『王国』と変わらないじゃないか」
「ええ、ですが……一部とはいえ民の意見を政治に反映させているのも事実であり、実際にそれらの意見を基にした政策がいくつか実行され、そこに住む国民達はその恩恵を享受しています。結果として、国民達のこの国の政治や、その指導部に対する、ひいては国そのものに対する『満足度』は非常に高く、彼らは心から『金獅子』による統治を歓迎しているのです。この事実が、現状が、世界に広まり、『我が国もぜひ』という声が高まることを政府は懸念しています」
世界に存在する多くの国は、国王やその側近である貴族達がほとんど全ての権力を握り、執政を行って国を回している。
その中には、自分達のことを絶対視し、私利私欲のための圧政・暴政に走る者……そして、その自覚がない、自分を『まともな、善良な王』だと思っている者も少なくない。
民のために政治を行う、という発想がそもそもないか、その内容を勘違いしているのだ。
そういった国こそ『革命軍』のターゲットになるわけだが、今後はさらに、著書や『アルカディア』の存在を知った市民達が、声高に『自分達の声を政治に届ける』ことを叫び出す恐れが出てきてしまう。
集権統治の極致と言ってもいい『世界政府』のやり方には、どうあっても相容れないことだ。
「この『合衆国アルカディア』ですが、民達にとっては平和に暮らせる理想の国であるがゆえに、移住希望者は各地から続々と集まってきており、人口は今も増加中。主に非加盟国が中心ですが、一部の加盟国からすら、移住希望者が出ているとの報告が。人口の多さは、ノウハウを持つシキの元ではそのまま国力の増加につながります。ひいては、金獅子海賊団の力の増大にも」
「海賊がまがい物の国家で、しかし真っ当に国家運営を行って、利益を上げて力をつけて……政府加盟の本物の、正当な国家は『革命』に怯える日々……皮肉な状況だねェ~……」
「しかも、民の皆さんが笑っているのは『まがい物』の方と来たもんだ……色々と考えさせられちまう事実じゃあございやせんか」
「黄猿大将、藤虎大将……そのような言い方は……」
「いい、いい。実際その通りなんだ、内輪の会議でどう言ってくれようが構いやしねえよ」
黄猿と藤虎の物言いをいさめようとする一部の中将がいたが、元帥であるクザンが制したことで何も言わずに引っ込んだ。
「それよりも、現状の問題把握やら何やらを進めるのが先だ。ブランニュー准将。その『合衆国』に関して、革命や市民からの陳情等の誘発以外に警戒すべき点は?」
「はっ! この『合衆国アルカディア』ですが、表向きは平和に運営されている国なのですが……シキが運営しているだけあり、裏では相当に活発な『闇』の市場となっているようです。かつての『ジョーカー』のそれをはるかに超える『闇取引』の温床となっており……さらには、昨今活動が活発化している『革命軍』や、最近世界政府を脱退した『ジェルマ王国』、新興ながら非常に危険な犯罪結社『クロスギルド』との繋がりも噂されています。未確認の情報を多分に含みますので、どこまでが本当なのか、現時点ではまだわかりませんが……」
「もし本当なら、世界中の『悪』を勢いづかせることにつながるな。それも加速度的に……何せ、大国一つ、あるいはそれ以上の規模の『国力』が闇社会を後押しすることになる」
「はい。ですがさらに恐ろしいのは、この『アルカディア』ですら、『金獅子海賊団』の拠点の一つに過ぎないということです! 本拠地と目される神出鬼没の人造の空島『メルヴィユ』に始まり、ビッグ・マム海賊団を滅ぼして奪った、今や一大食糧生産場となっている『
「そ、それはもう……『悪の世界政府』と呼べるレベルじゃないのか……!?」
「然り! 海賊という連中の大半は、強大だが利己的で、他者と強調することなど考えないものがほとんどだった……だが、彼らは違う!」
例えば、ビッグ・マム海賊団。
恐怖と武力で多くの傘下海賊団やナワバリを支配していたが、あくまでその中心は自分達で、他の全ては自分達の力を増すためのもの。道具であり兵隊、あるいは奴隷という位置づけだった。
だからこそ、それらの力を吸い上げてビッグ・マム海賊団はどんどん強大になっていくが、傘下の海賊団の力まで増すことはなかった。各々で力をつけて徐々に成長することはあっても、ビッグ・マム海賊団の助力によって劇的に成長するようなことは、まずなかった。
しかし、金獅子海賊団は違う。長年の運営ノウハウと、豊富な物資・資金を有するシキは、傘下や協力関係にいる者達、さらにはナワバリの力を『先行投資』によって増大させることで、それを還元させる形でさらに劇的に海賊団の勢力を増していく。
本丸は本丸で、枝葉は枝葉で、協力者は協力者で、それぞれに強くなっていくため、非常に速いペースで強大な『悪の組織』が出来上がり、そしてさらに成長していく。
そんなことは、世界政府やその加盟国であってもほぼ不可能なやり方だった。
世界政府もまた、加盟国から搾取する立場で運営を行っており……リターンと言えば『海軍』による武力と権力の保証だけ。国が豊かになるかどうかは、完全に個々の運営次第なのだから。
そもそも、普通に考えれば、力を増した傘下達によって寝首をかかれることを警戒して、海賊にこそできなさそうなやり方である。海賊の同盟には、裏切りはつきものだ。
いったいどんな強大なカリスマによる支持の元、どれだけ繊細なかじ取りを行うことが出来れば、ここまでの芸当が可能なのか……『金獅子』と『海賊文豪』の、武力とは異なる『力』に、その場にいた海兵達は戦慄せざるを得なかった。
「確実に今既に、世界最大の海賊団と、世界最大の悪の組織と呼べる存在となった『金獅子海賊団』ですが、今なおその力を増し続け、支配地域は増え続けています! 武力、財力、生産力、技術力、影響力……その全てが日増しに大きくなっている今、最早一刻の猶予もないと考えるべきです! 不謹慎を承知で言いますが……彼らが『その気』になった時、海軍の、いや世界政府の喉元に迫りくる凶牙を止められるかどうかは、今もう既にわからない! 彼らが最終的に思い描いている理想が何なのか、それによっては、今のこの『大海賊時代』すら生ぬるいと思えてしまうような、絶望と混迷の、暗黒の時代が来てしまう可能性すら……決して! 否定できないのです!」
☆☆☆
「別にそんな大それたこと考えてないっちゅーのに……勝手に邪推して人の危険度水増ししないでほしいわ」
「海軍の会議平然と盗聴しながら何か言ってんぞコイツ」
「言ってることとやってることが~……とはよく言ったものなのです」
うっさいな2人とも。
確かに海軍本部での会議盗聴してるけど、別に盗聴器仕掛けたとかじゃなくて……裏切ってる海軍将校が情報流してくれてるだけだぞ。こっちから自発的に動いたわけじゃない。
それよりもだよ。何をこの人……ブランニューだったっけ?
人のこと勝手に凶悪犯扱いして……いや確かに『四皇』にまでなっちゃった海賊だし、勝手に国を立ち上げてそういう運営の仕方をしてるのも事実だけどさ。
それでも、そんな大それた……恐怖の大魔王みたいなこと考えちゃいないってば。全く……
私の望みとか、思い描く未来なんて……ホントにかわいいもんだよ?
ただいま私は、いや私達は、『大統領』としての仕事もさっさと終わったので、ビューティが作ってくれたお茶菓子を食べながら、のんびりティータイムで休憩してるところだ。
私、ブルーメ、ビューティに加えて、娘達も一緒になってね。
スズ、レオナ、アリス……それにイリスにスノウ、ユゥ、ナナ、サーヤ、ルゥ、全員揃ってる。
「ぷはー! あー、お茶もおかしもうめー! ビューティおかわり!」
「へいへい……ったく、もうちょっとゆっくり味わって食えよ。いや味わってはいるんだろうけど……わんこそばみたいなペースでスイーツを次々食うなっての」
「お夕飯が入らなくなっても知らないのですよ、レオナお嬢様?」
「やめておけビューティ、ブルーメ、言うだけ無駄じゃ。レオナなら心配いらん、普通に何事もなかったかのように晩飯も食うじゃろうて」
「それはそうとお嬢様、明日の予定なのですが……「「じ~っ……」」……な、何ですかナナ、サーヤ……何か言いたいことでも?」
「それはまあ……だってユゥ、私達と同じく、お母さまの『娘』なのに……」
「いつになっても呼び方が『お嬢様』ですから、いつまで強情張ってるのかなと思いまして」
「ご、強情ってねえ……私は対外的にもお嬢様の秘書的な立ち位置で動きますから、立場の違いをきちんとわきまえて働くことを意識しているだけで……」
「他全員が母上のことを普通に母親として呼んでる中で、今更だと思う。ユゥはもうちょっと素直になって母上に甘えちゃうべき」
「い、いや別に私は素直に……あっちょっとルゥ! それ私のお茶菓子……」
「はいはい、ユゥにはユゥのペースがあるんだろうから、あんまり無理に言わないのよ、皆。お母さんならどういう呼び方しても気にしないし、受け入れてくれるからね」
「公的な場を意識してふるまいをただすことができるのは、素直にユゥの美点ですからね。とはいえ……公私をきちんと分けていれば、『私』の方でもう少し力を抜いてもいいとは思いますが」
なんてことない雑談に花を咲かせる娘達。
中身はちょっと特殊ではあるけど……平和な昼下がり、どこにでもあるような落ち着いた、平和で、穏やかな時間。家族皆で楽しむお茶会。
誰にも邪魔されないこんな時間が、私にとっては宝物だよ。十分に。
「そうだお母さん、さっきエルザから連絡あってさ。お母さんが行きたいって言ってた『ゾウ』への取材、近々行けるかもしれないって」
「え、ホント!?」
雑談の中でふと思い出したようにアリスが教えてくれた事実に、自分で言うけど、目がキラキラと輝くくらいに気分がよくなった私。
やった! ようやく……ようやく行けそうじゃないか、『ゾウ』!
何か最近、色々とゴタゴタしてて……それも、私達だけじゃなく『ゾウ』の方もしてたみたいで、そんなところに押しかけるのもアレだから自粛してたんだけど、どうやらそれも収まったみたい。
ああ、楽しみだなあ……どんなところなんだろう、『モコモ公国』! ミンク族達の総本山!
ちょっと前に『百獣海賊団』に襲撃されて都が滅んだり、つい最近王様が代替わりしちゃったらしいけど……それでも楽しみだな!
「やっぱお母さん、面白そうなところに取材に行く時、目が少年の目になるよね。はた目から見ても超わくわくしてるってわかるくらいにキラッキラだもん」
「『七武海』に就任した直後くらいの時期、連日こんな感じじゃったの。政府の許可が出て、今まで行けなかったところに行けるようになったから、片っ端から回っとったわ」
「すごい勢いであちこち飛び回ったと思ったら、すぐさまメルヴィユに帰ってきて部屋に引きこもって執筆……の繰り返しだったよな。多分今回もそうなるんじゃね?」
3人娘がそれぞれ好き勝手言ってくれるけど……実際そうなる予感がしてるので何も言えん。
刺激的な体験をして、面白い場所や出来事を取材して、脳内に……執筆意欲に火が付いた時の私は、それはもう、私自身でも止められないからな。
次に行く『ゾウ』への取材旅行も、さぞかし実りあるものになるだろう。なるといいな。
「あーでも『ゾウ』以外にも行きたいところいっぱいあるんだよねー……『七武海』だった頃とは違って、政府に気兼ねしなくてよくなったからこそ行ける場所とか」
「例えばどこ?」
「んー……ハチノスとか、ワノ国とか……オハラ跡地や、『ゴッドバレー』の跡地……それから、こないだ引っ越しちゃったけど、革命軍の総本部があった『バルディゴ』とか……その革命軍が襲撃して壊滅させた『テキーラウルフ』とか……『8か国革命』があった国々とか……」
「結構我慢してたんじゃの」
「そして並べてみると、結構ヤバい取材対象まだまだあったんだね」
「あーあとそれから、やっぱ一番はあそこだね―――」
「―――“
「…………っ!?」
さすがにびっくりしたのかな。アリスも含めて、その部屋にいた全員がぎょっとして私の方を見た。
まあ、こういう反応になるんじゃないかと思ってたから、ぶっちゃけ私に驚きとかはない。
「え、ええと……お母さん、『ラフテル』に行きたいってことは……」
「“
「え!? じゃあ母ちゃん『海賊王』になるの!?」
「いや、ならないよ?」
いつも言ってるじゃん。私は海賊王とか……というか、海賊そのものにあんま興味ないって。
『二代目提督』だろうが『七武海』だろうが『大統領』だろうが、それこそ『四皇』だろうが、海賊としての肩書がどんなものがついて来ようと……私の本業はあくまで『作家』のつもりなんだから。
今のこの『大統領』も、行くとこまで行きついた結果の今の地位……とかだとは思ってない。ビッグ・マムが最終的にお菓子の国の『女王』になって君臨したのとは違って、私は別に『君臨』してるつもりはないっていうか……『なんかまた担当する業務増えたなー』程度に見て、一応やることはやってるだけ、みたいな感じである。
何度も言うように、金獅子海賊団自体の運営も含め、こういうののかじ取りとか謀略組み立ててるのは主にパパなんだから。1から100まで。
その上で、上手いもんで私にもきちんと利になる形を用意して『形だけでいいからコレ頼むわー』『えー。もう、しょうがないにゃあ』みたいに毎度毎度……
……微妙に話がそれたけど、だからまあ……
「取材してみたいじゃん。『海賊王』になった人の。誰がそうなるかわかんないけどさ」
やっぱ順当に、主人公ってことでルフィかな?
それとも、本人はあんまりおもしろくは思ってないだろうけど……海賊王二世のエース?
大穴で、昨今なぜか、謎に勢いがついてきてるバギー?
それとも……三代目『提督』の最右翼とまで最近言われ出してる、うちのアリスかも……?
誰がそうなるかはわかんないけど……いつか『ラフテル』に行って、できることなら『海賊王』が誕生する瞬間にも立ち会ってみたい。一部始終を取材してみたい。
その取材は……その出会いは、どんな形で私の心を燃やしてくれるのかな?
どんな物語を生むのかな?
どれだけの人を笑顔にできるのかな?
考えてたらそわそわしてしまって、席を立ってそのへんうろうろ歩き回ってた。
何考えてるかわかっちゃったんだろう。ビューティとブルーメ、それに娘達が『しょうがないなこの人』って感じで苦笑してるのが、視界の端に見えた。
……うろついてる途中、ふと窓の外の景色を見たら……『官邸』の前の大通りを、一組の親子連れらしい人達が歩いてるのが見えた。
お父さんとお母さんを両側に、その真ん中で、本を抱えてにこにこ笑ってる子供が1人。絵物語の本のようだ……お父さんお母さんに頼んで買ってもらったのかな。嬉しそうだ。
我慢できずに、その場で開いて読み始めようとして、『読みながら歩くのは危ないぞ』『家に帰ってからにしなさい』って注意されてるのを見て、私も苦笑してしまった。
その後、ちょっとしゅんとしつつも、でもやっぱりうきうきしていて、楽しそうで嬉しそうな顔の女の子。
(……うん、これだこれ)
読んだ人に笑顔になってもらいたい。楽しくて、嬉しくて、幸せな気分になってもらいたい。
オリジナルの物語の読み聞かせをしてた時から……今に至るまで、ずっと変わらない。ずっと同じ。私にとっての
取材対象がどこの誰であれ、何であれ、書き上げる本がどんなものであれ……結局最後にはそう考えながら、私は……うっきうきでペンを走らせるんだ。
あー、本当に今から楽しみだ!
『ゾウ』を取材して出す本も……『ラフテル』や『海賊王』の取材で出す本も。
読者より誰より、私が楽しみだ!
待ってろよ世界! いつになるかはわからないし、どんなものになるかもわからないけど……絶対、私の本で、笑顔にしてやるからな!!
―――大文豪に私はなる!
―――これにて、完結。
以上を持ちまして、本編全ての投稿を終了いたしました!
読み返してみましたら、2023年の3月から投稿始めて……およそ1年10か月もの間、お付き合いいただいたことになります。
本当に最初から最後まで、書きたいように書かせていただきました。
当初は『頂上戦争編』で終わる予定だったのが、楽しくなってここまで続いて……プロットの調整も結構大変でしたが、何だかんだでやり切った感あります。
我慢できなくて趣味に走ったり、お休みをいただいたり、例によってクロスオーバーで遊んだりもしたなあ……。
途中本当に色々ありましたが、どうにかここまでこぎつけました。
これもひとえに、応援してくださった読者の皆様のおかげと思っております。感想にメッセージに、1つ残らず読んで、力に変えさせていただいておりました。
もしかしたら今後、書ききれなかった『ワノ国編』や、その他、一応頭の中にまだあるストーリーなどを、後日談とか、番外編的に投稿したりするかもしれません。作者のテンション次第というか、ぶっちゃけ筆が乗れば、ですけど。
もしその時が来たら、またよろしくしていただければ嬉しいです。
どっちにしても今は……ちょっと燃えつきた感あるので、しばしお休みいただくか、気分転換に他の作品とか書いたり、新しい作品を書きに走るかもです。
これをもちまして、『大文豪に私はなる!』は完結となります。
皆様本当に、ご愛読どうもありがとうございました!