あの事件の後、周囲からは腫れ物のように扱われた。飛び交う陰口、陰湿な嫌がらせ、とてもではないが元の生活には戻れない。
「また、何も出来なかった.....」
家族で暮らしていた家は、次々と訪れるマスコミによってまともに暮らすことも出来なくなった。みんなの居場所だった喫茶店は当然のように閉店、少し苦いけど好きだったコーヒーの味も今の心持ちでは分からない。
今の私、魔法少女スターライトは空っぽだ。相方だったブルースカイちゃんも半ば喧嘩別れのようになってから会っていない。今は何してるのかな、まだ戦っているのかな。
あの日以降、魔法少女の姿になるのが怖くて仕方ない。録画映像を見て分かってしまったからだろう、自分がどういう存在なのか。魔法少女とは何なのか。
自分の身体が自分の物じゃないように感じる。だって、頭を吹き飛ばされてもこうして生きているなんて、人間じゃない。さながら化け物みたい、と思うのは自然だろうか。
「こんなんだから空ちゃんも......嫌になるよね」
中学生には少し早い一人暮らし、一部の『訳あり』の子が入る魔法少女の寮に入ることになるとは思わなかった。こういう受け皿があるなら、ブルースカイのような孤児上がりの魔法少女がいるのも納得だ。
そんなことを言って私は、今日も世界から逃げ続ける。魔法少女寮の廊下と壁一枚の隔たり、閉ざされたこの部屋の中で、外の世界から目を伏せる。
だって、外の世界は怖い魔女がいる。魔女は悪意を振り撒き、その悪意に当てられた無垢な市民は同調して私達を責め立てる。......そんなの、とても身勝手だよね。
ピンポーン
来客を告げる機械的なチャイムが、部屋の中に流れる。ここ数日の沈み方は寮監でさえしばらくは来ないほどなのに、今更誰が......
『はいはい、そんなところで寝ているだけだと
「―――!?」
咄嗟に言葉が出なかったのは驚愕か、或いは状況を理解できなかったから。嫌だ、その扉を開けないで。今貴女達を見たら、ショックでどうにかなってしまいそうだから。
『あれ、いないのかな? じゃあお邪魔しまーす――』
そんな私を置き去りに、悪意は扉を開く。
▼
あれから二時間くらい経っただろうか。最初の方は元気な悲鳴を上げていたブルースカイも、今では細々とした声でしか抵抗ができていない。
「やだ......もう、殺して下さい。お願いします」
「あー......失敗したなぁ。拷問って一定値を超えると死ぬことが嫌になるんじゃなくて、生きていることが嫌になるんだ。こういうのは初めてだから慣れてないなぁ」
参ったな、これじゃあ今までのアプローチは全部無駄じゃないか。この千切れた腕の山といい、後片付けが面倒な割に失敗しましたとか全くもって笑えないな。
「ただいまー......うわ、汚いのだ。何したのこれ」
「腕を千切って回復魔法で生やしてを繰り返したらこうなったわ。失敗失敗。でもちょうど良いタイミングかな?」
マンネリとした状況にテンプとイナが『お使い』から帰ってきた。手元には日用品、ここまでなら微笑ましいがイナの触手が、それに見合わないサイズの担架を運んでいる。
「はい、起きなよ―――魔法少女スターライトちゃん」
「―――ここは......そ、空!? 何が――」
「あ、光......?」
理解が追いついていないのか、視界が最初に収めた友人の姿に走りだそうとする少女。担架に磔にされている時点で動けないはずだが、半端に意識が覚醒しているのか拘束から逃れるようにもがいている。
「空って誰?」
「魔法少女ブルースカイの本名、
触手を軽くわさわさと揺らしながらお説教モードに入るイナ、どうやって機嫌取ろうかな......と思ったのも束の間、ボクに注がれた刃物を向けるような視線に気付く。
「歯車の、魔女......空に、ブルースカイに、何をしたの」
「んー、何したかって? 都合の良い手駒とそれなりの情報が欲しかったんだけど、ちょいとアプローチを間違えちゃってね。この有様ってワケだよお恥ずかしい」
刺すような視線の正体は、磔にされた魔法少女スターライトだった。これは正直意外としか言えない。
――魔法少女スターライトは、この前の情報テロで心が折れたはず。だからお友達のブルースカイの拷問に『使える』と思ったんだが......
「悪魔が......ッ! 空から離れて!」
どうやらそれは思い違いだったようだ。吠えるだけの元気は残っていて、まだ他人を気にするだけの余裕がある。
「随分と元気そうで何よりじゃないか、スターライトちゃん? 見ての通りブルースカイちゃんはまだ生きてるけど、何をそんなに慌てているんだ?」
「じゃあその千切れた腕の山は何よ......ッ! 人のことを、私達、魔法少女のことを何だと思っているの!?」
その悲痛な叫びは、もはや自我を保つための反射的なものだろうか。確かに彼女達からしてみれば、『災害』に等しいボク達に巻き込まれただけ。だけども......
「被害者ぶるなよ、偽善者が。『ヒーロー』はどんな状況でもお行儀良くテーブルマナーを守るのか? そんな純粋なら、
こんな状況になったのは、先に手を出したのが協会だからだ。信用できない協会の勧誘を蹴っていただけで、魔女と呼ばれ攻撃された恨みも、無くはないがそれは別の話。
平和を乱す怪人を倒す、これは分かる。国に管理された魔法少女に課せられた義務、仕事なんだから。
悪いことをした魔法少女を取り締まる、これも分かる。魔法に対抗できるのは魔法だけ、協会所属がそういう仕事をするのも納得はする。
だけど、一度協会の誘いを断っただけでボク達が割を食うのは納得がいかない。所詮は子供達のエゴ、はみ出し者の戯言。民意ではないが、少数派の意見ってやつだ。
「そんな道理―――通るはずが」
キイィィィィィン!!
――スターライトちゃんが反論をしようとしたその時だった。話し声だけが聞こえていたアジトの中に、大音量のノイズが鳴り響いた。
「何だ―――!? イナ、テンプ、警戒を!」
敵の強襲、或いは何者かの介入かと、一同がぎょっとして周囲を見渡せば、すぐに原因は分かった。部屋の電子機器――テレビが、勝手に映像を映しているのだった。
......外部から、何者かが通信を割り込ませている?
ボクの脳内でその結論が出るより早く、回線が繋がった。
『アハハ――なんだ、こっちの暗部のことに気が付いているんですか。それじゃあ特に隠し立てすることも理由も無いので、介入させてもらいますよっと――』
映像を映すテレビという箱庭の中で、ボク達とは違う、少女の形をした別の悪意が蠢いていた。
ナナシ
・初めてだから拷問の手際が悪い
・今まで協会がしてきた事には苛立っている
・ナナシにも予想外のことが起きている
イナ&テンプ
・テンプの魔法で潜入、拉致を実行
・運搬はイナが適当に
・この腕の山の後片付けどうしよう......
魔法少女ブルースカイ/鳥谷空
・二時間腕を千切られ続けた
・殺してほしいと懇願するまで追い詰められる
・意識も朦朧
魔法少女スターライト/星空光
・トラウマを抱え引き篭もっていた
・イナとテンプによって連行された
・ブルースカイの為にナナシ相手に舌戦
謎の声/???
・テレビの通信に割り込んだ
・めちゃくちゃ怪しい
・暗部(仮定)のことを知っている?