深い微睡の中で、何度も何度も同じ夢を見た。
視点は定まっておらず、身体は自由に動かない。全身は何かの液体に浸かっていて、まるで赤子が母体の羊水で成長している時みたいだ。いや私にはそんな経験は無いが。
『実験体17号の経過は......うん、バイタルも安定しているわね。じゃあこのままの調整で――』
頭部からツノを生やした白衣の女性が、ガラスを通した先の空間で私を見ていた。薄暗いその部屋で妖しく光る双眸は、化け物の私が見ても怪物めいていた。
これはかつての記憶。夢の中だと理解しているのに、いつもその眼差しには身震いしてしまう。本能的な恐怖、アレが何を考えているのかが分からない。それが、怖い。
『――早く完成して、私を殺してね。そして――』
その夢は、いつも途中で途切れている。
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唐突に起きた協会暗部の接触から数日、私達は攻勢に出ることもなく新たな拠点で情勢を正視していた。そして少しずつ、浮き彫りになったことがある。
「――これを見てくれ」
ナナシが差し出した写真には、今となっては珍しくない光景が写っていた。駅前など人通りの多い場所で行われている、魔法少女に対するデモ活動。市民達が掲げた民意という名前のナイフ、その風景だった。
「やはりというか何というか――、これはだんまりを決め込んでいた組織の策だ。と言っても協会暗部ならこんなことする理由が無いから、ただの消去法に過ぎないが」
――そもそもこの状況、民意を煽って得をするのは誰だ?
私達、『ディザスター』......協会に対してダメージを与えるという目的で行った。でも、この話はそこまでだ。これ以上に烏合の衆を煽動する気はないし、協会へのダメージが暗部に入るとは限らない。だから私達はやっていない。
じゃあ協会暗部の策略か......違うだろう。わざわざ魔法少女に対してのヘイトを煽って、得をすることがない。
となれば、盤面に残るのは動きを見せない組織だ。魔法少女と市民の対立を煽る理由は十分にあるだろう。
「前から気になってはいたんだよ。第9席だっけ、アレを倒してから動きがなさ過ぎる。だが逆に考えると――」
「――動く必要がないから動かなかった。力を抑えて、私達と協会のいざこざで起きた世論の揺らぎを、最大限に活かすために。
組織は動いていなかった、とんでもない勘違いだ。虎視眈々と隙間を縫うように攻撃の機会を窺い、力を蓄えていたというのが正しいだろう。
何せ組織からすれば周りの敵は全て魔法少女、上手くいけば直接手を下さずとも思春期の少女達は潰れていく。皮肉にも、少女達が守ろうとしている日常によって。
民意を束ねることに、街頭などで行われる演説は非常に有効だ。自分で物事を決める意思のない曖昧なゾーンに、指向性を与えることができる。
「それだけで話が終わるなら単純だったんだがなぁ......」
そう、それなら話は単純だった。協会も組織も、自分達以外の陣営を潰すことが目的ならば潰し合うだけだ。だが......
「――ボク達が組織を攻撃しようと協会の魔法少女を手駒にしようとした時、暗部は動いた。まるで
「――あいつらは組織の第8席を倒していた。協会暗部には、我らとは違う到達点がある?」
「分からん、正直マージでわからん」
それぞれの思惑、交差する陰謀。不確かな考察が飛び交う中で間違いがないのは、誰かが勝ち抜けたら他の陣営は生きてはいないだろうということくらいか。
「でも勝ち方は単純だ、自分達以外を倒すこと。敗北条件も単純、自分達が死ぬこと。なら話は簡単、半端な勝利はいらない。
他人の敷いたレールに価値はない、そんな社会の歯車には価値がない。そんなことを考えているうちに脳裏をよぎった突拍子もない作戦が、退屈な世界をぶち壊す。
「ナナシ、ちょっと提案があるんだけど」
「ん、どうしたイナ。まぁとりあえず言ってみ?」
「私を作った
――それは地獄への片道切符か、起死回生の一手か。
ナナシ&イナ&テンプ
・各陣営の目的の考察を行う
・勝利条件は一人勝ちのみ
・次のターゲットは......?
追記(5/24)
変換ミスがあったため後書きを一部修正しました