「このクソ魔女が、くら―――!」
「―――遅い、そんなんじゃ欠伸が出るわ」
一気に勝負をつけようと距離を詰めた協会の魔法少女を、カウンター気味の当て身で気絶させる。コツとかは特に知らないが、少し強めに叩けば大体は気絶する。
朝っぱらからなんで戦ったんだっけか......あぁ、確か相方の魔法少女の敵討ちとか言われてこいつに攻撃されたんだっけか。
「はぁ......協会相手は疲れるだけだし、割に合わねえ」
口から溢れるため息は一つ、胸の内に積み重なった苛立ちは無数。何度か協会をぶっ潰そうか迷ったが、まだその辺は曖昧な方がこっちとしてはいい。
組織の怪人が相手なら毟れるだけの財布があるが、魔法少女達は年齢が高くても高校生くらい。必然的に財布の中身も雀のなんとやらで、倒してもうま味がない。
そうなるとこっちとしては戦うだけ面倒なんだが、協会側はそうでもないらしい。制御できない同業者を消そうとしているのか、はたまた別の目的があるのか。
「嫌だねぇ、底の見えない奴らっていうのは」
1人じゃ答えの出ない問いから思考を外し、ストレスの発散に努める。こういう嫌なことがあった時は、自分の欲求に素直になるべきだ。
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そういうわけで廃棄された発電所で電気を貪ってたテンプを召喚、カフェに連行となったわけだが。
「急に来たけどさ......これカフェじゃなくて喫茶店じゃないのだ?」
「細かいことはいいんだよ、今はスイーツが食べたい」
ていうか、喫茶店とカフェの違いって何だ、知らないけど関西風と関東風みたいなもんか?
やって来たのは日本の中心、東京の大体右端くらいの街。ボクは朝イチから行動していてそろそろ疲れてきたが、言い出しっぺが文句を言うほど落ちぶれてはいない。
近場の喫茶店は大体コンプしたし、どうせ行くなら初見の店に行ってみたい。というわけで本日のお店は......
「入口は......あったあった。見た感じは結構いいな、何となく感じる隠れ家っぽさが中々にグッド」
『喫茶STAR』と書かれた看板を横目に、入店。ドアに付けられた心地よい鈴の音が、店に来客を告げる。
秘密の隠れ家のような落ち着いた雰囲気に、清涼感のある店内。まばらにいる客に......うん、初期評価は8点と言ったところか。
「いらっしゃい、空いている席へどうぞ〜」
店主らしきおじさんの気さくな挨拶に笑顔を返しながら、良いポジションのテーブル席に陣取る。ここなら他の客にも、店員にも話が聞こえることはないだろう。
二人分の注文を済ませ、そのまま定例の報告会へと移る。ていうか、サラッと頼んでいたけどお前コーヒー飲めんのかよテンプさん......?
さて......このままだとグルメ漫画のようにダラダラとレビューを始めるだけになってしまう。別にそれでも良いが、求めてるのはそれじゃない。
「んで、前回はどこでお開きにしたんだっけ?」
「我のクソッタレな姉の話......だったっけ。うわぁ、思い出しただけで吐き気がする。やっぱこの話無しでいい?」
露骨に舌を出し、嫌そうな顔をするテンプ。このお茶会の話のネタは、今までの鬱憤を晴らすための愚痴で構成されている。
しばらくして、頼んだドリンクと軽いスイーツ類がテーブルに届く。魔女のお茶会が、始まった。
色鮮やかなフルーツがトッピングされたパフェと、メープルシロップが味を引き立てるパンケーキ、どちらもカフェに来たならベターな選択だろう。
「んぐんぐ......このパンケーキ美味いな。まぁその話が嫌なら仕方ないか、それじゃあ最近仕留めた魔法少女か怪人の話とか?」
「昨日は2人魔法少女、一昨日は3人怪人」
テンプはドデカいパフェを攻略しながら、感慨もなく数と種別だけを簡潔に告げる。
まぁ戦った人数のことを指しているのは分かる、だがその言葉の副音声は、彼女を知らないと理解できない。
「相変わらず容赦ないねぇ、
その発言に込められた副音声は、敵対者の生死の有無。電解の魔女と戦って、生き残った者はいない。
ボクの指摘に、パフェを頬張った小さい口が弧を描く。それは発言の肯定に他ならないが、ボクからしたらそれは大した話ではない。
「時代はエコなのだ、殺した方が早い......うへぇ、流石にブラックは苦いのだ......」
ボクだって
まぁ放置するにしても、ここ最近の協会の行動は目に余るんだが......なんか良いアイデア無いかな。
『魔法少女スターライトもオススメ、新発売のICチップはここがすごくて―――』
流し目に見つけた店内備え付けのテレビが、この世界の日常を映し出す。なんだよ、協会所属の魔法少女はコマーシャルにも引っ張りだこってか。
アイドルみたいな扱いを受ける魔法少女......その裏側はああなっているとは、協会はどこまで腐ってんだろうな。
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「ただいま〜......なんでニコニコしてんのお父さん?」
魔法少女の仕事が終わり、家に帰ったと思えば父親がニヤけ顔で厨房に立っていた。きもっ。
「光、お帰り〜、聞いてくれよ。さっき光と同じくらいの子達がな、店を出る時にうちのパンケーキとパフェが美味しかったって言ってくれたんだよ、いやぁやっぱりそう言ってもらえるのは嬉しいね!」
しかも理由を早口で捲し立ててきた。ウザさと気持ち悪さが増した父親を止めるのはもう無理かもしれない......
「ロリコン......魔法少女スターライトとしては、性犯罪者は捕まえないといけないんだけど」
「うわ〜娘が辛辣だよ〜、母さん慰めて〜」
「はいはい、おーよしよし」
そう言ってお父さんを軽く蹴りつけると、奥に控えていたお母さんとの仲良し夫婦漫才が始まった。いいや、これは放置しとこ。
「そういえば光、魔法少女の仕事は大丈夫か?」
「別に......添元先輩は良くしてくれてるし、空ちゃんもいるから大丈夫だよ」
ちょっとだけ嘘だ、魔法なんて超常の力を手に入れても戦いなんて本当はしたくない。
でも、私はこの日常が好きだ。少しウザいお父さん、優しいお母さん、ちょっと苦いコーヒーと、この喫茶店、頼りになる友達......みんながいる、この日常を守りたい。
そんな少しの決意を胸に、魔法少女スターライト......星空光は、明日も頑張るのです。
ナナシ
・テンプを連行し喫茶店へ
・パンケーキうめぇ
・この後テンプと飲み物を交換した
テンプ
・実は作中で1番キルレが高い
・コーヒーにがっ、パフェうまっ
・ナナシが私が口をつけたコーヒーを!?
星空光/魔法少女スターライト
・この場所が好き(実家の喫茶店は閉店)
・頼れる友達がいる(物理的に一体化させられた)
・この日常を守りたい(守れなかった)