今のボクの状況は、どう言えば良いのだろうか。状況証拠だけならば五体満足、全身の感覚はアリ、だが自分の思う通りに体が動かない......ひとまずはこんなところか。
『化け物ッ......やめ......っ.....ぁ......来ない、で......』
体の命令に反して閉じない視界からは、嫌な記憶が流れ続ける。もうすでに終わった話だろ、それは。悪趣味な奴だ、わざわざボクの過去を掘り返すとか......
何度も何度も、繰り返し、繰り返し......解けることのないメビウスの輪は、やがて身体を蝕んでゆく。
目を逸らしていた過去と向き合わされたボクは......せいぜい輪に絡まって動けない罪人ってところか。
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普通の現代社会に、その少年は生まれました。遊ぶことと、たまに読む漫画が好きな、普通の少年でした。
そんな少年の趣味の一つは、時計をはじめとした機械弄りでした。無数の歯車が生み出すムーブメントの宇宙、その人が生み出した神秘に彼は夢中になっていました。
小学生から始めた機械弄りは、高校生にもなるとそれなりの精度を持っていました。家にある時計が壊れたくらいなら、分解して直すくらいは余裕です。
「んー、やっぱり凄いよね。例え魔法があってもこれは真似できないだろ、機械美ってヤツかねぇ......」
しかし仮に『運命の歯車』という物があったとしたら、それは少年にはそっぽを向いているでしょう。
彼のいる部屋には、他に誰もいません。が、特に珍しい話という訳ではありません。彼は既に天涯孤独の身、周りに頼れる大人なんて一人もいません。
はじめはただの不幸でした。だけれどそれが積み重なった結果は......彼は、自分で物事を決めないといけなくなりました。
「うへ〜......土地を手放すのは流石に、とはいえ日雇いバイトじゃ限度ってもんが......これ、詰んでるかなぁ」
最初は目を逸らしていた問題に直面しました。少年の頭を悩ませるのは、少年の親が遺した膨大な借金です。とてもではないが返済できない金額、彼の手には余る物です。
しかし、この家を手放せばその借金にカタはつく......まだ幼い少年の頭には、選択肢はありませんでした。
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現代日本では、案外飢え死になんてことは発生しない。飲み水は整備された水道がそこかしこにあり、食べ物も恥を捨てればいくらでもある。
流石にどれだけの雑菌があるか分からない野生の鳥類は駄目だが、明らかに毒のない草なんかは、幸いにもいくらでも生えている。美味しい訳ではないけども。
「人間、案外底辺でも生きられるもんだねぇ......」
結局、手に余る借金は家を手放して相殺した。日雇いバイトで少しずつ返済すればいい? 無限に膨れ上がる利子を考えたら、一生飼い殺しっていうのがオチだ。
まず必要なのは、職を得るための技能。幸いにも資格さえ取れば、時計技師くらいは出来るだろう。かつての趣味が、何に生きるかは分からないものだ。
「さて、この後のバイトは......ッ!?」
今はとにかく、日雇いのバイトを一つでも多くやって資金を......そう思って身体を起こした瞬間、激しい苦痛が襲ってきた。
「ぁ......?」
そういえば、最後に休んだのは何時だっけ。ここ最近は力を入れていたから......駄目だわ、思考が纏まらない。
そのままバタリ、と少年は倒れて、二度と起き上がることはありませんでした。
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「ヤベー魂来ちゃったけどどうすんの、このまま放流すんのは流石に惜しいんだけど」
「どれどれ、死因は〜なんだつまんね、栄養失調に重度の過労......現代日本じゃよくある死因じゃん。もうちょいレアリティ高いのを出せにゃー」
「いやいや、気にするのはそこじゃないって姉さん。その魂のチートの適性見てみなって」
「にゃ〜......わおマジかよ、『永久運動機関』の適性持ちとかどんな人生送ってたんだにゃー......?」
「んで、どうすんの。お得意のゴミの掃き溜めコレクションに入れるならSSRなんじゃない?」
「あれでも可愛いもんなんだけどねー。まぁとりあえず呼び寄せますか、そろそろ私も退屈してた頃合いだしにゃー!」
差し向けられるその手は善意ではなく、悪意でもない。
残念だが前世パートはダイジェストだ(無慈悲)
ナナシくんが曇るのは転生してからが本番なのでね......