時は少し遡り、『天災』の関西襲撃前──作戦会議と称して用意されたのは、個室の焼肉屋であった。
名目上は英気を養う為だが、実態はここは組織が経営するフロント企業の店だから情報が漏れる心配がないんだとか。確かに店は貸し切りになってるが......まともな肉を出してるんだよな、変な肉を使っていないよな?
「それで......どこから整理すれば良いのだ?」
「まず味方の情報整理、次いで敵勢力の整理。差し当たって......ノア、お前の『権能』はなんだ?」
そんな軽い心配は、どうやら杞憂だったらしい。席に運ばれる普通の肉を網に放っていく。テンプが物欲しげな顔をしているが、貴様にトングは多分危ないから渡さん。
適当に頼んだ肉が網の上で踊り、どんどんと実っていく。全員に皿と米が行き渡り、各自が飲み物で喉を潤す。
「ん〜、私の権能かぁ。正直説明するのは面倒なんだけど......平たく言えば『魂』の操作かな?」
続けて、とハンドサインを送る。まずは軽くタン塩をレモンで、あっ美味いわこれ。
「人の『魂』には雛形となる形がある。それは回復魔法を使うナナシくんなら分かると思うが......私の権能はその形を歪める。それが私の権能......『魂葬』だね〜」
「ナナシの魂の形が変なのもそれが理由?」
「イナくん、それ私は関係ないよ......まぁ、歪めた魂は元の魂に戻るくらいの衝撃がないと歪んだまま。焼いた肉は焼く前の肉には戻らないだろう? こうして切り分けるように、別の変化を与えることはできるがね」
ジュウジュウと音を立てる肉が箸で二つに割かれる。少し焦げたその肉が、元の形に戻ることはなかった。
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「グッ......!?」
「あのさぁ、もしかしてこれ茶番? 言わなかったっけ、私はもうお前らを手駒としてしか見てないんだよ」
「ハハッ......協会の連中はドうしタ、詰めガ甘いゾ」
「生憎と、奴らは仲間が相手する予定でね」
巫山戯た事をしやがった男の首根っこを掴み、抵抗できないように『魂』の形を変える。そうだな......意識は残して手と足は奪おう、こいつを殺すのは最後でいい。
「う、ぉぉぉ、こレが『魂葬』......ハハハ、面白イ」
「どうせ殺すとナナシくんが戻ってこないとかそういうカラクリだろ、これでも私は上官だが差し金は誰だ?」
「はァ......"裏切り者"が上官ヲ気取るナ──グッ!」
「五月蝿いな、少し黙っていろ」
『魂』を歪められ、手足を奪われた男が声を荒げる。どうせこいつは捨て駒だ、正直どうでも良い。
男の意識を刈り取り、思考を巡らせる。手筈通りなら協会に対しては先制、組織に対しては先を行かれた形だ。
これは間違いなく私の落ち度......仕方ない、少し賭けの要素が強いがナナシくんに干渉しようか。
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場所は変わり東京、西が未曾有の『天災』に襲われている最中。鬼の居ぬ間に、その事件は起きていた。
「ぁ、ぁ亜ァあ、あぁア」
ソレは、かつては少女達だった。だが今は『悪意』に在り方を歪められた、哀れな怪物であった。
水の刃でその姿を覆う怪物の姿は、外からでは視認することは出来ない。果たしてそれは怪異か悪魔か──
「ぁ、あぁぁアあ、亜、ア」
周囲の人間の叫び声を背後に、水のベールが何かを両断した。少し寂れた気配の喫茶店には、為す術はない。
怪物は何を思うか一度止まると、再び歩みを進める。そこに感情はなく、人間らしい理性も無かった。
「うわ、これが通報にあった怪人?」
「関西でも凄いことになってんのに、東京もとか......これも『天災』の仕業!?」
水の怪物の前に、少女が2人。ヒラヒラとスカートを揺らしながら、異能のステッキを構えた。
タネを明かせば、彼女達は魔法少女だ。普通の怪人くらいなら倒せるが──彼女達に運がなかったのは、この場に来てしまったこと。
「亜ァあ、ぁああ」
「チッ、水を突破できない!」
「待って、解析を──ぁ」
二人組の片割れの少女は、その身体を水のカッターが縦に両断した。水のベールが揺らぐ度、世界が揺れる。
「ぁ......嘘、なんで、貴女達が」
「アぁ亜ァ、ぁあア亜ぁ」
続く二人目は、不幸にも怪物を視認してしまった。そしてそれが、その少女が最期に見た光景であった。