難産すぎて辛い………誰か続き書いてくれェ………。
それはコウスケが迷い込み、炉の神と巡り会って数日が経ったときのこと。
黄昏に沈むオラリオの、今は潰れた教会でヘスティアとコウスケは向かい合っていた。
「……なあ、我が主神様よ」
「ど、どうしたんだい? そんな深刻そうな顔をして……」
まさかファミリアを抜けたいなどと言いだすのでは。そう身構えてしまう程にコウスケの表情は深く沈んでいるように見える。
コウスケはしばしの間沈黙し、そして意を決したように口を開いた。
「『ヘスティア』ってなんか呼びづらくない? 何かニックネームでも考えようぜ」
「溜めに溜めてそんなこと!? 別にそんなに長くはないよね!? 『ヘ』『ス』『ティ』『ア』で四文字だよ! 君だって似たようなものじゃないか!」
「いや……文字に起こしたら五文字だろ? だからか長く感じるんだよなあ。………もういっそのこと『神』じゃダメ? これなら二文字でスゲエ楽なんだけど」
先程までの深刻な空気が嘘のように消え、教会内を慌ただし声が響き渡る。
「う、うーん、ダメとは言わないけど……せめて『様』くらいはつけない? 『ちゃん』とかでもいいんけどさ」
「お前をちゃん付けするのは嫌だなあ。……よし、じゃあこれから俺は『ティア』と呼ぶことにしよう。ほどほどに短くていい感じだろ?」
「ええ~……炉を司る神なのに
「じゃあ『ヘス』とどっちがいい?」
「ティアでお願いします!」
平和な喧騒が繰り広げられ、半ば強制的に炉神ヘスティアの渾名が決定される。
その日以降、コウスケは公の場や他神の前を除き『ティア』という愛称で呼ぶようになった。
それは人ならざる
◆
それはオラリオに迷い込んで一週間が経った頃。天気は快晴。この迷宮都市にはまだ慣れていないが、どこに何があるか程度は把握できた。
今日も今日とて住人が騒がしく商売をしているメインストリート。その脇にある小道に入り僅かばかりの近道をして目的地へ向かう。
この日の目的地はバベル、ではなくギルドだ。この世界の知識について乏しいコウスケは時間があればギルドへ行き、知識を吸収している。
文字が読めないため担当ギルド職員であるエイナ・チュールには申し訳ないと思っているが、彼女もまた気にしなくていいと言ってくるため遠慮しないことにしている。
そういうわけで路地裏を歩いていると、近くから野太い男性の声が聞こえてきた。
何事かと近づいてみると、そこでは冒険者風の男と頭を下げている白髪赤目の少年がいる。
話の内容から察するに、少年は自分を入れてくれる【ファミリア】を探しているらしく、このオラリオにある探索系ファミリアに片っ端から面会しているとのこと。だが目の前の冒険者のようにどこの【ファミリア】も気弱そうな外見から断っているらしい。
冒険者が立ち去り、白髪の少年が肩を落とす。そんな少年のもとへ、コウスケは歩み寄った。
「ねえ君、もしよかったら俺達の【ファミリア】に入らないか?」
「───えっ?」
それがコウスケと白髪の少年、ベル・クラネルの初めての邂逅。
迷い込んだ少年が見つけ手を引き、守り火の女神が受け入れ見出した【英雄の卵】。
そんな少年の、英雄になるまでの道行を見届けたい。そう思った。
何よりも強く、あるいは元の世界に帰る事よりも強く、そう願ったのだ。
◇
深い深い闇から、意識が浮上していく感覚。典型的な『夢から醒める』ときのアレを全身で感じながら覚醒した。
夢を、そう、夢を見ていた気がする。この世界に来たばかりのころの夢。ほんの一月前の記憶。それなのに懐かしいと感じたのはここに来てからの日常が濃すぎるためだろうか。
非常に重たい瞼を気合で開ける。
「知らない、天井だ……」
いや本当に知らない天井なんだけど。ここはどこ? アタシはだあれ?
今では見慣れた廃教会の天井ではない。どちらかというと宿屋のものに似ている気がするが、わざわざそんなところに泊まるくらいならばホームに帰る。
というか昨日の記憶が曖昧だ。俺はどこで何をしていたんだっけ。確かホームを出て、
「───よかった。目が覚めたのですね」
思考に耽っていた時、入口のドアがキィ……、と音を立てて開かれた。
ここのセキュリティはザルか? と思う間もなく、入ってきた意外な人物に目を見開く。
「【
眼鏡をかけた水色髪の女性。【ヘルメス・ファミリア】団長である彼女がどうして俺の前に。
とりあえず寝滑ったままの身体を起こそうと全身に力を入れる。
「あ、待ちなさ……」
「ガッ……~~~~ッ!!」
だが、身体を動かそうとした瞬間に全身を激しい痛みが襲った。
これほど尋常でない痛みは『洗礼』でも味わったことがない。身が縮こまり、行動を阻害させる激痛に思わず身体を捩って、それが原因で再び激痛が発生する。
「~~~~ッ! 思い、出した! 24階層の
痛みをトリガーに今までの記憶が鮮明に蘇ってくる。食人花。宝玉の胎児。
ああクソッ。そうだ、俺は確か最後に……。
「まだ動かないでください、一日かけて貴方の致命傷を重症にまで持って行っただけなんですよ。本来死んでいてもおかしくない傷でしたから」
むしろ死ななかったことが奇跡でした。
そう告げるアスフィに、脂汗を滲ませながら問いかける。
「ほかのっ、人たちは……」
「……
アスフィの視線が横にずれる。それを追うように横を向くと、シーツに顔を埋めて突っ伏している山吹色の妖精がいた。
寝ている、のか? こんなところで? そんな体勢で寝てたら身体痛くなるよ。恩恵持ちの冒険者もそうなのかは知らんけど。
「回復魔法の限界使用による
腕なんかは千切れかけていて、ほとんど皮膚だけで持ちこたえていたようなものだったとアスフィは告げる。どうりで腕が動かせないわけだ、うん。顔しか動かせないから直接見れないんだけど、今どんな感じになってるの? いや、やっぱり知らなくていいや。怖すぎる。
咄嗟だったとはいえ、俺は自分の身を盾にレフィーヤへ迫る触手を防いだ。Lv.1の雑魚耐久でも何とかなってよかったが、あれは主観、客観どちらから見ても致命的な傷だ。全癒の魔法も凶器が突き刺さったままでは癒すに癒せない。絶対に死んだと思ったのだが、奇跡と言うヤツは本当にあったらしい。
そう考えるとやはり軽率だった。というか何度も言うが俺みたいな雑魚が関わる案件ではないのだ。モンスターの質も量も高いが、それ以上に条件がよろしくない。第一級冒険者がもう一人いればやりようも変わったのだが……。
「……あれちょっと待って。今、一日かけて治したって言いました?」
「? ええ、そう言いましたが」
「マジか~~~」
脳裏に二人の顔が浮かぶ。
何も言わずにそれだけ時間が経てば、かなり心配を掛けてしまったことだろう。ヘスティアにいたっては
ベルだってそうだ。この世界で出会い、手を差し伸べた原作主人公。友人のように、あるいは弟のように接してきた未来の英雄候補。
ああそうだった、俺は『
帰ったらなんて言い訳しよう。そんなことを考えていると、アスフィはどこからか椅子を持って来て腰を下ろした。
「何はともあれ、貴方のおかげで団員の命も救われました。感謝を」
「……い、いやぁ、その……正直出しゃばり過ぎたなとは思ってます。第一、まともに戦えないような俺じゃ場違いにも程があったし……」
それに全員が無事というのも嘘だ。少なくとも俺達が到着した時には一人死んでいた。頭部を踏み潰された死体がアスフィの近くに転がっていたのに、見逃すはずがない。
あと十分早く着いていれば救えたかもしれない。俺がアイズの向かった先を教えていれば間に合ったかもしれない。まあ、ベート達が素直に信じてくたかは分からないけど。
そもそも冒険者歴一ヵ月程度の新人が24階層に行くことが既に間違っているのだ。出てくるモンスターのほぼすべてが格上で、火を吹くものもいれば毒をばら撒くものもいる。ベートやフィルヴィスが瞬殺してくれていたから俺は無傷だったが、あれらが一撃でもあたっていれば大怪我では済まなかっただろう。
そう考えると何てところに連れて来てくれちゃったんだと、あの
……そういえばベート達どこ行った? それ以前にここってどこ?
「ここは18階層、リヴィラの街の宿屋です。【
いえ呼ばなくて結構です。あ、でも呼んでくれないと地上まで帰れ……アスフィ達がいるし大丈夫か!
ダメだぁ、身体中が痛い。あの戦いのせいでせっかくのポーションも全部失くしたし、買ったばかりのコートもズタボロだ。活躍する前に散っていったなあのコート。俺は悲しい……。
「助かります。……ついでと言ってはなんですが、俺の魔法について神ヘルメスには内緒にして貰えると……」
「……そうですね。ヘルメス様に知られれば是非会ってみたいと言い出すかもしれません。あまり恩人に迷惑もかけたくないですし、他の団員には私から言い含めておきましょう」
「ありがとうございます」
どうせ遅かれ早かれバレるんだろうが、もう少しの間は関わらない方向でいたい。あの神は動きが喧しいのだ。
「お礼を言うのはこちらの方です。……そういえば自己紹介がまだでしたね。改めまして、【ヘルメス・ファミリア】団長、アスフィ・アル・アンドロメダです。今後ともよしなに」
「ああこれはご丁寧に。俺は【ヘスティア・ファミリア】所属の───」
おっと待てよ? ここで馬鹿正直に名前を教えるのはマズイんじゃないか? ヘルメスに目を付けられると面倒だし、時間稼ぎにしかならないだろうけど念のため……。
「───ベル・クラネルです。こちらこそよろしく」
◇
嘘の自己紹介をしたあと、アスフィはベート達を呼びに行くと言って部屋を後にした。
「……【不変の王。
全身の力を抜いて、少し硬めのベッドの感触を背中に感じながら口ずさむ。
「【万象は
全身が痛い。だが奇跡的に内臓は避けられていたという。流れ出た大量の血はアスフィが作った増血剤(リヴィラに戻ってから在り合わせの材料で作ったらしい。ちょっと何言ってるかわからない)が効果を発揮したとかなんとか。
レフィーヤも全精神力を振りぼって回復魔法をかけてくれたらしいが、それでも重症には変わりない。無理に動こうとすれば傷が開き、手足は引き千切れて死ぬだろう。
「【尊き叡智よ、我が声を聞け。我が手に
じゃあ動かなければいいのでは? 魔法とは本来動かずに唱えるものだったじゃないか。
重症? オーケーオーケーモーマンタイ! 口が動いて魔力を制御できるだけの集中力が回復していれば問題ありません!
「【スペルズ・マギナ】────【ピオスの
召喚魔法で今度は賢者の全癒魔法を召喚する。やはりこちらの方が詠唱が短くて使いやすい。似たような効果の魔法でも長所短所があるのが魔法の面白い所だ。
「───【ディア・パナケイア】」
目前に様々な色に発光する光玉が現れ、室内を淡く照らし出す。
光玉は少しの間漂うと、俺の身体に吸い込まれるように溶けていく。
肉体を光が包み込む。それと同時に全身を襲っていた激痛が引いていった。
包帯でグルグル巻きにされているため目視できないが、モンスターに貫かれた傷もその内全快するだろう。せっかくだ、傷跡も残さないよう徹底的に治すことにする。
んああ~キンモチイィィ~~。風呂に肩まで浸かった時の様な心地良さぁぁ~~。
「……何やってんだてめえ」
「ンぇ? あっおつかれさまです」
「意識が戻ったと聞いて来てみれば………死にかけていたはずの者がなぜこんなにも元気なのだ……?」
なんでって、そりゃあ全癒魔法ですもん。欠損でもしない限りは治せますとも。
部屋に入ってきた途端、ジト目を向けて来たのはベートとフィルヴィスだった。アスフィが呼んできてくれたのだろう。
身体を起こして調子を確かめる。なんだか少し違和感があるが、これは丸一日以上寝たきりだったせいだろう。屈伸しても軽く跳んでみても特に問題はない。
「うっし、橘・コウスケ全快であります」
「きめえ」
「甚だ不本意だが、今回ばかりは私もこの
「あんたらに負傷者を労わるという概念はないのか」
「負傷者のままであれば労わっていたがな……」
まるで俺が悪いかのように言ってくるが、あの激痛に耐え続けるのがどれだけ辛いか知らない筈があるまい。なまじ【ランクアップ】を果たしている冒険者ならばなおさら。
「まあいいや、それお腹空きましたね。何か食べ……ああレフィーヤがまだ眠ってるな」
「仕方があるまい。泣きながら魔法を掛け続けていたのだ。せめてウィリディスが起きるまで待つべきだろう」
「……ですね」
となると帰るのはもう少し遅くなりそうだ。腹の虫が煩く鳴っているのを見かねてか、フィルヴィスが果実を投げ渡してくる。
……これ、なに? 見たことのない形状なんですけど、毒とかないですよね?────あ、美味い。
再びベッドに腰を降ろして、ふとレフィーヤの方を見る。
……今回は、俺が助けられた形になったわけだ。今までも俺が助けられてきたけど。
今になって思えば、俺にもできる援護がもう少しあった気がする。例えば【ヴェール・ブレス】を全員にかけるとか。レフィーヤならばともかく、俺程度の【ヴィア・シルヘイム】では質量攻撃に耐え切れず破られる確信があったため選択肢から外したが、【ヴェール・ブレス】は物理・魔法に対して補助のかかる防護魔法だ。わずかだが回復効果もある。【ディア・フラーテル】の詠唱に入る前に使うべきだったと遅まきながらに後悔する。
冷静を務めていたつもりだったが、俺も場の空気に呑まれていたということだろう。少し前まで普通の学生だったのだから仕方がない、なんて言い訳はできない。できない者から死んでいくのがこのダンジョンという場所なのだ。
「ベートさん怒らないんですね」
「あ゛?」
「いやてっきり『なに勝手に死にかけてんだてめえ!』とか『この木偶野郎!!』とか言われるのかな~って……」
「そんなに死にてえなら24階層に送り返してやろうか」
「う~ん、静かな怒りを感じる」
割と本気で言われると思っていたのだが、どうもそういうことはないらしい。まあ無理矢理連れて来た相手が生死の境を彷徨ったのだ。少しくらいは罪悪感に苛まれて欲しいものである。
「……あの魔法については、何も聞かないんですか」
「そんなに聞かれてえのか?」
「いやそういうことではないですけど」
鼻を鳴らしたベートは興味無さげを装って壁に寄りかかる。興味ないはずがない。
だがベートはもう一度鼻を鳴らすとこちらを睨みつけて来た。
「見くびんじゃねぇ。雑魚の事情なんざ興味ねえよ。だいたい他人の【ステイタス】を探るのはご法度だっつの。冒険者なら常識だろうが」
何言ってんだこの人。あんたベルのステイタスを読むようリヴェリアに怒鳴ってただろうが。
と、言いたい気持ちをグッと堪える。あれは原作の話。時系列的にはもう少し先だ。
それにしてもこんなに薄いと感じる言葉も中々珍しいが。
「そもそも彼を連れて来たのは
「思わないね。死ぬ覚悟のねえ奴は冒険者になる資格はねえ」
「貴様という奴は……っ!」
「すぐ喧嘩するやん、この人たち……」
死ぬ覚悟なんてできてるわけねえだろ。仮にできていたとしても、Lv.1が24階層に行くのは話が違う気がする。
だからこそ俺は、今回の件に関して自分の中で優先順位をつけて行動していた。
第一優先、自己の生存。
第二優先、他者の生存。
第三優先、
一は正直微妙な所だが、二は問題ない。三に関してはレヴィスがオリヴァスの魔石を喰らった時点で八割方諦めていた。
おのれ、赤髪ダイナマイト美女め。せっかくベートにも協力してもらったというのに殺し切れないとは。もう嫌だ、当分は外伝に関わりたくない。
「まあまあ、結果として俺は生きてるわけですし、ね? それはそれとしてベートさんには貸し一つですよ」
「ハッ。だったら地上にまで送り返せばチャラだな」
「いやそれどんなマッチポンプ? ここまで連れて来たのあんたでしょうが!」
この人まったく悪びれてないじゃないか。え、ツンデレだよね? 別に本心じゃないよね?
「……ハァ、癒えたとはいえ、先ほどまで重症だったのだ。お前はもう少し休んでいろ。ウィリディスが起きたら地上に戻るぞ」
額に手を当てて呆れるフィルヴィスは、部屋を出ようとドアに手を伸ばした。
「あ、フィルヴィスさん」
「なんだ?」
「今回、誰一人死にませんでしたよ。死妖精の呪いって奴もたいしたことないですね」
「……ふっ、一番死にかけていた者が何を言っている。いいからもう少し休んでいろ」
「ウッス」
◇
ベートとフィルヴィスが部屋を出て十分ほどが経過した。
ついさっき思い出したのだが、リヴィラといえばぼったくりレベルで物価が高いのではなかったか。宿屋も例外ではなくかなり高価だと記憶していたはずだ。………ここの料金、だれが払うんだろ。全財産24階層に落としてきたんだけど。
ただ、《炉神の刀》は誰かが持って来てくれたらしい。誰が持ってきたのかは知らないが、全力で感謝を。俺の二億ヴァリスを回収してくれてありがとう! 失くしたら洒落にならないからなあ!
「ぅ………んぅ………………」
「お?」
微かな振動と吐息が届く。音のした方へ目を向けると山吹色の髪がもさりと持ち上がり、泣き腫らした顔が視界に映り込んだ。
「おはよう。顔、酷いことになってるぞ。顔洗ってきな?」
きょろきょろと辺りを見渡し、最後に俺の姿を捉えると一瞬で顔を真っ赤に染めてレフィーヤは掴みかかってきた。
「あ、あああなた傷はッ!?」
「自分で治した。でも俺が生きてるのはレフィーヤが治療してくれたおかげだ。ありがとう」
「じ、自分で……!?」
まあ死にかけてた奴が元気そうにしてたら驚くよね。ベートでさえキモイなどと言ってきたくらいだ。気持ちは分からなくもないが、治せるのなら治したいに決まっているだろうに。
「本当に死ぬかと思った。むしろ今生きていることが不思議なくらいだ」
用意されていた手拭いをレフィーヤに渡す。
「でもレフィーヤが魔法でモンスターを蹴散らしてくれたおかげで、全員生還できてる。いやあ【ロキ・ファミリア】ってすごいな。Lv.3であの火力だったら【ランクアップ】するとどうなるのかねえ……………どうした?」
俯いて肩を震わせている。なにか気に障ることでも言っただろうか。いや、そんなはずはない。俺はベルと違って鈍感ではないのだ。では敏感なのかと言われるとそれもなんか違う気がするが。
「……ご、ごめんなさい……私がもっと強ければ、こんな怪我を負わずに済んだのに……!」
「それを言うなら全ての元凶はここに連れて来たベートさんだけどな」
「私が『並行詠唱』出来ていたらっ………もっと早く、詠唱を完結させられてたら……!」
「あまり自罰的になるな、レフィーヤ。お前はなにも悪くない。期待通り、いいや期待以上に良くやってくれた」
それは本心だった。レフィーヤはあの場においてこれ以上ないほどの最善を行ったのだ。
魔法は
あれだけ魔力を溜め込んだ状況で、
だが。
「それでも私のせいで死にかけたことには変わりません!」
レフィーヤは自身の罪として抱えようとしている。このダンジョンにおいて人の死は当たり前にあるものだ。冒険者ならば多かれ少なかれ理解していることだ。それにもかかわらず自分の責任として受け止めようとしている。
けれどそれでは心がもたない。
「私が弱いせいでごめんなさい」
「リヴェリア様のようにできなくてごめんなさい」
「こんな私なんかが、少しでも何かできると勘違いしてごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「─────こっちを見ろ、レフィーヤ・ウィリディス」
どんどん俯いていく顔を両手で挟み、無理矢理視線を合わせる。紺碧色の瞳が俺の顔を写し込む。
「俺は死んでいない」
それが全てだ。俺の第一優先事項はクリアしていると言っていいだろう。さっき微妙と言ったが今撤回する。
「確かに俺は死にかけた。死んでもおかしくない状態だった。だけど死んでない。それはなんでだ?」
問いかける。おそらく、上級冒険者であっても死を免れないであろうあの状況で、どうして俺は生きているのか、と。
簡単なことだ。理由なんて考えるまでもない。
「まず【ヘルメス・ファミリア】が自分たちの薬を惜しみなく使ってくれたこと。そしてレフィーヤが回復魔法をかけてくれたこと。これが一番大きな理由だろう」
アスフィの話によると、俺の怪我は
だがそれだけか? 死ぬ一歩手前にまでいった俺が今生きているのは、本当に薬だけが理由か?
そんなわけがない。もしそうだったら薬師の価値が爆増するだろう。だが万能薬といえど死ぬ一歩手前までいった重傷者を完治させられなかった。
だからこそ、レフィーヤの魔法は決して無駄なんかではなかったのだ。
「そんなはずがありませんっ!!」
だがレフィーヤはそれすら跳ね除けようとする。
彼女は言った。ただ見ている事しかできなかったと、自分が真っ先に行動しなければならなかったのだと。
「あれだけ覚悟を口にしておいてっ、結局私は恐怖に呑まれた!」
そんな無力さが恨めしいと、自分の弱さが忌々しいと彼女は言った。
「リヴェリア様ならもっと早くできていた! フィルヴィスさんなら守られなくとも戦えていた! それなのに私は……!」
「それ以上俺の恩人を愚弄するのなら、たとえ本人でも怒るぞ」
だけどそんなことは知ったこっちゃない。
彼女の懺悔に興味はない。レフィーヤは何一つ悪いことなんてしていないのだから。
誰が悪いのかという話であれば、それは当然怪人どもだ。
あとは守り切れなかった【ヘルメス・ファミリア】とフィルヴィス。レヴィスをさっさと倒して応援に来られなかったベートとアイズ。それと自分の身一つで飛び込んだ俺も悪い。
「俺はレフィーヤならできると思った。レフィーヤにしかできないと思った。あの場において君は最良の結果を残したんだ」
むしろ半ば強制的に戦わせた俺にも責任がある。
だけどあの場においては最善だった。結果として全員が助かった。
「胸を張れ【
自分の弱さを恨んでもいい。自分の無力さを呪ってもいい。それらは強くなるために必要な火種なのだ。
「だからもう一度言うぞ。─────ありがとうレフィーヤ、俺達を助けてくれて」
心の底からの感謝を、あの戦況を覆した覚悟に敬意を俺は声に乗せて送った。
泣き続けているレフィーヤの、美しい山吹色の髪をとかすように撫でる。
確かまだ十五歳。俺の一つ下でベルの一つ上、そしてリリの同い年のはずだ。元の世界の基準では中学三年~高校一年。その年の子なら精神的に不安定になったとしてもなんらおかしくはない。むしろ精神が成熟しきっていない段階でモンスターを相手に戦うことの方が異常なのだ。
だから泣けばいい。叫んでもいい。やり遂げた彼女にはその権利があるし、救われた俺には受け止める義務がある。
小さく嗚咽が響く室内に、クリスタルの輝きが差し込む。
何度も死ぬかと思ったし、実際に死にかけた。今回の一件で彼等が入手した情報も俺は既に知っていたことだ。つまり俺には価値のないものということである。
俺がいた所で原作との相違は特になかった。精々死ぬはずだった数名が死なずに生き残ったというだけ。彼らの代わりに俺が瀕死になったというだけ。
それでもきっと、何か意味はあったのだ。ベートに無理矢理連れてこられた件については一生恨むが、俺がここに来たことは無駄ではなかったのだ。
「………」
でも当分の間は本当に勘弁してほしい。俺たち【ヘスティア・ファミリア】はこれから忙しくなるからさ。
今作品のヒロイン投票!!~《彼に相応しいのはキミだ》選手権~
-
①レフィーヤ・ウィリディス
-
②リュー・リオン
-
③アイズ・ヴァレンシュタイン
-
④アミッド・テアサナーレ
-
⑤フィルヴィス・シャリア