英雄の誕生を見届けたい(願望)   作:日彗

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第十六話 意外と知らない意外な一面

 

「オッタル。あの子、また強くなったわ」

「重畳、ですか」

「ええ」

 

 薄暗い室内。迷宮の真上に築かれたバベル。その最上階でフレイヤは静かに口端を上げた。

 銀髪の女神はワイングラスを手に取りながら、側に控える猪人(ボアズ)の従者と話題に興じる。

 

「見違えたわ。【ステイタス】がどうこうじゃないの。魔法という切っかけを一つ手に入れただけで、あの子の輝きは一層鮮やかになった……私の目には器が洗練されたように見える」

「器の発展……進境が著しいと?」

「そういうことになるかしら」

 

 部屋の隅で顔色を変えることのないオッタルと、短く受け答えするフレイヤ。

 直立不動の姿勢で主神を見つめる従者は、静かだった。

 

「でも、一つだけ……一つだけ、輝きを邪魔する淀みがある。まるで枷のようにあの子を縛っているわ」

「………」

「そうね、十分に足る器はある。けれど、芯が足りない。いえ芯そのものはある、でもそれが曇って見える……何かが欠けているのか、何かが邪魔しているのか」

 

 オッタルはわからない? とフレイヤは振り返り意見を求めた。

 巌のような獣人はしばし口を引き結び、主人の問いに答える。

 

「因縁かと」

「因縁……?」

「はい。フレイヤ様がお話してくださった、その者とミノタウロスの因縁……払拭できない過去の汚点が、本人もあずかり知らない場所で棘となり、苛んでいるのかもしれません」

 

 フレイヤは折りたたんだ指をそっと細い顎に添える。

 

「つまりトラウマ……本当に子供達は繊細なのね」

 

 神々は執着することはあっても過去には縛られない。それゆえに下界の人間特有の感情には興味があるのかもしれない。

 

「因縁たる過去と決別するというのなら、己の手で過去たる象徴を打ち破る以外に方法はありますまい」

 

 慇懃な態度を崩さぬオッタルは、主神に対してそう告げた。

 

「……さしもの貴方もそうだったの?」

「男はみな轍を踏む生き物だと、自分はそのように愚考します」

 

 くすり、とフレイヤは笑みをこぼした。

 時が経てばベルはミノタウロスを倒す実力を備えることになるだろう。それは尾を引いている過去から脱却できるということだ。それで何も問題はない。

 

(そうしてミノタウロスを倒した暁には、あの子の輝きを阻むものは何もなくなる……)

 

 そうなれば、やがてフレイヤの前に完熟して現れるだろう。きっと彼女の瞳が見惚れてしまうほどに。

 それを待ち遠しいと、素直に思う。今のフレイヤにとってベルは関心の中心であり、何者よりも魅力的になっていた。

 故にこそ欲しいのだ、あの少年が。

 ずっと手に届く位置に置いておきたいと思えるほどに。

 だが。

 

「ねぇ、オッタルはどう思う?」

「……と言いますと?」

「あの子のこと。私の不安は杞憂に過ぎないのかしら?」

 

 先程までの自分の考えについて尋ねてみる。

 

「あの子はもう私が手を出さずとも強くなる。いずれは貴方の言う因縁も断ち切れるほどに」

 

 そう、ただ時が過ぎるのを待てばいい。永久を生きる神々にとって時間の流れなど一瞬だ。

 後はただ、彼の成長と冒険の様子を観察していればいずれ解決する。その程度の問題。

 

「でも、本当にそれでいいのかと思う私もいるわ。言葉ではうまく説明できないけれど……いずれ、その内、時間が経てば……そんな文句を並べていると、そうね、酷く小心のようにも思えてしまう。そんなことないのに、自分が堕落しているみたい」

 

 それは考えすぎなのかもしれない。

 何も問題ない、何も間違っていないベルの現状に、フレイヤはただ漠然と思ってしまう。本当にこのままでいいのかと。

 そんな敬愛する主神の様子に、オッタルは初めてその瞳を細めた。

 

「時間がこの問題を解決する。その考えは間違ってはいません。いずれはそうなるでしょう。しかし……」

 

 オッタルは一度言葉を区切り、絶対の確信とともに口を開く。

 

「冒険しない者が殻を破れぬのも、また真理でしょう」

 

 それはとあるハーフエルフとは対極の持論。

 幾度も命を賭し、現在の自分を築き上げた生粋の武人は、冒険しない者に高みへは至れないと、はっきり言い切った。

 それはフレイヤさえ見通すことのできない少年の『未知』を引き出す可能性も示唆している。

 

 フレイヤは見通せず、オッタルだけが見込んだ、少年の可能性を。

 

 あるいは……。

 

「───今度のあの子への働きかけ、貴方に任せるわ、オッタル」

「……どのような風の吹き回しですか?」

 

 ワインの入ったグラスを手放し、どこか投げやりに椅子の背もたれに寄りかかるフレイヤへ、オッタルはこの時ばかりは訝し気な顔を隠そうともしなかった。

 

「だって、私より貴方の方が今のあの子のこと分かっているんだもの」

 

 まるで幼い子供のように拗ねた言葉をこぼす。

 表情には出さないが、オッタルは内心でどうしたものかと思考を巡らせる。

 やがて、思い出したかのように巌の武人は己が主人へ声を投げかけた。

 

「…………恐れながら、フレイヤ様。私としては橘・コウスケもまた注目に値するかと」

「……そういえば見かけないわね。あんなにも黒々しい輝き(たましい)、いやでも目につくのに」

「【ロキ・ファミリア】の【凶狼(ヴァナルガンド)】、【千の妖精(サウザンド・エルフ)】に連れられてダンジョンへもぐっていく様子が目撃されています」

「……ロキの眷属()と?」

 

 ふぅん、と瞳を細めて都市を見下ろす。

 もとはコソコソと『洗礼』に勝手に参加していたコウスケを一興だと正式に認めたが、それが【ロキ・ファミリア】とも関わりを持っているとは。それはあまり面白くはないが、オッタルは続けて言葉を紡ぐ。

 

「貪欲に強さを求める姿勢には、昔の自分に重なるものがあります」

「そう」

 

 それにしたって都市最大派閥の両方と縁を結ぶなどと思わなかった。だがそれ以上に己が従者が存外好印象を抱いていることに内心で驚愕する。

 

「……貴方も含め、あの子を良く思っている子供が結構多いのよね。ヘイズなんてこの間『是非【ファミリア】に……!』って直接私のもとへ言いにきたのよ? 思わず面食らっちゃったわ」

「それは……」

 

 オッタルの脳裏に薄紅色の長髪を二つに結えた、死んだ魚のような目をした治癒師(しょうじょ)の顔が浮かぶ。彼女からは苦情を受けても改善させることすらしないために恨まれ、それゆえに負い目を感じていた。

 コウスケが入団することで彼女たち満たす煤者達(アンドフリームニル)の現況が多少なりとも改善されるのであればそれも良いかもしれない。

 

あの子(ヘイズ)たちには色々と苦労をかけてるわねぇ」

「……申し訳ございません。私が至らぬばかりに……」

 

 耳を僅かに垂れさせて、オッタルが腰を曲げる。

 そんな二人だけの空間へ、一人の侍女がノックと共に足を踏み入れた。

 

「失礼いたします、フレイヤ様。こちら、オッタル様からの差し入れになります」

「あら、ありがとう。………最近慣れて来たけれどオッタル、貴方どこでケーキなんて買ってきているの? 私も他の品をゆっくり見てみたいわ」

「……………は、それは、その………」

 

 この巌のような従者が初めて『スイーツ』を持ってきた時は、そのあまりのギャップに腹を抱えて大爆笑したフレイヤだが、今ではオッタルが持ってくるそのスイーツが好物の一つになっている。

 毎度別の品を持ってくるあたり、かなりの種類があるはずだ。ならばそれを直に見て吟味し、好きな物を選びたいと思うのは女性として当たり前の感性と言えるかもしれない。

 

 だが、

 

(この子、この件に関してだけは口を開こうとしないのよねえ………)

 

 本当は自身の名の下にその店の後盾になってもいいと考えているのだが、オッタルは一向に語ろうとせず無言を貫いている。

 心なしか目を泳がせ、冷や汗を垂らしながら。

 

「まあいいわ。貴方がこうまで頑なになるのも珍しいもの。もうしばらくは我慢しましょう。───それで、今日のはなに?」

「は。此度のものは極東から持ち込まれた『抹茶』なるものを使用したパウンドケーキとのこと。人によって好みが別れるそうですが、芳醇な香りと風味は紅茶にもよく合うと太鼓判を押しておりました」

「………ますます気になってくるわね、そのお店」

 

 

 

 

「────へっくし」

「コウスケさん、何か言うことはありますか」

「……えっ。あの………えっ」

 

 ベート達とともにダンジョンから帰還し、ホームである廃教会に帰るとベルは俺を正座させてそう言った。

 バベルで解散し、ふらふらとした足取りでようやくホームに着いたと思えばこれだ。

 こんなに怒っているベルは初めて見る。ヘスティアですらちょっと怯えていた。

 

「コウスケさん」

「あっはい」

「僕たちに何も言わず、どこへ行ってたんですか?」

 

 ダンジョンです。

 そう一言口にするだけでいいのに、俺は圧に負けて口を閉ざした。

 

「……コウスケさん、僕たち心配してたんですよ。夜になっても帰ってこないし、一日経っても見当たらない。神様はギルドに捜索依頼をかけようとしたんですよ」

「………」

「それで、どこに行ってたんですか?」

「………………………………ダンジョンです」

「ダンジョンの、どこ」

 

 深赤色(ルベライト)の瞳が鋭く突き刺さる。

 あれ……ベル君ってこういうキャラだっけ? 君はもっと純真無垢で天然気味のみんなに愛される弟キャラじゃなかった? 

 意味も分からず冷や汗が垂れる。なんだこれは。この俺が恐怖している、だと?

 

「………10階層です」

「嘘だ! 今嘘ついてたよベル君!」

 

 ヘスティアァ!! おま、空気読めよロリ神がッ!!

 元気よくこちらを指差すヘスティアに呪詛を送りながらベルに視線を向ける。

 

 ……すごい冷たい目をしてるぅ。

 

「………実は他のパーティに参加して18階層に」

「……神様」

「う、嘘はついてないね」

「……そうですか」

 

 ふっ、だが所詮は神。噓発見器に成り下がった貴様らを騙す術はとうに身に付けておるわ。ぶはははは。

 

「……誰と組んだのか、どうしてそんな深くまでもぐったのか。聞きたいことは山ほどありますけどとりあえず、()()()1()8()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ひぇっ」

 

 ちょっとベル君、今日の君は鋭すぎるぜ。

 結局このあと、食人花や宝玉の胎児、怪人(クリーチャー)などの重要案件を除いたほとんどを暴露するまで拘束され続けたのであった。

 ちなみにアイズの名前を出すともとのベルに戻った。よかった、実は偽物なのではと疑っていたのだ。

 ヘスティアからはあまり心配を掛けるなとお説教をうけ、もし次があったらベルに監禁されるぞという脅しを受けたが、笑止。

 何を言っているんだこのツインテール。ベルがそんなことする筈がないだろ? 今日は偶然、百年に一度レベルで虫の居所が悪かったんだよ。ははは、ははははは。

 

「まったく、これっぽっちも笑いごとではないんだけどね……」

 

 

 

 

 翌日、ヘスティアにステイタスを更新してもらいながら雑談を交わしていた。

 リリの方は問題なく正式雇用となったらしい。流れも概ね原作通りだ。ヘスティアは嫌がっているみたいだが、彼女ほど有能な人間はそうそういない。これで【ヘスティア・ファミリア】も安泰だろう。

 

「モンスターと人間の異種混成(ハイブリッド)、ねえ……それが本当だったら大事だよ」

「だから大事なんだってば」

 

 モンスターと人間の融合だの、穢れた精霊だの、知性のあるモンスターだのと問題は山積みだ。異端児(ゼノス)はともかく他二つにはもう関わりたくない。……あ、でも精霊を爆破させてみたいな。【ウィル・オ・ウィスプ(対魔力魔法)】で魔法は完封できるし。

 問題は射程圏内に入る前に殺されかねないということだが。

 

「……コ、コウスケ君!」

「はい?」

「君どれだけボコボコにされてきたんだい!?」

「ひでぇ言い草だなおい」

 

 どれだけかと言われると、全身串刺しにされて棺桶に片足どころか下半身まで入るほどのダメージを負ったくらいだ。ははは、思い出しただけでゾッとする。

 ヘスティアからステイタスを写した羊皮紙を受け取る。解読には時間がかかるが、勉強の甲斐あってか共通語(コイネー)も読める様になってきた。まあステイタスだから数字さえ読めればいいんだけど。

 

 

 

橘・コウスケ

Lv.1

 

  力:B747→A890

 耐久:S920→SS1085

 器用:A880→S965

 敏捷:A868→S940

 魔力:A897→S968

 

 

 

 この耐久の上がり方は嬉しくねえ……。

 

「まさか天井であるSの999を超えるなんて……これも例のスキルの影響かな」

「だろうな。『力』が一番低いのは男としてちょっとショックなんだけど……」

 

 『魔力』や『器用』はわかる。魔法も結構使ってるし、並行詠唱もしている。『敏捷』に関しては、食人花から逃げまくってたからかな。

 問題は『耐久』だ。900を超えてなお165も上昇している。確かに死にかけたけども。死にかけたけどもさ。

 

「これベルにバレたらまた怒られるかなぁ」

「あまり心配をかけさせないでくれよ? 今度君が勝手にいなくなったらボクは躊躇なくギルドに駆け込むからね」

「俺だって不可抗力だったんだぞ」

 

 そうだとしても、とヘスティアは言う。

 

「君はボク達の家族なんだ。そしてベル君にとって君は恩人であり兄であり憧れでありお兄ちゃんだ」

「兄とお兄ちゃんは一緒だとご存じない?」

「今は真面目な話をしているんだよ」

 

 腰に手を当てて頬を膨らませるヘスティアをジッと見つめる。

 何が真面目な話だ。それならもっと真面目に話せ。そのツインテールをポニーテールに変えてやろうか。

 

「ベル君の憧憬相手はヴァレン某だけじゃないってことさ」

 

 どうしてボクじゃないんだろうねっ、とぼやきながらヘスティアが座っている俺の足の間に腰を下ろす。

 おいこら、ここは俺のソファーだぞ。座るなら床に座れ。

 

「憧憬ねえ………そんな大層なこと何もしてないんだけどなぁ」

「いいじゃないか。君にとってもベル君は弟のようなものだろう?」

「お前は妹みたいなものだけどな」

「ボクにとって君たちは大切な眷属(こども)だよ」

「……そうかい」

「そうさ」

 

 ふん、と鼻を鳴らす。そんな憧れられるようなことした覚えはないし、そもそも俺は大層な人間じゃない。どうせ憧れるのならもっと凄い人にした方がいいだろうに。

 目の前にある髪を結ったリボンを解く。そうして右手に持った櫛で髪をとかしていった。

 

「……【ランクアップ】はできそうにないか?」

「……現状、無理だね。高位の経験値(エクセリア)はかなり溜まっているけど、あと一つ何かが足りない。喩えるなら最後のピースが欠けたパズルのようなものだね」

 

 この世界パズルなんてあるのか。今度探してみよう。

 とかし終えたら櫛を置き、新たに髪を結っていく。

 さて、試しにハーフアップにでもしてみようか。

 

「君の話が本当なら、生還できたことは十分に偉業だ。事実として高位の経験値(エクセリア)は溜まっている。量だけならもう【ランクアップ】できるはずなんだけどね」

「…………」

「一体何が足りないのか、心当たりはあるかい?」

 

 心当たりは、ある。

 24階層での出来事。生死の境からの生還。Lv.1の俺にとってそれらは偉業に値すると女神(ヘスティア)は言った。

 だが【ランクアップ】はできない。何かが足りない。それは経験値でもなければアビリティでもない。もっと単純な事だ。

 

「俺はまだ『冒険』をしていない」

 

 そう、『冒険』をしていない。

 【ランクアップ】を果たすための偉業はなにも一人で行わなければならないわけではない。普通はパーティを組んで格上と戦い溜めていくものだ。

 けれどどうだ? 【ヘルメス・ファミリア】とフィルヴィスが守って、レフィーヤが決めた。俺がしたことと言えば罠を仕掛け、魔法で傷を癒しただけ。これで()()冒険したと言えるのか?

 

「ティアの言う最後のピースってのは、俺自身が納得することなんだと思う。俺自身が器を昇華させるに足る偉業を成したと認めてないんだ」

 

 それはきっと、原作のベル・クラネルを知っているからかもしれない。

 彼と比べると俺のしたことなんて金魚の糞のようにくっ付いていただけだ。それを偉業だなんて呼べるわけがない。

 つまり俺がレベルを上げるには『原作のベルのように強敵を打破する』必要がある。だがそれだと問題が発生する。

 俺は死にたくない。死ぬ覚悟が出来ていない。24階層の一件は半ば強制的だったことが大きい。本当は行きたくもなかったのだから。

 

「……ティアは面白くないかもしれないけどさ、【ロキ・ファミリア】は凄いよ。オラリオ一、二を争う大派閥なだけある」

「君たちの成長速度を考えれば、そう遠くない内に追いつけるよ」

「そんな甘くはないさ。どれだけステイタスが上がっても、偉業を為すにはそれだけじゃ足りない。ティアだってわかってるだろ」

 

 【ステイタス】を上げたところで格上の相手に勝つというのは難しい。【ランクアップ】した者とそうでない者にはそれほどまでに決定的な壁がある。

 このままステイタスが上がっても、俺は格上相手に命を懸けて『冒険』する度胸がない。

 

「大丈夫」

 

 けれどヘスティアは柔らかな声で、しかしはっきりと断言する。

 

「君は勇気のある子だよ。ボクは知っている。なんたって君はボクの大切な眷属だからね」

「意味が全く分かりませ~ん。俺のような下等生物(にんげん)にも分かる言語でお願いしま~す」

 

 ヘスティアの小さな手が頭の上に伸びて、優しく撫でまわされる。払いのけるのは簡単だが、もう面倒くさいし好きにさせることにした。

 

「心配しなくとも君はちゃんと前に進んでいるよ」

「……そうかい」

「そうだとも」

 

 背もたれに体重を寄せて、天井を見上げる。

 これだから超越存在(デウスデア)はやりづらい。こちらの全てを見透かそうとするその瞳だけはどうしても苦手だ。

 

「……ところでこの髪型はなんだい?」

「俺流編み込みアレンジ、その四」

「最低でもあと三つあるのか……」

 

 

 

 

 ヘスティアとの雑談を終えて、俺はオラリオの大通りを意味もなく歩いていた。

 ダンジョンから帰ってきた時には既に暗く、そのままホームに直行しベルたちの五時間にも及ぶ説教が終えると泥のように眠ったため、陽の光が恋しかったというのもある。

 24階層の一件が終わったため、外伝の方は当分の間目立った動きはないだろう。それよりもベルの方だ。

 そろそろベルはアイズに師事することになるだろう。フレイヤの方も動き出しているはず。

 

 そういえば原作ではベル一人でミノタウロスを倒していたが、俺がいる場合どうなるのだろう。ミノタウロスの潜在能力(ポテンシャル)はLv.2後半。Lv.1が一人増えたとしても格上である事には変わりない。ベルの【ランクアップ】自体は問題ないと思うが、結果的にアビリティの上昇値が減ってしまうとベルが()()()()()()()()()()()()

 

 難しい所だ。リリの時のようにミノタウロス戦の時だけパーティから離れるか? でもベルが英雄への第一歩を踏み出す瞬間は近くで見たい。ああでもフレイヤ派の誰かが俺を邪魔しに来る可能性も────

 

「あ、コウスケ様。お久しぶりです」

「……ああリリか。久しぶり、と言う程でもないけど、まあこんにちは」

 

 目の前に巨大なバックパックが現れる。視線を下に向けると、フードで顔を隠したパルゥムの少女リリルカがこちらを見上げていた。

 

「………」

「ちょっ、突然頭を撫でないでください!」

「いやあ、ちょうどいい高さだったからつい……」

 

 フード越しに撫でてみると、頭部に人間の物ではない耳がある。当たり前だが外出の時はちゃんと『魔法』を使っているらしい。

 

「ベルから聞いたぞ。これからも俺達と一緒に冒険してくれるんだって?」

「ぁぅ……」

 

 フードを深くかぶり直して顔を隠す。別にリリの仕出かしたことを責めるつもりはないし、そんなに怯えないで欲しいのだが。

 

「ベルもヘスティアも許してくれたんだろ? よかったじゃないか。これからもよろしく」

「……コウスケ様」

「ん?」

「コウスケ様は、本当にこのままでいいんですか?」

 

 何が、とは聞かない。彼女が何を聞き、何を求めているのかは明白だからだ。

 だから俺は、別の言葉を贈る。

 

「あまり思い上がるなよ」

「ッ!!」

 

 ぎょっと剥かれた目がこちらを捉える。だが最初に言った通り俺は別に怒ってるわけでも責めてるわけでもないのだ。

 

「自責、罪悪感。それらから生まれる贖罪の渇望。その気持ちが分からないとは言わない。だけどそれは甘えだ」

 

 フード越しに頭を撫でながら、こちらもリリの瞳を見つめる。

 彼女のしてきたこと。その背景。そして結末を俺は知っている。ベルとヘスティアからも直接聞いた。

 その上でベルは彼女を許し、ヘスティアは己が眷属の判断を尊重した。

 だったら俺がとやかく言うことはない。そもそもリリを引き入れることには最初から賛成だったのだ。

 

「ヘスティアからもベルを任されたんだろう? だったらそれをやり遂げろ。少なくともお前がベルにできる贖罪はそれだけだ」

「……はい」

「あと盗むなら俺の刀を盗め。どう見てもこっちの方が高そうだろうが。デカいし」

「いえ……ですからリリはもう二度としないと、ベル様やヘスティア様にも誓いましたので」

「俺の刀は盗む価値もないってか!?」

「コウスケ様実は話聞いていませんね!? リリは心を入れ替えて誠心誠意ベル様に尽くすと決めたんです!」

「あははは、あははははは」

「何を笑っているんですか!?」

 

 少し前と比べて感情表現が豊かになった印象を受ける。以前までは取り繕ったような笑顔だったのが今はこれだ。

 ああでもどうだろう。思い返してみればちょくちょく素で怒ったりしてたな。あれ? じゃああまり変わらない?

 

「ま、ベルが許したって言うなら俺からは何も言わんよ。俺自身に被害はなかったし、これからも仲良くしようや」

「うう~~。ベル様といいコウスケ様といい、冒険者なのにお人好しすぎます……」

 

 ベルはともかく、俺は打算ありきだからお人好しというほどでは────いや、言うまい。

 疲れた顔をして項垂れるリリをぐりぐりと撫でる。

 

「だったらその分、リリが警戒してくれ。俺達だけじゃ不安だからな」

 

 

 

 

「────ちょっと坊主! 今人手が足りなくて困ってんだよ! あんた時間空いてるかいっ?」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 




ベル・クラネル
 実は隠れコウスケガチ勢。
 コウスケと組むのは必ず自分であり、彼の活躍や武勇伝を語るのも自分でなければならないと強く決心している。
 将来の伴侶は自分の認めた相手出なくてはならない。仮に愛し合っていたとしても、相応しくないと判断すれば『否!』と言う。
 英雄を目指す彼にとって、コウスケとは常に一歩先を歩み、道を示してくれる星のようなもの。オラリオに来たばかりで途方に暮れていた自身に手を伸ばし、救ってくれた『身近な英雄』。故に、少々理想や願望を押しつけることもある。
「コウスケさんはね、女の人に乱暴しないし、娼館にも行かないんですよ。困っている人がいたら颯爽と手を伸ばし、自分が傷ついてでも必ず守り通すんです。わかります神様? わかりましたよね?」
 その様子はヘスティアですら怯えるほどのもの。コウスケは愛い奴よと適当に流しているためベルのヤバさに気付いていない。
 それはそれとして、彼は本気で監禁する。コウスケ限定ではあるが、次この様な事があれば本気で監禁される。

今作品のヒロイン投票!!~《彼に相応しいのはキミだ》選手権~

  • ①レフィーヤ・ウィリディス
  • ②リュー・リオン
  • ③アイズ・ヴァレンシュタイン
  • ④アミッド・テアサナーレ
  • ⑤フィルヴィス・シャリア
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