英雄の誕生を見届けたい(願望)   作:日彗

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第一話 ダンジョンに出会いを

 

Q.ダンジョンに、出会いを求めるのは間違っているのか?

 

 数多の階層に分かれる無限の迷宮。凶悪なモンスターの坩堝。

 富と名声を求める命知らずの冒険者達。

 そして、手に持つ剣一本でのし上がり、末に到達するのはモンスターに襲われる美少女との出会い。

 響き渡る悲鳴、怪物の汚い咆哮、間一髪で飛び込み翻る鋭い剣の音。

 怪物は倒れ、残るのは地面に座り込む可愛い女の子と、クールに佇む格好の良い自分。

 ほんのりと染まる頬、自分の姿を映す潤んだ綺麗な瞳、芽吹く淡い恋心。

 

 可愛い女の子と仲良くしたい。綺麗な異種族の女性と交流したい。

 少し邪でいかにも青臭い考えを抱くのは、若い雄なりの性なのかもしれない。

 

 今一度問おう。ダンジョンに出会いを、訂正、ハーレムを求めるのは間違っているだろうか?

 

「で、結論は?」

「僕は間違えてなんかいませんでした!!」

「そっか〜」

 

 迷宮都市オラリオ。

 『ダンジョン』と通称される地下迷宮を保有する、いや迷宮の上に築き上げられた巨大都市。

 都市、ひいてはダンジョンを管理する『ギルド』を中核にして栄えるこの都市は、ヒューマンも含めあらゆる種族の亜人(デミ・ヒューマン)が生活を営んでいる。

 

「まあ大きな怪我もなくてよかったよかった」

「はい! ちょっと死にかけましたけど……」

 

 そんなオラリオの、人気のない路地裏深くに建つうらぶれた教会。廃墟と言われても反論できない教会の地下で、俺とベルは談笑していた。

 

「ダンジョンだからな。おおいに冒険したまえ。……で、ちなみに何があったの?」

「い、いやぁ〜話せば長くなるんですが……」

「おやベルくん、お帰りー。今日はいつもより早かったね?」

 

 奥から黒髪を二つに結った少女、ヘスティアが現れベルを出迎える。

 

「ダンジョンで死にかけたんだってさ。駆け出しだもの、そういう事もあるよネ」

「おいおい、大丈夫かい? キミに死なれたらボクはかなりショックだよ。柄にもなく悲しんでしまうかもしれない」

「大丈夫です。神様を路頭に迷わせることはしませんから」

 

 腰を曲げることで視線を合わせたベルがニッコリと微笑む。先ほど死にかけたと言っていたのにこの自信はどこから湧いてくるのだろうか。

 

「とりあえず【ステイタス】更新したら? メチャクチャ成長してるかもよ」

「そ、そうですかね……? 神様、お願いできますか?」

「オーケーオーケー。ならちょちょいっと済ませようか!」

 

 ベルは上半身裸になりベッドに横になる。老人のような白髪と少し色素の薄い肌を持つベルの後ろ姿で、特筆すべきは背中にびっしりと刻まれた黒の文字群だ。

 これらすべて、ヘスティアの手で刻み込まれたもの、これこそが神々のもたらす『恩恵』───【神の恩恵(ファルナ)】である。

 

 ヘスティアが馬乗りになり自身の血を背中に一滴垂らす。皮膚に落下した赤い滴は比喩抜きで波紋を広げ、背中へと染み込んでいく。

 

「そういえばベル君、帰って来たとき死にかけたって言ってたけど、一体何があったんだい?」

「ちょっと長くなるんですけど……」

 

 曰く、今日異常事態(イレギュラー)によって本来遭遇することのない強い魔物(ミノタウロス)に襲われ、そこを【ロキ・ファミリア】剣姫アイズ・ヴァレンシュタインに助けられたらしい。そしてベルはその剣姫に惚れ込んでしまったとのこと。

 

「シチュエーション逆じゃない? まるで物語のヒロインだな、男なのに」

「い、言わないでくださいよぉ……気にしてたのに……」

 

 だがベルの話を聞いてからヘスティアの機嫌が目に見えて悪くなっていく。好意を抱いている相手が別の女に現を抜かしているのが気に食わないのだろう。

 ヘスティアは血を落とした場所を中心に指でなぞり、左端からゆっくりと()()を施していった。 

 

 この背中に刻まれているのが【ステイタス】―――【神の恩恵(ファルナ)】。

 神々が扱う【神聖文字(ヒエログリフ)】を神血(イコル)を媒介にして刻むことで対象の能力を引き上げる、神々にのみ許された力。

 

 【経験値(エクセリア)】というものがある。様々な出来事を通して得られる、文字通り経験した事象だ。

 当然不可視で、下界の者達には手にとって利用できる代物ではない。言わば自己の歩んできた歴史そのもの。神々はその歴史に埋もれている───例えば『モンスターを倒した』という一つの軌跡を引き抜いて、成長への糧へと変える。

 

 成し遂げたことの質と量の値、それが【経験値(エクセリア)】。

 

 神にはそれらが見えて、更に料理することができるのだ。敵に打ち勝った偉業を称えて祝福し、背中の【神聖文字(ヒエログリフ)】を塗り替え付け足し、レベルアップ、能力向上。

 

 この力があるが故に、神々は下界の住人達に持ち上げられる。

 

「はいっ、終わり! まあそんな女のことなんて忘れて、すぐ近くに転がっている出会いってやつを探してみなよ。ほら、君の新しい【ステイタス】」

「……酷いよ神様」

 

 ヘスティアからベルに【ステイタス】を書き写した紙が手渡される。見るまでもなく、新しいスキルが発現していると知っている俺は、静かにベルを見つめていた。

 

 

ベル・クラネル

Lv.1

 

 力:I77→I82

 耐久:I13

 器用:I93→I96

 敏捷:H148→H172

 魔力∶I0

 

《魔法》

【 】

《スキル》

【 】

 

 

 ステイタスの概要は基本アビリティ───『力』『耐久』『器用』『敏捷』『魔力』の五つで上から順にS、A、B、C、D、E、F、G、H、Iの十段階で能力の高低が示される。この段階が高ければ高いほど眷属の能力は強化される。

 横の数字はアルファベットと連動しており、0~99がI、100~199がHとなっている。最大はS999となり、それ以上成長したければ【ランクアップ】───レベルを上げて器を昇華しなければならない。

 

 ベルはジーッと【ステイタス】を見つめ、肩を落とした。魔法に憧れていると言っていたので、恐らく魔法が発現していないことがショックなのだろう。

 

「……あれ? 神様、このスキルのスロットはどうしたんですか? 何か消した後があるような……」

「……ん、ああ、ちょっと手元が狂ってね。いつも通り空欄だから、安心して」

「ですよねー……」

 

 ヘスティアの返答にガックリと肩を落としたベルは、落ち込みながら夕飯の準備をしに台所へと向かう。

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)……いいスキルだな」

「っ! ……キミ、神聖文字(ヒエログリフ)が読めたのかい? 共通語(コイネー)は読めないのに」

「悪かったな、どっちも読めねぇよ。それはそれとして俺ってば物知りなのです。人間舐めたらアカンよ」

 

 俺たちが話しているのはベルのステイタスに刻まれていた【スキル】についてだ。ヘスティアが意図的に隠した特殊なレアスキル。その効果は───

 

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 ・早熟する

 ・懸想(おもい)が続く限り効果持続

 ・懸想(おもい)の丈により効果向上

 

 

 前代未聞の成長に干渉するスキル。神が下界に降臨して幾星霜、今まで観測されたことのないレア中のレアスキルである。

 

「本人に隠したい気持ちは分かるよ。あの子は素直すぎるからなぁ」

「……キミも【ステイタス】更新しておくかい?」

「ん、じゃあ頼む」

 

 先程のベルと同じように服を脱いでベッドに寝転がる。ヘスティアが俺の背に跨り、これまたベルと同じように血を垂らした。

 

 背中に感じるヘスティアの重みに少し眉を顰める。

 

「……軽いな。もっと食った方がいいんじゃないか?」

「ボク達神々は永久不変さ。食べたところで体形が変わることはない。そして排泄もしない」

「意味の分からん神秘だな。それならいっそ食わなくてもいいんじゃないか? 食費が浮いちゃうなこりゃ」

「それとこれとは別だよ! 極論、食べなくても死なないけれど、君たちと同じものを共有したいのさ」

「何を偉そうに神様みたいなこと言ってんだ」

「神様なんだよ!」

 

 喋っている間にもヘスティアの指は動き続け、【ステイタス】は更新されていく。

 

「───はいおしまい! 相変わらずキミは異常だねぇ」

「どういう感想? 早くステイタス教えてくれよ」

 

 背中の上でケタケタ笑うヘスティアを催促する。共通言語(コイネー)なんていうのはこの世界の話。地球の、日本出身の俺は聞き取ることはできても読むことはできない。日本語にしか聞こえないのに不思議だが、こうしてヘスティアに教えてもらうしかないのだ。

 

 

タチバナ・コウスケ

Lv.1

 

 力:G251→E412

 耐久:E422→B735

 器用:D546→C672

 敏捷:F355→C668

 魔力∶E476→C687

 

《魔法》

【スペルズ・マギナ】

 ・召喚魔法

 ・行使条件は詠唱文及び魔法効果の完全把握

 ・召喚魔法、対象魔法分の精神力を消費

 詠唱式:『不変の王。無窮(むきゅう)の旅人。万象は(まわ)り、地は砕け、天球は失墜し開闢(かいびゃく)言祝(ことほ)ぐ。尊き叡智よ、我が声を聞け。我が手に(くだ)れ』

 

《スキル》

【 】

 

 

 ……あれ、めっちゃ上がってる。

 

 トータルで1,000オーバー。いくら何でも流石に異常だ。最後に更新してからあまり日も経っていないはず。それこそベルのようなスキルでもない限り───

 

「なあティアさんやい」

「なんだい?」

「最後に更新したの、いつだっけ?」

「……三日前だね」

「俺達が初めて会ったあの日から、何日経った?」

「……今日でちょうど三週間だね」

「あっ、そうなんだ。……じゃなくて、最後に聞くぞ……俺って成長促進系のスキル発現してる?」

「キミのような勘のいいガキは嫌いだよ!! ───嘘! 嘘だからね! 嫌いになんてならないよ!」

 

 そこまでいったなら、最後までやり切って欲しかった。

 

「まあ、それはどうでもいいとして。どんなスキルなんだ? おら、さっさと吐きやがれ」

「どうでもいい!? ボクの想いをどうでもいいって言ったのかい!? ベルくんといい、キミといい、ボクをなんだと」

「よしわかった俺が悪かったごめんって」

 

 その後、なんとかしてヘスティアを宥め、件のスキルの詳細を聞き出すことに成功した。

 

 

【英雄追走】

 ・早熟する

 ・理想の丈により効果上昇

 

 

 ベルの【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】に似た効果のスキル。相違点と言えば効果持続条件がない事くらいだろう。ふむ、『理想』ってなんだ。

 

「いつから黙ってたんだ? ベルと違って教えたところでデメリットはないだろ」

「いやいや、他の神々にバレて面白がられたりするかもだろう? 下界の子供(キミたち)の嘘は神々(ボクら)には通じないんだからさ」

 

 言いたいことは分かる。下界に降臨し、その力のほとんどを封印して全知零能に成り下がった所で、神は神だ。思わぬところでバレる恐れは確かにある。

 

「でもティアだって嘘下手じゃん。神のくせに」

「う、うるさいやい! というかキミね、いくらスキルがあるからってトータル1,000オーバーはあまりにも異常だよ。ダンジョンに潜ってないのにどうして……」

「……………ス、スパルタな師匠がいるもんで」

 

 どこで誰と会っていたか。それはあまり聞かれたくないので適当に誤魔化す。ヘスティアは訝しそうにしていたが、それ以上聞いてくることはなかった。

 

「まあ、君はベルくんと違って疑い深いからね。変な輩と関わってたりしてないだろうけど……いつもボロボロで帰ってくるから心配なんだよ」

「べ、別に怪我してないだろ?」

「防具がボロボロじゃないか。どうせ体は魔法でも使って治してたんだろう?」

 

 図星である。何も言い返せねぇ……。

 

「むむむ……明日はベルとダンジョンに行く事にする。あんなことがあった後で、流石に一人で潜らせるわけにはいかないしな」

「そうだね。ベルくんのこと頼んだよ。くれぐれもヴァレン某とは出くわさない様にしてくれ!」

「私怨じゃねぇか……」

 

 神としてどうなのそれ。頼むからしっかりしてくれよ。

 

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