英雄の誕生を見届けたい(願望)   作:日彗

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今回ちょっと短いです。


第二十二話 【ランクアップ】

 

 別に特別な家系だったとか、先祖に偉人がいたなんてこともない。どこにでもありそうな普通の家庭。

 父は出張が多く、滅多に家にいない人だった。

 母も働いていたから、自然と俺も家事を手伝うようになった。

 家族仲は別に悪くなかったと思う。家族が揃えば一緒に出掛けたりもする、本当に普通の家庭。

 

 だからどうして俺は、俺だけがこの世界に来たのかがわからない。

 俺より運動ができる奴。俺より頭が良い奴。そんなのは沢山いたはずなのにどうして俺だったのだろうか、と。

 

 誰かの意志が介在しているのか、それとも本当に偶然、天文学的確率で俺だけがこの世界に迷い込んだのか。

 理由は不明。帰る方法はおろかどうやって来たのかもわからないのでは手の打ちようがない。

 

 だから、精一杯やってみよう。

 この世界で自分にできることを一生懸命やってみよう。

 せめてこの恩神だけでも笑顔にできるように。

 

 路地裏で女神に拾われ、右も左もわからず手を引かれるままに付いて行った俺は、天を衝く摩天楼を見上げながらそう心に誓った。

 

 

 


 

 

 

 謎のワイバーンとの戦闘から三日が経った。

 リリの話によると俺とベルはあの後【ロキ・ファミリア】に治療所まで運ばれたのだという。

 俺は魔法を放った後精神疲労(マインド・ダウン)を起こし、出血も多くもう少しで死ぬところだったのだとか。

 今度ベート達に会ったらお礼を言っておこう。だがオッタル、てめえは駄目だ。ミノタウロスだけならいざ知れず、あんな化物まで送り込んできやがって。当分スイーツは無しだこの野郎。 

 幸い俺もベルも取り返しのつかない傷は負っていないため、魔法で治しすぐに復帰することが出来たが。

 

 そんなこともあり二人揃ってホームに帰った翌日のことだ。

 

「おめでとうコウスケ君、【ランクアップ】だ」

 

 寝そべる俺の腰に座ったヘスティアはそう言った。

 ベルも同様に【ランクアップ】が可能となり、今は新しく発現させる『発展アビリティ』についてエイナに相談しに行っている。

 

 そうか、あれは『冒険』だったのか。気にくわない蜥蜴をぶちのめしたくて暴れただけのような気もするが、まあ経験値(エクセリア)自体は溜まっていたと言うしそんなものなのだろう。

 

「……一ヵ月半、か。長かったような短かったような……」

「常識的に考えたら異常な速さだよ。……君と初めて会った日のことは昨日のように思い出せるけどね」

「一ヵ月半しか経ってないからな」

 

 この期間を長いと捉えるか短いと捉えるか。

 【ランクアップ】までの期間と考えれば確かに短い。なんせ最速記録が一年だったのだ。我ながら異常である。

 だがこの世界に来てから、と考えると少し長く感じる。現状もとの世界に帰る方法は見つかっておらず、俺は故郷において行方不明扱いとなっているだろう。今も不安な思いをさせている両親と友人たちには心の底から申し訳なく思う。

 

 俺が一人で郷愁に浸っていると、ヘスティアの手が伸び頭を撫でまわされた。

 

「君が今回発現させられる『発展アビリティ』の候補は三つだよ。『狩人』、『魔導』、『治療』だね。どれにしよっか」

「『魔導』一択で」

「……もう少し悩んでくれてもいいんだぜ?」

 

 悩むも何もないだろう。『治療』は名前からして回復魔法に補正がかかるのだろうが、それなら『魔導』でいい。『狩人』なんて論外だ。Lv.2の【ランクアップ】時にしか発現しないレアアビリティ。だがこれは一度経験値(エクセリア)を獲得したモンスターとの戦闘時に補正がかかるという()()()()()()()()()()()()()だ。そんなものいらん。

 

「今一番欲しかったのは『魔導』だしな。次の機会があればじっくり考えるよ」

「ベル君はあんなに大喜びしてたのに、君は淡白だなぁ……」

「うるせぃ」

 

 ベルにとって強くなることは『憧れ』に近づくということだ。そりゃあ大喜びもするだろう。

 正直、レベルが一つ上がったところでまだまだ格上が多すぎる。この調子で精進せよと言われているようであまり素直に喜べない。

 

「帰りました、神様ー!」

 

 と、そこで大きな挨拶が聞こえてきた。

 テッ、テッ、と弾むような歩調で扉を開けたのは、ギルドの【ランクアップ】の報告に行っていたベルだ。

 

「おかえり。アビリティは何にするか決めたのか?」

「はい! 僕、『幸運』のアビリティにします!」

 

 元気に答えるベルは満面の笑みを浮かべていた。

 意識を取り戻した当初は『しっかりと目に焼き付けたかったのに……ちくしょうッ!』とよく分からない事をずっと呟いていたのだが、今では調子を取り戻したらしい。

 

「じゃあ早速やろうか。君の【ランクアップ】を」

「え、俺は?」

「君の方はもう終わったよ。ほらどいたどいた」

 

 終わった? いつの間に。

 ベッドから降りて軽く体を動かしてみるが全然実感が湧かない。

 身体が軽くなるだとか、世界が変わったような感覚だとか、そんなものは一切ない。

 まあ体の構造が作り変わったわけでもないし、案外そんなものなのだろう。つまらん。

 

 俺の代わりに今度はベルが横になる。その脇でスラスラと用紙にペンを走らせていたヘスティアは徐に立ち上がった。

 

「コウスケ君」

 

 【ステイタス】を写した用紙を手渡しながら、ヘスティアは耳元に顔を近づかせ小さな声で告げて来た。

 

「君のスキルについて、後で話があるからね」

「は?」

 

 そう言ってヘスティアはベルのもとへと向かう。

 よく分からないまま手元の用紙を眺め、苦労しながらも自分の【ステイタス】を解読した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

タチバナ・コウスケ

Lv.2

  力:I0

 耐久:I0

 器用:I0

 敏捷:I0

 魔力:I0

 魔導:I

《魔法》

【スペルズ・マギナ】

 ・召喚魔法

 ・行使条件は詠唱文及び魔法効果の完全把握

 ・召喚魔法、対象魔法分の精神力を消費

《スキル》

異界摂理(アカシック・イデア)

 ・神理超越(トランスツェンディーレン)

 ・魔法発動時、任意による詠唱破棄権

   消費精神力(マインド)増大

   魔法効果減衰 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「なぁにこれぇ……」

 

 

 

 

 【ランクアップ】すると基本アビリティと熟練度は一度リセット、初期数値であるI0から再出発となる。そしてそれまでに積み上げて来たアビリティの数値は消失するのではなく潜在値(エクストラポイント)として反映される。

 だからそれに関しては何も問題はない。既に知っていたことだ。

 問題は『スキル』のことだ。

 この世界における神の恩恵、【ステイタス】に表れる『スキル』や『魔法』は恩恵を授かった者の本質や望みなどにも影響されることがある。そういう意味で俺は【スペルズ・マギナ(魔法)】と【英雄追走(スキル)】に関して納得していた。

 

 だけどこれは……。

 

「わけの分からん『スキル』が出てきたなあ」

「それはこっちのセリフなんだけどね……」

 

 ジト目を向けられるが、そんなもの俺の知ったことじゃない。だいたい恩恵を授けたのはお前じゃないか。

 ベルも【ランクアップ】を終えたのだが、発現した新スキル【英雄願望(アルゴノゥト)】の名前に羞恥心が限界を超えてしまって蹲っていた。かわいそうに、俺なら泣くね。

 

「いいかいコウスケ君。このスキルは詳細情報から察するに魔法の詠唱を破棄(スキップ)して発動させられるものだと思う」

「うん、確かにそう書いてあるな。それで?」

「それで、じゃないっ! 詠唱の存在しないベル君の【ファイアボルト】だって前代未聞なんだ。それなのにこの【異界摂理(スキル)】を使えば君の扱う()()()()()()()()()()()()させられる! あまりにも規格外過ぎるんだよ!」

 

 発現できる『魔法』は三つまで。発動させるには詠唱が必須。この二つの常識、世界の摂理から逸脱しているとヘスティアは語った。

 そんなこと言われても望んで手に入れたわけじゃないし。スキルも魔法も潜在的可能性を掬い上げて発現することは知ってるが、それをとやかく言われても困るとしか。

 

「……条件さえ満たせれば『どんな魔法でも使える魔法』と『詠唱を破棄できるスキル』。この組み合わせは最悪だ。───あ、いや……相性という意味ではこれ以上ないほどに良いんだけどね。問題なのはこれらを持っていると間違いなく面倒な神々(やつら)に目を付けられるということさ」

「それは一大事だ。助けてティアえもん」

 

 【ランクアップ】した時点で遅かれ早かれ目を付けられる気もするが、変な神々と好き好んで関わりたいとは思わない。アポロンとかイシュタルとかその他闇派閥とか。

 

「誰がティアえもんだい、誰が。……対策として人前で『スキル』を使わないよう気を付けるしかないね。魔法の方は結構大っぴらに使ってるだろ君」

「ふっ、この魔法には幾度となく救われてきたぜ。なんなら『炉神の刀(アルマ・ウェスタ)』より役に立ってるまである」

「なんだとぅ!? ボクの『神様の刀(ヘスティア・ブレード)』だってすごいんだぞ!?」

「なぁにが『神様の刀(ヘスティア・ブレード)』だ! 『炉神の刀(アルマ・ウェスタ)』だって何度も言ってんだろうが、いい加減に諦めろ!」

 

 何度言ってもダサイ名前で呼び続けるヘスティアの二房の髪を掴んで弄くり回す。

 なんでいつもツインテールなんだろう。たまには髪型変えればいいのに。

 

「コラァ! そろそろ出かけるんだから髪を乱すんじゃないよ!」

「……え? 神様、今日お仕事あったんですか?」

 

 部屋の隅で蹲っていたベルがこちらに顔を向ける。

 よかった、思っていたより軽傷のようだ。

 

「違うよ。今日はね、三ヵ月に一度開かれる『神会(デナトゥス)』の日なんだ」

「ゲッ……」

「『神会(デナトゥス)』って……も、もしかしてっ?」

「ああ、そうさ。暇な神達の会合だよ……【ランクアップ】した者の称号(ふたつな)を決める、ね」

 

 二つ名、と聞いて盛大に顔を顰める。

 隣でベルが期待に瞳を輝かせているが、俺はどうしても喜べそうにない。

 

「君達がLv.2になったからね、僕もあの席の末端に入ることを許されたんだ。今日、二人の二つ名も恐らく決めることになる」

「嫌だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 その先は聞きたくないと、大声を上げ耳を塞いで膝をつく。

 冗談じゃない! あんな痛々しい名前で呼ばれるぐらいなら死んだ方がマシだ!

 【勇者(ブレイバー)】だの【剣姫】だのはまだマシだろう。だがもし仮に【闇炎龍(ダークフレイムマスター)】みたいなクソ痛称号を付けられた日には外を出歩けなくなる。たとえこの世界の人々が心の底から格好いいと思っていたとしても、俺の心が耐えきれない。死にたくなる。

 

「あんな痛い称号付けられたくねええええええええええええええええええええええええええッ!!」

「だ、大丈夫だよコウスケ君! ボクがどんな手を使ってでも君達を守るから!」

「そうですよ! それに神様達が決める称号はどれも洗練されていて恰好いいじゃないですか! 【漆黒の堕天使(ダークエンジェル)】とか、聞いただけでも強そうって思っちゃいますよ!」

「………………………………………ゴブッ」

「コ、コウスケくーーーん!? ベル君、どうしてとどめを刺したんだい!?」

「えっ? ええっ?」

 

 思わぬ刺客からの口撃に、白いワイバーン戦に匹敵するダメージを負った。

 何故だベル、俺はお前のことを実の弟のように想っていたのに……!

 

「コウスケ君! 大丈夫急所は外れてる!」

「いや、わりとクリティカルヒットなんだけど……」

 

 締め付けられるように胸が痛む。たかが称号、たかが二つ名。そのはずなのにどうしてこうも怖ろしいのか。

 おのれ、害を振りまくしか能のない邪神どもめ。いっそのこと全員送還した方が世のためなのではなかろうか。

 

 もう身体に力が入らない。胸を押さえた体勢で床に転がると、ヘスティアは頭を持ち上げて自身の膝の上に置いた。

 ……ほう、これが膝枕。どうしよう、俺の寝袋の方が寝心地良いぞ。

 

「ティア、もしもの時はこれを……」

「これ、は……?」

 

 震える手を何とか制して懐から『秘密兵器』を取り出すとヘスティアに押し付ける。

 

「俺にできるのは、ここまでだ………きっとお前のことを守って、くれる……だから」

 

────どうか、無難なものを

 

「コウスケ君………分かった、ボクに任せてくれ。なんたってボクは君達の主神なんだからさ!」

 

 ポタリ、ポタリ、と頬に雫が零れ落ちてくる。

 これ以上俺にできることは残されていない。ここから先は神たるヘスティアが一人で戦い抜かなければならないのだ。

 

 だけどきっと大丈夫。どんな嵐が来ようとも、彼女の掲げる聖火が消えることだけは断じてないのだから。

 この日、俺とヘスティアの絆はより強固なものとなった。

 彼女は行く。己が眷属のために。

 キッと決然とした表情で遠くを見据え、たった一つの誓いを胸にホームの扉を閉ざす。

 部屋を出て行くときの後ろ姿はまるで、死に戦に臨む戦士のような覇気に溢れていた。

 

「…………………えっ?」

 

 ただ一人、理解が追い付いていないベルだけが取り残されていたが。

 




神理超越(トランスツェンディーレン)
 書いて字の如く『神の敷いた(ルール)から抜け出した証』。異界常識ともいう。
 神々からの干渉を退け、さらには神の生み出したシステムに触れることさえ可能にする『疑似権能』。
 詠唱破棄はあくまで機能の一端。Lv.2である現在は『魔法発動時の詠唱省略』『肉体・精神・魂への干渉に対する絶対的耐性力』の二つしか引き出せない。
 他にも新しいスキルの発現予定はあるが、ぶっちゃけ一番ヤバいのはコレ。このバグスキルの前では召喚魔法はチートでもなんでもない。
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