英雄の誕生を見届けたい(願望)   作:日彗

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第三話 目的と目標

 

 ダンジョンを潜る。目指す階層は6階層。その中でもベルがいると思われるのは少し大きめの広場だ。

 

 迷宮内を走る。なるべくモンスターとは遭遇しないように、遭遇したとしても戦闘は最小限に抑えて走り続ける。

 

「───見つけた」

 

 正方形型の広場。そこに複数のモンスター『ウォーシャドウ』に囲まれた傷だらけのベルがいた。

 参戦は、しない。ベルはおもむろに歩き出し、おそらく自力で葬ったのであろうウォーシャドウの死骸へ腰を折る。

 灰になった死骸から取り出したのは、ドロップアイテム『ウォーシャドウの指刃』。それを即席の武器として左手に装備する。

 

「がんばれー」

 

 俺の声は届いていないのだろう。ベルの目は敵にしか向いていない。だが決意は固まっているようだ。

 

 両手で武器を構え、ベルは走り出す。目の前のモンスターを超えるため。憧憬に追いつくために。

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 ウォーシャドウとの戦闘を制したベルだったが、なんとそこで意識を失ってしまった。というわけで俺は今、彼を背負ってホームである教会の隠し部屋に向かっています。

 

「……ん、ぅ……あれ……コウスケ、さん……?」

「あ、起きたか。おはようベル。大変だったな」

 

 どうやら目が覚めたらしい。よかった、起きなかったらヘスティアに何言われるかわかったものじゃない。

 

「え、どうしてコウスケさんが……ああ! す、すみません、僕店を飛び出して……!」

「ああ、探すの大変だったぞ。まあでも、自分の非力さを実感すると居ても立っても居られなくなるよな。……今度シルさんに謝っておけ。心配してたぞ」

「……はい」

 

 その後も降りようとするベルを制し、背負ったまま歩き続ける。弟がいたらこんな感じなのだろうか。

 

「ほら見えてきたぞ。俺達のホームだ」

「はい……」

 

 隠し部屋の扉を開ける。この扉はなぜか中開きだから気を付けないといけない。

 

「───ぷぎゅ!?」

「「あ……」」

 

 扉を開けた瞬間、何かに強打する感覚があった。恐る恐る覗いてみると、そこには顔面を抑えながらうずくまるヘスティアがいた。

 

「……何やってるんだお前。危ないだろ」

「な、なんだとー! 危ないのはそっち───コウスケ君!? ベル君!? 無事だったんだね!」

 

 かなり心配をかけてしまったのだろう。俺達を視界に入れると、その瞳を涙ぐませ……しかしベルの顔と姿を見て絶句した。

 今のベルは正直に言ってかなり酷い。泥や血で汚れ、肌は所々青く腫れ上がり、鋭い爪で切り裂かれたかのような裂傷を全身に負っている。特に膝が一番ダメージがでかい。

 

 ベルを背中から降ろすと、血相を変えたヘスティアが迫り寄ってきた。

 

「どうしたんだい、その怪我は!? まさか誰かに襲われたんじゃあ!?」

「いえ、そういうことは、なかったです……」

「じゃあ、一体どうして!?」

「……ダンジョンに、もぐってました」

 

 ポツリと落とされた言葉に、ヘスティアは一瞬の間、怒ることも忘れ唖然とする。

 

「ば、馬鹿っ! 何を考えてるんだよっ!? そんな恰好のままでダンジョンに行くなんてっ……しかも、一晩中!?」

「まあまあ、落ち着けって。自分のしたことの危険さなんて、この子はちゃんとわかってるよ」

「……どうして、どうして君がいながらこんなことになってるんだい? どうしてそんな無茶を?」

「無茶をしなければいけないと、ベル自身が感じたからだ。今のままでは『憧憬』に追い着けないってな」

「……でもこんな、自暴自棄のような真似、君らしくないじゃないか?」

 

 今のベルの有り様、ひいてはどこか暗い雰囲気に叱りつける気も失せたヘスティアは、諭すような優しい声でベルに語り掛けた。

 しかしベルは口を開こうとしない。前髪で瞳を覆って隠し、拒絶の意を言外に告げている。その様子に、ヘスティアは小さく溜息をついた。

 

「わかった、何も聞かないよ。君は意外と頑固だから、ボクが無理矢理聞き出そうとしても無駄なんだろうし」

「ごめんなさい……」

「なに、いいさ。じゃあ、先にシャワーを浴びておいで。血はもう止まってるみたいだけど、傷の汚れを落とさないと。その後はコウスケ君のとっておきの出番だよ」

「? ……はい、ありがとうございます」

 

 そのまま奥のシャワー室へと向かうベルを見届けたヘスティアは、鋭いまなざしでこちらを睨みつけてきた。

 

「それで、君が付いていながらどうしてああまでボロボロになったんだい?」

「そりゃあ、ベルが一人で戦ったからだろ」

「っ! だからどうして彼に」

「ベルはこの数日で死に恐怖し、強い憧憬と出会い、大きな挫折を経験した。それでもなお立ち上がり、前に進もうとしてる。お前はそれを邪魔しろっていうのか?」

 

 この夜を越えて、ベルは確実に成長した。それはこれからも続いていくだろう。危なくなれば手を貸すし、守るのも当然だ。だけどずっと守られることを本人は望んでいない。

 

「ティア、眷属(こども)に道を示し、背中を押してやるのが主神(おや)の務めだぞ。どうか、あの子の想いと向き合ってあげてくれ」

「む、むむむ……!」

「いや、そんな嫌そうな顔せんでも……」

 

 子供の成長を見守るのが親の役目だろ? 【剣姫】にとられるのがそんなに嫌か。処女神がいっちょ前に恋しおってからに。

 

「ほれほれ、不貞腐れるなって。主神がそんなだと眷属は安心できないぞ。どっしりと構えてればいいの」

「こ、こらー! 神の頭を撫でるなー!」

 

 ハハハ、小さき者よ。ポカポカ殴るでない。痒いであろう。

 

「すみません、お待たせしました……どういう状況ですか?」

「おっ、戻ってきたな。そこの椅子に座ってくれ、傷を治すぞ。ほらティアもどけって」

「ムキーーッ! ……ベルくん、大丈夫だから彼を信じて大人しくするんだよ」

「え……な、何をするんですか? 怪我の治療ですよね?」

 

 ベルの様子に思わず顔がにやける。へっへっへ、君は今から奇跡を目の当たりにするんだぜ。

 

「【───不変の王。無窮(むきゅう)の旅人。万象は(まわ)り、地は砕け、天球は失墜し、開闢(かいびゃく)言祝(ことほ)ぐ】」

「……え? これって、詠唱……?」

 

 杖は持っていない。『魔導』の発展アビリティもないから魔法円(マジックサークル)も出ない。だが、これより見せるは下界を揺るがす【希少魔法(レアマジック)】。とくとご覧あれ!

 

「【尊き叡智よ、我が声を聞け。我が手に(くだ)れ】───【スペルズ・マギナ】」

 

 詠唱を終え、魔法名を唱えることで魔法を発動させる。

 出てきたものは、炎でもなければ雷でもない。複雑な文様の魔法円(マジックサークル)だ。それが俺の背後に浮かび上がる。

 魔法の発動で起きたことはこれだけ。ベルは何が起きているのか分からず、口をポカンと開けていた。

 

 だがこの魔法の真価はここからだ。

 

「【───癒しの滴、光の涙、永久の聖域。薬奏(やくそう)をここに。三百と六十と五の調べ】」

「!」

 

 『詠唱連結』と呼ばれるものがある。有名所と言えば【ロキ・ファミリア】の幹部、リヴェリア・リヨス・アールヴの魔法だろう。

 本来ならば魔法のスロットは三つしかないため、最高でも三種類の魔法しか発現出来ないのだが、彼女の魔法は攻撃・防御・回復の三種類の魔法に加え、それぞれ三段階の階位を含めた魔法を詠唱連結することによって規模や効果を変える事ができる。これによって合計九種類の魔法を扱えるという特徴を持っており、その事から【九魔姫(ナイン・ヘル)】という二つ名で呼ばれている。

 

「【癒しの(おと)万物(なんじ)を救う。そして至れ、破邪となれ】」

 

 だが俺の魔法は所謂『連結詠唱』ではない。これは同じく【ロキ・ファミリア】の【千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤ・ウィリディスの持つ魔法【エルフ・リング】と同じもの。

 

「【病の操斂(そうれん)。呪いは彼方に、光の枢機へ】」

 

 召喚魔法(サモン・バースト)。他者の魔法を召喚、行使することができる【希少魔法(レアマジック)】。

 条件は詠唱文及び魔法効果の完全把握。【千の妖精(サウザンド・エルフ)】と違い、種族の垣根を超えたあらゆる魔法の使用権。これは原作知識を持つ俺にとってかなり使い勝手のいい魔法だった。

 

「【聖想(かみ)の名をもって───私が癒す】」

 

 行使するは【ディアンケヒト・ファミリア】団長、【戦場の聖女(デア・セイント)】アミッド・テアサナーレの全癒魔法。

 都市最高の治療師(ヒーラー)の御業を持ってベルの傷を癒す。正直なところ過剰だと思うが、別にいいよね。

 

「【ディア・フラーテル】」

 

 光がベルを包み込み、全身の傷と体力をたちまち癒していく。魔法を行使できても、俺の技量が追い付いていないため、オリジナルに比べて性能は遥かに劣る。だがそれでも『全てを癒す』とまで言われる最上位の全癒魔法だ。俺自身いつもお世話になってます。

 

 まあ、かの『賢者』の魔法の方が詠唱短くて楽なんだけど!

 

「どうだ? 傷は全快、体力も満タン。凄いだろ?」

「……す、凄いなんてものじゃないですよっ!! 身体がメチャクチャ軽い! こんなすごい魔法が使えたなんてコウスケさん凄い!」

「へへっ、よせやい。照れちゃうじゃないか」

 

 まったく、素直な子め! ガッハッハ!

 

 だがこの魔法も便利なだけではない。

 

 【スペルス・マギナ】。俺の持つ唯一の魔法。これは魔法円を背負っている間、他者の魔法を行使できるという破格すぎる性能だ。一度発動すれば解除するまでそのまま出し続けることも可能。精神力が許す限り無制限に召喚ができる。ただその間も精神力を消費し続けていく。

 問題はこの魔法の発動中は動けない事だ。いやこの説明では語弊が生まれる、正確には下手に動くと魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こしてしまうのだ。付与魔法(エンチャント)っぽい癖に面倒くさい仕様しやがって。

 

 後衛魔導士として専念するならともかく、ベルと俺しかいないこの零細ファミリアでそれは難しい。俺もなんとか並行詠唱が出来ればいいのだが……あれ結構難しいよ? 正直戦闘と同時に詠唱するにはまだまだ修行不足だった。

 

「怪我も治したし、寝ようぜ。ていうか寝るぞ俺は。眠くて死にそう」

「そうだね。いくら回復したとはいえ夜通し戦い続けたんだ。ベルくんはベッドで寝るんだよ。主神命令だからね! その代わりボクも同じベッドで寝させてもらおうかな?」

 

 この処女神は馬鹿なのだろうか。こんな時に何を言ってるんだまったく。

 

「じゃあソファもーらい! お前らも早よ寝ろ」

「そうですね。神様も疲れてるでしょうし……寝ましょうか」

「……なぬっ!?」

 

 冗談のつもりだったのだろうがスルーされ、挙句にカウンターを喰らったヘスティアは絶句し、顔を紅潮させる。我が主神ながら情けない。そんなだから処女神なんだぞ。アホらし、寝よ。

 

「神様……」

「……! にゃ、にゃんだいっ?」

「コウスケさん……」

「ん?」

 

 ポツリと呟かれた声に一応返事をする。ヘスティア動揺しすぎ……

 

「……僕、強くなりたいです」

「!」

「そうだなぁ……」

 

 顔を見なくても、眼を視なくても伝わってくる『決意』。それに俺は頷き、目を閉じた。

 

 

 

 

 ベルが帰ってから一夜が明けた。

 極度の疲労から丸一日を睡眠に費やし、ようやく起きたベルは現在【ステイタス】の更新を行っている。

 

 だが先日の一晩ぶっ通した戦闘を顧みるに、能力(アビリティ)はかなり伸びているだろう。現にヘスティアが凄い顔をしている。

 

「……ベル君、今日は口頭で【ステイタス】の内容を伝えてもいいかい?」

「あ、はい。僕は構いませんけど……」

 

 ヘスティアによるとベルの【ステイタス】は合計200以上上昇していたらしい。6階層の魔物と一晩戦っただけでそれか……スッゲ。俺なんて鬼の様な猫人にボッコボコにされてようやくだったのに。

 

「今の君は理由ははっきりしないけど、恐ろしく成長する速度が早い。どこまで続くかはわからないけど、言っちゃえば成長期だ」

「は、はいっ」

 

 アッハッハ。成長期と言い張るか、こ奴め。

 

「前例がないわけじゃない。例えば君より一週間早く恩恵を受けたコウスケ君も尋常じゃない速度で【ステイタス】が伸びている。『耐久』に関しては既にBだ」

「ええっ!?」

 

 おおっと、ここで俺を話題に出してきたぞぅ! つまり俺も成長期って言い張らなきゃいけないのか。いいぜやってやんよ。神だって騙し切ってやんよ。俺やってやんよ。

 『耐久』は伸ばしたくて伸ばしてる訳じゃないんだけどね。

 

「約束してほしい、無理はしないって。この間のような真似はもうしないと、誓ってくれ」

 

 服を着ようとするベルの腕を掴む、小さな手。

 

「強くなりたいっていう君の意志をボクは反対しない。尊重もする。応援も、手伝いも、力も貸そう。……だから」

 

 これはベルにかけられている言葉だ。俺は関係ない。というわけでソファに座ってじゃが丸くんを食べる。

 

「……お願いだから、ボクの前から居なくならないでくれ」

 

 うっわ、これ小豆クリーム味じゃん! ……意外といけるな。誰だこんなもの生み出した天才(バカ)は。

 

「聞いてるのかい!? 君にも言ってるんだぜコウスケ君!」

「えっ、あ、俺? 聞いてる聞いてる大丈夫だって。じゃが丸くんはプレーンが至高」

「聞いてない! ボクが大事な話してるのに、聞いてない!!」

 

 だってベルへの言葉だろ? 俺は関係無い訳じゃんか。それに腹が減ってたんだよごめんなさい。

 

「まったくもうっ! ベル君、コウスケ君、僕は今日の夜……いや何日か部屋を留守にするよっ。構わないかなっ?」

「えっ? あ、わかりました、バイトですか?」

「いや、行く気はなかったんだけど、友人の開くパーティーに顔を出そうかと思ってね。久しぶりにみんなの顔を見たくなったんだ」

 

 パタパタと支度を進めるヘスティア。そういえば神の宴か。いいなー、俺も『アイアム・ガネーシャ』に行きたいなー。絶対楽しいじゃん。

 

「ああ待て待て、行くならコレ持っていきな。絶対に必要だろ」

「これって……タッパー、ですよね?」

 

 そうタッパー。厳密にはタッパーという名ではないのだが、まあ似たようなものだ。というかこの世界にタッパーて言葉があることに驚いた。

 これもどこぞの【万能者】が作ったのだろうか。どうでもいいけど。

 

「ふっふっふっ。ボクを舐めて貰っちゃ困るなぁ。……ボクはね、チャンスを逃さないために───普段から常備しているのさ!」

「な、なにィィーーー!?」

 

 そう言って懐から取り出したのは三つのタッパーだった。いや待て、今どこから取り出した。懐? その服に懐なんてあるの?

 というか仮にも女神がそんなもの常備するな、恥ずかしい。まるで俺たちが貧乏みたいではないか。

 

「か、神様……どうしてそんなものを───」

「じゃあ行ってくる! お土産には期待していてくれ!」

「任せたぞ! 楽しみに待ってる!」

 

 ベルの問いかけを無視して勢いよく飛び出していくヘスティア。神々の宴というくらいだ、美味いものが集まっているに違いない。おっと、涎が出てきた。

 

 我らが女神に、敬礼!

 

「よし、準備したら俺達も行くか」

「はい!」

 

 

 

 

「すみませーん」

 

 太陽が燦々と輝く中、俺達が向かったのはダンジョン……ではなく酒場『豊穣の女主人』。ベルが迷惑をかけてしまったことを謝りたいというのでついて来た。ねえ、俺いる?

 

 カランカラン、と鐘を鳴らしてドアをくぐる。

 

「申し訳ありません、お客様。当店はまだ準備中です。時間を改めて起こしになっていただけないでしょうか?」

「まだミャー達のお店はやってニャイのニャ!」

 

 店内でテーブルにクロスをかけていたエルフの店員と猫人(キャットピープル)の店員が、こちらに気付いて対応しに来る。余裕があれば是非サインでも欲しいのだが、今日の目的は違う。

 

「すいません、僕はお客じゃなくて……その、シルさん……シル・フローヴァさんはいらっしゃいますか? あと女将さんも……」

「ああぁ! あん時の食い逃げニャ! シルに貢がせるだけ貢がせといて役に立たニャくニャったらポイしていった、あん時のクソ白髪野郎ニャ!!」

「いや、あの時は俺が二人分の料金払いましたけど」

「そうです。貴方は黙っていてください」

「ぶニャ!?」

「失礼しました。すぐにシルとミア母さんを連れてきます」

「は、はい……」

 

 獣人の少女の襟をつかみ、ずるずると引きずっていく。とりあえず合掌。お疲れさまでしたぁ!

 

「い、今の一撃……見えました?」

「はっはっはー、無理。だから、絶対に怒らせるなよ」

 

 それにしてもリューさんが動いて喋ってるよ。声が『はやみん』だよ。やっぱりサイン欲しいなあ。

 

「ベルさん!?」

 

 階段を急ぎ足で下りる音がして、すぐに店の奥からシルが現れた。その後ろからミアもついてくる。

 

「坊主が来てるって?」

「あ、ミアさん。ご無沙汰してます」

 

 ウワァオ、デカい。わかってたことだけど存在感すごいなこの人。

 俺がミアの対応をしている間に、シルがまたもやバスケットをベルに渡していた。中身はシェフが作った賄い料理らしい。でも中には彼女が手を付けたものもあるとか……俺、それいらない。食べたくない。

 

「シル、あんたはもう引っ込んでな。仕事ほっぽり出してきたんだろう?」

「あ、はい。わかりました」

 

 シルがお辞儀をして戻っていく傍ら、ミアは笑みを浮かべてベルの胸をどついた。

 

「アンタ、この(あん)ちゃんに感謝しときなよ。ウチの連中はアタシも含めて血の気が多いヤツ等だからね、兄ちゃんがいなかったらアンタ、今頃湖に沈んでるよ」

「俺ってばファインプレーすぎる」

 

 実際、あの時リューは真剣を手に取ろうとしていた。正直ちょっとちびりかけたぞ。わかるかベル。聞いてるかベル。エルフってのはお前が思っているほど可愛らしい種族じゃないんだぜ……。

 

「冒険者なんてカッコつけるだけ無駄な職業さ。最初の方は生きる事だけに必死になってればいい。背伸びしてみたって碌なことは起きないんだからね」

「それは経験談ですか?」

 

 俺の問いかけに対してミアは「さてね」と笑って肩を竦めた。

 

「最後まで二本の足で立っていたヤツが一番なのさ。みじめだろうが何だろうがね。すりゃあ、帰ってきたソイツにアタシが盛大に酒を振る舞ってやる。ほら、勝ち組だろう?」

 

 ミア、お母さん……っ! 俺お酒飲めないです。

 すると、話は終わりだと言うように、俺とベルの背中をドンッと押してきた。『力』がつっよい!

 

「そら、アンタらはもう店の準備の邪魔だ。行った行った」

 

 店の外へ追い出されてしまったが、用は済んだ。ならばもう、憂いはない。

 

「……じゃあ、行くか? ダンジョン」

「……行きましょうか」

 

 この店にはこれからもお世話になることが多い。ちょくちょく来て【ファミリア】への好感度を上げていこう。

 

 そんな俺の思惑などつゆ知らないベル。無論、言うつもりもない。

 

 この世界に来た理由は知らんが、とりあえず俺の『目的』は元の世界に帰ること。

 

 だがそれまではここで生きていかなければならない。ならば『目的』以外に『目標』を作っておくべきだろう。といってもそれに関してはあの日、ヘスティアと出会った日から決まっている。

 

 『英雄』の誕生を見届ける。この約束の地オラリオで。『最後の英雄(ラストヒーロー)』が生まれる瞬間を───

 

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