英雄の誕生を見届けたい(願望)   作:日彗

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第七話 買い物でえと

 

 目の前で佇む狼人(ウェアウルフ)。あの数のモンスターを相手に一方的な蹂躙を果たした姿は、正しく『英雄候補』のそれである。

 

「おつかれさん!なんや、ちゃっかり魔石も回収してくれたんか。ほんまええ子やなべ~トォ~? うちがよしよししたるわ!」

「寄んな、鬱陶しい」

 

 あれが第一級冒険者の本気。あれで()()Lv.5。

 

「カッケェ……」

 

 他を蹂躙する圧倒的な力。自分の理想を貫く強さ。何よりその背中はあまりにも、あまりにも自由で───

 

「……ベルもいずれはああなるのかな」

「ベ、ベル君ならもっとずっと強くなれるさ! ……たぶん」

 

 なんだかなぁ、想像できないなぁ。ベルが蹴り一つで食人花を殺せるような化物になるとか、無理だろ。せめてスキル使わないと……。

 

「まあ、終わったみたいだし今のうちに逃げるか」

 

 流れでここまで来てしまったが、本当はちょっと確認して終わるつもりだったのだ。これ以上関わりたくない。特にこの後出くわすであろう優男のことは避けたい。基本的にイケメンは嫌いなんだコンチクショウ。

 

 避けられるなら死亡フラグは避けていきたい。死妖精(バンシー)殿と会うのはもう少し先……というかもう外伝には関わりたくないのだ。

 

 

 

 

 地下水路を抜けて数時間ぶりに地上へと戻る。

 爽やかな風が体を包み込み、ようやく戻ってきたと実感した。

 

「ああ、死ぬかと思った……」

 

 なんとかロキの目を盗み(ベートには気付かれていたと思う)ヘスティアを担いで地下水路から離脱することができたが、これからの事を考えると胃が痛い。

 《炉神の刀(アルマ・ウェスタ)》の試し切りもできなかったし。というかエンカウントしたモンスターのレベルが高すぎる。最初はゴブリンとかでいいんだよ、馬鹿じゃないのか。

 

「今日は疲れた、もう帰ろうぜ。少しでも早くここから離れたい」

「それはいいけど、いつまで抱えてるんだい!? それにボク達は何に巻き込まれたのさ!?」

 

 「せめてロキと話くらい……!」と騒ぐヘスティア。あれ以上一緒にいると何を聞かれるか分かったもんじゃない。神は嘘を見抜くから面倒なんだ。

 

 そういえば今頃アイズ達はリヴィラに着いた頃だろうか。オラリオのためにも彼女達には頑張って欲しいものだ。

 

「歩きながら説明するから落ち着けって。そろそろベルも探索を切り上げた頃かな……」

「だからボクを降ろせーー! 一応女神だぞ!? せめてお姫様抱っことか……!」

「そんなものはベルに頼め」

 

 小さくて軽いから担ぎやすい。耳元がうるさいが、このまま行くとしよう。

 

 

 

 

「───町中に突如現れた新種のモンスター。君が話していたのがさっき現れたあの蛇みたいなモンスターのことなんだね?」

「ああ」

 

 ホームに続く道を人混みをかき分けて進んでいく。道中でヘスティアの質問に答えながら。

 

「……君はあのモンスターについてどう思ってるんだい?」

「『どう』……? 曖昧な質問だな、何が言いたい?」

「君は何か知ってるんじゃないのか? 今オラリオで何が起きているのか」

 

 ヘスティアの視線が射抜いてくる。ぶっちゃけ何も怖くないけど、どうしようか。適当な事を言っても嘘だとバレるし、かと言って無言を貫くにも限界がある。

 

「おいおいティア、俺は神でも何でもないただの人間だぞ。全知じゃない以上、何でもは知らないさ」

「だけど知っている事もある、てことかい?」

 

 チィッ! おのれ、あやふやな回答では誤魔化せないか! 面倒な!

 

「知ってるとは言っても大したことじゃないぞ? それこそ【ロキ・ファミリア】なら遅かれ早かれ辿り着くだろうし。それに……」

 

 それに、あまり関わらせたくない。

 

 第一、ヘスティアに話したところで意味もない。俺は外伝を最後まで読めたわけではないのだ。黒幕の正体なんか知らんし、そもそも【ヘスティア・ファミリア】を関わらせるつもりはない。

 

「……君はいつも一人で抱え込む、それは悪い癖だよ」

 

 悲しそうに顔を伏せるヘスティア。だがすぐに切り替えたのか、首を大きく振ってこちらを見上げてきた。

 

「でもね、君はすでに巻き込まれ、そして君はボクを巻き込んだ。もうボク達は無関係なんかじゃないんだよ」

「うん、その件に関してはほんとゴメン。一人で行くのは流石に怖くてついて来て貰ったんだが、まさかこうなるとは……」

 

 何もいないことを確認する為だったのに。おかげで死にかけたわ。

 

「そういう事を言いたいんじゃなかったんだけどね……」

 

 わかっている。彼女は主神(じぶん)にくらい頼ってくれ、と言いたいのだろう。勿論頼るべき時はそうするが、それとこれとは話が別だ。

 

「……仕方ないか、君は本当に頑固だからねぇ」

「このことベルには」

「言わないよ。というか言えないさ」

 

 それなら安心だ。まあ端から喋るとは思っていなかったが。

 だがこれ以上何も言ってこないのは正直助かる。

 

「……スケサン、……カミサマー……」

 

「───ん、何か聞こえないか?」

「聞こえるって、何がだい?」

「いや、なんか名前を呼ばれたような気が……」

 

 確かに聞こえたと思ったのだが……。

 辺りをキョロキョロと見周す。すると人混みの奥に見覚えのある白い髪が見えた。

 

「コウスケさーん! 神様ー!」

「おー、ベルー。ダンジョン探索お疲れ様」

「ベルくーん! 会いたかったよぉー!」

「えっと……どうして神様は担がれてるんですか……?」

 

 手を大きく振りながらこちらへと走ってくるベルは、いまだ担がれたままのヘスティアに視線を向けた。

 気にしないでくれたまえ。ただのスキンシップだ。

 

「それより、今日の探索はもう終わったのか?」

「あ、はい。これからギルドに行って換金してこようかと」

「お、それなら俺も一緒に行こうかな。ティアは先に帰っててくれ。午後からバイトだっただろ?」

 

 これからギルドに行くのなら俺も行ってしっかりと()()しておいた方がいいだろう。ベルは隙が多いからなぁ。

 

「わかったよ、ボクは先に戻っているよ。ベル君もまた後でね」

「はい神様!」

 

 んんーーッ!! と一度伸びをしてからヘスティアを見送る。借金はたくさんあるんだ、頑張って稼いでくれたまえ。

 

「よし、じゃあギルドに行くか!」

「はい!」

 

 

 

 

「ななぁかぁいそぉ~?」

「は、はひっ!?」

 

 悲鳴を上げるベル。眉を吊り上げたエイナ。ギルドで戦利品の換金を終えたベルはアドバイザーであるエイナに到達階層を7階層まで増やしたと言ってしまったのが始まりであり、終わりだった。

 

「キィミィはっ! 私の言ったこと全っ然っわかってないじゃない!! 5階層を越えた上にあまつさえ7階層!? 迂闊にもほどがあるよ!」

「ごごごごごごごめんなさいぃっ!?」

 

 ダンッ! とエイナは机に両手を叩きつける。その鋭い瞳に射竦められたベルはまるで蛇に睨まれた蛙のようだ。

 

「ベルもう7階層に行ったのか? 俺もまだ行ってないのに」

 

 エイナが怒っているのは言葉の通り、ベルが身の程もわきまえず到達階層を増やした事だ。ダンジョンは階層を下るほどにモンスターの()()()が変わっていく。知識も技術もないベルが単独で『冒険』をしたことをエイナは責めていた。

 

「キミにも言ってるんだよコウスケ君!? 一週間とはいえ先輩なんだから君がしっかりしないとっ!」

 

 おっと、こっちにまで飛び火してきた。なんて恐ろしい剣幕だろう。くわばらくわばら。

 

「まあまあ、少し落ち着いてください。そんなに怒ってたら血圧上がって早く老けますよ」

「なんですってっ!?」

「こ、コココ、コウスケさん……っ!? どうしてわざわざ怒らせるようなことを……!?」

 

 ちょっと場を和めようと思って……失敗したけど。

 おかしいなぁ、ただのジョークだったのになぁ。

 

「そもそも『冒険者は冒険してはいけない』って言うのがおかしいんですよ! もちろん避けられるならばそれが一番ですけど、戦わないと殺されてしまうという事態に陥った時はどうするんですか! よく考えてみてください、ベルは5階層でミノタウロスに遭遇しました。それは避けようがなかった『異常事態(イレギュラー)』だ! つまり! それらから身を守る為、あえて普段から危険に触れて慣れておくことも必要だと思います!」

「それで死んじゃったら元も子もないでしょうがああああっ!!」

 

───確かに。

 

 余りにも正論であり、そして我ながら苦しい言い訳だった。だが今の俺とベルのステイタスだと7階層は問題ない。無論、何が起こるか分からないのがダンジョンなのだが。

 

「でも実際問題、俺達のステイタスなら7階層は問題ないんですよ。なあベル?」

「は、はい! エイナさん、僕もあれから結構成長したんですよ!」

「アビリティ評価Hがやっとのくせに、成長だなんていうのはどこの口かな……!」

「ほ、本当です! ボクのステイタス、アビリティがいくつかEまで上がったんです!?」

「……E?」

 

 ぴたり、とエイナは動きを止めた。

 ベルの咄嗟の発言が何を言っているのか分からないのだろう。冒険者登録をしておよそ半月、どれだけ早くてもこの時間幅(スパン)ではHが妥当。Gだったらでき過ぎなレベルだ。

 

「それにコウスケさんはBまで上がったものもあるんですよね!?」

「あ、こらバ「───B!?」」

 

 ベルが余計なことを言ったせいでエイナがさらに混乱してしまった。いくらベルより一週間早く恩恵を受けたとは言え、それでもアビリティ評価Bはあり得ない。ほれ見ろ、なんか人外を見るような目つきをこっちに向けてきた。

 

「……ねえ、ベル君」

「は、はい?」

「キミの背中に刻まれてる【ステイタス】、私にも見せてくれないかな?」

「駄目に決まってるでしょ」

 

 至って真面目です見たいな顔をしているが、ステイタスはファミリアの機密情報だ。例えそれが信用のできる相手であっても漏洩させるわけにはいかない。

 

「そもそも無理です。【ステイタス】には(ロック)がかかっているので主神かステイタス・シーフがないと。それともギルドにあるんですか? 一応違法アイテムに区分されてますが」

「うっ」

 

 今まで忘れていたのであろうエイナは、『鍵』の存在を思い出して言葉に詰まる。

 まあ、鍵なんてかけてないけどね。服を脱げば【ステイタス】は丸裸さ。ヘスティアもしっかりして欲しいものだ。

 

「そもそも常識的に考えて人の【ステイタス】を勝手に覗いていいと思ってるんですか? それはギルドの方針なんですか? どうなんですか?」

「うぅ……すみません……」

「謝罪が欲しいんじゃないんですよ、どう考えているのか教えて欲しいだけなんです。アドバイザーとしての権力を振りかざして担当冒険者のステイタスを覗くなんて、ねえ? 今までもそんなことしてきたんですか?」

「コ、コウスケさん! エイナさんのライフはもうゼロです……!」

 

 いやいや、悪気はないんだよ本当。だがどうやら俺にはSっ気があるらしい。知りたくなかった。

 

 目の前でぐったりしているエイナに少々罪悪感が湧いたが、反省の意味も込めて今日の所は許してもらおう。よかったね相手が【ヘスティア・ファミリア(俺たち)】で。これが都市最大派閥(ロキ・フレイヤ)だったら大変な事になってたよ。

 流石にあの大派閥を相手にそんな馬鹿な事はしないと思うけど……。

 

「ごめんねぇベル君……」

「エ、エイナさん……僕は大丈夫ですから……」

「あ、じゃあお詫びとしてちょっとお願いがあるんですけど」

 

 ベルとエイナの冷たい視線が突き刺さる。ベルはともかくエイナは自業自得だろうが。

 

「見ての通りベルの防具が心もとないんでどこかいい店があったら連れて行ってあげてくれません? ステイタスが問題なくてもこの装備じゃ……ねえ?」

「あ~なるほど。……ベル君」

「は、はい?」

「明日って予定空いてるかな?」

「……へっ?」

 

 あー揶揄うのたのしー。

 

 

 

 

 それから一日がたった。

 オラリオの北部に位置する大通り。そこに面して設けられている半円型の広場に俺とベルは立っていた。

 

「なぁんで俺まで……?」

「し、仕方ないじゃないですか、エイナさんが引きずってでも連れて来いって言うんですから……」

 

 今日の目的はベルの防具の購入。現在のダンジョン攻略状況だと今の防具では頼りないためだ。

 

「おいおい、折角のデートなんだぞ。他の男は蹴落として進めよ。───という訳で帰っていい?」

「だ、ダメですよ! 僕がエイナさんに怒られるんですからっ………………って、デートじゃありません!?」

 

 いやいや、傍から見たらデートだよ。ぶっちゃけ俺ってお邪魔虫だよ。

 それにベルとエイナが喋っていると疑似キリアスを見ているようでちょっと楽しい。今度ベルに『スターバースト・ストリーム』って叫ばせてみようかな。

 

「デ・エ・ト! デ・エ・ト!」

「うわー! うわーっ!?」

 

 広場には大声で揶揄う黒髪の少年と顔を真っ赤にして奇声を上げる白髪の少年がいた。

 無論、俺とベルなのだが。

 

「おーい、ベールくーん! コースケくーん!」

「!」

 

 チィイ! 今いいところだったのに……!

 小走りに近づいてくる人影。尖った耳はエルフの血が流れている証だ。

 

「おはよう、来るの早いね。なぁに、そんなに新しい防具を買うのが楽しみだったの?」

「いえ全ぜ「───は、はいそうなんですっ! アハハハハハハ……!」」

 

 喋ろうとしただけなのにベルによって口を塞がれた。解せぬ、解せぬぞ白兎。

 

「まあ、実は私も楽しみにしてたんだよね。二人の買い物なんだけどさ、ちょっとわくわくしちゃってっ」

 

 はっはっは、初々しいなおい。

 横を見てみるとベルがエイナに見とれて鼻の下を伸ばしていた。この顔をヘスティアに見せたらどう思うだろうか。考えただけでオラわくわくすっぞ。

 

「装備品なんて物騒なものを買いにいくのにわくわくするなんて、私おかしいかな?」

「そうで「───そ、そんなことないですっ!」」

 

 一度ならず二度までも!? おのれ白兎、そんなに俺の邪魔をして楽しいのか。

 

 その後も揶揄い続けるエイナに顔を真っ赤にするベル、そして喋ろうとするたびに口を塞がれる俺。女の子への耐性はない癖にどうして俺には強気でいられるのか。

 こんな所で彼の成長を感じたくなかった。せめてダンジョンの中がよかった。

 

 

 

 

「あの、今日はどこまで行くんですか? このままだとダンジョンに着いちゃいますけど」

「着いてからのお楽しみ、だと流石に意地悪かな? じゃあコウスケ君に問題! 私たちは今どこに向かっているでしょう?」

 

 空は快晴。

 時間帯も相まって賑やかな大通りは様々な種族の者たちで溢れていた。

 視線の先には天を衝く摩天楼。俺達の向かう先とは、そう───

 

摩天楼(バベル)

「正解!」

「ええっ!?」

 

 ベルが驚愕の声を上げる中、天高く聳え立つ『塔』を見上げる。

 

 『バベル』は地下迷宮(ダンジョン)の蓋をするように築かれた超高層の塔。その役割はダンジョンの監視と管理である。まあ、監視したところで別に入口があれば意味ないんだけど。意味ないんだけどぉ!

 

「バベルって……冒険者用のシャワールームとか、公共施設があるだけじゃないんですか?」

「その公共施設一つとってもいろいろあるぞ。簡易食堂、治療施設、換金所……」

「えっ、換金所ってギルドの本部や支部だけにあるんじゃないんですか?」

「ううん、バベルにもちゃんと設置してあるよ。ただ鑑定員が少ないから、結構順番待たされると思うけど……」

 

 そうなのだ。いつ見てもあそこだけ列が並んでいる。ぶっちゃけギルドに行った方が速い。

 

「ダンジョンの真上に建っているだけあって、お店は全部冒険者の為の専門店。多くが商業系の【ファミリア】だよ。【ヘファイストス・ファミリア】なんかはバベルに出店しているお店の中でも、その代表だね」

「ほほう」

 

 静かに腰に差している黒刀を撫でる。うーん、刀の持ち歩きってこれでいいのか? とりあえず腰に差したもののあっているのかよくわからん。

 

「そう言えば二人とも装備変えたんだね」

「はい! 神様……ヘスティア様から頂いた物なんです!」

「いいと思うよ。冒険者は装備に妥協しちゃいけないからね。お金よりも命が優先!」

 

 エイナの言う事も一理ある。あるけどやはり限度はあるんじゃないでしょうか。初心者に億越えの武器を持たせるのはどうかとコウスケ思うわけ。

 

「で、でもエイナさん、僕【ヘファイストス・ファミリア】で買い物できるような大金持ってないですよ……?」

「大丈夫大丈夫。なんとかなるって!」

「本当に大丈夫なんですか!?」

 

 真っ青な顔で震えているベルの背中を叩く。大丈夫さ、高かったら買うの諦めて帰ろうぜ。

 でも俺も新しい防具は欲しい。【フレイヤ・ファミリア】に殴り込み(?)に行くようになってから防具の消耗が半端じゃない。あの人たちももう少し手加減というものを憶えて欲しいものだ。

 

 話しているうちにバベルの門の前までやって来た。門をくぐると白と薄い青色を基調にした大広場が現れる。

 

 ダンジョンの入口はこの地下だ。

 

「ここからは……」

「上だね。バベルが場所を提供しているのは四階からだから」

 

 広間の中心に存在する円型の台座。その一つに乗って備え付けの装置を操作すると、台座が浮かび上がり、上へ上へと昇り始めた。

 

「!?」

「あはは、私も最初はそんな感じだったよ」

 

 まるで、というかまんまエレベーターだ。凄いな魔石製品。どうかこの調子でテレビやスマホも作って欲しい。現代人にはアレ等がないと少々辛いのだ。頑張ってくださいアスフィさん。俺が快適な生活を送れるかどうかは貴女にかかっている!

 

 

 

 

 その後、偶然ヘファイストス・ファミリアでバイトをしているヘスティアに会ったが割愛する。借金を返すためとはいえ神が恥も外聞も捨てて働いているのだ。それを語ることは無粋だろう。大丈夫だよヘスティア。俺も、これから(借金返済)頑張っていくから。

 

「はい、到着」

 

 静止した昇降機の主導のドアを開けると、そこには剣、槍、斧、槌、刀、弓矢、盾、鎧と様々な種類の武具の専門店が広いフロアに展開されていた。

 

「【ヘファイストス・ファミリア】みたいな高級ブランド、自分には縁がないものだとベル君思ってるでしょ?」

「そんなことないよな? ヘファイストスがなんぼのもんじゃいって実は思ってるよな?」

「思ってませんよ!?」

 

 エイナに続くように歩き、途中で店舗の商品を覗いてみる。

 ふむ、なかなか格好いい剣……三万ヴァリス? いらんわそんなもの。馬鹿か。

 それでも今まで見てきたヘファイストスブランドに比べれば格安。俺達が貧乏すぎるだけなんだろう。悔しい。

 

「【ヘファイストス・ファミリア】が他の鍛冶の【ファミリア】と違うところは、末端に当たる職人にもどんどん作品を作らせて、それをお店に並べちゃうことなの」

「……いいんですか? だってそれ、一流の人達と比べたら全然……」

「勿論、熟練の鍛冶師(スミス)の作品とは販売する環境が違うよ? でもこうして作られた武具を店の経営陣が確かな値踏みをする、そして冒険者が直接手に取って購入する……そういった評価が未熟な鍛冶師(スミス)達には確かなプラスになるの。素晴らしい栄誉も目も当てられないような厳しい評価も、全部。彼等はそれを起爆剤にしてより良い作品をって奮起するんだ」

 

 そんな話には興味がない。

 適当な店を覗いては手ごろな装備がないか探す。贅沢は言わないからそこそこの見た目でそこそこの性能のそこそこに安いものが欲しい。

 

「お、いいじゃんこれ」

 

 まっさきに目に移ったのは漆黒のロングコート。モンスターのドロップ品を使っているのか、見た目以上に強度がありそうだ。これを防具と言っていいのかわからんが、かっこいいしこれにしよう。

 値段を確認すると………一万ヴァリス。

 ワァオ。イッツアメイジング! 俺の手持ちのほとんどが消えるとかマジかよ。

 いや、これはむしろ安いのか? 相場が分からん。だが耐刃性のあるこのコートは十分防具としての役割を果たしてくれるだろう。もういいや、買っちゃおう。

 本当は革鎧(レザーアーマー)なんかを揃えた方が良いのだろうが、この厨二心あふれるロングコートが俺の心を鷲掴みにしてしまった。なんなら普段着としても使えそうである。

 というわけでお会計だ。

 

 

 

 

 実にいい買い物をした。コート以外何一つ買う事ができなかったが、コートを買えたのならむしろ他にいらないまである。あるよね?

 購入したコートを早速羽織ってベルたちと合流する。どうやらベルの方も新しい防具を買えたようだ。あの兎鎧と書いてピョンキチと呼ぶネーミングセンスの欠片もない残念な防具を。……うん。

 

「名前はともかく、いい防具が買えてよかったな」

「はい! ……名前はともかく」

 

 その後、エイナにエメラルド色のプロテクターをプレゼントされたベルが顔を赤らめ、鼻の下を伸ばしたりと色々あったが、俺たちは無事に当初の予定を熟し終えた。

 頑張れよベル。そのプロテクターでアイズ・ヴァレンシュタインとのフラグをしっかり建てて来るんやで!

 

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