流天の剣/女(るてんのけんにょ) -剣豪少女と意志持つ妖刀-   作:境 仁論(せきゆ)

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海の玉並べ
海の玉並べ-1 日常/日常


「だからわたしは、あなたが嫌い」

 

 耳には波打つ飛沫の音。削り削られた岩礁の地面は肌に痛く、そして洞窟の入り口から吹きつけている寒風が肺を焼いている。

 ここは海上にぽつりと浮かんだ孤独の岩の島。そこには岩の家以外存在していない。大岩だったものが波に晒されていたために洞窟のような形になっている。

 天井には人の胴一つ通り抜けられるくらいの穴。そこから月の影が差し込み、眼前の彼女を照らしている。

 

「知ろうとしないで。わたしのことを。その傲慢さが、いや」

 

 天の表情が視えた。苛立ち、悲しみ、憐れみ……色んな感情が混ざった顔だった。それを見て、俺は。

 

———もっと、見なきゃ———

 

 そんなひどいことを、思ってしまった。

 

 冬休み直前。さらさらと降る雪が世界を白く見せている今日この頃。

 ここ楢葉高校ではちょうど最後のテストが終了したところだった。正午が下校時間ではあるものの、部活のある生徒は久々の活動が待ち受けているので、それぞれ気合を入れたり、面倒くさがったりしている姿を見せていた。しかし共通して誰もが苦行である試験が終了したという安心感を分かち合っていたのだった。

 

 和気藹々とした雰囲気だ。そんな中で俺はぼーっと、何も書かれていない黒板を眺めている。

 

———給料まだ貰えてないな。

 

 同級生のテストの出来がどうだったとか、教師からの最近火事があるから気をつけろだとかの連絡が全然頭に入ってこない。ずーっとお金のことを考えていた。

 

 前回の、通称「佐々木迷宮」の一件から既に数週間が経過していた。

 一人の幽霊の女の子とその家を巡る事件の解決に関わり、俺は未知の世界への扉に触れてしまった。もう絶対に関わらないと胸に決めてはいるものの、それはそれとして報酬は欲しかった。一応仕事としてあの家に向かったのだからそれ相応の金額はもらいたいと考えていたし、現に依頼主も期待してくれと発言したはずなのだった。

 

 しかし、未だに貰えていない。

 

 不服に思い何度も何度も「お話屋」の事務所に向かっては所長の瀬古逸嘉さんに直談判するのだが、

 

「いやあ、払いたいけどね? 槙くん正式に雇用してるわけじゃないから手続きが面倒なんだよね?」

なんてとぼけられて毎回帰されている。その後ろでは常に天がアイスの棒を咥えている姿が目に入ったのだった。

 

「はぁーっ」

 

 元々法の穴を掻い潜っていそうな仕事なのに手続き云々の問題に時間がかかるほど手こずっているとは思えない。例の瑠璃ちゃんを預かってくれるという子は旅行中だと言って未だに会えていないし。

 そんなわけだったので今日も事務所に行くつもりでいた。

 

——とまあ、成績の心配など一切せず、この身はずっとお金のことだけを考えていたのだった。流石にがめついと思っている。

 

「おいおいもう放課後だぜ近衛。なんだその顔。数学クソだったのか?」

「……ん。銀か」

 

 前の席に寄りかかりながら声をかけてきたのは荒ケ田 銀。同級生のヤンキー。

「過去のことを悔やむのはよくない。うん。それよりも女性の豊かなお胸の話をしようや」

 こいつは学年屈指の悪ガキである。校則という壁を毎日のように飛び越えて悪評を更新し続ける、令和の世に現れた平成のヤンキーである。ボタンを外して気崩したブレザーの制服はまだ可愛いものだが、何よりも名前にちなんだ銀色の髪が学校に対する反逆心を表していた。

 

「性の話がしたかったら古典やっとけ」

「あ? 今回の古文エロいやつだったっけ?」

「古文全体の話だよ」

「はっ、なら親父の棚漁ってる方が早え」

 

 ふははと笑うむっつり男子高生。周囲の女子生徒はまたやらしいこと言ってるよ、と小言と囁き合い、男子生徒は近寄るまいと離れていった。気持ちのいい笑いっぷりの男だったが、日々の行いとこんな成りのせいで友人はあまりいない。でも案外悪い奴ではないと思……いや悪い奴だ。

 

「んで、そういう近衛サマはさぞかし手応えがあったみたいだな?」

「聞くな聞くな。今はその話はしたくない」

「はー? んだよ。また自信ないアピか? いっつも俺より成績いいクセによ」

「成績も何も、お前いつもビリケツだろ。てか受けてすらいなかっただろ」

「おお、そりゃあ保健室でスヤスヤよ」

 

 さすがに養護教諭もこいつには怒っていいと思う。

 

「ま、今回も真ん中あたりだろ」

「おいおい買い被りすんなって。なんせ近衛 槙といえば、いつも人を観察してはニマニマし、その生態をノートいっぱいに記録してるって噂の生徒だ。楢葉高校生徒図鑑は、すでに全校生徒を網羅しているらしい。とんだ変態野郎だぜ」

「そんなことしてねえよ!? 確かに新聞部だけどそこまで阿保なことはしてないって! 誰が言ったんだそれ」

「ははは! 冗談だよ」

と、銀は言うが生徒図鑑なるものはちょっとひっそりと作ってみたいと思ってしまう俺だった。

 

「でもまあ、色々と頼られてるってのは聞くぜ? なんでも三年の連中がわざわざ教えを乞いに来るらしいじゃねえか。 それなのに成績は上じゃねえってどういうことだよ」

「……確かに書くのは好きだよ? でもそれと勉強は違う。勉強は何度も同じところやらないとダメだろ? それが好きじゃない。その分記者やってる方が、刺激がある」

 

 俺にとって勉強と記録は違う。勉強は定められた範囲を集中的にやらなけらばといならない。少なくとも今までそうするように教わられてきた。しかしそれを約十二年もやり続けることの何が面白いのだろうか。それなら毎日違うものを見て記録した方が、より好奇心を継続して刺激できるというものだ。

 

「んー、その理屈だとよお」

 

少し考えるような仕草を見せながら銀はまた疑問を口に出した。

 

「他のやつより頭良くなきゃいけなくないか? 知識量やばいんだろ?」

「……」

 

 もっともだ。単純に勉強が嫌いなだけ。嫌いな理由をそれらしいものに仕立てて説明しただけだった。

 

「ぶっ、面白え顔してんぞ」

「見るな見るな。さっき言ったことは忘れろテメエ」

 

 変な汗と気恥ずかしさで、つい両手で顔を覆ってしまった。それを見て銀はますます笑いやがる。

 

「やっぱ面白えな近衛は」

「クソ、小中と一緒じゃなかったら絶対お前なんかと話してないからな」

「嬉しいこと言ってくれるなあ近衛様! 俺友達いないからさあ、お前だけだよここで俺とつるんでくれるのは!」

 

 でもこいつ、友達はいないが恨みは買いまくってるから繋がりが広いんだよな。

 

「そんなわけでわが友よ。テスト終わりの祝杯だ、ゲーセンいくぞ!」

 

 試験を受けてすらいない男ががっしりと肩を掴んでサムズアップしてくる。なんともうざったい顔をしていた。

 

「お前の行くとこ治安悪いだろ。それに今日も行くとこあるし」

「……あー、部室か?」

「は? なんで」

 

 銀はきょとんとした顔で返した。

 

「は? じゃねえだろ。お前最近新聞部に顔出してねえらしいじゃねえか。あそこの姫さんにとっ掴まれてよ、お前を部室に連れて来いって言うんだよ。大層お怒りのようだったぜ」

「……あー」

 

 そういえば行ってなかった。というかいつも行くわけではないから、別に気にしていなかった。しかし部長はそんな俺の素行に文句をつけたいらしかった。

 

「姫さん独りぼっちは流石に可哀そうだろ? 大人しく会いに行ってやれよ」

 

 銀は通学バッグを肩にかけ、手をひらひらと振りながら教室を出て行った。

 腐れ縁というのはなんとも面倒くさいものだと思う。まあ、その縁を切るつもりは無いのだが。

 

 

 部室に行かないのは、別に必須事項であるわけではないからだ。部での俺の役割は足。つまり記者。取材地に赴いてネタになりそうなものをとってくることだ。必然と外での活動が多くなるので、放課後部室に行く習慣があるわけではなかった。結果報告はアプリで部長に連絡すればいいだけだし。

 しかしそれでも定期的に部室に寄ってやらなければそれはそれで部長の機嫌を損ねてしまうのだった。そもそもこの部は俺と部長の二人体制。部の正式な条件として最低でも五人の部員がいなければならないのだが、そこは部長と俺の友人が幽霊という形で所属することでクリアしている。もちろん銀はその中に含まれていない。

 部長が企画して俺が動き、俺が記事を書いて部長がデザイン。自分の立場は完全に下請けのソレなのだが別に文句はない。適材適所だ。

 しかし部室には基本、部長一人しかいないのだ。気難しい人なので定期的に会いに行ってやらないと本人が荒んでしまうのはわかっていたはずなのに、ここ数週間のばたばたですっかり失念してしまっていた。

 

 そんなこんなで、俺は今部室の前に立っている。ドアは中の様子が見えるようにガラスが付けられていたはずだが、内側から新聞紙を貼りつけられ隠されている。

 

『新聞部部長、不祥事か!?』

 

 この見出しは、先代の部長が万引きしたのを発見した当時一年生の現部長が勝手に書いた記事のものだ。これによって前部長の座は引きずり降ろされ、現部長が今の地位を手にするに至った。

 額縁に入れて然るべき記念の誌面のはずだが、当の本人にとっては些細な出来事に過ぎなかったらしい。なるべくして新聞部の部長となった人と言っても差し支えないだろう。気性難なのは、否めないが……。

 

「部長、いますかー?」

 

 扉を叩いて呼びかけるが反応はない。つまりいるということだろう。

 

「失礼しまーす」

 

 ガラガラと扉をスライドして久々の仕事場所に舞い戻る。その瞬間。

 

「近衛えええええええええええええええ!!!!!!」

「はいはいどうどうどうどう!!!」

 

 入室した瞬間に飛び蹴りを浴びせてきた野良猫を躱し、あとついでに諫める。

 

「久々に会ったってのになにその態度! あたしを猫かなんかだと思ってるでしょ!」

「おもってないですいつもげんきでかわいいぶちょーです」

「ならばよし」

 

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 一瞬で本調子に戻った彼女こそ我らが誉れ高き部長サマ、野良猫こと音琴 千咲。黒縁の眼鏡に一本の三つ編み、そして低身長と、中々侮られる要素の多い、見た目だけは文学少女の彼女だが、実体は牙を研いだ獣である。それが祟って案の定友達が少ない。同じ年であるはずの自分に敬語を使わせているあたりから彼女の嫌なプライドの高さは感じ取れると思う。

 彼女の性格を要約するなら、性悪説に心酔して周囲の些細な非を探しまくるマングースみたいな感じだ。彼女の前で掃除をサボろうものなら身体を雑巾代わりに絞られ、いじめを行うものなら校門前で上下逆さまのまま磔にされてしまう……など、あらぬ噂が流れている。

 ちなみに噂を流した犯人は現在、超真面目に優等生として学業に勤しんでいるのだとか。目の下に酷いくまを作りながら。

 

 実際の所、彼女が行うのは学校新聞を用いた晒しあげだ。別に人間雑巾を作ったり磔にしたりはしない。取材の対象は生徒のみならず教師にも及ぶ。最近の場合は、〇〇部の顧問のハラスメントの告発である(部の名誉のため伏字にする)。

 そんな調子でゴシップ集めに日々努めている我が部だが、当然幸福な出来事もとりあげる。〇〇先生に子どもができたというニュースは先月号の一面を飾り、学校全体の幸福度の上昇に貢献した。自慢だがその情報を他教師よりも早く入手して誌面に起こしたのは俺です。

 そんな瞬間瞬間を全力で飛び回る我が部だが顧問はALTのジェリー先生である。いつも一分だけ確認してゴーサインを出してくれるので大助かりである。いや、流石にいい加減職員会議の議題として取り上げられてもおかしくない。ジェリー先生は優しすぎである。

 

「さ、とっとと入りなさい。積もる話があんのよ」

「そっちがあるんですか」

 

 部長についていくように部屋に入る。相変わらずの小汚さだった。窓の前にどしんと構えられた部長席だけは一丁前で、それ以外は昭和のオフィス。特等席以外には書類が積み重ねられ、もはやどれが解決してどれが未解決なのか見当がつかないほどである。

 うわあ、と口を開けていると部長は席につき、見せつけるかのように新調したパソコンを立ち上げた。俺の席のパソコンはとっくの昔にガタが来ていたので部室に来るときはノートパソコンを持参して作業をしている。

 

「まず弁明を聞きましょうか。ここ数週間、あなたはどこでなにほっつき歩いてたのですか?」

 

 まるで裁判長ごっこ。最近そんなドラマが流行っていたらしいから影響されたのだろう。

 

「勉強してましたが。テスト近かったし」

 

 お望み通り、部長のお遊び尋問に淡々と返してあげた。

 

「別にしなくてもいいでしょ。いつも大体同じ順位なんだから」

「勉強してるから同じ順位に落ち着けるんですが」

 

 呆れて息を吐く部長。あくびをする野良猫にそっくりである。

 

「あー勉強の話はいい。あたしはつまり、あの件はどうしたかって聞きたいの」

「あの件?」

「教頭とうちの地区の議員が癒着してるって話よ、あれいつ提出すんのよ」

 

 そんなこともあったなとなんとなく思い出すが、それはもう解決した話のはずだった。

 

「テスト始まる前に送りましたけどね」

「は?」

「は?」

 

 部長は慌ててメールボックスを確認する。

 

「……あったわ」

「迷惑メールにでも入ってました?」

「見落としてましたー」

 

 ちなみにこの二人体制になってすぐ、なぜか俺からの連絡が迷惑メール扱いされていたため部内でちょっとした不和が産まれたという事故が起こったのだった。

 

「なになに……教頭と該当する議員は幼馴染でたまに呑みに行っている……」

「そうですよ」

「はーつまんな。おまけコーナーくらいの話題度しかない。もっと選手生命に関わりそうなの拾ってきなさいよ」

「ガ」

 

 喉から変な音が鳴った。わざわざ店もつきとめて偶然を装って取材したというのに。

 

「それにもっとあるでしょ? あんた最近怪しいバイト始めたらしいじゃない。荒ケ田くんから聞いたわ。変なモノばかり引き寄せるあんたのことだから、良いネタあるんじゃないの?」

「……」

 

 お話屋のことは、公言するべきではないと思った。

 

「ブラックなんで初日で辞めましたよ」

「へえ、気になる。あんたが初日で辞めるバイトとか。どんな職種よ」

「飲食店」

「店名は?」

「ラーメンバイオレンス」

「……最近潰れたとこじゃない。店長が本当にバイオレンスしてたとかで。結構前に行ったけど味は良かったのよね……」

「味付けやばかったでしょ、あそこ」

「それがいいんじゃない」

 

 将来糖尿病なりそうですねと言いかけたがやめておいた。

 

「えー、じゃあ本当にそれ以外ないの? あんた嘘ついてる顔してるけど」

「してません。でも給料未払いに苛立ってる顔はできますよ、ほら」

「むう、本当に憂鬱気味でかつ怒気の孕んだ表情……マジか」

 

 部長は机につっぷした。腕に顔を埋め、んー、という唸り声を腕の隙間から漏らしている。

 

「次の一面どうすんのよう」

「普通にテストお疲れとかでいいんじゃないですか」

「ダメよ。新聞はね、読ませること自体が一番の命題なの。その内容は簡単に調べられるようなものであってはならない。私たちの新聞を読んでる間だけでも、読者には学業を忘れてもらわないと」

 

 話を適当に聞き流しながら先月号の見出しを確認した。

 

『ポッキーゲーム、被害者多数』

 

 酷い事件だったと思い返す。

 

「聞いてんの近衛」

「聞いてますよ」

 

 まあ実際、部長の言うことはわかる。ネットを起点として、情報収集の手段が無限に広がっている世の中だ。そんな中でわざわざお金を払ってまで新聞を買うなんて人は新聞に慣れすぎた老人くらいのものだろう。

 だから部長の言わんとすることに共感はできるのだが、俺が記者を望んでやっているのはそういう理由だからではない。

 俺自身に好奇心が常にあるからだ。目や文字を通して目の前で起こった出来事を自分の記憶に納めたいという欲求を満たすがために記者をやっているのだ。

 

「積もる話ってのはそういう?」

「それもある。とりあえず今日の内に一面の内容決めないといけない。手帳出して」

「手帳」

「いつも持ち歩いてるじゃない。あんたのことだから一つや二つ、妙な噂話まとめてんじゃないの?」

 

 まずい。

 手帳には「お話屋」の仕事の記録も書いてある。見られるのは、まずい。

 ……別に見られてまずいものが書かれているわけではないが絶対食いついてくるだろうし、また余計な混乱を産み出しそうだった。

 

「どうしたの?」

「———ああええとアレなんかどうです? 学祭マジックでくっついたカップル、クリスマスまでどれだけ残ってるか」

「ん、アレか。あたしがふざけて言ったやつ。よく覚えてるわね」

「ああいう恋愛話はよく耳にしますから。別れたカップルとか逆に長続きしてるカップルとかは結構聞いてますよ」

「ダーメ。その系統は基本みんな知ってるの。そんな当たり前のこと書いてどうすんのよ」

「三年のダイ×ミサカップル破局」

 その瞬間、野良猫は突然の雷に驚くがごとく立ち上がったのだった。

「は、え? 将来安泰とまで言われた激ラブカップルじゃない。別れたの?」

「ちなみに修羅場でしたよ」

「でしたよ? 実際に見たのあんた。ちょっと詳しく」

 

 無事に食いついてくれた。ちなみにこれは事実である。先輩方には申し訳ないが出汁……いや、キャットフードさせていただく。

 

「はあ、彼氏側に長年秘密にしていた許嫁が判明……おもしろ」

「記事にするなら当人たちに許可とってくださいね」

「どうせ弾かれるだろうから匿名にして掲載するわ。ミステリアスでちょっとした騒ぎになるでしょ?」

 音琴千咲は部長になるべくしてなった人物だと表現したことをここで撤回しよう。彼女は悪だ。将来はどうせ週刊誌の編集長だろう。

 

 その後大体一時間弱、俺はその事件のことを根掘り葉掘り聞かれたのだった。

 

「流石にそれだけ出すとまずいので他のカップルのパターンも書いておきましょう」

 

 途中部長が次回の記事を件のカップルの破局話一本で勝負するつもりだったことがわかり全力で止めに入った。とても渋めな顔をしていらっしゃったがなんとか自分の提案を受け入れてもらった。

 

「ところで近衛」

「なんです?」

「積もる話第二弾なんだけど」

「はあ」

「あんたが放課後に会ってたあの子、親戚?」

「おっと……」

 

 はたしてだれのことでしょうか。

 

「ほらあの、帽子被ってた子」

「おっと……」

 

 俺にはなんのことかまるでわかりません。

 

「年甲斐もなく窓際で夕方の景色を眺めていたの。そしたらびっくり。あんたが校門前で女の子と会ってたんだから」

「なんで死期悟った人みたいなことしてるんですか?」

 

 窓の近くで黄昏る部長の姿がまるで想像できないのだった。

 

「で、誰なの?」

 

 適格に駒を進めて王手に辿り着こうとする部長に俺は少しだけ口ごもった。部長が言っているのは天のことだろう。彼女のことを詳しく説明するのは憚られた。あまりに奇想天外なことが多かったからである。

 

「……まあ、親戚ですよ?」

「ちっ、彼女じゃないのか」

「親戚です」

 

 ……親戚の瀬古さんが預かってる子だから別に間違ってはいない……はず。

 

「そ。つまんないの。でも今月号はなんとか完成しそうだしよかったわ」

「それはよかったです」

「ん……もう帰るの?」

 

 ここでの仕事が終わったと見てそそくさと下校の準備に取り掛かった。

 

「はい。俺も忙しいので」

「むう……忙しいのはいいことだけど、もっとこっちにも顔出しなさいよね」

「わかってますよー。じゃ」

 

 仕事場を出る。次は事務所だ。

 

 

 学校の外に出る。校門前まで歩きながらなんとなく振り返ってみる。部室の場所に目を向けると、案の定部長が立っているのが見えた。それにしてもよく三階から天と俺を見つけられたなと感心し、校門の外に出て行く。時刻はまだ二時を過ぎたころばかりだし、瀬古さんもどうせ暇にして———

 

「あ」

 

 後ろから声が聞こえた。ついつられて振り向いた。

 

「あ」

「……こんにちは」

 

 地面を見ながら小さい声で挨拶してきたのは、天だった。

 その両手には膨らんだレジ袋が提げられていた。

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