原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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レコードの終わり

 

都市における全ての勢力に牽制したい【ヴィヴィアン・ファミリア】。

何をどう思おうがそもそも黒竜に挑める格はないと女神ヴィヴィアンはオラリオ全土に告げた。

大前提の事実を突きつけた。

これでも邪魔をしてきたり黒竜に挑んできたりする愚か者はせいぜいフレイヤくらいだろうと睨み、仕事を終えたヴィヴィアンは派閥を引き連れてオラリオから出ることにした。

都市の外にも牽制しなきゃいけないバカ神がごまんといるからだ。

そして、今日が都市を去る日。

死の7日間の8日目だ。

 

「……よぉ。マリウスから聞いてるぜ。化け物」

「女神ヴィヴィアン様。ルシア・マリーンです。お見知り頂きありがとうございます」

 

開門までの間にヴィヴィアンの元に訪れたルシア。

ザルドとアルフィアを率いて、こっそりと会いに来た。

【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】を始めとする都市勢力は、【ヴィヴィアン・ファミリア】の多すぎる子供たちの最後尾しか見えていないだろう。

ルシアは抜け道を見つけてここに来た。

ヴィヴィアンに貶されようと慣れているので気にしない。

 

「ゼウスとヘラのガキを連れてくるのは予想外だったが、なんだ?手懐けたのか?」

「お友達になってもらいました」

「なんじゃそりゃ。まあいい。で、何にしに来た?」

 

ヴィヴィアンが尋ねると、片手間に相手する彼女と対峙する。

 

「ヴィヴィアン様。貴女は黒竜に攻撃が通じるのはリョーカさんだけと言いましたよね」

「……それがなんだよ」

「いえ。そこだけが間違っていたなと思って、指摘しにきました」

「あ?」

 

ここで初めてヴィヴィアンがルシアを見る。

と、同時に彼女は気づいて瞠目した。

そして、身の程を弁えねえカスにワナワナと震える。

 

「私はモンスターです。つまり、私の攻撃も黒竜に通じます。今、世界に黒竜を『倒せる』のは2人です。かすり傷をつける程度のことに、その運命をリョーカさん1人に背負わせません」

「……攻撃が通るのと倒せるのは別問題だっつたろうが。それとな。てめぇは公的立場にありすぎる。その背景で動けんのかよ」

「その時が来れば、考えます」

「考えて何になる。テメェのその時の事情で本当に奴に挑む覚悟があるかどうか変わるだろうが。軽はずみにリョーカに希望を与えるテメェが、私よりリョーカに優しい保証がどこにある?」

「それは……」

 

負けた。

ルシアが口論で負けた。

言い淀むと、ヴィヴィアンは嘲笑……ではなく、ため息をついて呆れ返った。

ここまで印象とは異なる。

てっきり小馬鹿にしてくるかと思っていたのに、少しだけ悲しみすら汲み取れる。

 

「ヴィヴィアン様?」

「黙れ。何も言うな。こっちからは1つ言う。私にもお前にも誰にもリョーカは救えない。下手に首を突っ込むな。無駄だ。そして、無駄なことで邪魔されるのは嫌いだ。わかったらイエスと答えて消えろ」

 

そう言うとヴィヴィアンは立ち去り、先頭へと消えた。

代わりにマリウスがルシアに挨拶に来る。

 

「マイ・ロード。貴女に再会できて本当に良かった。私の悲願の1つでした」

「マリウスくん。私も貴方に再会できてよかった。けど、私は残念です。マリウスくんが彼女に協力しているなんて」

「なに。少し利害が一致しただけですよ。完全に味方なわけではない。ご安心を、ルシア様」

「……安心するかどうかは私が決めます」

 

ルシアの返答にマリウスはニコッと会釈を返して戻る。

先頭にいるのはヴィヴィアン、アルキュオラ、御門、グウィネヴィア、リョーカ、イブキ。

国家レベルの構成員が多い【ヴィヴィアン・ファミリア】と、大英雄の再現を有する【グウィネヴィア・ファミリア】が今度は正面玄関からオラリオを出る。

 

こうして、彼らはオラリオを後にした。

時が来れば彼らはまたオラリオに現れる……かもしれない。

 

 

 

 

「ザルドさんとアルフィアさんはこれからどうするんですか?」

 

ヴィヴィアンたちを見送って、ルシアが尋ねる。

先に答えるのはザルド。

 

「俺たちがどこかの派閥に入れば勢力の拮抗が崩れ、抗争が起きる。生きていることを隠し、迷宮攻略に注力する。場合によっては小僧たちと共にダンジョンを攻略するかもしれんが……」

「そうですね。それがいいと思います。アルフィアさんは?」

 

ルシアはアルフィアの方を向く。

彼女は瞼を閉じたまま、遠くを見る。

 

「……悪いが、少し休暇を貰う。行きたいところがある。墓参りとかな。必要となれば戦いも手伝うが、頻度は期待するな」

「そうですか。いいと思います。ゆっくり療養してくださいね。回復魔法を受けに私のところにも来てください」

「あぁ。ありがとう」

 

アルフィアは久しく穏やかに微笑んだ。

そして、次はルシアの番。

 

「ルシア。お前はどうする」

「私は……闇派閥(イヴィルス)を壊滅させます。完全に」

『……!』

 

アルフィアとザルドが目を見開く。

闇派閥はまだ生き残っている。

残存勢力も残らず叩く。

そして。

 

「迷宮攻略もします。全てを終わらせて英雄となり、人々に私が受け入れてもらえる世界を自分の力で掴みとります」

「そうか。手助けが必要ならいつでも言え。必ず協力する」

「はい!ありがとうございます!」

 

ルシアは頭を下げる。

これで一通り終わった。

死の7日間(アストレア・レコード)α(ヴィヴィアン)は完全に終了。

ルシアの展望も話した。

あとは、未来に向かって歩みはじめるだけ。

 

なのだが。

 

「これからのこともありますし、ここで解散にしようと思います。ただ、おふたりに少しお願いしたいことが」

「……?なんだ」

 

ザルドが尋ねると、ルシアは満面の笑みで。

 

「歯を、食いしばってください!!」

「……えっ」

「……は?」

 

ザルドとアルフィアが固まる。

大丈夫、殴る前の説明はありますから!

 

「おふたりは作戦とはいえ敵に回り、多くの人を死なせました。また、多くの人を恐怖に陥れました。罪のない人も。力のない人も。彼らの恨みを晴らさせてください。

 

端的に言うと全力でぶん殴ります!顔を!それはもうめちゃくちゃ本気で!顔を!顔を!!」

 

「……理解した。わかったから、落ち着け」

 

ザルドが珍しくたじろぐ。

だが、アルフィアは退かない。

ザルドは瞼を閉じている彼女の横顔を見て、察する。

 

「……アルフィア」

「受け入れるしかあるまい。ルシアの『正義』は正しい。寧ろ、甘すぎるくらいだ」

 

アルフィアの言うことも一理ある。

2人のやったことは許されない。

受け入れるのもわかる。

しかし。

 

「じゃあ、殴りますね!」

「……待て。武器までつけるのか?」

 

ルシアはすちゃっと満点の笑みでペンドラゴンを装着した。

あれでLv.6相当で殴られたら……痛そうだ。

 

「いいぞ、ルシア。やってしまえ。この男は1度殴られた方がいいと前から思っていた」

「お前も殴られるんだぞ!?アルフィア!」

 

なぜ煽る、正気か!?とアルフィアを見るザルド。

その横顔に不意打ちで激ヤバの拳がぶち込まれ、ザルドが吹き飛んだ。

 

……アルフィアは、噴き出した。

 

「ルシア。私は病人だ。わかるな?」

「あっ。そういうのいいんで。Lv.7なら病人でも1発殴られるくらい大丈夫でしょ」

「……お前、友になると遠慮がなくなるタイプだな?」

「じゃあいきまーす!」

「待て。患者を怪我させるかかりつけ医がいてたまるものか。待て」

 

待たない。

アルフィアはルシアに殴られた。

 

今度こそレコードは終わり。

ルシアはファミリアに帰り、新しい物語(ミィス)が始まる。

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