原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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英雄精査

 

ルシアが目を覚ました時、脳みそが限界だからか、千里眼は発動しなかった。

というか本人がそれどころではなかった。

嘔吐に目眩、まともに真っ直ぐ歩けるどころか直立することも難しかった。

それでもなんとか休憩を挟んで皆の前に出ることが出来た。

今、分かっていることは目隠し、もしくは瞼を閉じている間は【眠っている】と判断して千里眼が発動しないこと。

また、眠っている間は千里眼が発動しないこと。

以上の2点だ。

 

あと、ハイエルフのことならば開示してもいいが、千里眼を有するとなれば神々が接触してくる。

そうなれば芋づる式でドラゴンのこともバレる。

だから、隠すことにした。

 

「で、なんでルシアは目を隠してるんだよ」

「秘密です」

「いやいやいや、納得できるか!気になるっつーの」

「そうね。アストレア様、どうしてなんですか?」

「え、えーと……」

 

アストレアが困る。

輝夜を見る。

輝夜はため息をついた。

 

「ルシアにまたとんでもないスキルが生まれた」

『え?』

「……っ!?」

 

アストレアが輝夜を二度見する。

輝夜は素知らぬ顔。

そもそも彼女は最初からファミリア内では隠し通せないし、開示すべきだと考えていた。

ハイエルフのことならファミリア内のみであれば問題ないはず。

アストレアはボロが出ることを恐れすぎている。

正直目隠しをしている時点で隠し通すのは無理だ。

輝夜は、皆に説明した。

 

「せ、千里眼」

「んだよそのぶっ壊れスキル……てかスキルの域超えてねえか?」

「魔法の次はスキルって、ルシアってなんなの」

「フリテンの王森が関係しているんでしょうか?私もその森にあまり詳しくありませんが……」

「ルシア様は神に選ばれし神の力を有するハイエルフ様なのですね!流石です!」

「よし、セルティ。ルシア全肯定botのあんたは一旦黙ろうか」

 

セルティがリャーナに口を抑えられる。

とにかくルシアを一般的なハイエルフとして信仰しているセルティは置いといて、他はルシアの異常さに戸惑った。

 

「皆さんにも前お話した通り、私が特別な王森の生まれなのが原因と思われます。特に私は邪智暴虐の王に、精霊の生き血を源水とした泉に沈められ数十年漬られたこともありますので―――

「待て待てぇ!さらっとやべぇこと言ってんじゃねえ!」

 

ライラのツッコミに全員が全力で頷いた。

輝夜ですら初見だったのでこいつまじかという目で見ている。

 

「安心してください。あんなカス森きっと恨みを買いすぎて今所焼け野原と化し、カス王は焼けた羽虫として図鑑に載ってるでしょうからそんな倫理観を50回ドブに捨てたみたいな森は地図から消えて今は実在しません」

「うーん、ルシアが私情を挟んで話すからどうにもシリアスに乗り切れないわね!」

「それでいいのか団長さんよ……」

 

アリーゼが真剣に考えることを放棄してネーゼが呆れてアホらしくなる。

とにかくルシアの背景は置いといて、今回のスキルの全容について皆に話した。

そうして今後、どうしていくか話し合う時間が必要だ。

 

「全癒魔法に、神の千里眼。フリテンの王森の何が原因なのか、それとも全てが原因なのか。まあ話を聞いてる限り後者でしょうけど……まず考えるべきは、ルシアの特異性をどう隠していくかね」

 

アリーゼが冷静に仕切る。

とにかく今大事なのはルシアの魔法と千里眼が他派閥にバレないこと。

絶対にめんどくさいことになるからだ。

 

「てかルシアは目隠ししてこれから歩くのか?」

「一応千里眼の能力なのか、目を瞑ったまま歩くと前は見えます」

「限定的に能力を使えるわけか。ますますわからんな」

 

輝夜が腕を組んでため息をつく。

いや、本当にため息案件だ。

 

「アリーゼさんが掲げてくれた課題ですが、少なくとも千里眼は使えないものとして今の状態を維持すればバレることはないと思います」

「いちいち目を閉じて歩いてることを誤魔化すのダリィけどな……」

「それは仕方あるまい。それよりも問題は【予言】だ。あれだけは止められんぞ」

「輝夜の言う通り、予言の能力が厄介ね。しかも12回予言するとルシアは死ぬ。予言しないで済む方法を模索しないと……アストレア様、その筋の神様はいないんですか?」

「そうね……いないこともないけど、ルシアのことを話していいとなると……最悪の選択肢として結局ヘルメスになるわね」

「ヘルメス様かぁ。うーん、調査はしてくれるだろうけど……何でも屋みたいな感じだし、無礼だけど何もしないよりマシって感じになりそうね」

「全癒魔法はこれまで通り普通の回復魔法としては使うんですか?」

『あっ』

「……?」

 

リューが尋ねて、アリーゼと輝夜とルシアの饒舌が突然止まる。

指摘した本人のリューを始めとして他のみんなはその3人の様子に首を傾げる。

リューの一言でルシア達は思い出したのだ。

千里眼にばかり目がいっていて忘れていた。

そういえばルシアは、新しい魔法を習得していたのだ。

それが。

 

「付与魔法、ですか」

「はい。しかもそこそこ強力ですが、全癒魔法や千里眼よりかは常識の範囲内です」

「いや、聞くところによるとそれにしてもかなりの威力だろ、その魔法」

「まあ、他に比べればかわいいもんですねぇ。ようやくマトモで人並みの者が発現したというか」

「輝夜、やめなさい?」

 

アストレアが指摘する。

ルシアの特別性には散々手を焼かれ、皮肉も言いたくなるが漏らすべきではない。

輝夜は扇子で口元を隠した。

 

「とりあえず全癒魔法の使用は控えようと思います。その代わりにこの付与魔法を皆さんと迷宮探索などする時は使います」

「そうね。それがいいわ。前より使いこなせるようになったとはいえ、全癒魔法はまだ怖いものね」

 

アリーゼも納得し、全癒魔法と千里眼は使わない方向で、という話になった。

皆にも決して口外しないように厳しくいいつける。

 

「よし!これで方針は決まった。はいはい!もう終わり!これからもこういう事は起きるだろうし、対策する以外考えることはないわ!私、もーいや!」

「投げやりになってるだけじゃねえか」

「……久しく、お気持ちに同意いたします。団長」

 

また輝夜がアストレアに目で叱られる。

彼女は飄々としているが。

とにかく、話し合いは終わって今日はもう休もうという話になって解散となった。

しかし、アリーゼはこっそりと輝夜と二人きりになるために隙を見て輝夜の元にくる。

 

「輝夜」

「……!団長、どうしました?」

 

プライベートに踏み込まないアリーゼが珍しく部屋にまで入ってきた。

彼女は真剣な顔で、輝夜と向き合う。

 

「輝夜。ルシアは、何?」

「……っ!!」

 

輝夜が背を向けながら目を見開く。

まさか。

まさか、団長は。

彼女は。

 

「……何の話です?」

「とぼけないで」

 

顔を作ってから振り返ると、アリーゼは真剣だった。

輝夜の目も冷たく細く、怖くなる。

 

「ただ特別なハイエルフってだけじゃない。私の直感がそう言ってるの。そして、貴女とアストレア様は何か知ってるとも」

「……仮に何かあって、知っていたとしてもここまで言わなかったということは言えないことだと察することはできません?―――私の知るアリーゼはそこまで察しがいい」

 

輝夜は細い目を開けて、アリーゼを威圧する。

暗にここで引き返せと言っている。

が、少し息を飲むアリーゼも負けない。

 

「引かないわよ。私、ルシアのこと好きなの。だから、覚悟を決めて貴女と話に来た」

「……まったく。めんどくさい団長だ。貴女は」

 

輝夜は身体ごとアリーゼと向き合う。

彼女も覚悟を決め、本気だ。

 

「団長。私は……ルシアを()()()()()

「えっ……!」

 

アリーゼが驚いた。

輝夜がそこまでハッキリと強い気持ちを口にするとは思わなかったからだ。

その隙を、輝夜は逃さない。

 

「団長。"好き"では足りない。彼女の全てを受け入れ、彼女の為に戦う覚悟は……愛でなければ耐えられない。そこまででないと。私は、貴女を信用出来ない」

「た、戦うって……何と?」

 

困惑するアリーゼ。

当然の反応だ。

まだアリーゼは自分が触れようとしている秘密(ブラックボックス)がどれだけ恐ろしいびっくり箱か知らない。

輝夜には覚悟がある。

彼女も最初は彼女を認めなかった。

それは今でもそこまで根底は変わっていない。

だが、ルシアは自ら正義として活動する際の自身の価値を示し、彼女の過ごした時間が輝夜の愛情を刺激してしまった。

もっと早急に逆の判断をすべきだったと、輝夜はちゃんと理解している。

しかし、もう遅い。

輝夜は……ルシアが愛おしくて仕方なくなってしまった。

 

端的に言うと、"情"が湧きすぎてしまった。

 

時間が、彼女をそうした。

時間をかけるべきではなかったのだ。

 

「団長。いや、アリーゼ。貴女は団員とファミリアよりもルシアを優先できるか?」

「……っ!……ぁ、そ、それは……」

 

アリーゼが動揺する。

露骨に狼狽えた。

その時点で輝夜は見切りをつけ、瞼を伏せる。

 

「ま、待って!なんでそんな話になるの?それは……どういう意味なの?皆よりもルシアを優先しなきゃいけないのはなぜ?皆にルシアが含まれないのはどうして!?」

「悪いが団長、今の質問に即答できないうちは……」

 

輝夜が背を向ける。

アリーゼが瞠目する。

それで理解したからだ。

見切りをつけられたと。

そして、輝夜は、アリーゼには見せないその真剣な覚悟で表情を凄ませる。

 

 

「―――ルシアは、私が守る。【アストレア・ファミリア】において、ルシアの守護者は私だ。まだ誰にもこれは譲れない」

 

 

言い切った輝夜。

もうその背中を見れば分かる。

これ以上は、彼女は何も受け付けない。

おそらく何を話しかけても無駄だろう。

 

「輝夜……」

「団長。どうしてもも言うなら貴女に課題を出す」

「課題?」

「ルシアは、既に予言を2つ―――"終えている"」

「……っ!」

 

衝撃の一言に目を見開くアリーゼ。

つまり、ルシアの命を狩る鐘はあと10回鳴れば終わり。

 

「今から予言の内容を貴女に伝える。まずは【アストレア・ファミリア】を救ってみせろ。そして、この世に残る全ての問題を先手を打って解決する。そうして予言の必要性を皆無にするしかルシアを【予言】からは救えない。まずは【予言】からルシアを救うことで、ルシアに尽くせることを証明しろ。その先でしか、貴女はルシアの英雄にはなれない」

 

輝夜の言葉にアリーゼは戸惑う。

ルノアなら即答するだろう、と輝夜は英雄精査を行った。

 

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