原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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アヴァロニクドラゴン

 

「クソ!なんで罠が作動しない!?いや、話に聞いたことがある。【アストレア・ファミリア】には策士がいるって……!」

「イエス。罠を仕掛けるならこの階層。階層を傷つけるなら爆薬。爆薬で有効なのは火炎石。火炎石を使うのであればこの階層の湿度を上げれば無効化できる、と睨みました」

 

ルシアは策で【ルドラ・ファミリア】の策略を打ち破った。

本当はダンジョンに戦いを持ち込むのも避けたかったが、思っていた以上に相手が捉えきれず、そこは諦めた。

故にルシアはダンジョンに行ってからの対策を考えた。

火炎石さえ無効にしてしまえば、相手の策はお釈迦だ。

これで階層の破壊はできない。

ジャガーノートは生まれないはずだ。

 

「覚悟しなさい、ジュラ!貴方達の悪巧みもここまでよ!終わりにするわ、闇派閥も、悪の栄えた時代も!」

 

アリーゼが掲げる。

今日、ここで決着をつける。

そう告げている。

ルシアも誇らしく思った。

アリーゼが大好きだと思った。

 

 

だが、その時。

 

 

 

『【アレスブレス・トロイア】』

 

 

 

――――――――――――ッッッ!!

 

 

 

突如、階層全体が揺れた。

あらゆる場所で爆破が起き、破壊の限りが尽くされた。

その現状に、伏せたアリーゼ達は驚く。

 

 

「何!?何が起こったの!?」

「まだ罠があったか……!」

「いえ、そんなはずはありません!!見てください!」

『……!』

 

ルシアが指をさすと、【ルドラ・ファミリア】の面々も。

 

「お、おい!なんだぁ!?【アストレア・ファミリア】の仕業かァ!?」

 

ジュラを始めとした全員が慌てふためいて、頭を庇っている。

向こうもこっちも相手の策ではないかと睨んでいる。

ということは、つまり。

 

「どっちの仕掛けでもない!これは……!」

「『()()()』……!!」

「マズイ、階層が……!」

『……!』

 

輝夜の言葉にアリーゼとルシアが反応する。

階層は火炎石で爆破するよりも遥かに崩壊していた。

その光景を見て、3人が絶句する。

 

間違いない。

 

まず、この破壊の具合で生まれないことなどありえない。

 

出てくる。

 

生まれる。

 

『奴』が来る。

 

 

【最悪の厄災】―――ジャガーノートが、地表へと降り立つ。

 

 

「竜人形態 モード岩石竜!!」

「ルシア……!!よせ!」

 

この一瞬の判断が大事だった。

ルシアはなりふり構わずその姿を視認したその瞬間から、竜人形態を晒した。

彼女は飛び出し、誰よりも早くジャガーノートへと立ち向かいに行く。

背後の衝撃は後回しだ。

この判断の早さがなければジャガーノートの近くにいた【アストレア・ファミリア】の団員が瞬く間に3人は瞬殺されていた。

 

―――そんなことは、させねえんだよっ!!

 

「【居合の間合い】―――【グランドインパクト】!!」

「――――――」

 

ルシアがLv.6相当の瞬発力で肉薄し、Lv.6相当の必殺の鉄拳を繰り出した。

ジャガーノートは攻撃と速さに振った殺戮兵器。

どんな攻撃も回避する。

だが、Lv.6相当の攻撃を避けられるもんなら避けてみろ!!

 

 

ガキィン!

 

 

そう、音がした。

結論から言うと、ジャガーノートは()()()()()()()()()()

 

ルシアの拳は硬い金属音のようなものに阻まれて通らなかった。

ジャガーノートは『防御』を選んだ。

ルシアのパンチは防がれた。

 

本来、火炎石で破壊されるはずだった階層は、今回、もっと酷い破壊が施された。

ジャガーノートは相手が破壊活動をすればするほど、相手を強い障害と認識し、より強化設定されて産み落とされる。

 

つまり、今、ここにいるジャガーノートは……ジュラが生み出しそうになったものよりも―――『固く』、『強い』。

 

「ぐっ……!」

「……」

 

拳を押し込もうとするも、ジャガーノートも譲らない。

互いに動きが止まり、競り合う。

そのルシアの背中を、化け物の身体を。

 

当然、彼女達は目に焼き付けている。

 

「ルシア!ルシア……っ」

 

まずは、アリーゼ。

違和感の正体を目の前にし、それが想像を超えていたため、動揺で瞳が揺れ、固まる。

それと同時にルシアの背負う運命が大きすぎて、ルシアの事情が凄まじすぎて憐れむ。

衝撃を受けた気持ちが先行したが、今、あの身体を一瞬の迷いもなく晒すほど躊躇なく選択するほど自分たちを守ろうとしている彼女に。

 

アリーゼは、アリーゼは……!

 

「何、あの、身体……!」

「ルシア……?」

「何、あれ。あれじゃまるで……」

『―――モンスター』

 

「皆……!」

 

みんなの反応にアリーゼが視線を見渡すように流す。

だが、そんなことをしている場合ではないと。

訴えることができる者がいる。

 

 

「ルシアは、モンスターとエルフのハーフだ!奴の真実はそれ1つしかない!!」

『……!?』

 

衝撃を受ける者たちとは別に、輝夜は叫ぶ。

皆、うっすら視界の端で映して違和感を覚えていた。

ルシアが正体を晒した時、彼女だけは反応が薄かった。

衝撃は受けていたが、皆とは違う。

ルシアの正体が怪物の体だったことではなく、まるでルシアが正体を晒したことそのことに驚いている様子だった。

だが、誰でもない本人がその判断を下したのなら、彼女を寵愛する大和撫子がやるべきことは1つ。

 

「輝夜……!貴女!」

「ルシアがどんな体で、どんな存在であれ。我々の仲間()()()ことも事実だ!そのルシアが我々を守る、たったその為だけに正体を晒すリスクを孕みながらも奴に挑んでいる!」

『……!』

 

全員が輝夜の言葉に瞠目する。

そして、戦っているルシアを見る。

よく見ると、ルシアは何度も【グランドインパクト】で衝突し、ジャガーノートとやり合い、【ルドラ・ファミリア】の面々すら守っている。

 

「ジュラさん!貴方達全員!死にたくなければ隠れていなさい!そこに居たら巻き添うぞ!!……っ!【グランドインパクト】!」

「な、なんだあいつ!なんだあの体!冒険者がモンスター!?知らねえぞ、あんなの……!」

 

ジャガーノートと戦いながらリーダー格のジュラに訴えるルシア。

なんとか叫んだが、それ以上は気を遣えない。

ルシアの姿に困惑して動けないのは【ルドラ・ファミリア】も同じ。

しかし。

 

「うわあああ!?」

「ぎゃああ!」

「ひっ……!」

 

ルシアの【グランドインパクト】の余波に潰された【ルドラ・ファミリア】の団員。

ルシアとの戦いの最中、ルシアが受け流したジャガーノートの攻撃が他の仲間も真っ二つにして半分がジュラの前に降ってきた。

それを見てやっと、今最優先すべきことを本能で察知する。

 

「う、うわあああ!逃げろぉ!」

 

ジュラを始めとして【ルドラ・ファミリア】が身を隠すべく戦場に背を向けて走り出した。

もはや敵も味方も悪も正義も関係ない。

今、ルシアとジャガーノートの射程範囲内にいる者は死ぬ。

それだけが事実。

今ここに現存する生命体に必要なのは、一刻も早くこの空間から抜け出すことだ。

 

「くっ……!」

「――――――」

 

ルシアとジャガーノートが衝突をやめて、距離を保って睨み合う。

互いに相手が思っていたより強くて警戒しているのだ。

その休戦を利用して、ルシアは思考を巡らせる。

 

「……っ!」

 

―――拳は通用しない。互角に渡り合うことはできても、体力の制限がある私の方が先に尽きる。今もほぼ牽制や防御にしか使えていないも同義。

 

―――ならばどうする?フリテン王国剣術を使うか?アリーゼさんに剣を借りるか?いや、拳がここまで手応えがないなら武器の問題じゃない。

 

―――必要なのは、もっと強い物理。やるしか……ないのか……っ!

 

ここまで一瞬。

ルシアは大量の冷や汗で体温が下がるのを感じる。

息を整えながら睨み合うこと数秒。

互いに間合いを計っている。

それが終わる時。

 

互いに地を蹴るのは、この場にいる誰も視認できなかった。

 

「【グランドインパクト】!」

「――――――――――!」

 

ルシアとジャガーノートが再び戦いを始める中。

【アストレア・ファミリア】の面々はただ狼狽えて眺めることしかできない。

 

「ルシア……!」

「て、ていうかモンスターとか置いといてあいつあんな強かったのかよ……!」

「輝夜、貴女はこのことを知っていたのか!?なぜ言わなかった!」

「言えるか馬鹿者が。それに、今大事なのはそこではない。理解できなくても理解しろ。このままでは―――」

 

輝夜は戦況を見つめて、下唇を噛む。

ルシアとジャガーノートは互角。

しかし、ルシアの攻撃は通じてるわけではない。

それくらいは見ていてわかる。

ただこの戦い、どちらが不利なのかもわかる。

ルシアが我が身を構わず投げ打ったにも関わらず。

現実は非情にも、惨い。

ルシアは、人間だ。

生物だ。

ジャガーノートと戦うには……生物ならば、"互角ではいけない"。

 

「このままでは―――ルシアはこ、殺される……っ」

『……っ!!』

 

ルシアの身体に関する疑問、動揺すべてが消え失せるほどの衝撃の一言。

ルシアが死ぬ。

彼女がなんであれ、【アストレア・ファミリア】にとってはずっと仲間で、大切な存在だった。

それが殺される。

そう言われてモンスターだなんだと議論している場合では無い。

皆、ルシアが好きだ。

大食いでボケてて暗い時代でも笑わせてくれる。

そんな素敵な女の子。

それが、酷な運命を背負い、人々への迫害を簡単に予想できる体で自分たちを命懸けで守っている。

 

―――『正義』たる彼女たちの中で、最優先順位が塗り変わる。

 

目の色が変わる。

仲間が殺される。

それを許せるわけがない!!

 

「……ルシアを、援護するわ」

「ま、待てよ!私達は最大Lv.3だぞ!?あんな動きしてるヤツらの戦いに混じって役に立つのかよ!」

「……っ。それは……!」

「ライラの言う通りだ。我々はルシアの足を引っ張るだけだ」

「じゃあこのまま眺めているのですか!?」

「そうだ」

『なっ……』

 

輝夜が頷いて皆、言葉を失う。

だが、彼女は本気だ。

 

「ルシアを見捨てるつもりか!輝夜!!」

「見捨てるわけなかろう!!ルシアだぞ!!ルシアだ!!」

「……っ!か、輝夜……」

 

リューが押し黙る。

ルシアを1番大切に思っているのは輝夜だ。

その彼女が歯を食いしばって飛び出すのを我慢している。

刀の鞘を折れそうなほど掴んでワナワナと震えている。

 

「それでも!我々にできることはない。我々にできることは……彼女がなんであれ、我々を想い、仲間として過ごした時間は本物であり、そして我々のために命を投げ捨ててくれている。そんなルシアを、迫害しないことだけだ。彼女を、大切なひとりの仲間で人間とし、()()まで愛することだ」

「……っ!」

 

アリーゼが悲惨な表情で輝夜を見る。

こんな惨いことがあるだろうか。

こんなに無力感を覚えることはあるだろうか。

私達はただ、ルシアが殺されるのを見守ることしか出来ない。

それしか許されていない。

 

「安心しろ、団長。ルシアは次期に負ける。その時は……私達も彼女と一緒に逝こう」

「……!輝夜……」

 

輝夜は、既に覚悟を決めている。

刀を掴みながら、何時でも立ち向かえる準備をしている。

ルシアが負けそうになったら加勢するつもりだ。

例え適わなくとも、無駄死でも、ルシアを1人にはしない。

 

「それはダメです!!」

『……!!』

 

飛んできた、くらいの勢いで後退してきたルシア。

彼女が叫び、アリーゼと輝夜を始めとした全員が彼女に注目する。

対峙する先にはジャガーノート。

後退したルシアを警戒して距離を保っている。

ルシアはジャガーノートからは目を離さずに、目ん玉だけ背後の仲間に向ける。

 

「私が投げ打ったのは、貴女達を守るためです!その命を散らさないためです!私が時間を稼ぎます。その隙に逃げてください!」

「ルシア……!」

 

ルシアは言い残すだけ言い残してまた走り出した。

彼女はペンドラゴンを投げ捨て、装備を投げ捨て……無防備になった!?

 

「何を考えている!ルシア!」

「皆さんを逃がす為の時間稼ぎはもちろん、負けるつもりもありません!勝つ為に。倒す為に力を全開放します!」

「……!」

 

力を全て解放する。

ルシアはそう言って、防具も何もつけずにジャガーノートへと走り向かっていく。

 

 

やがて、駆けるその足は膨れ上がり。

 

やがて、腕は大きく畝り筋肉質となる。

 

やがて、その身体は徐々に巨大化し、大きな両翼と天すら貫かんとする尾っぽが伸びる。

 

肌は鱗に。

 

顔は竜の頭(アギト)に。

 

鋭利で太い爪は竜牙の如く。

 

 

ルシアは―――"ドラゴン"となった。

 

 

『オオオオオオオオオォォォォォーーーー!!!!』

 

竜の咆哮が轟く。

ジャガーノートへと向かっていく。

 

ルシア・マリーン・ドラゴン。

怪物真名(モンスター・マナ)、【アヴァロニク・ドラゴン】。

 

推定Lv.6。

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