AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

30 / 30
エンドフィールドはいいぞ。
管理人は可愛いし。
ペリカ監察官は可愛いし。
ゾアン天師は可愛いし。
タイツの濡れ表現が変態的過ぎてヤバい。


CIVIL WAR:Eyes of Nunnish〔part1〕

《ナイジェリア・ラゴス州》

 

ナイジェリアにおいて最も栄えた都市、ラゴス。アブジャより以前に首都であったこの場所は、非合法の犯罪が跋扈する伏魔殿。詐欺、汚職、人身売買など、行政機関である警察すら信用できない地域となっている。

 

そんな中、NPOのボランティア団体が入国した。ラゴス州内部の治安回復および職業斡旋、生活環境改善など、わずかでも環境を良くしようと国籍を問わず集合したチームである。

 

協力者が用意したバスに乗り、やってきたのは巨大なビジネスビル。受付を済ませ、エレベーターを利用して高層の会議室へと移動し、ノックをしてから扉を開く。

 

そこにいたのは、ラゴス州において五指に数えられる大企業を会長ンナムディ・イブラヒム。このビルを所有しているのも彼である。

 

ボランティア団体を迎えるべく、パリッとした黒のスーツにネクタイを首元まできゅっと締め、到着をいまかいまかと待ち望んでいたイブラヒムは、団体の引率・教導を担当している男性の顔を見るなり、駆け足で彼の元へと足を運ぶ。

 

「貴方がエミヤ殿ですな? そしてシスターフッドおよび救護騎士団の皆さま、ようこそラゴスへ。本日からよろしくお願いいたします」

 

「イブラヒム会長。こちらこそ、ボランティアの受け入れを行って頂き感謝する。ラゴス屈指の人格者と言われている方にお会いできるとは光栄だ」

 

褐色の肌に、逆立った白髪。顔立ちはアジア系だが、動きやすいラフなカッターシャツから覗く肉体は細身ながらもしっかりと鍛えられており、米国の軍人にも引けをとらない存在感を醸し出している。

 

衛宮士郎(エミヤシロウ)。ラゴス州内部の問題解決の糸口を見つけるためにイブラヒムが呼んだエキスパートの一人である。握手を交わし、友好を示す。

 

「ご謙遜を、エミヤ殿の噂はかねがね。なんでもとある都市間のいさかいを解決まで導いたとか。……恥ずかしながら、我が故郷であるロゴスの治安は年々悪化の一途をたどっております。行政も信頼できず、未来ある子ども達が大人によって搾取されている現状を少しでも変えられたらと藁にも縋る思いで貴殿を頼らせていただきました」

 

「我々の経験や知識がどこまで通用するかは分からないが、全力を尽くすと約束しよう。必要であれば、本国にある拠点から物資提供を受ける許可も得ている」

 

「ありがとうございます。滞在期間中の拠点はこのビルをお使いください。上階には人数分の部屋とベッドを用意しておりますので、まずは体を休めていただけたらと思います。本日は移動でお疲れでしょうから」

 

「感謝する。だが申し訳ない、荷物を置いたらすぐにでも活動を始めさせて貰いたいのだが宜しいだろうか。滞在時間もそう長くはないのでね」

 

「ええ、構いませんよ。必要なものがあれば何でもお申し付けください」

 

真面目な方だとイブラヒムは思った。街の治安改善のためには継続的な支援や改革が必要で、初動の開拓を依頼して忙しい中お越し頂いたため、彼らに許された滞在時間は一年ほど。確かに期間としてはかなり短い。

 

噂の新国、海上国家からの客人であると不安もあったが、初日から行動を起こすとは思わなかった。名前から推測するに、その生真面目さは日本(ジャパン)の生まれ由来だろうか。これほど頼もしいことはない、期待もしてしまうというものだ。

 

「それにしても、最近の若い者は不思議な格好をしているのですな。動物の耳や翼、頭上に浮かんでいるのは……輪っか(ヘイロー)?」

 

思わず視線が向かってしまう先には、見たことのない特徴を持った方々の姿。シスター服に身を包んだ獣の耳を持つ方、背中を覆うほど大きな翼を持つナースキャップを被った方。一般的な特徴を持つ白衣の方もいるが、過半数は何かしらの特徴を持っているようだ。アクセサリーか何かだろうかと尋ねてみると、彼は何とも言えない表情を浮かべた。

 

「私も詳しくはないのだが、彼女らの生まれ故郷では皆、あのような姿をしていると聞いている」

 

「それはそれは、不思議な風習ですなぁ……」

 

「とはいえ、治安改善に関わる技量は私も信用しているのでね。声をかけて連れてきた次第だ」

 

「なるほど、それは安心致しました。これ以上はお邪魔でしょうし、私はこれで席を外させて頂きます」

 

軽く会釈をしてから踵を返す。彼の言葉は信用しても問題なさそうだと、イブラヒムの経験則からくる勘が告げていた。名残惜しいが、これから別件で会談があるため外出しなければならない。

 

同席していた秘書が会議室の扉を開いた刹那、採光するために大きく作った窓の外から焼くような光が内部を照らし出した。

 

「────ッ!?」

 

振り返れば、一瞬外に見えたのは人の形をした炎の塊。それが高速で近付いて、猛烈な勢いで膨張する。直撃を受ければビルのフロアごと炭と化すだろうそれに、対応できる者はいない。

 

「全員、伏せてくださいッ!!」

 

ボランティアで参加していた救護騎士団団長の蒼森ミネと、エミヤシロウを除いて。

 

熾天覆う(ロー)──七つの円環(アイアス)ッ!」

 

ミネは叫ぶように指示を出すと、その勢いでイブラヒムとその秘書の盾になるよう押し倒す。他のメンバーも肉体的に脆弱な者を庇うように姿勢を低く床に伏せた。

 

対してシロウは窓の外へと手を伸ばし、ビルの外壁を護るように桃色の花弁のような形をした四枚の盾を瞬時に構築──瞬間、まばゆい光と共に炎と衝撃が轟いた。盾から溢れた衝撃が上下階層の強化ガラスやコンクリートを削り取る。

 

「──────────」

 

音が聞こえない。かろうじてミネの腕の間からイブラヒムが見た現場は悲惨なものだった。

 

砕けたコンクリートが舞い上がり、伏せたメンバーの背中に積もっている。何人か立ち上がった人達が散らばった高層階特有の強化ガラスを踏みつけて、ジャリジャリと音が鳴る。

 

どこかから悲鳴が響き、燃え移った炎が折れた観葉植物を燃やし、モニターからは火花が散っていた。地獄のような光景だ。

 

「全員、無事だな!」

 

──この状況で、即座に動けたのはエミヤシロウただ一人。傷一つ無い姿で、混乱を誘発しないよう大きな声で指示を出す。

 

「救助活動を開始する! 被害箇所は我々がいるフロア、及び上下3階層と思われる。救護騎士団およびシスターフッドは二人一組でチームを組め。部隊を四つに分けろ。うち二つの部隊は上階層を蒼森ミネ、下階層を伊落マリーをリーダーとして怪我人の探索、救助、避難誘導にあたるんだ。その際、トリアージを忘れるな!」

 

「救護を開始します!」

 

「皆さん、着いてきてください!」

 

「もう一つのチームは猫猫(マオマオ)を中心に安全地帯を確保して怪我人の受け入れ準備。トリアージを元に適切な治療を開始してくれ」

 

「全員、荷物を持ってこっちに! けほっ、安全なフロアまで移動する!」

 

手際の良い指示に、滞りの無い動き。指示をされた側も慣れているのだろう。混乱の中でも決して動きを止めようとはしていない。

 

エミヤシロウという男がかつて戦地で活動していた経験があるということを知らないイブラヒムは、その光景に思わず困惑と僅かな驚きがない交ぜになった表情を浮かべてしまう。

 

「え、エミヤ殿、これは一体…………」

 

「すまないが説明は後だ。今は一分一秒が惜しい。あなた方は私が護るので離れないように」

 

張り詰めた声色にイブラヒムは口を閉じたまま、震える秘書の背中を落ち着かせるように優しくさする。どうあれ、この状況下で冷静に判断ができる彼の言葉がこの場で最も信じるべきものだと受け入れる。

 

エミヤシロウは、眉間にしわを寄せながら状況の把握に努めていた。幸い、今いるフロアへの衝撃はある程度防ぐことはできたが、広範囲に及んだ余波が他の階層に及んでいる。特に上階は酷く、足場が失われた状態だ。

 

「アデナウアーは蒼森のサポートをしつつ上階の重傷者を。アルジェントは伊落と共に行動してくれ。爆心地に近付くことになるが、今は君達の癒しの力が必要だ」

 

「任せてください。行きましょうアーシアさん」

 

「はいっ、フィリアさん!」

 

「クロレンス嬢、君はアルジェントに付き添って神器(セイクリッド・ギア)が不要と判断された患者の処置を頼む。あれは魔力の消費が激しい。命に関わる怪我人を優先するよう監督してくれ」

 

「猫猫から薬品を貰ったらすぐに行きます。エミヤさんもお気をつけて」

 

「ああ。残りのチームは私と共に周囲を警戒。二度目の爆発が起こる可能性もある。判断ができない場合は、すぐに無線で知らせてくれ」

 

ラベンダーよりも淡い髪色の女性と、鮮やかな金髪碧眼の女性二人が駆けていく。この場に残ったのはエミヤと数人のメンバーのみ。プロテクターとポリカーボネートの盾を装備し、爆発やビルの崩落に備える。

 

無線で指示を出したエミヤは、イブラヒムと秘書を仲間に任せて爆発した場所へと近付く。コンクリートから鉄筋がむき出しとなり、体の重さで砂のように崩れていくのが分かる。

 

これ以上は進めないと判断し、足を止めて地上へと視線を向ける。警察車両や救急車両が到着し始め、落下したコンクリート片にぶつかって怪我をした一般人を安全な場所へと誘導し始めていた。

 

あの爆発。直前には人の形をしており、下から飛んできたように見えた。大砲や大規模なバンジー紐でもなければ下から上へと人が飛ぶことはない。

 

原因を特定できないかと周囲を見渡し──鷹の目が捉えたのは、いつものコスチュームを纏って救助活動を行うキャプテン・アメリカの姿だった。

 

★☆★

《ニューヨーク州北部、アベンジャーズ・コンパウンド》

 

ラゴスでの事件から時は流れ、ソーとハルク、バートンを除くアベンジャーズのメンバーと、孤児院からは浅上藤乃、錦木千束、星、リューズ、エネの五人が呼び出され、アベンジャーズ・コンパウンドへと足を運んでいた。

 

大きなテーブルを囲って待機している彼らの視線の先には、アメリカ国務長官のサディアス・ロスの姿がある。背後のモニターを操作しつつ、冷めた目で室内の人間を見つめていた。

 

「──知ってのとおり、ナイジェリアのにおいて大きな事故が起こった。許可もなく超人が国内に入り、人混みの中でテロリストと一緒に武器を振り回し、結果としてビルの壁面に大穴が開くことになった」

 

ビルの壁が砕け、辺りに散らばる様子が映し出される。爆発した規模に反して被害範囲が小さいように見えるが、崩落するコンクリートに巻き込まれた市民が救急隊に運ばれていく姿にワンダは目をそらす。

 

続けるようにニューヨークで街を破壊しながら宇宙からの侵略者と争う姿、ワシントンD.C.で河川へと墜落するヘリキャリア、宙に浮き破壊されたソコヴィアが投影された。

 

当事者である彼らの手が届かなかった場所を晒され、グッと拳を握り締める。確かに救えた命もある。しかし、手が届かなかった命があることもまた事実で、突き付けられたそれは深く心へと突き刺さっていく。

 

「ニューヨークやワシントンD.C.、ソコヴィアにおいても同様の事態が過去に起きている。本来であれば国が対処すべき案件であるにも関わらず、独断で動く自警団は国際法に違反しているのではないかと国連でも議題に挙げられたよ」

 

「……軍に任せておけば解決したって?」

 

「許可なく他国に入国し、武力を振るうことが問題だと言っている。結果を免罪符にするべきではない、ウィルソン」

 

ロス長官の言葉にウィルソンは口をつぐむ。

 

「事実として、ニューヨーク以降の騒動で一般市民に死者は出ていない。ソコヴィアでは所属不明な自警団が集結し、ラゴスではたまたま現場にいたNPOの手によって市民が救出されたからだ」

 

「…………」

 

「とはいえ被害が無かった訳ではない。建物は倒壊し、重症を負った者は数多く、自宅を失った者もいる。ソコヴィアの自警団には他国の反社会的勢力が紛れていたという報告もされている訳だが……」

 

イタリアのマフィアを牛耳る巨大な組織《ボンゴレファミリー》、そのボスと側近の二人がソコヴィアの戦いに参戦していた。他、幾人かの超人が参加していたことから、聖ホロウ教会が関わっていると思われる。

 

しかし決定的な証拠があるわけではない。ロス長官の細められた視線が向けられるも、藤乃は目が見えないことを利用して、そうなんですねと頷くばかり。繋がりを証明することができないロス長官は、これ以上強く出ることはできなかった。

 

「……ともかく、今後似た事件が起こった際、君達が再び行動を起こすことは想像にかたくない──そこで対応策だ」

 

控えていた部下の男が分厚い冊子を抱えて配布する。表紙に『ソコヴィア協定(THE SOKOVIA ACCORDS)』と記載されたそれに、ロジャースは眉をしかめた。

 

「……これは?」

 

「国連が提唱した協定だ。君達アベンジャーズ、および聖ホロウ教会に所属する超人を管理下に置く形となる。以降、活動を行う場合は委員会の監視のもと、必要な場合のみ出動してもらう」

 

ロス長官の言葉に空気が重くなる。動揺、不満、理解。各々の感情が表情に浮かび、妙な緊張が伝播する。

 

「国連加盟国のうち、116ヶ国が既に署名している。君達は正義のために動いているのだろうが、もうそれでは各国の政府が納得しない」

 

「アベンジャーズの目的は世界を守ることだ。役目は果たしてる」

 

「では聞くが、ソーとバナーはどこにいる。イングリス・ユークスもだ。普通、30メガトン級の核弾頭を紛失したら大問題だぞ」

 

ロジャースとロス長官の視線が交差し、場の重圧が増した。睨み合いこそ数秒と短かったが、空気が軋む音が幻聴として聞こえてくるほどだ。そのままの流れで、視線は浅上藤乃および聖ホロウ教会のメンバーへと向かう。

 

「君達もだ、浅上藤乃。アベンジャーズに匹敵する超人が在野で野放しになっていることにダメージ・コントロール局からも抗議が入っている」

 

「ダメ……?」

 

星が首を傾げる。あまり世俗に興味がない彼女からしてみれば、初めて聞く組織の名前だろう。

 

ダメージ・コントロール局、通常DODC。ニューヨークの事件以降、主に超人が関わる事件の後始末を行っている行政機関だ。同時に、あまり良い噂を聞かない組織でもあるが、腐っても政府が設立した組織。国連に対する発言力も相応に持っている。

 

ロス長官の視線が鋭くなり、藤乃達を射抜く。

 

「ウルトロンを越えうる機械生命体」

 

我関せずと目を瞑ったまま微動だにしないリューズ。

 

「あらゆるサーバーへ入り込める電脳生命体」

 

『私、そんなに万能じゃないですよ!』

 

過剰な評価に反論するエネ。

 

「そして、巨獣すらねじ切る人間兵器」

 

口元に微笑みを貼り付けたまま、遮ることなく話を聞く藤乃。

 

千束と星にいたっては、名前を呼ばれなかったことでアレ? と困惑しながら顔を見合わせていた。二人の実力も申し分ないが、特に千束はウルトロンの一件で大怪我を負っていることもあり、あくまで一般の範疇であるとロス長官は認識している。事実、周囲からの評価として脅威度はそこまで高くない。

 

この場においてアベンジャーズのワンダ・マキシモフとヴィジョンに並ぶ脅威として扱われているのは、挙げられた三人。特に藤乃への警戒度は非常に高い上、同じような子供を孤児院で育てていると聞く。

 

「君達と肩を並べる超人が他に何人所属しているかも分からない。そのような危険極まりない団体は即刻、国で管理すべきだ、とな」

 

「都合のいい理由を並べて拘留するってことだろ。ロス長官、あの孤児院に所属している者の大半はまだ幼い子供だぞ。守るべき一般人であって、間違っても(ヴィラン)のような扱いをするべきじゃない!」

 

「そういった意見もあるということだ、ウィルソン。君達は自分の行動がどのような結果をもたらすか考えてから動くべきだ」

 

「だがッ──」

 

「サム、そこまでだ。……気持ちは分かるが、今は口論をする時じゃない」

 

ロジャースの言葉にウィルソンは口を閉じる。彼が血管が浮き出るほどに握り締められた拳を机の下に隠したところが見えたからだ。誰より彼は守るべき対象を誤っている行政機関に憤りを覚えている。その姿にウィルソンはかえって冷静になった。

 

「全ての加盟国が署名した訳ではない。この協定に反対している国もあるが、世界の過半数は安心の保証を求めている。署名を行った116ヶ国がその証左だ。受け入れろ、これが良い着地点となる」

 

「……断ったら?」

 

「引退してもらう。君達はこれまで身を粉にして活動した。ここいらを区切りとしても誰も文句は言うまい」

 

アベンジャーズの引退。それを提示されたロマノフは反論することなく選択の一つとして理解した。そういった道が自分に許されているのだと、不思議な感覚を覚える。

 

他のメンバーからそれ以上の質問が投げ掛けられることはなく、半刻ほど経ってから会議は終了となった。

 

「後日、ウィーンで正式承認のための国連会議がある。それまでは待とう。良い返事を期待している」

 

そう言い残して退室するロス長官。残されたアベンジャーズの眉間には皺が寄ったまま、誰も言葉を発することは無かった。

 

 

「俺は反対だ」

 

沈黙を破ったのはピエトロだ。あの意地の悪い長官殿に口では勝てないと言葉を発することは無かったが、会議が終わってから最初に意思を決めたのは彼だった。

 

「国連の委員会に従う件はいい。上に従う、ってのはこれまでと変わらないからな…………でも」

 

「ピエトロ?」

 

ちらりと妹を一瞥する。唯一残った家族。ピエトロにとって、何をおいても護らなければならない人だ。もう不発弾に怯えて引きこもる子供じゃない。それだけの速さ(ちから)があるからこそ、ソコヴィア事件以降、その使い道を考えるようになっていた。

 

「ワンダが兵器(もの)として管理されるなら話は別だ。その可能性がある以上、俺は署名できない。ダメージ何とかってところが委員会に口を出してくるなら、あり得ない話じゃないだろ」

 

「引退するのか」

 

「その方がマシだ。……国に帰って、復興の手伝いをする方がいいのかもな」

 

呟くような言葉に、誰も否定をすることができない。ウルトロンの件から復興は進んでいるものの、都市を失った大穴と周囲の街にはまだ瓦礫が残っており、未だソコヴィアの傷跡として残されている。ワンダとピエトロが給料の大半を寄付に回しているものの雀の涙に等しく、なかなか進んでいないのが現状だ。

 

「だが、後ろ楯が無くなったらそれこそ危険視される。狙われれば、拠点を持つことすら儘ならなくなる可能性だって……」

 

「家なんかとっくに無くなってる。今さら根なし草になったところで問題はないさ。それに善行を積もうとしている人間を拘束しようとするなら、それは奴らの間違いを証明することになるんじゃないのか?」

 

ローズへと反論するピエトロ。事情を知っている者達は言葉を口にすることはできなかった。特にスタークは、間接的に原因を作った自覚があるからこそ、目を瞑って無言のまま。

 

「あんた達はどうなんだ。やけに目を付けられていたみたいだけど、答えは出たのか?」

 

矛先が藤乃達へと向けられた。視線が集まる。S.H.I.E.L.D.に集められたアベンジャーズと違い、完全に外部の組織である彼女達の立ち位置はあまり良くはない。返答によっては、国連のブラックリストに名前が載る可能性もある。

 

『はいはーい、私は藤乃に合わせますよー! エネちゃん的には、やることが変わるわけじゃありませんからね!』

 

「同じく。元より所属は孤児院ですので、管理者である藤乃に従うのは当然でございます」

 

真っ先に答えたのは、元気良く手を挙げるエネと、ここまで背筋を伸ばしたまま微動だにしなかったリューズ。現状、特に不満のない二人は意思の決定を藤乃へ委ねる。

 

「なんか息苦しそうだからサインするのはやだ」

 

後半、話がよく分からなくて突っ伏していた星は、頬を机につけたままのだらけた姿で答えた。ただ、周りの人達が余りにも辛気臭い表情をするものだから、受け入れることを拒絶する。

 

「……わ、たしは…………」

 

ただ一人、千束だけは答えを出せずに膝の上で拳を握り締めていた。声は震え、掠れたように空気へ溶ける。

 

──かつての2年間(きおく)が脳裏に過る。

──目の前で死んでいく、同年代の被験体(こどもたち)

 

活動を続けるにあたり、大きな組織の下につくことになる。それ自体に否はない。というより、むしろ多くの人が幸せになるのなら(・・・・・・・・・・・・・)そうするべきであるとも思っている。

 

数多の国が集う国連を上に据える。孤児院に……いや、小国である庭園に所属するよりもずっと良いはずだ。公的な活動だと認められ、憚ることなく手を差し伸べられるのだから。

 

…………でもきっとそれは、今の家族と離ればなれになることなのだと理解していた。

 

『どうするつもりなんです?』

 

「そうですね……一度、国に帰ろうと思います。現状では子供達に不利益が及びそうですから」

 

千束の理解に違わない藤乃の回答に、既にない心臓を掴まれたような感覚に襲われた。失われた脈拍が体を震わせ、思わず胸元をぐっと握り締める。

 

「……外の世界を知って欲しくてこの国に来ましたが、ままならないものですね」

 

諦めを含んだ声色。独り言として呟かれたそれは、隣に座っていた千束にのみ届いていた。

 

「ぁ……え、っと…………」

 

「千束」

 

名前を呼ばれ、びくりと肩を震わせた。

 

光を映さぬ瞳と目が合い、見透かされていることを理解する。勝手な思い込みだと思うけれど、ほんの少しだけ心が軽くなったような気がした。

 

「貴方の人生です。どれだけ時間がかかっても構いません、自分で判断をしなさい。……例えどのような答えになろうとも、私はその判断を尊重します」

 

「…………うん」

 

優しさとも厳しさともつかない言葉に、覇気の無い声を返す以外、何もできなかった。

 

★☆★

《アメリカ、オハイオ州クリーヴランド》

 

「──で、これからどうすんだジモ」

 

ポタリポタリと水滴が床を濡らす。古い家屋のリビング、中央にある机を挟んで二人の男が顔を合わせている。隅のシンクの上で逆さ釣りの男が溺死している状況で、多量の砂糖を入れたコーヒーを片手に作戦会議と洒落混んでいた。

 

ジモと呼ばれた浮かない顔の男と、不敵な笑みを浮かべる男。一見正反対の二人が、同じ目的のために集っている。不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「……一週間後、『ソコヴィア協定』承認のための会議がウィーンで行われる。その際、バーンズの顔マスクを使って監視カメラに映り、テロを起こし、容疑者として表に引きずり出す」

 

「CIAが引っ捕らえたところで内部に潜り込み、それ(・・)でバーンズを洗脳するってハラか」

 

「この状況、少なくともアベンジャーズは表立って動けない。動けば後は分裂。協定がある以上、下手な行動は自らの首を締めるだけだからな」

 

「いいねぇ。超人がヒーローに偏りすぎてるのは座りが悪かったところだ。賛成だぜ、俺は」

 

愉しそうな笑い声が部屋に響く。傾けた椅子の背もたれに体を預けて脚を組み、ゆらゆらと揺れることなく二本の後ろ脚のみでバランスを取っている。

 

「……ただ、例の孤児院の動向が気がかりだ。アベンジャーズを分裂させる絶好の機会の中で、動きが読めない」

 

対してジモは眉根を寄せて、考え込みながら机に肘をつく。この計画において唯一の懸念点。聖ホロウ教会と、隣接する孤児院。アベンジャーズよりも時間をかけて調べたが、分かったことといえば本拠地程度。全容は全く掴めなかった。

 

「アレも随分と歪な組織だからなぁ。立場がふわふわと浮いてやがる。ま、そっちは任せてくれて構わねぇよ」

 

「ああ、そのためにお前と手を組んだ。契約どおり半分は任せるぞ、真島。都度、連絡は必要か?」

 

「要らねぇよ。お前の存在が表に出ないよう、精々帳尻を合わせてやるさ」

 

コーヒーを飲み干し、立ち上がる。ギラギラとした瞳を隠すこともせず、ジモへと背を向けて住居の外へと踏み出した。

 

 

「──バランスは、取らなくっちゃなぁ」




【ンナムディ・イブラヒム】
・オリキャラ。
・ラゴスに生まれた善人。掛け値のない良い人。
・国を愛しており、同時に憂いを抱えている。
・役に立たない行政に代わって治安の回復に力を入れている。

【衛宮士郎(MCU)】
・出典『Fateシリーズ』
・庭園に所属し、その支援を受けてNPO法人を発足。世界各国を巡り、困っている人に手を差し伸べ続けている。一人で救える人数に限界があることを理解しているため仲間に頼ることもできるが、最も困難な事を抱え込む悪癖があるため、よく説教を受けている。
・魔術の副作用により、見た目は英霊エミヤの似姿となってしまっている。既婚者。

【猫猫(MCU)】
・出典『薬屋のひとりごと』
・人身売買の商品として拐われ、乾いた血で黒ずんだ鉄格子の中に押し込められていたところを衛宮に救われた。以降、養父ともども庭園に世話になっている。

【エリーゼ・ド・クロレンス(MCU)】
・出典『外科医エリーゼ』
・スラムで闇医者として人を治していたが、マフィアに目をつけられて場所代と称した多額の金銭を要求されていたところを衛宮と蒼森ミネに救われた。以降、庭園のカエル医者の元で医学を学んでいる。

【アーシア・アルジェント(MCU)】
・出典『ハイスクールD×D』
・とある宗教団体に異端者として殺されそうになり、逃げていたところを衛宮に救われた。以降、学園に通いながら救護騎士団で医学を学び、衛宮に同行して恩を返している。

【フィリア・アデナウアー(MCU)】
・出典『完璧すぎて可愛げがないと婚約破棄された聖女は隣国に売られる』
・元は聖女として活動していたが、家族に国外へと捨てられ、行く宛もなくさ迷っているところを衛宮に救われた。以降、シスターフッドに加入し、迷える人を助けられるよう邁進している。後に妹のミアと再会する。

【伊落マリー(MCU)】
・出典『ブルーアーカイブ』

【蒼森ミネ(MCU)】
・出典『ブルーアーカイブ』

【シスターフッド(MCU)】
・出典『ブルーアーカイブ』

【救護騎士団(MCU)】
・出典『ブルーアーカイブ』


【真島(MCU)】
・出典『リコリス・リコイル』
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