ここだけマダラがイザナギに失敗死亡して未来転生、アスマと大親友になった世界(完) 作:EKAWARI
昨日更新出来なかったので本日二回目。
今回のは活動報告でもちらっと言ってた完全書き下ろしイタチ視点の番外編その1にあたります。
ちょっと長くなったのでいくつかにわけることにしました。
ゴガク視点の本編だと判明しない裏話回。
「よぉ、イタチ。元気か?」
……あの人と初めて会ったのはいつだったのか。
既に物心ついた時には知っていたので、おそらくはオレが赤ん坊の時なのだろう。
あの人は、あの人の二人の兄と共に時々オレや父さんに会いに来たのを覚えている。
おそらく親戚の子供として年少者としてオレは可愛がられていた。
第一印象……というのもおかしいかもしれないが、物心ついてから抱いた印象としては、うちはらしい怜悧で端正な顔立ちをした年上の少年で、彼の兄達二人がうちはにしては優しげな顔立ちと温和な雰囲気をしているのに対し、目つきも悪く威圧的な、一見すると人を拒絶する雰囲気を纏った少年だった。
だが、それ自体はうちは一族として珍しいことではない。
うちは一族は顔立ちが整ったプライドの高いものが多く、オレを含め取り澄ましていると評価されることも珍しくなかったからだ。
だけど、そんな少年が直前まで纏っていた怜悧な雰囲気をどこにやったのか、オレを見つけるとニィっと悪戯小僧のように明るく笑うのが印象的だった。
オレはそんな見ている方が元気になれるような、一族には珍しい太陽のような笑顔が好きだった。
父の従兄弟にあたるその少年は、うちはゴガクといった。
ゴガクさんは不思議な人だった。
誰よりもうちは一族らしいのに、同時に一族らしくはない。
他の一族の者同様、自分がうちは一族である誇りや自負は持ち合わせているようには見える。
だが彼が親友と呼ぶのは三代目の息子に対してだったし、一族以外の人間に対しても気にすることなく付き合いを続けているように見えるし、そのことに対して思うところも特にないらしい。
だからといって一族を大事に思っていないわけでもないし、誰とでも付き合えるような器用さも持ち合わせていないようだったが、一族の人間が堂々と三代目の息子相手に親友と公言する事に文句をつけると「だぁああ!! 一々煩ェーんだよゴラ! オレが誰と付き合うかはオレが決める事だろうがッテメエらに文句言われる筋合いはねェ!!!」と悪びれるでもなく言い放ち、その実力でもって相手を黙らせた。
当時13歳の少年だったが、空恐ろしいことにその年でゴガクはうちはきっての火遁使いにして手練と知られていた。
半目で睨め付けながら、文句を言ってきた年上の男達を忍び組み手でボコボコにしている姿はやけに貫禄がある。まるで悪鬼もかくやという形相だ。
それでいてオレを見つけると、パッと表情を嬉しそうな笑顔に変え「よぅ、イタチ!」と明るくはにかむ姿は太陽のようで、その振り幅の大きさに、なんともコロコロ表情の変わる人だと思ったものだ。
思わず、むにっと自分の頬を掴む。
……残念ながらオレの表情筋はこの人ほど動きそうにはなかった。
そんな喜怒哀楽も激しく、コロコロ変わる表情はあまりうちは一族の人間では見かけないものだったが、でもこれは誰にでも見せる表情というわけではないことも知っていた。
オレも人のことは言えないが、この人は不器用だし決して人当たりがいいわけでもない。
警戒心も強く、誰にでも心を許すような人ではなかったし、気を許した相手に対しては気安さや面倒見の良さを発揮するが、身内に判定したごく少数以外に対しては無愛想で素っ気なく、感情を動かす事も稀だ。
気を許した少数以外のその他大勢に対しては、どこまでも冷徹になれたし、その整った怜悧な顔に冷酷さを映したような無表情を乗せ、淡々とした話し方で冷たく突き放すようにものを言う。
感情など知らぬような、他者を排したその様は、誰よりもうちはの血を色濃く連想させた。そんな様を見て、「うちはマダラの再来だ」と年寄りは呼んだ。
時は第三次忍界大戦の最中だ。
子供とはいえ、族長の息子であるオレの耳にも様々な噂が飛び込んできたものだ。
獄炎のゴガク、冷血の獄炎鬼。
まだ10代の少年にも関わらず、顔色一つ変えず、冷酷に残虐に敵を燃やし尽くす地獄の業火の使い手だと、そう噂されていた。
それでもオレは彼のことを怖いと思ったことは無かった。
(この人はちょっと不器用なだけだ)
沢山殺した?
そもそも忍びなど元々人殺し家業だ。
血も涙もない獄炎鬼?
なら何故この人はこんな屈託なく笑う? それに戦場で非情になるのも、忍びなら当然の事だろう。里を守るため、仲間を守るために、そうしているのだろう? なら蔑まれる理由も恐れられる理由もない。
確かにこの人は強いのかも知れない。子供に似合わぬ実力があることは、見ててわかる。だからといってこの人は
別に庇いたいとかではなく、当時のオレにとってそれは素朴な疑問だった。
うちはゴガクは明らかに一部の一族の大人達に恐れられていた。天才だから、それだけじゃない理由でも彼らは「うちはマダラの再来だ」と彼を呼んでいた。
だからなのかもしれない。
親兄弟を除くと、彼が一族の人間とよりも、寧ろ一族以外の人間とのほうが仲が良く見えたのは。
自分を自分として見ない相手より、自分を自分として見てくれる相手の方が好感を持てるのは人として当然のことだったのかもしれない。少なくともゴガクさんは一族の垣根に捕らわれていなかったように思う。けれど、繊細で誇り高くて愛情深く、家族想いで内と外を綺麗に分けて考えるその本質も性質も、彼はどこまでもうちはの人間なのだ。
だから彼は誰よりもうちは一族らしくなくて、同時に誰よりもうちは一族らしい人だった。
そう……その人は誰よりもうちはらしい人なのだ。
「隊長、今連絡が……」
「……何?」
夜中トイレに行くために起きた際に偶然、聞いてしまった訃報。
彼と彼の父兄達含む部隊は敵の罠にかかり全滅。一人だけ生き残ったうちはゴガクが敵を殲滅し、任務を達成、今別働隊と合流を果たしたと、そういう連絡だった。
「あなた……」
「ああ」
そのまま母と顔を見合わせ頷きあう父の元に襖を明けて「父上」と声をかけた。
「イタチ、お前まだ起きていたのか」
「……話をきいてしまいました、すみません」
勝手に会話を聞いたことを素直に謝罪し、それから「ゴガクさんを、迎えに行くのですよね? オレもつれて行ってください」とそう頼み込んだ。
父はそんなオレにため息を一つつくと「わかった」と答える。それに母は「あなた!」と批判するような声音で父を呼ぶ。
「ミコト、イタチはオレの子だ。大丈夫だろう。イタチ、連れて行ってやるからには約束しろ。決して何を見ても目を逸らすな。いいな?」
それに「はい」と返事をして、素直に頭を下げた。
そのまま父の腕に抱かれ、阿吽の門まで運ばれる。
はっきり言ってオレがついていく意味がないことはわかっていた。
ゴガクさんには親戚として彼の兄達と共に可愛がってもらっていたが、親族といっても五親等だ。そこまで血が近いというわけでもないし、たまに会ったら可愛がられる程度の関係だった。それでもなんだか嫌な予感がしたのだ。ここで行かなければ後悔するような、そんな予感が。
門に辿り着くと父の腕から下ろされ、そこで別働隊と合流した従叔父の帰りを待つ。やがて、一刻とかからず彼は現われた。
……一言で表すならまるで幽鬼のようだった。
周囲の大人達より一回り小さい彼の忍び装束は返り血でベットリと汚れており、その眼は地獄よりも昏く悍ましい気配を纏っていた。一族に多いツンツンとした黒髪もまたベットリとついた血が乾いてこびり付いており、陰惨極まりない形相だった。
……彼の部隊は彼の父兄も含め全滅したという。それほどの激戦だったのならば、一人だけ生き残ったという彼も怪我の一つしててもおかしくないだろうに、全てが返り血で、怪我一つしていないのが異常だ。そうわかっているからだろう、ゴガクさんと合流した別働隊の人間は恐ろしいものを見るような眼で彼を見ており、その目はとてもではないが仲間を見る眼ではない。まるで化け物を見るような眼差しだった。
だが、それすら気にならないようにギラギラと闇の中光る瞳は赤と黒を行ったり来たりしており、時折勾玉模様からクルクルと別の模様に変わっては黒く戻ってまた赤に光り輝いていた。
はっきりいって普通の子供がこれを見たら恐ろしさのあまり失神してもおかしくないほどに、それは異質で恐ろしげな姿だったといえる。
だけどオレはそんな彼が、痛い痛いと泣き叫んでいるように見えたんだ。
父や母にとっても想定外の陰惨さだったのだろう、息を飲み込むような音が聞こえる。けれど、それでも族長としても動じてなるものか、という意地か、父は労るような声で「よく帰ってきてくれた」と声をかけ、母は涙ぐみながら「ゴガクくんだけでも無事で良かった」とそう声をかけた。
そんな父と母からの言葉を聞いても、彼からの反応はない。
ただ眉間にぎゅっと皺を寄せて、何かを言おうとして失敗しているような、そんな反応を返すだけだ。
そんな姿が酷く辛く苦しそうで……。
一歩近づいた。
感知タイプではないオレにもわかるほどに、威嚇するようにチャクラをざわつかせている。まるで野生の傷ついた獣みたいだ。
更に一歩近づく。
憎しみと怒りで染まっていた瞳に、戸惑いが生まれる。
更にもう一歩。
彼は後ろに下がりそうになりながら、そんな自分を押しとどめている。
父と約束した通り、眼は逸らさなかった。
(大丈夫、こわくないよ)
そう言い聞かせるように、伝わればいいと真っ直ぐに彼を見た。
黒と赤を行き来していた瞳が途方に暮れたように黒に傾く。ぐしゃりと顔を歪め、嗚呼泣きそうだ。
もう一歩、そろりと手を伸ばす。
そっとその血に染まり、タコが出来た努力してきた手を握りしめ、「大丈夫?」と尋ねた。
それを聞いた彼は、やっぱり泣きそうで、どこか迷子の子供のようだった。
放っておけないと思った。
今放置してしまったら、きっとこの人はどこまでも堕ちてしまう、そんな予感。
父が母に目配せをする。母が肯く。父はそこで彼に対してこんな提案を口にする。
「一緒に暮らさないか」
ゴガクさんは吃驚したように眼を見開き「……良いのか?」と尋ねる。
「ああ、ミコトも承知の上だ」
「ええ……ゴガクくんなら大歓迎よ。イタチのお兄ちゃんになってあげてね」
そう母さんが精一杯の笑みを浮かべてそう答え、また泣きそうな顔になった。
「ゴガク!」
続いて里のほうから、今聞いて駆けつけたのだろう、息を切らして三代目の息子である猿飛アスマがやってきた。
「アスマ……」
アスマさんはゴガクさんの様子に息を飲むと、そのまま迷うこと無く親友の体にガバリと抱きつき「お前が無事で本当に良かった」と涙目混じりにその帰還を言祝いだ。
そんな友人の言葉にゴガクさんの眦にも薄らと涙が浮かぶ。
それから彼は彼自身の本来の笑みを取り戻し「嗚呼、ただいま」と笑顔で親友に抱きしめ返した。
そうしてゴガクさんはご家族のお葬式を上げた後、うちで暫く共に暮らす事になった。
続く