中間テストも終わり、個人ステージの申し込みを済ませた僕達は、遂に本番である文化祭に備えて練習の日々が続いていました。ただ一つ、問題が発生していますが........。
「はぁ〜酒うめ〜」
「ニートは平日からダラダラ酒飲めていいよな」
「ニートじゃないんですけど!」
何故かスターリーには酔っ払い(きくりさん)が居座ってました。理由は分かりません。誰か助けて下さい!!
「お姉ちゃんツン激し過ぎない?君からも何か言ってやれってよ。妹ちゃんは私が此処に来ると楽しいよねぇ〜?」
「帰って下さい」
きくりさんが虹夏ちゃんにそういうと、虹夏ちゃんはうんざりした様子で辛辣に返事した。昼間からお酒飲む人とかほんと信じられないよ僕........。
「先輩に負けず劣らずの目をするようになってきたね...。たっくんも何か言ってやってよ〜?」
「ご注文も承ります。早く頼み、早く飲み、早くお帰り下さい。他のお客様にご迷惑です」
「誰かしら一人私の味方が居てもじゃん!」
だったらお酒なんて飲むんじゃありません!!
「私みたいなダメ人間が居る事でこんな大人にならないようにしようって、皆んなの反面教師になってんの!」
「ふーんそうなんだありがと、でもそれはたっくんが充分に叩き込まれてるから」
「いい皆んな?昼間からお酒なんて飲む人は絶対碌な人じゃないって事だけは覚えておく事!これから先の未来だって言える事だからこうならないようにしっかりする事!」
「「「はーい!!」」」
「あれ?私の存在価値は?」
「あ?ねぇよそんなもん」
ほんと何しに来たんだろこの人........。ってかさっきからひーちゃんが僕の背中でコアラさんのように抱きついてるけど、辛くないの?おんぶみたいに足支えてるわけじゃないから辛くない?そんなに体幹強かったっけ?
「それにしてもぼっちちゃんどしたの?心配事でもあんの?」
「え、あ...。文化祭ライブがあって...。いっ、いつもの箱のライブより多い人の前でライブするの怖くて...。そ、想像もできないし...」
そう言ってひーちゃんは僕の背中から降りるとやどかりさん状態になる。それ寝そべってるだけだからやめなさい!ばっちぃでしょ!
「...ぼっちちゃん、これあげる」
きくりさんがひーちゃんに差し出したのは、一枚のチケットだった。なんのチケットだろう........。
「私の今日のライブチケット、よかったら見に来なよ」
「今日の?」
「あ、君たちもどーぞ♡」
そう言って僕達にもライブチケットを渡すきくりさん。チケットには新宿と書かれていたので、新宿のライブハウスでやるんだろうね。
「あ、ありがとうございます!お金いくらですか?」
「いーよぅ、あげるあげる」
「そうはいきません!無理しなくてもいいんですよ!」
「えっ、いいって....。私の事学生から巻き上げる貧乏バンドマンだと思ってんの?」
「違うんですか...?」
「妹ちゃんが辛辣過ぎる!誰か焼酎持ってきて!」
外でお酒飲んでたらそう思うに決まってるじゃないですか......。
「こう見えてねぇ〜?私インディーズでは結構人気なバンドなんだよ〜?チケットノルマなんてよゆ〜だし物販でも稼いでますから〜」
「じゃあなんで安酒飲んでるんですか?」ジー
「最近シャワーもうちで借りてくし」ジー
「家賃払えクズ」ジー
「あっ、そういえばこの前のたっくんに借りた電車賃返して貰ってなかったっけ........」
「てめぇやっぱ金巻き上げ待てるじゃねーか!」
「こっ、これには深い理由が!」
絶対に碌な事じゃない!断言出来る!
「泥酔状態でライブするから毎回機材ぶっ壊して全部その弁償に消えてんの...」
自業自得じゃないか!!
「........あ、お金で思い出した。リョウちゃん、いつになったら僕のお金返ってくるのかな?」
「................ぴーぴぴー」
リョウちゃんに視線を向けてお金の事を聞くと、リョウちゃんはそっぽ向いて口笛を吹き始めた。全然吹けてないよ...。
「クズ共、返すの遅くなってごめんなさいって言え!」
「「遅くなってごめんなさい........」」
店長さんの喝を入れられたリョウちゃんときくりさんが、正座して僕に借りてたお金を返す。店長さん怒り方が幼稚園の先生みたいですね!可愛い!
「きくりさん、これからライブなのにお酒なんて飲んで大丈夫なんですか?」
「だーいじょうだいじょうぶ!よ〜し、皆んな新宿にレッツゴー!」
僕はきくりさんに質問すると、テンションMAXのきくりさんには僕の言葉を聞いておらず適当に返事してライブハウスを出ようとしたけど、壁にぶつかってそのまま進まずにいた。こんな状態でライブ出来るのかな........。
それから皆んなで電車に乗って新宿駅へ向かうと、ひーちゃんがあまりの人の多さに精神をやられて『あっ今日のライブすごくよかった』と言っていたけど、僕がひーちゃんをおんぶして目的地のライブハウスに到着しました。
「此処が私の活動してる箱、新宿FOLTで〜す!」
ライブハウスの入り口に立ってるだけで、此処はスターリーと比べて雰囲気が違うなって事が分かりました。なんか緊張してきた........。そして中へ入ると、怖い雰囲気を出すバンドマンが此方を見てくる。こ、怖い........。
「あーゆう人達大体話せばいい人だから!」
な、成る程........。見た目は怖くても、中身は良い人って事だね!人を見た目で判断しちゃいけない!勉強になりました!するときくりさん『
「あぁ?」
店長さんなのか、虹夏ちゃんを一目見ると。
「おっ、お姉ちゃんに会いたい...」
と、ひーちゃんみたいに顔が歪んで今でも泣き出しそうな顔になってしまった。た、確かに怖そうな人だけど...。人を見た目で判断しちゃいけない、人を見た目で判断しちゃいけない!
「虹夏ちゃん、こっちへおいで?お姉ちゃんは居なくてもお兄ちゃんは居るからね?」
「お、お兄ちゃあ〜ん........」
「上下関係が逆転した!?」
僕が虹夏ちゃんを慰めようと手招きすると、幼児退行しちゃったのか虹夏ちゃんが僕の胸に抱きついてくると、僕は優しく頭を撫でてあげる。虹夏ちゃん可愛い〜!ほっこりしちゃう〜♪これはお兄ちゃんスキルが発動しちゃうよね!
「スターリーが珍しいだけで、ライブハウスの店長なんて男ばっかりでしょ」
「あら〜!ゲストの子達なのね♡ごめんね〜!吉田銀次郎、37歳で〜す!好きなジャンルはパンクロックよ〜!」
店長さん、銀次郎さんの自己紹介で見た目とギャップに混乱中な皆んなに対して、僕はこういう人も居るんだな〜、って認識でした。銀次郎さんみたいな初めてあったかも...。
「はーい!僕は後藤達也って言いまーす!こう見えて男の子でーす!結束バンドのギターボーカルやってまーす!」
「男の子だったの〜?ちょーびっくり〜!とっても可愛いわよ〜!」
「えへへ〜、ありがとうございます!」
うん!やっぱり銀次郎さん優しいよ!見た目で判断しちゃいけないんだね!
「おい廣井、遅刻するなっていつも言ってるよな?」
「もうリハ終わっちゃったヨ!」
するとライブハウスの奥の方から、今度は二人の女性が現れた。一人はきくりさんの事を呼んだ黒髪の女性で、もう一人は外国人なのか金髪の女性だった。
「あっ、もしかして結束バンドの子達ですか?私、廣井のバンドのドラムスの志麻です」
「はっ、はい!」
「ところで、後藤達也さんっていらっしゃいますか?」
「たっくんですか?おーいたっくん!」
すっかり立ち直った虹夏ちゃんから呼び出されたので、ひーちゃんを下ろして虹夏ちゃんの元へ向かう。
「私、廣井のバンドのドラムスの志麻です。うちの廣井が大変ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありません」
「あ、いえ!別にそんな........」
志麻さんに会っては頭を下げて謝られると、流石にもう訳なさを感じてしまう。この様子だと、前にメモに書いた約束は守れなかったようだね........。まぁ薄々気づいていたけど........。
「私とも仲良くしてー!イライザって呼んでイーヨ!イギリスに18歳まで住んでました!日本3年目!」
「日本に来てバンドするなんて、邦ロック好きなんですか?」
「日本にはコミケに参加したくて来たのヨー!本当はアニソンのコピーバンドしたいネ!」
(バランス...、いいのか...?)
「イライザさんアニメ好きなんですか!?」キラキラ
「たっくん!?」
イライザさんもアニメが大好きなんだ!!外国人ってアニメ好きが多いって噂で聞いたけど、本当だったんだね!!
「お〜う!達也くんもアニメ好きなんだネ〜!」
「大好きです!!それと僕の事はたっくんで良いですよ!」
「たっく〜ん!キミとはお友達になれそうネー!」
(あれ?凄く馴染んでる!?たっくん外国人にも仲良く出来るの!?)
それから志麻さんとイライザさんは準備しに去って行き、僕も虹夏ちゃんと一緒に皆んなの所へ戻る。そして開場から十分ぐらい経って既に100人か200人は客が入ってる気がする。ライブの開始までにまだまだ増えると思う...。
........あれ?そういえばリョウちゃんは?僕が辺りを見渡すと、何故か後ろの壁に寄り掛かっていた。一体何してるんだろう........。
「あ、あれはライブハウスによく居る『手前で盛り上がってるお前らとは違うんだぜ』感を出す通ぶりたい客!」
「音を聴け音を」
するときくりさんのバンドメンバーが登場して、お客さんからの歓声が上がり始めた。お客さんから熱いコールを送ると、きくりさん達の演奏が始まる...。
........なんだろう、このリズム...。初めて聴く所為か掴みどころがない...。
「たっくん、サイケ知らないでしょ」
「え、あ、うん........」
するとリョウちゃんが僕の側にやって来て、サイケという言葉に頭を傾げた。サイケって?
「サイケとはサイケデリック・ロックの略称で、1971年代に流行したジャンルでドラッグによる幻覚を音楽として体現化したもので多くのミュージシャン達とプログレロックバンドのピンクフロイトも在籍してた頃にはうんぬんかんぬん........」
「待ってリョウ!たっくんの頭から湯気が出てる!」
「うにゅ〜................」
リョウちゃんの説明に着いて行けなくなってしまった僕はフラついてしまうと虹夏ちゃんに支えて貰いました。じょ、情報量が多すぎぃ〜...。
それからもリョウちゃんのサイケの魅力を語ってる中、僕はきくりさん達の演奏を黙って聴いていた。
ーーー見失いそうになる変拍子を完璧に叩くドラムの志麻さん。
ーーー感情的な、それでいてロジカルなギターを弾くイライザさん。
ーーーそして全てを支えるベースの壁...。圧倒的なカリスマ性を持つきくりさん。
お客さん全員が釘付けになって、演奏を通して、こんなに多くの人達が一体になる...。初めて聴く音楽に慣れ始めるとテンションが上がり始める。
「かっこいい........」
やっぱり........、バンドマンってかっこいい!!
二時間近くに及ぶ、きくりさん達の演奏が終わり、お客さんがぞろぞろと帰り始めると、楽屋からきくりさんがやって来た。
「やっほ〜、私のライブどーだった〜?」
「あっ、よかったです......」
「凄くカッコよかったです!」
それを毎日続けたらきっといい人なんだろうね!
「あっ、あの...。お姉ちゃん凄く...、キラキラしてました...。私なんかとても...」
きく ひーちゃんの感想にきくりさんは『そっか』と溢す。
「......私って実はさ、高校までは教室の隅っこでじっとしてるネクラな学生だったのよ」
「........え"っ!?」
「ええええええええええ!?」
きくりさんからとんでもない発言にひーちゃんは予想外と言わんばかりの声を出す中、僕はそれ以上に驚いて大声で叫んでしまった。
え........嘘でしょ!?きくりさんがネクラ学生!?全然イメージがつかない!?
「ある時に自分の将来想像したら普通の人生過ぎてつまんねーって絶望しちゃって、真逆の生き方してやろーと思ってロック始めたの!楽器屋でベース買うのもライブハウス行くのも、最初は凄い怖かったし、酒飲み始めたのも初ライブの緊張を誤魔化す為だかんね!」
なら別に朝からお酒飲まなくても良くないですか...?
「初めて何かをするってのは誰だって怖いよ、でもぼっちちゃんは路上も箱でのライブも出来たじゃん!」
そう言ってきくりさんはひーちゃんのを取って励ましの言葉を贈る。
きくりさん........、僕は貴女を勘違いしてました...。僕、感動しました!!
「自分に自信を持って、無理なら酒飲んでドーピングしろ!」
「未成年です........」
全言撤回させて頂きます。僕の感動を返して下さい!!
折角いい雰囲気で締められそうだったのに最後に言葉で台無しですよ!ベーシスト不信が解消できそうだったのにぃ~!!
「あっ...、文化祭ライブ...。良かったら、観に来てください...」
「その意気だよぉぉぉぉ!!」ドゴッ!
ひーちゃんが勇気を振り絞ってきくりさんに文化祭ライブを誘うと、きくりさんは大声を出して壁を蹴って穴を開けてしまいました。
そして銀次郎さんから壁の修繕費+10万円加算しといたと言われると、何故か僕とひーちゃんも連帯責任って事になってしまいました。
壁蹴ったのきくりさんでしょ!?僕達を巻き込まないで下さい!!
でも銀次郎さんのお陰で修繕費はきくりさん一人に払う事になりました。銀次郎さんありがとうございます!