「ほぉ〜、ぼっちちゃんの新しいギターやっぱりかっこいいね!」
「あっ、ありがとうございます...」
とある休日に、我が家に虹夏ちゃんが遊びに来てくれた。なんでも、私とたっくんの動画を撮る所を間近で見てみたいとの事で。いや、来てくれるのは有難いけど...、急すぎない?アポ取ってきたの朝の6時だよ?
「宅録一度見てみたかったから楽しみだな〜。そう言えば、他の二人にはギターヒーローの事伝えてないんだっけ?」
「あっはい...、なんか言うタイミング逃しちゃってるというか...」
「だからって私達だけの秘密ってのは無しね?漫画だとこういう秘密からバンド解散に繋がるから」
ふ、不吉な事言わないで下さい...。あり得そうだから......。
「そう言えばたっくんは?」
「え?あっ、たっくんなら買い物に出掛けていますよ」
「じゃあ今日はぼっちちゃん一人でやるんだ」
「あっはい...。元々は私一人でやってたんですけと、私のギターでたっくんも影響受けたみたいで......」
「それで今に至るって訳か...。昔から仲が良いんだね〜、羨ましいなぁ〜そう言う兄妹愛。お姉ちゃんもたっくんみたいな性格だったら良いのにな〜」
そう言って虹夏ちゃんは後頭部に頭を乗せる。店長さんがたっくんみたいな性格.........。
『虹夏!ぼっちちゃん!今日は忙しくなるから、仕事頼むぞ!』
なんだその熱血少年みたいな感じは!?いやいやいや無し無し無し無し!!やっぱり店長さんはちょっと怖いぐらいで良いよ!
(なんか首振ってるけど......、また自分の世界に入ってるな〜?毎日これだとたっくんも大変だろうね〜)
それから動画を撮るのに必要な準備を始める。まず三脚を立ててカメラをセット。軽くギターを鳴らして準備完了。途中、虹夏ちゃんがいきなり敬語で喋ってたり、お茶を差し出されたりとなんかマネージャーさんみたいな感じになっていた。なんでだろう......、私何かした?すっごい情緒不安定なんだけど.....(自分を棚に上げていくスタイル)
それから動画用のギターを弾いて、ノートパソコンでポチポチと編集して投稿。弾いてる途中に横から圧が凄かった...。たっくんの持ってる漫画みたいにゴゴゴゴゴって感じがした...。
「これでよし...」
ふぅ、ネットでの存在意義回復......。早くコメントつかないかな...。
「やっぱりトゥイッターとかイソスタやらないの?」
隣から虹夏ちゃんがSNSでの話しを持ち掛けて来た。そんなツールに手を出してみろ。絶対にめり込んで奴が出てくるぞ、もう一人のひとりが!(承認欲求モンスター)
『呼んだ?』
呼んでない。
「あっ、そんなに興味は...」
「えぇ〜?手軽に動画あげられて、すぐ一目につくのに〜?」
「あっ、いや私、皆んながやってる事と同じ事したくないんで...。ロックって孤独なんで......」
「めっちゃ流行り曲ばっか弾いてるのによく言うよ」
流行りの曲じゃないとギターヒーローのイメージが総崩れ待ったなし!それだけは何がなんでも回避せねばならん!中学時代の二の舞はごめんだ!!
「あ、これなんてどうかな!?」
「あっ、えっ?」
何か思いついたのか、虹夏ちゃんは私のノートパソコンで何かを検索し始めて、私に画面を見せてきた。
?なにこれ?楽器の写真だけでたくさん反応貰ってる...。
「まいにゅー...げあ?」
「まいにゅーぎあだよ!」
なにそれ...、パプアニューギニアの間違いじゃなくて?
「新しい楽器や機材買ったら皆んなこうして写真あげるんだよ。高価な楽器はいいねが沢山つくね〜」
何ぃ!?写真あげるだけでこんな簡単に承認欲求が満たされるだと...!?動画投稿だとコスパ悪すぎでしょ!?
「動画投稿あげるのもうやめよう......」
「うぉーい、ギタリストとしてのプライドは無いんかいな。それにたっくんの事はどうするの」
あ、たっくんの事忘れてた......。
「やれやれ...、念の為ぼっちちゃんには怖い話しをしてあげようか...」
そう言って虹夏ちゃんは部屋を締め切ってカーテンを閉じ、一本の蝋燭に火を付けた。なんで急に!?いやなんで蝋燭持ってるの?
「怪談『my new gear』」
あるところにAさんがおりました。Aさんはハイエンドギターをローンを組んで買いました。my new gear...の呟きと共にそのトゥイートは沢山のいいねが貰いました。
しかし、その3日後...。オークションサイトにはあのAさんのギターが出品されていました...。Aさんにとっていいねが貰えなくなったギターにはもう価値なんてないのでした...。
そしてまた数日後、Aさんのトゥイッターには売ったお金で手に入れたハイエンドギターと共にこう呟かれたのです.......。
「マイニューギアァァァァァァァ!!」
「おぎゃああああああああああああ!!」
「...と、そんな話しがあったりなかったり、楽しみ方は人それぞれだけどね」
いきなり叫ばないで下さいよ!心臓が何回飛び出したと思ってるんですか!?ってかそれ怪談じゃないよね!?怖かった部分は虹夏ちゃんか急に叫んだ所だからね!?
「でもさぁ、私なら折角高いお金出して楽器買ったなら大切にするけどなぁ〜。皆んなたっくんを見習って欲しいもんだよ」
それは分かる...。たっくんも同じ答えが返ってきそう...。そう思ってパソコンの画面を見てみると、気になる所を見つけた。高い楽器を速攻で売り買いしてる...。
「アカウント、世界のYAMADA......」
「って山田ァ!!」
やっぱりリョウさんだったか...。道理で見た事のあるアカウント名とアイコンだ...。そしたら次にあげてきたのは、パックのご飯の上にワラビがのせた山菜ご飯だった。
「あいつがこんな見栄っ張りだったとは......」
流石の虹夏ちゃんもドン引きしてる......。私でも無理だ......。
「ていうかリョウ、フォロワー3,000人もいるんだね」
それにいいねが300近くついてる...。写真だけでこんな簡単に反応が....!そう言えば、お父さんのギターって一本50万近くするんだっけ?誰しも一度は憧れちゃうギターだとか言ってたような...。
「ぼっちちゃんはリョウみたいになっちゃダメだよ?」
「あ、そうですね...。ははっ................」
.......ギアりてぇ
ギアりたい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
めちゃくちゃマイニューギアりたい〜〜〜!!
『呼んだ?(二回目)』
出てくるんじゃない!私の承認欲求モンスター!!
『え〜!?写真あげようよ〜!いいねほしい〜!』
そんな詐欺みたいなのやめて!そもそも私は硬派路線目指してるの!我慢しなさい!
『やだ〜〜〜!!満たされたい満たされたい!』
ダメだ!! やめろ私の承認欲求モンスター!!それ以上、気を高めるな!!やめろ私の承認欲求モンスター!!落ち着けぇ!!
「えぇ...、何なのこわぁ...」
こ、こうなったらかくなる上......!私は頑張って押し入れを開けてトンカチを取り出して虹夏ちゃんに差し出す。
「虹夏ちゃん...、手遅れになる前に私をこれで...」
「やだよ!出来る訳ないでしょ!?」
じゃ、じゃあたっくんと一緒に買い物行ってるふたりが帰ってきたらやって貰おう!ふたりなら喜んでやってくれるだろうし!
ーーー自分の妹を殺人鬼にする気なのひーちゃん!?
がっ!たっくんの幻聴がぁ!!
「そんなに気になるなら今日だけやってみれば?一枚写真あげれば満足するでしょ?」
そう言って虹夏ちゃんはmy new gearのアカウントを作成し始める。そして10分もしないうちに完成してしまった。手慣れてるなぁ...。
「あっ、私生活が充実してる設定なのでアイコンはタピオカでお願いします」
「タピオカに信頼置きすぎてる...。ってかタピオカの写真あるの?」
「あ、はい。ここに」
私はスマホでタピオカの写真を見せる。
「へぇ〜、ぼっちちゃんもタピオカ飲むんだね〜」
「あっ、それたっくんの手作りです...」
「薄々そんな予感はしてたよ!!道理でタピオカが置いてある周辺に見覚えあると思ってたよ!!」
仕方ないですよ...、たっくん一時期タピオカにハマってたんで...。
「あっ、あとヘッダーはきらきらしてる感じの画像にしないと...」
「別にそこまでする必要ないんじゃない?たっくんはまだしも、ぼっちちゃんの場合はピンクジャージと殺風景な部屋で皆んな陽キャじゃないって気づいてると思うけど...」
尚更皆んなの理想を裏切る訳にはいかない......。大人しくしてよう...。それからたっくんのギターの写真を撮って、my new gearにあげてみる。newじゃないけど勘弁して...。
「中々いいねつかない...」
「始めたばっかだとね、リョウみたいにフォロワーいないと。地道に増やさなきゃね」
私としては今すぐ反応が欲しい...。すぐにフォロワーを増やすには、どれも影響力がないといけない。例えば...、
『ねばーぎぶあっぷ、あっ何で負けたのか明日までに考えといて下さい』
と言った、ぼっちとお正月キャンペーンや、ぼっちとじゃんけん、ぼっちとカードバトル等のインパクトのある影響力が必要!
「一層の事、ドリンクバー風呂でもしてみるか...」
「何その炎上待った無しな行動!?うちでバイオテロでも起こす気!?」
それからうちにあるギターと機材を全部あげてみると、なんといいねがたったの60しか貰えなかった。何故だ!?私の何がダメなんだ!?
「もうそこまでにしたらー?なんか時間の無駄だと思うけど」
いやまだだ!まだ終わらんよ!!いいねが...、いいねが欲しい!!
『......』ガタッ
!?しまった!?一瞬の気を抜いた所為で私の承認欲求モンスターが起き上がってしまった!
『へいへいへい、動画広告収入のお金で機材買って写真あげてもっと気持ちよくなろうぜ〜?』
な、何を言う!そもそもたっくんが何処にお金管理してるのか分からないのに!それにそのお金はノルマ代にあてる大事なお金!欲望に負けたら...、負けたら...!
『何を言ってるんだい?ノルマ代にあてるって言うけど、たっくんが許してくれるとでも?』
がっ!?た、確かに......。たっくんなら『自分のノルマ代は自分で稼がないとめっ!』って言いそう......。
『どうせノルマ代に使えないなら、いつ使うか...今でしょ!』
「ぐっ、ああああああああああああああああああ!!」
「うおっ!?どうしたぼっちちゃん!?」
どうする!?もし承認欲求モンスターの言う通りしたら、たっくん幻滅されないかなぁ?その前にギアって失敗したら私の分のお金無くなるし、それこそたっくんに見損なわれる!うわああああ!!私の一番の理解者を失いたくない!!でも私の承認欲求を満たしたい!!でもどうすればぁぁぁ!!
「コンコン、ノックしてもしもーし!ひーちゃんただいま!あっ、虹夏ちゃんも来てたんだね!いらっしゃい!!」
「おぉーたっくんお帰り〜」
すると私の部屋の扉にノック音がして、扉が開かれると、たっくんが大皿を持って入ってきた。
「あ、なら丁度いいや!実はさっきお買い物に行ったらお肉が安くて一杯買っちゃったから唐揚げ作ってきたんだ!」
そう言ってたっくんは持っていた大皿を差し出すと、皿の上には大量の唐揚げがあった。
「おぉー!!美味しそう!!しかもデカいね!」
「...?たっくん、この黒いのって?」
「ひーちゃんよく気づいたらね!それは黒ゴマだよ、アレンジで入れてみたんだ!ちなみに白ゴマもあるよ!」
「( ・p・)」ヨダレダラダラ
『(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ...』
たっくんのお陰で承認欲求が食欲に勝って、私の承認欲求モンスターは砂となった。そして揚げたての唐揚げの匂いが刺激して私と虹夏ちゃんの空腹時を加速させる。
なんか........、マイニューギアどうでも良くなってきた...。
「?何でひーちゃんの押し入れが中途半端に開いてるの?」
そう言ってたっくんのは一旦大皿をテーブルに置いて、私の押し入れを閉めようと近づく。そう言えばトンカチしまうの忘れた...。
「..........」
......?なんかたっくんが固まっちゃったけど?
「......ひーちゃん、これは何かな...?」
たっくんが何故か申し訳ない顔でこっちを向いて、押し入れを開くと、奥の壁には前に撮ったアー写が大量に貼られてあった。
.........ワスレテタ。
「(´・ω・`)」
「(´・ω・`)」
「(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ...」
「あ、ひーちゃんが...」
「......下に降りて唐揚げ食べようか」
「うん...」
それから自分の部屋で意識を失っていた私は、気が付いたらリビングで寝かされていた。其処には皆んなたっくんの作った唐揚げをモリモリと食べていた。私も便乗して唐揚げを頬張ると、口の中がジュージーで肉汁たっぷり。お姉さんじゃないけど、幸せスパイラル状態だった。いつも食べてる唐揚げより今日のが今まで美味しいかも...、なんなら虹夏ちゃんなんてパックに入れて持ち帰ろうとしようとするまでだ。
翌日、バイトでmy new gearについて話して、お金を使おうとしたのをうっかりボロ出したら...。
「やってもいいけど、それで失敗したら一か月お小遣いなしだからね♪」
と言われて戦慄した。踏み止まって良かった...。最近金欠気味だったからほんと良かった...。当分はmy new gearは手を出さないでおこうと心に誓った。
そして、昨日あげたmy new gearのコメントに『演奏動画あげて下さい!』だの『写真ばっかりあげてるけど練習しないの?』だの書かれたので更にやる気が無くした。
それから、私がmy new gearに手を出す事は無かったのだった...。