「ドリンク代五百円です!今日はどのバンドを見に来られましたー? よかったらフライヤーもどうぞー!」
「そうそうそんな感じ! 喜多ちゃんうまいねー」
「私、人と関わるの大好きなんです」
喜多さんをスターリーに連れて来て数分後、喜多さんは接客の練習をしていました。
しかもメイド服で
どうして喜多さんが接客の練習をやっているのかと言うと、事の発端は数分前の事です。
〜数分前〜
「あー!逃げたギター!」
「あひいいいいいいいいいいいい!!」
「こら虹夏ちゃん!事実だからって大きな声で叫ぶんじゃありません!!」
「ひやああああああああああああああああ!!」
僕が余計な事を言ってしまった所為か、喜多さんがまるでひーちゃんのような奇声をあげてしまった。
「あぁごめん!ごめんね喜多さん!」
「あれ」
僕が慌てて喜多さんを励まそうとすると、リョウちゃんがエナジードリンクを飲みながらやって来た。
「あああ........、あう...、リョウせんぱい...」
すると喜多さんは涙目になって、突然土下座し始めた。
えぇ!?喜多さんどうしちゃったの!?
「何でもしますからあの日の無礼をお許しください!どうぞ私を無茶苦茶にして下さい!」
「そんな事しないから誤解を招く言い方やめてよ!」
それから喜多さんをスターリーの中へ連れて行って、事情を説明する。虹夏ちゃんとリョウちゃんは怒るどころか、凄く心配していたようだ。まぁ音信不通になってれば心配するよね。
でもリョウちゃんが喜多さんの事を死んだかと思ってお線香あげてた事言っていたので、僕が少しお説教しました。ダメでしょ!勝手に殺さないであげてよ!
「な、何か罪滅ぼしさせて下さい!私の気が収まりません!」
「そんな事言われてもなぁ........」
やっぱりまだ罪悪感か残ってるのか、喜多さんは罪滅ぼしを要求する。でも喜多さんに出来る事って何かあるだろうか........。
「じゃあ今日一日ライブハウス手伝ってくんない?忙しくなりそうだから」
「そ、それだけじゃあ........」
「じゃあ恥ずかしい格好して貰おう」
そう言って店長さんが持って来たのは、何故かメイド服だった。何でメイド服があるんだろ?
此処ってライブハウスだよね?メイド喫茶にジョブチェンジしちゃった?
それから喜多さんはメイド服に着替えて、虹夏ちゃんから接客の練習を受けて始めました。
〜現在〜
「あいつ臨時なのに使えるな」
「喜多ちゃん手際良いね〜」
「惰眠に貪る時間まで出来てしまった」
「時給から引いとくな」
あ、ああ........。まずい、非常にまずい。喜多さんがメイド服を着て接客なんしたら、私の数少ないアイデンティティが喪失してしまう...!
な、何か........!何か名誉挽回のチャンスがあれば........!
................そういえば、さっきからたっくんが見当たらない。何処へ行ったのだろうか......。
「ひーちゃん!見て見て〜!」
すると、たっくんの声が聞こえた方へ振り向くと、私は即座に可燃ゴミ箱に入ってしまった。それもその筈、
たっくんがメイド服に着替えて来たからだ。
↑たっくんのメイド服着用イメージイラストです。
(※あくまでイメージです!!そこの所ご了承下さい!)
アイエエエエ!?タックン!?タックンガメイドナンデエエエ!?
「なんでひーちゃんゴミ箱に入っちゃうのさ!?」
「そ、そそそそそそそれどうしたの!?」
「これ?実はメイド服着てみたいなーって言ったら、PAさんに貸して貰ったんだ!どうかな?似合う?」
似合うに決まってるだろっ!!最高かよっ!!
「それはそうと!ひーちゃんゴミ箱から離れなさい!ばっちぃでしょ!」
そう言ってたっくんが無理矢理私をゴミ箱から引き摺り出そうとしてくる。や、やめろたっくん!これ以上は私が惨めになる!!
「ああああ!!たっくん可愛い!!」
「後藤くん凄く似合ってるわ!後で写真撮らせて!」
私とたっくんのやり取りに気づいたのか、虹夏ちゃんと喜多さんがたっくんのメイド服姿を見て、目を輝かせながら歩み寄って来る。そりゃそうでしょうね!元々凄い美少女(ただし男)なのにメイド服を着たらさらに破壊力が増しますよね!
........あっ、よく見たら店長さんがこっそり携帯で写真撮ってる。
「えへへ〜♪お仕事が終わったらね♪」
たっくんもノリノリじゃないですかヤダー。これが陽キャの会話なのか!?陽キャの壁高過ぎじゃない!?成層圏並みに高過ぎでしょ!?
「たっくん、それどうしたの?」
リョウさんが珍しく質問して来た。やっぱりリョウさんも少なからず気になっていたみたいだ。
「これね!PAさんに貸して貰ったんだ!」
「成る程、ならたっくんのブロマイド写真を撮って小遣い稼ぎでもするか」
「するな!」
「んも〜う、リョウちゃんはズル賢いんだから〜」
ブロマイドなんて売ったら即完売の未来しか浮かばない...。それこそ芸能界に声掛けられても不思議じゃない!
「さっ!早速お仕事始めよっか!ひーちゃんは喜多さんにドリンク教えてあげて?」
「あっ、うん!」
そう言ってたっくんは奥の方へ行ってしまった。
き、きた!名誉挽回のチャンス到来........!此処でビシッと決めて、良い所を見せる!
そう意気込んだのは良いもの、喜多さんに見られる思うと緊張してまともに教えられない。
「あっはは...、へへ...」
「後藤さん溢れてる溢れてる!!」
喜多さんにドリンクを教えてる途中に、コップから熱湯が溢れてる事に気づかなかった。私も直ぐに気がつくと、喜多さんが慌ててハンカチで手を巻いてくれた。
「大丈夫?大体分かったから、後藤さんはもう休んでて?」
ハイスミマセン、イキッテスミマセン。
(........?この指........?)
喜多さんの手に触れて、違和感を覚えた。もしかして........。
「そういえば、後藤さんって何でバンド始めよう思ったの?」
「え........」
喜多さんの質問に言い淀んでしまう。インドア趣味なのに派手でカッコいいし、人気者になれるし........。なんて言えない!動機が全部不純過ぎるんだもん!!
「あっ、世界平和...。世界平和を伝えたくて........」
「意識高いのね........。もしかして後藤くんも?」
「あっ、たっくんのはがっつり趣味です」
「趣味!?」
だってたっくんは私の夢を応援する為にギター始めたから、実質趣味みたいなもんなんですよ。
「あっ、そういえば喜多さんって、リョウさんに憧れて始めたんですよね...?」
「うん、先輩の路上ライブ見て一目惚れしたの。ちょっと浮世離れしてる雰囲気とか、ユニセックスな見た目とか、何より楽器が様になってるのよね」
あっ、分かります。私が持つとどうしても楽器に待たされてる感じがあります。どうやったら楽器に舐められないのかな........。
「前のバンド抜けちゃったみたいで、今のバンドでメンバー募集してたから入ったんだ。バンド自体にも憧れあったし」
「憧れ........」
「バンドって、第二の家族って感じしない?本当の家族以上にずっと一緒にいて、皆んなで同じ夢を追って...。友達とか恋人を超越した不思議な存在だと思うのよね」
喜多さん........。
「そう...、私は結束バンドに入って先輩の娘になりたかったのよ...。友達なんてイヤ!」
さっきの感動を返して下さい。もしかして喜多さんって結構ヤバい人?
さてさて、今日のアルバイトが終わって、解散する時間になりました。あっ、メイド服はPAさんに返しました。洗って返そうと思ったけど、そのままで良いとの事で。
「今日はありがとうございました。これからもバンド活動頑張って下さい。影ながら応援してます。それじゃ」
「きっ、喜多さん!」
喜多さんが一礼して、お店から出ようとすると、ひーちゃんが大声を出して喜多さんを引き止めた。
「あっ、ちょ、まっ....、まっちょ、帰らな........」
「ひーちゃん落ち着いて!」
「待ってあげるから!ゆっくりでいいから!」
いきなりひーちゃんの行動に僕は驚いた。まさかひーちゃん........、喜多さんを説得するつもり!?
あぁ........、ひーちゃん........!なんて成長ぶりなんだ!!僕感激して涙出そうだよ!!
「ほっ、本当にそれで良いんですか...?さ、さっき喜多さんに手当てして貰った時、指の先の皮が固くなってました。そ、それはかなりギター練習しないとならない筈です...」
なんだって!?僕も喜多さんの手に触れた事あったけど全然分からなかったよ!やっぱりひーちゃん凄い!........でも手当てして貰ったってどう言う事!?
「逃げ出したって言ってるけど、本当は練習したいんですよね...?本当はバンド続けたかったんじゃないんですか...?ま、前にたっくんに言ってたんです...。『やりたい事を思いっきりやる為には、やりたくない事も思いっきりやんなきゃいけない』って........」
「........っ!」
「もっ、もしかしたら楽器を弾くのは人より苦手かもしれないけど、どっ、努力の才能は人一倍あるから大丈夫です...」
「ひーちゃんの言う通り!そして何より喜多さん、一生懸命に頑張っるってのはね、楽しいんだよ!」
「後藤くん........」
「私も喜多ちゃんにこのバンド盛り上げるの手伝って欲しいな!」
「ギターが二人や三人増えたら音が賑やかになるし、ノルマも四分割」
リョウちゃん!もっと素直な言い方しなさい!!
「先輩のノルマ...、貢ぎたい!」
「喜多さん!?」
それだと爛れた関係が爆誕しちゃうんだけど!?
って今はそれは横に置いておいて........。
「喜多さん、僕からもお願い。もう一度結束バンドに入ってくれないかな?僕もギターボーカルとして頑張りたいし、ひーちゃんと虹夏ちゃん、リョウちゃんと........。喜多さんと一緒にやりたいんだ。この五人で、やろう?」
「後藤くん........。...うん、頑張る!結束バンドのギターとして!」
喜多さんは涙ながらにそう語ってくれた。良かったね、喜多さん。
「やったねひーちゃん!」
「........うん!」
「あ、でも先輩達、今のパリピ路線バンドはやめた方がいいですよ? 毎晩、踊り狂ってるんですよね?」
「パリピ路線!?」
「何処情報!?」
パリピ路線って何!?一体何の事!?
........まぁ、喜多さんが元に戻って良かった...。
「ひーちゃん、よく頑張ったね!偉い!」
「わ、私は別に何も........」
「ぼっちちゃん!今日一番の功労者だよ!」
「ぼっちのお陰で復活出来た。よくやった」
「後藤さんありがとう!後藤くんもね!」
「あっ、いや私なんか全然大した事........、うへへ...」
よっぽど嬉しいんだねひーちゃん!顔に出てるよ!
「あっ、そういえば喜多さん。ギター持っていたよね?ちょっと見せても良いかな?」
「私のギター?いいわよ」
そう言って喜多さんはギターケースを開いて、ギターを見せて貰う。
「私いくら練習しても本当にギター弾けなかったの...。何かボンボンって低い音がするのよね...」
........ボンボン?というかこれって........。
「喜多さん、それベースじゃない?」
「あはは、私其処まで無知じゃないって!ベースって弦が4本のやつでしょ?」
「弦が6本のとかもあります...」
「それ多弦ベース」
「」
「あ、そうだ。リョウちゃん、一つ聞いていいかな?」
「何?」
「ベースとギターって何が違うの?」
「「いやたっくん分からなかったの!?」」
ふぇ?やっぱり違うの?
「ふふふ........。ならばこの私が教えてしんぜよ...」
やっぱりベースとギターって違うようだ。僕もまだまだ勉強不足だね!!
「ロ、ローンあと30回残ってるのに........。あひゅう........」
「き、喜多ちゃああああん!!」
喜多さんの顔がどんどん絶望的になっていき、最終的にはあたまから魂が出て来ちゃう始末だった。喜多さん凄いね!まるでギャグアニメみたいだよ!!
ってそんな事言ってる場合じゃなーい!!
「喜多さんしっかりして!大丈夫!?ど、どうしたら良いかな...、頭撫でたら元通りになるかな?」ナデナデ
「ひぇ〜........」
ああああああ!?喜多さんが真っ白になっちゃった!?もう〜どうしたらいいの〜〜〜!!
たっくんのメイド服着用イメージイラストですが、あくまでもイメージです!!(二度目の警告)