トッピング【ボーボボ】   作:立ち飲みペンギン

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※後編はギャグ少なめ。微妙にシリアス。

 当作でのチェンソーマンキャラをボーボボに無理くり当てはめると。

岸辺 ボボボーボ・ボーボボ
 ガタイの良さとしぶとさから。
デンジ 首領パッチ
 破天荒さではどっちもどっち。
パワー ビュティ
 ツッコミ、ギャグどっちもイケる万能選手。
アキ ヘッポコ丸
 真面目な奴ほど弾けるとやべーことになる。
姫野 ポコ美
 一見まともさんだけど岸辺センセのお弟子さんなんですよ。
コベニ ところ天の助
 良いとこだけかすめ取ろうとして失敗しそう。
天使の悪魔 ソフトン
 ギャグの外側に位置するのに存在自体がふざけた方々。
※外見性別不詳。子供が棒の先に付けて遊ぶアレ。

マキマ 田楽マン
 周囲に滅多打ちにされるキャラといえばこ奴。しぶとさも随一。
??? ブブブーブ・ブーブブ
 上記との絡みで。

その他の皆さん 各自お好みで
 思いつきませんでした。ごめんなさい。


後編

 口元の血を拭ったボーボボは切り札を切る決意をした。

「こうなったら、あれしかねえ」

「やるか、ボーボボ」

 首領パッチもあちこち棘が折れた痛々しい姿ながら、目は死んでいない。声に力があった。

「俺もやるぜ!」

「いや、天の助は留守番」

「留守番!?」

 驚愕のあまり揺れなくなったところてんを放置し、ボーボボは力をふり絞った。

「鼻毛真拳究極奥義! ボーボボフュージョン!」

 ボーボボの周囲から謎の逆風が吹き荒れ出す。

 マキマは慣れたもので死んだ目で推移を見守る構えに入った。だが、手首は程よく脱力している。隙あらば彼らのハジケの矜持事スマッシュする構えだ。

「食え。ボーボボ」

「おう!」

「ぎゃああああ」

 飴玉にトランスフォームした首領パッチがボーボボの口へ飛び込めば、容赦なく飴玉をガリガリ噛み砕く。伊達に馬鹿をやって来た仲ではない。同士討ちなど日常茶飯事だ。

「助け……いってえええ!」

 茶飯事……なのだ。

「歯ごたえ抜群。だがトッピングも必要か」

 元気に悲鳴を上げる相方にボーボボはご満悦だ。しかし、マキマに因縁を食い込ませるにはもう一手必要。

 岸辺は素晴らしき共犯者だが、大義を背負いすぎている。もう少し、小さなスケールで立ち向かう馬鹿が欲しかった。

 ボケ倒すのは一人でもできるが、一緒に踊れば世界がハッピー。

 幸い、突っ込みもシカトもこなせる彼女をただの仇役に貶める要素はすぐ近くにあった。

 そう! 彼こそは!

「出番だ主人公!」

 アフロからマジックハンドが飛び出した!

「俺ェ!?」

 ダンスマスターコベニの後ろで屍をやっていたデンジは迫りくる腕に思わず、死んでる場合じゃねえ! と胸の穴をガムテで塞ぎつつ飛び起きるも、足元でふて寝していた天の助に滑り、取っ捕まった。

 プルプル野郎の留守番には意味があったのだ! しばらく出番ないけど!

「ウソだろ!?」

 地の文への茶々入れは厳禁です。

「ぐばあっ???」

 謎の空間攻撃を喰らったところてんが目を白黒させるのを他所に、アフロ男は悲鳴も上げなくなった首領パッチ飴を呑み込み、意気込みを上げる。

「行くぜ!」

「俺死んでるんですけどおおおお!」

 いや、んな元気な死人いるわけないじゃん。デンジは誰もがそう思う悲鳴ごとアフロに呑み込まれていく。

 助けを求めるように最後まで伸ばされた腕が吸い込まれると、アフロは蛇みたいに二つに分かれた舌を出し、げっぷした。

「じっと待っていなくてもいいですよね」

 ここだ。

 生物の隙の一つ、捕食後の弛緩を見抜いたマキマはハエ叩きを竜巻の向こう側へ躊躇いなくうねらせた。

「え」

 だが、必殺の武器は竜巻から生じた腕に先端を掴まれると、ガラス細工のように砕けた。

 唖然とマキマが見守る中で、風が薄れ、内部の人物が視認できるようになる。

「……デンジ君」

 葬った相手の復活を知った彼女は機嫌を急降下させた。

 デンジまんまの姿に、オレンジ色トゲトゲへアー。心なしか体格も良くなっている。変身を遂げた彼は高らかに名乗りを上げた。

「完成! デンパッチ!」

 ちゃらりー。

 安っぽい電子音がバックで鳴った。

「ボーボボ要素どこ!?」

 最高得点を叩き出したバーガー定員がきっ、と振り向き、顎に指でV字を沿えたカッコつけな少年を鋭く指差す。

「靴だ」

「分かりづらい!」

 主人公交代!? いや、もとからどっちも主人公!? 混乱しきったコベニはパーフェクト達成を称える画面背後に劇画調で訴えた。

 

 戦いのゴングは延び延びになっていた予定の消化から始まった。

「デンジ君。江の島旅行へ行こうか」

「マジっすか。行きます!」

「うん。行っておいで」

 マキマの背後で鎖に縛られたデビルハンターたちが能力を行使する。蜘蛛の悪魔の転移を起点に、蛇の悪魔が大量の骸骨めいた人影を吐き出す。無数の腕にぶん殴られて、デンジは流星になった。

 そしてすぐ帰ってきた。並んで通りから近づいてくる影はなぜか三つに増えていた。

「おやつは三百円までって言っただろ」

「いーじゃねえか喰っちまえば」

「そーじゃ。ちょんまげは大統領のワシに命令するでない」

「「いや大統領制度はこの国にないから」」

「なんじゃと……」

 デンパッチと肩を並べるのは、後頭部にちょんまげが結わえられた苦労系イケメンに、血の色の角が生えたおこちゃま魔人だった。

 スーツを着こんだイケメンが、遠足のお約束を丁寧に言い聞かせれば、パーカーをワイルドに着こなすおこちゃまが角をにゅっと伸ばして抗議、直後デンパッチと二人掛かりの常識アタックをくらっていた。

 誰なのか脳内照合を済ませたマキマは苛立ちを瞳に乗せた。独裁気質が計画倒れを容認できないと内心で波を立てる。

「どうして二人が生きているのかな」

 遥か高所から見下ろす支配者と、アホ面をした回答者の視線が交錯する。

「砂浜掘ったら出てきました」

 デンパッチは常識の外で生きている。ハジケリストの表層を理解したつもりでも、下には下がいる。死体利用権力系ヒロインには理解できるものでもない。

「デンパッチ流究極奥義『生生世世(ま、いいか。よろしくなァ!)』だってさ」

 タバコ加えたイケメン系眼帯お姉さんが、バカ騒ぎに便乗してやってきた。訳知り顔で原因を説明すると、ぷわーと煙で器用に輪っかを浮かばせる。

「やっ。アキ君。デンジ君。パワーちゃん」

「お久しぶりです」

「よー、姫パイ。何か月ぶり?」

「オヌシ、出待ちしておったろ。ワシの目は誤魔化せんぞ」

 パワーの鋭い指摘を誤魔化すように、姫野が奢るよと、硬貨を自販機に入れる。サンタクロース襲来で死んだ者たちが、自販機の取り出し口から膝を抱えて転がり出てきた。

「拾い食いはしていませんか?」

「どこやここ?」

「チェンソー様、最高!」

「コベニちゃん。転職したんだね」

 デンジの私生活を監督したがった眼鏡は石の悪魔に契約内容の見直しを訴え、スバルは肩が凝ったと腕をぐりぐり回す。サメの魔人は地面に潜り込んで崇拝対象の一メートル後ろに背びれを浮かせた。暴力の魔人はペストマスクめいた仮面からでも分かるやさしみを溢れさせ、エプロンで涙を拭うコベニを嬉し泣きさせていた。

 姫野はお茶目に頭を掻いた。

「あちゃー、フィバーしたよ」

「ワシもやる!」

「もちろん俺も!」

「姫野さんどころか地獄で殉職した人たちまで」

 デンジのような特例を除き、不可逆の死が曲げられている。有り得ない現象に警戒を強めるマキマの眼下では復活フィーバーを巡ってジャンケン大会が始まっていた。

 

 ジャンケンで負けた姫野はマキマを見て、挑戦的に笑った。

「行け! ゴースト!」

 不可視の拳がビルの外壁を這うように迫ってくる。

 種の割れた手品など怖くもない。マキマは天敵になりうる蛇の悪魔で迎え撃とうとして鎖の先がないことに気付いた。「てめーほらホントによー」

 繋いでいたはずの女性は蛇の悪魔にヘッドロックを掛けていた。民間デビルハンターの沢渡アカネだった。

「よっくも私の頭ポリ〇キーしてくれやがったなぁ」

 手足のないサンショウウオに似た蛇の悪魔がもがいていた。巨大な口が無数の組んだ腕で牙を表現する不気味な悪魔なのに、締め上げる女性のほうがよほど悪魔っぽい形相だった。

「秘密なんてねーんだよ! ああん!?」

 小心な学生から小遣いを巻き上げるチンピラのように悪魔の頭をガタガタと揺らす。

 蛇の悪魔はもうだめだった。一つがダメでも次はどうか。解決手段を模索してマキマが手繰った鎖はことごとく空を切る。

 気付けば頭を下げるスーツの面々が並んでいた。銃撃事件や、世界各国の刺客対策で散っていった公安の精鋭たちだった。

「あ、マキマさん私たち京都帰りますんで」

「ホント特異課はまともなやつがおれへんなー。アキ君気ぃつけや」

「はい。ありがとうございます」

 鎖をチェーンカッターで切った早川アキに感謝して面々が去っていく。いつの間に背後を取られていたのか!?

「皆死んでいたのに」

 ゴーストの拳が頬にめり込む。一発いいのを貰ったマキマは意識が明滅する中思った。

 

「ワシが大統領じゃ!! ……いや、大統領は一人しかなれんのじゃった……」

 そして、再度踊り出したコベニを眺めていたチェンソーマンの口から臓物を覗かせた黒山羊頭の悪魔が這い出てきたが、魔人の自分を見てすみやかに引っ込んだ。普段常識なにそれの彼女でも、大統領が一人だというべきなのは配慮に入っている。変なところで知恵が働く彼女はもしかすると一番の貧乏くじを引くのかも知れなかった。

 

 高所から落下させられたマキマは土埃をはたく。契約で損傷はどこかの誰かに移ったが、服や汚れはその限りではない。ぐいと口元を拭えば、袖口をシロップではない紅が濡らした。

「死者と生者の境を曖昧にするなんて」

「そんないいもんじゃねーっすよ」

 支配者の覇道を阻む勇者のようにデンパッチは彼女に向かい合っていた。

 誰も彼も、次々マキマの支配を外れていく。悪魔の力の適用範囲が広すぎた。終末の四騎士たるマキマですら、世界を支配するのに随分と犠牲を出したのに、ハジケリストどもは馬鹿を感染させて世界を書き換えている。

 今日の敵は今日のハジケ。明日にゃみんな乱痴気騒ぎ!

 実にふざけていた。

 だが、デンパッチはデメリットもあるのだと言う。

「所詮こいつはハジケリストの悪魔の夢。奥義を解いたら、元に戻っちまいます」

「つらい過去にこだわっても仕方ないよ」

 都合の良い希望などないのだと、マキマは真理を説く。片方に何かを乗せれば、もう片方が浮いてしまう。釣り合いの取れない天秤。それを現実と言うのだ。

「俺、少年漫画の主人公なんで。後に何も残らなくても、歯ァ食いしばらなくちゃなんねえんすよ」

「そう。なら素手で殺してあげる」

「能力なしっすか」

 少年漫画らしく、タコ殴りにして滅ぼしてくれる。マキマの思惑を受け取ったデンパッチはチェンソーを駆動させ、ファイティングポーズを取った。

「いや、普通に寿命与えて復活させられるから」

 一大決戦開始! の前に、褐色肌の村人に胴上げされながら海パン姿の天使が余計な一言を挟む。

 マキマはつんのめった。

「あなたの能力は奪うだけじゃありませんでしたか?」

 問われた天使はうーんと小首を傾げた。突然できるようになったことに理由を見出そうとしばらく悩み、「ハジケリストって凄いね」いい加減すぎる回答を寄越した。

「馬鹿になれば大体のことができる。能力を反転させて、吸い取った寿命を与えたりね」

「融通がきかないからあなたは他人に触れられなかったのでしょう? まともに考えてください」

 知能指数低下程度で悪魔の生態と結びついた能力がバージョンアップできるなら苦労しない。マキマは呆れた。

「脳みそフル回転でこの答なんだよ」

 「馬鹿ってことは俺の後輩か!」とハジケ的先輩風を吹かせたがるデンパッチに「いや、僕の方がデビルハンターの先輩だから」と牽制しつつ、頭のわっかを指先で回転させてうそぶく。村人から南国の花輪を首にかけてもらった天使はご満悦だ。

「よしんば寿命の譲渡が可能でも、分け与える寿命が足りないのでは?」

「総理との電話で、日本国民の寿命を好きに配分してもいいって契約して貰ったよ?」

「はい?」

 マキマは素で驚いた。日本国の総理は彼女の身代わりに日本国民の命を差し出しはしたが、引き換えに齎される被害以上のモノを入手するしたたかさがあった。ハジケリストなる胡散臭い輩と契約するはずがないのだ。

「そこに電話ボックスがあるから」

「小銭どうぞ」

「あ、うん」

 いつの間にか出現した電話ボックスへデンパッチからもらった十円片手に入る。

「もしもし、総理ですか? マキマです。天使の悪魔が有り得ない契約を結んだと言ったのを耳に挟んだのですが。……え。嘘じゃない、ですか? これからの時代は男の娘? 正統派美女もいいけど変化球で特色を出していくべき? ちなみに、更新期日迫っていたから君との契約天使君の分とすげ替えた? 何言っているんですか総理? 契約に期限切れはありませんよ? ……そうに違いないんです。……総理? もしもし? 総理? 切らないで下さい!」

「とりあえずサムライソードから全部引き抜くかな。寿命無限だし」

「ああああああああ」

「モミアゲ! しっかりしろ!」

 折角地球帰還したのに、無慈悲な天使に目をつけられた犠牲者一号の断末魔がボックスを揺らす。

 マキマは外の喧騒を遠い世界の出来事のように聞いていた。

 有り得ない方法で不死性を無効化された。

 総理との会話を反芻し、受話器を取り落とす。通話終了のツーツー音がやけにボックス内に響いた。

 

「やります? 最終決戦」

「やる」

 デンパッチの気遣いにマキマは拳を作った。勝って、チェンソーマンを支配下に置いてハジケリスト共を存在ごとなかったことにしてみせる。本気でそう思っていた。

 

「武器がないと締まらないよな。せめてハンマーでもあれば」

「沼ラーメンならあるよ」

 姫野は辺りを探す彼に、どこからか取り出した怪しげなラーメンを渡した。

「おお、ハンマーラーメン! これなら!」

 ドンブリを肩に乗せ、マキマの頭を狙う。

「沼ラーメン……ハンマァァ!」

「えい」

「へぶっ」

 軽いジャブで器ごとひっくり返される。

「うばああ。ゲロまずラーメンが目と鼻にぃ!」

 食を大切にするアキですら吐き出すラーメンの汁に侵され、デンパッチは春巻きのようにぐるぐる回って悲痛に悶えた。

 

「負けた」

「いや、当然じゃろ」

 いじめっこに敗北したガキンチョのようにべそをかくデンパッチにパワーの辛辣な指摘が突き刺さる。

 彼女の見解こそがただ一つの真実だった。

 

「もういいかな。チェンソーマンがいないデンジ君にかまっているほど暇じゃないの」

 一撃入れたマキマはシリアスの女王の威厳を取り戻しつつあった。今ならもう一回世界征服を完了できそうな気配すら醸し出している。

 一気に不利な空気になりデンパッチは呻いた。

「せめてブレードがあれば……!」

「おんなじことになる気がするがのぉ」

 パワーは腕を頭の後ろで組んで呆れる。

 しかし、頼れるお兄ちゃんは違った。

「期限切れの食パンならあるぞ」

「食パンブレードじゃん! アキ! でかした!」

「チョンマゲ!?」

「パワーが指ぽっちゃんしたジャムも付けてやろう」

「すげぇ! ブルーベリーじゃねえか! インテリジェンスが上がっちまうぜぇ!」

「ワシがジャムを指で掬って舐ったじゃと! そんな事実はない! デンジじゃ!」

「なら、その口周りはなんだ」

「ハッ!?」

 ぎゃいぎゃいと正当性を主張していたパワーが押し黙ると、デンパッチは我の番だと勇み立った。

「ジャムをたっぷり塗りまくって~。最強パン! 出来上がりだぜ!」

 デンパッチはどこが武器なのか疑わしいジャムが山になった食パンをこしらえた。蕎麦屋さんの配達スタイルでマキマにぶつけようとする。

「この一撃で殺してあげる」

 おっととと不安定に揺れるバカに、マキマは必殺の気合を込めた拳を送った。

 支配の悪魔が引き絞った拳が胴を穿つ寸前、デンパッチがパンを縦に構えた。当然落ちるジャム。マキマの拳が風を巻き、ジャムを弾き飛ばす。しかしそこにオレンジ髪の青年はいない。既に彼女の背後にいた。

「全粒粉スラッシュ。空蝉の型!」

 残心したデンパッチが食パンブレードを下ろす。

「うっ」

 一拍置いて必殺技を反応すらできず受けたマキマが崩れ落ちる。連動するように空が割れ、雲一つない快晴になった。

 さんさんと照りつける太陽の下でデンパッチは童のように喜んだ。

「勝ったー」

「ウソじゃろ!?」

 パワーはデンジともう一人を轢殺した時みたいに大口開けて驚いた。

「勝つのは自然な流れだ。全粒粉は体にいいからな」

「最強パンと関係は!?」

 うんうん。保父さん目線で食育を語るアキに、パン初心者のパワーは混乱した。

 全粒粉だの健康志向だのは彼女に早すぎる。食べ物が美味ければ、ワシ幸せと嫌味なモミアゲに反論できる単純さが仇となっていた。

 主導権を取り返さねばと、普段使わないインテリヘッドが唸る。

「いよっし、第一部完! 焼き肉行くか!」

「肉は全てワシのモノじゃ!」

 しかし、合体解除したデンジが取り出した焼き肉割引券の束に理性を飛ばした。

 

「もういや……」

 マキマはうなだれていた。ジャム塗れのパンで斬られて負けたのだ。気分がそう簡単に戻るはずもない。

 傷跡はそこらに散らばるハジケ共の血で治ったが、心の傷は塞がってはいなかった。

 得てしてそういうときほど追撃が来るものだ。

「「「「シュッシュッシュッシュッ! シュシュシュのシュッ!!!」」」」

 止めを刺しにか、機関車ごっこでバカどもがやってきた。

 アフロとイガイガが傷など忘れたと元気いっぱいに寄ってくる。

「変なところでナイーブだな」

「二部でやっていけないぞ」

 支配の悪魔の目に光が灯った。天敵はいつだって生き物の本能を呼び起こす。

「あなたたちのせいですよ」

 ある程度は調子が戻ったが半ばただのやけっぱちだ。合体解除したボーボボと首領パッチが野次るのに、打ち返す言葉も力がない。

「人のせいにするのは半人前の証拠だ」

「ほら、地獄直行便の切符。ぬ、の透かし入り包みに入ったところてん弁当もつけるよ」

 やはり再生した岸辺がさらっとマウント取ってくれば、天の助はオブラートにサヨナラ! させに来た。

「いりません」

「受け取らないと、田中脊髄剣! して貰えないぞ」

「私田中じゃありませんので。そもそも、脊髄剣って死んでますよね」

 一同はぴゅーと口笛を吹く。

 デンジの新しい家族はナユタなのだ。黒髪のちびっこなのだ。ほら、在庫整理ってあるじゃん?

「誰も味方がいない」

 十割自分が原因でもメタクソになったら、庇ってほしいものだ。だが、周囲との対等な関係を築いてこなかった彼女には特定の味方がいない。

 それでも、拾う神はいるのか、ワンと聞きたかった声が届けられる。

「チェンソーマン?」

 彼女の前にやってきたのは回転刃が鼻先から出ているオレンジの犬っぽい生き物。ポチタと呼ばれるチェンソーマンの一形態だった。

 ニコニコした顔つきで、バカみたいに尻尾を振っていた。

「私を迎えに来てくれたのですか?」

 本当につらいタイミングで好きな相手に会った。これだけで運命を感じるのに不足はなかった。

 しかし、現実は厳しい。

「ペッ」

「あっ」

 抱き寄せようと伸ばした手に、ブルドック染みた、けっ、の顔つきになったポチタが唾を吐き捨てた。

 支配の悪魔は、デンジへのアプローチから分かるように割と恋愛少女的な面がある。ゴミ扱いはきつい。マキマは心がポッキリと折れる音を聞いた。

 

「ポチタ。焼き肉行くぜ」

「ワン!」

 威嚇顔から甘え顔へ百面相したポチタが去っていく。

 膝をついて、足元の石ころを数えだしたマキマのもとに人影が差した。

「何の用?」

 デンジだった。

 人間性を否定する深さで心を抉ったのに、まだ彼女に笑いかけてきた。

「ガラガラくじで余った景品らしいんすけど、良かったら来ません?」

 お大臣っつーらしいっすよこれ。扇状に広げた割引券を見せてくる。

「ワシはマキマが来るべきでないとお告げを聞いた!」

「お告げの悪魔はまだ地獄にいると思うけど」

 すかさずパワーが遠回しに拒絶するも、マキマが瞬時に撃墜する。ナニナニと他の面々も寄ってきた。

「私ぃ、マキマさんに絡みたいことたっぷりあるんだぁ。ね、アキ君」

「いや、俺はあんまり」

「うわ、性根もイケてる!」

 雰囲気に酔った姫野が悪絡みしようとして、アキに惚れなおす。

 マキマはわちゃわちゃし出す周りに波紋を落とすように呟いた。

「どうして」

 いろんな意味の籠った「どうして」だった。それにデンジは竹でも割るように返す。

「俺からマキマさん誘うってしたことなかったなって思いまして」

 デンジは居住まいを正す。これから関係性を新たに始めるのだと意気込みを注入した。

「改めて言います。俺と焼き肉食ってください」

「デンジ君」

「はい」

「これ、期限昨日までだよ」

 間違い防止のためか、チケットは全て、ジョーク品であると両面に赤インキの記載があった。

「ウソォ! 恥ず!」

 足元ならぬ手元がおろそかになっていた勇者は、恥ずかしそうに顔を覆う。

 好意も失敗もありのまま。どこまでも自分を隠さない彼にマキマは肩を軽くすくめた。

 初対面の日。パーキングエリアで伸びたうどんを手ずから食べさせて上げた。冷めてコシもないだろうに、気遣いからかデンジはおいしいと表情を綻ばせていた。

「デンジ君は健気だね」

 かつて在った平穏なひと時。その日と若干ニュアンスを変えた評し方。

 込められた意味は彼女にしか分からない。

 きっとそれで良かった。

 

 結局、もろもろのお詫び込みでマキマの奢りになった。

 

「めでたし。めでたし。ですね」

「オヌシ誰じゃ!?」

「中村です!」

 ちょっとおセンチになりそうな背後では、眉毛の濃い短髪野郎がカットインしたのにパワーがひどく狼狽していた。

 

 

 

 最終的に、皆バカになって、世界は救われた。

 悪魔の前で一芸披露すれば大体地面にぶっ刺さった大根のような犬神家状態になるので、こぞってお笑いが広まった。

 人種も宗教も、わだかまりも全部飛び越え、誰もかれも笑った。

 天使の悪魔は笑いすぎて地獄に生まれ直してまた帰ってきた。

 デンジは世界一おもしれー男としてギネス記録を作り、ポチタは胃の中に詰まった悪魔どもを吐き出してギャグに沈め、戦争の悪魔を泣かせた。

 アキと分離した銃の悪魔すら今では水鉄砲の悪魔に追っかけまわされている。

 そんなアキはいつの間にか復活した弟とキャッチボールを始め、パワーはナース服で献血を募っては血を盗み飲みしている。

 マキマに至っては出番がなくなったナユタに命を狙われる日々を過ごしていたりした。

 

 

 

 どこかの屋台でおでんが煮込まれている。岸辺は珍しくモグラにならず、席に腰かけていた。

「そういや、お前らに払う対価って何だったんだ?」

「ふっ。それを言うのは煮え切らない奴だけだぜ」

 同席した三悪魔の一体がサングラスを無駄にきらめかせた。

「いや真面目に払わないと俺死ぬから」

「安心しろ。俺も払っていない」

「そういう問題か?」

 契約悪魔に毒されつつある髭スーツの袖をちょいちょいとデカい鼻毛が引く。

「ねえ、芋羊羹は?」

 忘れ去られていたキング鼻毛だった。首領パッチは身代わりに人形を置いて部下たちの面倒を見に行っている。

「芋焼酎でどうだ?」

「いいねえ」

 ボーボボに瓜二つの顔が綻ぶ。すかさず、対抗意識を燃やした青色が謎飲料を売り込んできた。

「ところてんドリンク(アルコール入り)はいかが?」

「ズルズルしてヤダ」

 なんか鼻水みたい。

 構成物質を全否定され、人型はアイデンティティに甚大な損害を負う。

「うばあ!」

「天の助ぇ!」

 今日もハジケ共は通常運転だった。

 

 ちゃんちゃん。

 


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