「うーん………何かなあ。何かできたら…。」
私、伊地知虹夏は悩んでいる。
最近、リョウが悩んでいることに悩んでいる。いや、ややこしいな…。
リョウは隙あらばため息をつき、表情も暗い。いつも無表情でわかりづらいけど、それにしても暗い。幼馴染の私だからわかることがある。これは悩み事があるね!
まあ、あるよね。最近は作曲活動や教習、受験勉強に追われて、かなりハードな毎日だったから。忙しすぎてハイテンションにもなっていたくらいだしね。悩み事の一つや二つあるのも頷けるよ、うんうん。あれでもリョウって人間なんだし、当然だよね。
だから、私にも何かしてあげれることがないのかなと思っている次第ですよ!その方法について私は悩んでいるんですよ!
皆はどう思う?
誰だ、皆って…。
「まあ直接聞いて、力になった方が早いか。」
頭で考えてても、答えなんて見つかりっこないもんね。
ようし!
そう意気込んで、私はSTARRYに入る。そしたら…
「ぼっち、ごめん。今日だけ、今日だけだから。」
「や、やめてください…。土下座は。」
「リョウ先輩!!私ならいくらでも力になりますよ!!」
土下座するリョウとそれにドン引きするぼっちちゃん、そして横で都合の良い彼女みたいなことを言う喜多ちゃん。
「なんだこれ…」
なんだこれ…
いやいや、呆れて固まってる場合じゃない。何があったのか、この状況を説明して貰わないと…。
「ちょっと皆ーっ!! 何してんの?」
「あ、虹夏ちゃん…」
「げっ、帰ってきた…。」
何で嫌そうな顔すんだ、こら。 "げっ" って何だよ、" げっ" て…。本当に何があったの…?たぶんリョウが何かやらかした発端なんだろうけど…。
「リョウ、何かあったの?」
「…………………」
私の質問に返答することもなく、リョウは神妙な面持ちで、うつむいた。こんなリョウは珍しかった。
「ホントに何があったの…?」
「あ、あ、あの…虹」
「ごめん、虹夏。言いたくない………………。」
…!
リョウがこんなこと言うなんて…。これは深刻なことなんじゃ…。
「……けど言うね。」
結局言うんかい。
でも、こんなしおらしくなるリョウなんてめったに見れるもんじゃないので、少しだけ前のめりになって耳を傾ける。リョウがここまで落ち込み悩むこととは…?
「お金貸して」
ですよねー…………。
リョウの悩みっていうと、絶対これだよねー…。目に見えてたよねー…。
「虹夏貸して」
期待裏切らねえな!心配して損したよ!
「普通に無理だよね。」
私は笑顔でバッサリ切り捨てた。
「やっぱり無理か」
逆にどうしていけると思ったの…。無理だよ。もう何回も貸してるし、これじゃリョウの教育に悪いよ…。
「やはり頼みの綱はぼっちしか…!ぼっちお願い!貸して!!」
「ち、ちょっ、ちょっと、ふ、服引っ張らないでください……!」
リョウはぼっちちゃんにしがみつき、お金をせびる。年下にせびる…情けなさすぎるよ、この光景…。流石に惨めすぎるから、もうやめさせないと…。
「お願いぼっち、少しだけ。 作曲のためにいくつか楽器を買って、金が無くなったから…。 これは経費だと思って…!」
「な、なんで経費をわ、私が払わないといけないんですか…。 そ、それに前貸した分もか、返ってきてませんし…!」
「ちょ、ぼっちちゃんから離れて…。てかリョウ、あのお金まだ返してなかったの!?」
流石にルーズすぎるよ…。
「リョウ先輩!それなら私が力になれます、いやならせてください!」
「郁代はちょっと…」
「何でですか!?」
「…気が引ける」
「何でですか!?」
それは何かわかる…。
てかもう収集つかなくなってきたな…。リョウはぼっちちゃんから離れないし…引き剥がせられない。今日のリョウにはいつもと違うパワーを感じる…。
もうあれしかないか。
「リョウがそんなんなら…河本くんに連絡するよー。」
「!?」
私の言葉に反応して、リョウはビクッと体を動かした。そしてすぐにぼっちゃんから離れて、一目散にSTARRYから離れようとし始めた。な、なんて俊敏な行動…。でも、もう遅いよ。
「まあとっくの前に連絡したんだけどね。河本くんだったらすぐにでも来ると思うし、逃げても無駄だよー。覚悟してね。」
「ヒェッ…」
「河本くん?誰ですかそれ?」
私たちの会話を疑問に思って、喜多ちゃんは小首を傾げた。傾げてる顔かわいい…!
「ああ、皆は知らないよね。河本くんは…」
「山田アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
響き渡る大声と共に、ドアを勢いよく開けて彼はやって来た。相変わらず、リョウのこととなると行動が早いなぁ…。
「伊地知から連絡入ったぞ、山田ぁ。また皆に迷惑かけてるとはふてぇ野郎だな。」
野郎ではないけど…。
「ぼっちごめん!ゴミ箱貸して!」
「え、あ、えっ?」
「逃がすかっ!」
彼は河本トオル (こうもと とおる)くん
私と同年代の男の子であり、付き合いの長い友達であり、もう一人の幼馴染なんだ。
「あ、あの人誰なんですか…。」
喜多ちゃんが私の側に来てそう尋ねた。
「あの人は河本くん。リョウの…」
「か、彼氏ですか!?彼氏なんですか!?やっぱり最近リョウ先輩男の香り漂わせてたので、もしやと思ってましたが、やっぱり彼氏なんですね!!!??男が……男が紛れ込んでる!!!」
いやあああ!と叫びながら、喜多ちゃんは頭を抱える。なんでこの子は最後まで話を聞かないんだ…。
「喜多ちゃん、違う違う。彼はリョウの彼氏とかじゃないよ。ただの幼馴染だよ。」
「ほ、ホントですか…?」
まだ喜多ちゃんは半信半疑のようだったので、私は河本くんとリョウがいる方向を指差した。
「金の切れ目は縁の切れ目、愛想尽かしも金から起きる…という古来からある、言葉たちからわかる通り、金銭が介在すると人間関係というものはすぐに瓦解してしまうのであって、金の貸し借りという行動、それ自体も本当は友人間において慎重に事を運ぶべき代物なんだ。もちろん貸し借りを禁止しているという意味ではなく、俺が言っているのは誠実かどうかであり、それを山田には…」
「はい…はい…………」
「す、すごい説教されてるんですけど…」
「あれが彼氏には見えないでしょ。」
「まあ、確かに……親?」
リョウはゴミ箱の中にすっぽりはまりながら、河本くんの説教を受けていた。すごいわけわかんない光景だよね…。驚くことに、あれが日常風景なんだよね。
「あ…!じゃあ、伊地知先輩の彼氏…!?」
「それの方がないから。」
本当に無いから。
…そんなことより、そろそろ止めさせないと。リョウも堪えたようなのか、涙目になってきてるし。
「はいはい、河本くんもそれぐらいにして。リョウも十分わかったみたいだし…ね?」
「あ、喋りすぎた。さあさあ、出ろ山田。」
「……………はい、ごめんなさい」
謝りながら、のそのそとゴミ箱からリョウは這い出てきた。
「ははは…」
河本くんは私よりもリョウとの付き合いが長い。家は隣同士で、物心つくときから一緒にいたらしい…。あまりリョウからは河本くんのことを話題に出さないから、詳しくは知らないけれど。
最初私と河本くんが出会った時は、中学2年の冬だった。
『すんません、伊地知さんってあなた?』
『…はい?』
な、なんだこの人。結構大きい人だなあ、威圧感がすごい…。…こんな人知り合いでいたかな…?他のクラスの子であることは明らかなんだけど…。
『ええと…』
『これ。』
その男の子は、弁当箱を差し出してきた。その弁当箱は私のものだった。確か…先週にリョウのために作ったお弁当だ。今日までには洗って返すよって言われてたけど、すっかり忘れてた…。でも、なんでこの人が持ってるの?
『あ、あの…』
『山田は今日風邪で休みだから、その代わりに返しに来たんです、はい。』
私は自分の弁当箱を受け取った。
『あ、ありがとう…』
あ、そうか今日はリョウは珍しく休んでたな…。だから、代わりに届けに来てくれたのか……っていやいや、待って待って。この人誰!?リョウの何!?
『あ、あの…!ええと、あなたは…!?』
『……それじゃ。』
ああ、無視して行ってしまった。色々聞きたいことはあったのに…。と思ってると、彼がUターンしてまたこちらに帰ってきた。
『ごめんなさい、これもでした。』
彼は懐から封筒を一枚出した。その封筒には3千円と500円入っていた。………え、何のお金…?…怖いんですけど。
『これ、リョウが借りてたお金です。』
あ、この前リョウが昼御飯を買うお金が無いって言うから、私が嫌々だったけど貸したんだっけ…。すっかり忘れてた。そういえば、今日返すって先週言ってたな…それも忘れてたよ私。
『今度こそそれじゃ…』
深いお辞儀をして、彼は去って行った。リョウのために、わざわざ別クラスまで訪ねて来てくれたのか…。見た目に反して、真面目な男の子だと、後ろ姿を見ながら感じた。……それが最初の印象だった。…結局彼はリョウの何なのか、聞けずじまいだったけど。やはり私が思うに彼は…
『…ただの幼馴染』
『えー?』
次の日、私は学校に来たリョウを問い詰めた。でも、返ってきた言葉はお茶を濁してるのか、少し期待はずれのモノばかりだった。
『ホントは!?ホントは!? なんか…こう甘い感情があるんじゃないの? 』
『ない…河本とは何もない。てか…虹夏しつこい。』
『へー、河本くんって言うんだ。』
『はぁ…ホントになにもないから。』
うーん。しつこく聞いてるが、これはマジでないっぽいな。リョウの顔がそう物語ってる。この顔は、本当に無い顔だ…と。まあいつも無表情だから、よくはわかんないんだけど。
『はぁ…つまんないの。』
『虹夏…今日のお弁当おいしい』
目をキラキラさせながら、リョウは私にそう言う。くそっ…作ってあげた甲斐のある一言言いやがるぜい、こいつぅ。素直に嬉しいよ、このやろー!
…作る気なんて無いのに、また作ってきてあげたくなっちゃう。流石にもう大変だし、勘弁して欲しいけど。
『また明日も頼むね。』
『しょうがないなぁ。』
しょうがないなぁ…
私は食べてるお弁当に視線を落とす。お弁当か…。
『でも珍しいよね。リョウが約束通りに弁当箱とか、お金を返してくれるって…。 いつも期日よりは少し遅れるのがほとんどなのに。』
それが普通みたいになってるのもおかしいんだけどね…。
『…………。…言われたから。口うるさく。』
『えっと、河本くんに…?』
『そう。あいつ真面目だから。いつも私に、小言を言って、ずっとそう…。』
『へえー!そうなんだー!ねー昔の二人ってどんなだったの?』
『…………話したくない。そもそも覚えてない。』
いや、嘘でしょ。嘘が下手だな…恥ずかしがってるのが見え見えだよ!
『まあ、一つあるなら…『リョウちゃーん』『何?トオル…』って具合に、小さい頃はあいつがよく私の後ろを着いて回ってたくらいかな。』
うーん、いいね!典型的な幼馴染エピソードいいねぇ!
『へー、他には他には?』
『以上。』
そ、それだけ…?
ふ、ふふふ、恥ずかしがって話をしないつもりだね。いいもん!それじゃあ本人に聞くまでだよ!
『虹夏…何、その不適な笑みは。』
『河本くんー!!』
『ん? ………あ、伊地知さん。リョウの友達…唯一の友達の。』
リョウが話さないなら、河本くんに聞くまで。河本くんはどう思ってるのか、リョウに対してどんな気持ちを、幼馴染以上の気持ちを抱いてるのか、それを聞くまでよ!果たして…
『ただの幼馴染だけど…』
抱いてなかったー!
何にも無かったー!この後、しつこいほど聞いてみても、何の収穫もなかった。聞いてもリョウと同じように、興味深い話題は何もなかった。
…二人ともつまんない。あーあ、幼馴染って言っても、現実こんなもんなんだねー。
『露骨にガッカリしてるな…。』
『あ、ごめんなさい。』
…顔に出てた。てへ
でも、こんなモンじゃ私の収まりがつかないよ…。
『リョウとの昔話とかはないの…?…なんか心暖まるエピソードとか…』
『えぇ…エピソード…。うーん、あいつには…金の貸し借りとか…説教したりとか…。今と変わらねぇからなぁ…。』
『そ、そうなんだ。大変なんだね、河本くんも。』
『!』
河本くんは、バッと勢い良く私の方を向いた。
『わ、わかってくれるか。そうなんだよ、そうなんだよ! あいつには振り回されっぱなしでさ…!』
『あはは…そうなんだ。まあ、私もそれはちょっとわかるよ。』
『…昔は『トオルくーん』『なんだ、リョウ』って後ろ付いて回ってくるぐらいには可愛かったんだけど、年重ねるにつれそれすらも無くなってさ…。伊地知もそうなんだ。』
『そうだよ、私もだよ! この前なんかリョウと一緒に楽器屋行ったら…!』
この後何故か、リョウの話題で意気投合した。今思えばその日からだっけな、学校で会えば話すようになって、河本くんと仲良くなったのは。
『また山田に困ったら、すぐ連絡してくれ。』
謎の連帯が生まれた。
…でもこうして見てみると、一見河本くんはリョウのことを嫌いなんじゃないか…と勘ぐってしまう。けれどそんなことはない。あれは…いつだったっけな…。
『伊地知!』
廊下で河本くんに声をかけられる。
『あれ? 河本くんどうしたの?』
彼はベースを担いで、私の目の前にいた。かなり息切れしてしていて、私を探し回ってた様子だった。
『はぁはぁ…、あの…。伊地知がバンド集めてるって聞いたんだけど…。』
『そうだよ…! あ、河本くんもリョウと同じでベース弾けるもんね。 もしかして河本くんバンドに入ってくれるの?』
『いや…。その山田のことなんだけど。山田はどうだ? 伊地知のバンドのメンバーに。』
え、私のバンドの……?そりゃあ入ってくれたら私も嬉しいけど…。
『でも、確かリョウは他のバンドに…』
『やめた。あいつはやめた。』
え、そうなんだ。ずっと楽しくやってたのに、やめちゃったんだ…。
『だから入れてみたらどうだ…?』
『…うん。じゃあ誘ってみるよ。』
『ありがと…! それであと…山田は珍しく落ち込んでるから…色々よろしく。 それだけだ。…そんじゃ。』
そう言って、彼はベースを担いでどこかへ去った。わざわざそれだけを言うために、彼はやって来た。落ち込んでるリョウのために、重いベースを持って学校中を走り回ってくれたんだ。
…リョウのことが嫌いだったらそんな真似しない、できない。たぶん、嫌いではないのだと私は思っている。たぶん…。
たぶん…………
「伊地知ー?」
「伊地知ー?」
「あ、河本くん…。」
回想にふけっていたら、河本くんの声で現実に引き戻された。危ない危ない、浸りすぎてた…。
「じゃあ俺帰るから。それじゃ。」
「あれ? もう帰るの…? せっかく来てくれたんだし、もてなすよ?」
「いや、柏で路上ライブの予定があるから。友達待たせられんよ。」
え
河本くんの背中に担いでいるベースケースが目に入った。
「柏って千葉県の!? そんな遠いところから、しかもそんな用事があるのにわざわざ来てくれたの…!?」
「タクシー使って急いで来たよ~」
「ご、ごめんね! そんなことだと知らずに呼んじゃって…。」
「別にいいよ」
はぁ…。本当に悪いことした。電話で一度もそんなこと言わないんだもん。
でも…リョウのことになると、わざわざ遠方からやって来るなんて…本当に。
「今度こそそれじゃ、邪魔したな…と、山田。」
「ん。」
「忘れてた、言いたいことがも一つあったんだ。」
「ん…。」
「この前のライブだけど、少しだけ…微量だけど音程がおかしかったぞ。チューニングか…もしかしたらナットの摩耗かも、念のため楽器屋に見てもらえよ。」
本当に、河本くんはリョウをよく見てる。
「…ホントだ。わかった」
「あ! あとも一つ。」
「言いたいこと一つじゃなかったの?」
「うるせい。 …まあこうやってベースもちょっとしたことで音も変化するからな。 作曲とかもちょっとしたことで、変わるんだ。 あんま深く考えすぎず悩みすぎず、気楽にな。只、言いたかったことはそんだけ。」
「…ん。」
お互いについて興味がないのかお互いの話題はほとんどしない、むしろどっちも煙たがってる。遊ぶこともほとんどしないし、音楽以外の趣味も合わない。性格について言っても、真面目と不真面目で、似てる部分はない。
でも、この二人はどこかで通じあっている。どこか似ている。
「それじゃな、リョウ」
「ありがと、トオル」
お互いをよく…見ている。
「それじゃ、伊地知も元気で。」
「……………」
『あ…!じゃあ、伊地知先輩の彼氏…!?』
そんな二人の間に私なんかじゃ入れないよ、絶対に。
「……うん。 またね、河本くん。」
…だって二人は幼馴染だもんね!
「あ、ごめん、伊地知。ここ来るのにお金使って財布すっからかんで…。で、電車賃貸して。」
……………………………………………………………………。
し、締まらねぇ~
以上です、ありがとーございました!
時々、修正します。