船上試験の最終日になったわけだが未だ法則をつかめていない。少しは船酔いに慣れてきたとはいえ元がひどいからそっちに脳のリソースを割かなくてはいけないのもあって考えがまとまらないのもある。
「最終日ですしそろそろヒントでも出しましょうか?」
「Aクラス全員の端末が見れたら楽なんだけどなー。無理矢理見たら学校が黙ってないよな?」
「えぇ、試験のルールに書いてあります。ですがCクラス、龍園くんは不可能ではないでしょうけど」
「協力要請、実際は脅迫か。確かにあいつならできるし法則にも気づく頭もあるだろうから時間の問題、というかもう気づいてるか」
「ですから今回は諦めてヒントをもらってください。咲耶くんならすぐに答えにたどり着けると思いますよ」
「代価は?」
「一之瀬さんとは別の日に私ともデートしてください」
「デートって、俺と一之瀬は別にそんな関係じゃないんだけどな」
「もちろん知ってます。それでも好意を寄せている相手が他の女性と出かけるのは多少なりとも不安になるものですよ」
「そういうもんか?」
「そういうものです。なので予定を空けといてくださいね。デートプラン咲耶くんに任せますが一之瀬さんと同じにはしないでください」
「・・・・・わかった」
「では、ヒントの方ですが聞けばそんなことかと思うほど簡単なものです。わざわグループ名が干支になっていることに思うことはありませんか?」
「攻略の鍵になることはわかってるんだが他はさっぱりだ」
「干支の順番はどうやって決まったかは分かりますよね?」
「正月に門を潜った順番だろ」
「それを今回の試験に当てはめるとどうなると思いますか?」
部屋に入った順番と干支が関係しているとか?そうなると各クラス同じ数だけ優待者がいるという前提が崩れ去ってしまう。他に順番を決める要素はあるのか?
「ここまでまだ分かりませんか?」
俺が未だ答えに辿り着けていないことを察してか有栖が煽るように聞いてくる。
「しょうがないので特大ヒントです。干支では門を潜った順に番号が割り振られますが私たちにも順番が決まっているものがありますよね」
「順番・・・・・あぁ、名簿か」
「その通りです。あとはクラスの関係をなくしてあいうえお順にした時に干支に当てはまる番号の人が優待者です。私たちの場合は竜グループなので5番目の櫛田さんが優待者ということになります」
「なるほどな。勢い余って答えまで言ってるけど、ヒントじゃなかったのかよ」
「咲耶くんの理解が遅すぎるのがいけないんです」
「俺が悪いのか」
「はい、咲耶くんが悪いです。答えを言ってしまいましたしこの試験を終わらせましょうか」
「なら有栖がメールを送っといてくれ」
「ポイントはいいのですか?」
「金は一箇所に集めない方がいいだろ。何かあっても対応できる」
「そういうことなら今回は私がやっておきますね」
有栖がメールを送ってすぐに学校から竜グループの試験終了のメールが来た。これで50cpは確保したわけだが最終結果はマイナスになるだろうな。やはり葛城の堅実なんて名ばかりのやり方は勝ちを目指す意志が感じられない。あの程度でリーダーになろうなんてこの学校じゃ自殺志願者も同然だろう。それに対し翔の手段を選ばないスタイルはハマった時の爆発力があって将来性を感じる。今回の船上試験はCクラスがトップになるだろう。
全ての試験を終えた午後11時近くに俺たちは船のデッキに集まっていた。負けがわかっている試験の結果に興味ない俺はベンチに座っている。有栖はいつものメンバーと試験結果を聞きに行っていて隣には誰もいない、と思ったのに少し目を瞑っている間に何故か一之瀬が隣に座っていた。
「なんでわざわざ隣に座るんだよ。クラスメイトの所に行けよ」
「みんなのところには後で行くつもり。けど今はゆっくりしていたい気分なの。雪上くんが一人でいるところは静かだから考えことするには丁度いいしね」
「俺の扱いどうなってんだよ」
「もちろんそれだけじゃないよ。今日は雪上くんに相談したいこともあって」
一之瀬が会話を切り出したタイミングで学校からのメールが受信された。一之瀬が不安そうな表情で端末を操作し始めたのでそれに倣って俺もメールを見る。
子(鼠)──裏切り者の正解により結果3とする
丑(牛)──裏切り者の回答ミスにより結果4とする
寅(虎)──優待者の存在が守り通されたため結果2とする
卯(兎)──裏切り者の回答ミスにより結果4とする
辰(竜)──裏切り者の正解により結果3とする
巳(蛇)──優待者の存在が守り通されたため結果2とする
午(馬)──裏切り者の正解により結果3とする
未(羊)──優待者の存在が守り通されたため結果2とする
申(猿)──裏切り者の正解により結果3とする
酉(鳥)──裏切り者の正解により結果3とする
戌(犬)──優待者の存在が守り通されたため結果2とする
亥(猪)──裏切り者の正解により結果3とする
以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。
Aクラス……マイナス150cl プラス200万pr
Bクラス……変動なし プラス200万pr
Cクラス……プラス150cl プラス500万pr
Dクラス……変動なし プラス250万pr
Aクラスに関していえば予想通りとしか言いようがないな。それにしてもCクラス、翔はわざわざAクラスを狙い撃ちしたのか。長期的に考えればこのまま葛城が前に出るように仕向けて少しずつ搾取し続けた方が良い気がするが何か考えがあるんだろう。
結果を見て何か思うところがあるのか隣にいる一之瀬からため息が溢れる。
「ため息は幸せが逃げるらしいぞ」
「雪上くんもそういうの気にするんだ」
「全く気にしないな。結果が振るわなかったのがショックか?」
「うん・・・・・今回はCクラスが私たちを見逃してくれたからなんとかプラマイ0だったけどこの先のことを考えると自信無くしちゃいそう」
「そうか」
「雪上くんは平気なの?」
「葛城が仕切ってたしこんなものだろ。夏休み明けからは有栖がリーダーで決まりだし挽回するだろうな」
「そっか、Aクラスには坂柳さんがいるもんね。雪上くんと坂柳さんがリーダーでいる限り私たちは勝てそうにないや」
どこか諦めたような顔で笑う一之瀬を見て俺は何を言えばいいのだろうか。この学校の性質上みんながハッピーエンドになることはない。けれど俺は・・・・
「そんな顔するな。俺は一之瀬はできるやつだと思ってる」
「そんなことないよ・・・・私なんかみんなに比べたら全然強くないもん」
「強いってなんだ?」
「えっ・・・・」
「正しい努力を続けて挑戦し結果を受け止めまた努力する、その繰り返しの先にあるのが強さだと俺は思う」
「けど私じゃ結果を残すなんて無理だよ」
「何も試験だけの話じゃない、俺はお前の強さを一つ知っている。たまに見かけるだけだがBクラスを見ればなんとなくわかる。クラスのために最善を尽くし仲間と共に勝利を目指す。俺にも、翔にも、有栖にもできないお前の・・・・・一之瀬帆波だけの強さだ」
「私だけの・・・」
ベンチから立ち上がり一之瀬の前で腰を下ろし少し雑に頭を撫でてやる
「そうだ、だからそんな顔するな。お前ならできる、なんて簡単には言えない。心が折れてどうしようもない時が来るかもしれない。その時は助けてって、それだけ言ってくれれば一度だけなんとかしてやる」
「もしそれで坂柳さんと対立することになっても助けてくれる?」
「あぁ、絶対に助ける」
「私にそこまでする価値なんてないよ」
「お前は俺の数少ない友人だ。それだけで十分助ける価値はある」
「・・・・・ありがとう」
一之瀬はしばらく泣いていたが俺以外にその顔を見る者はいなかった。
今回は完全に一之瀬メインでした