一部Creepy Nuts様の曲に影響されている台詞があるため一応使用楽曲に入れております。
未確認ライオットグランプリを取ったのは結束バンドだった。結成してから2年と少し、しかも楽器初心者もいるというのは信じられない出来事だった。他の出場者にとっては。
「やったね、ひとりちゃん!」
「あ…はい!みなさんとグランプリ取れて良かったです…!」
結束バンドは涙を浮かべながら最高の結果を、鍛錬の成果を喜び合っていた。流した汗がここまで気持ち良いことなんてそうそうないだろう。
「私たち超人気バンドになっちゃったりして〜!」
「あっそうですね!うへへ…これでたくさんmy new gear…ができる…うへへ…」
「もう、まだ貧乏バンドだからね!絶対変なもの買わないでよ、リョウも!」
「はいはい……」
高揚の治らない帰り道、どこからか怒鳴るような、感情的な声が鳴り響いていた。耳を傾けるつもりはなくても、どこかで聞いた声に結束バンド全員が自然と神経を傾けていた。
「もういい!今日限りで解散だ!」
「なんで!あと少しでいけそうだったじゃない!来年は未確認ライオット出れなくても他にいくらでも手段は……!」
「そう言ってもどうする気だ?レーベルからも契約切られて、金もない、もう終わりだよ」
「ウチは……ウチは……」
さきほどまで高まっていた感情がすん、と鳴りを潜める。あそこは通り道なので、絶対に通らなくてはならない。なぜか足が止まってしまった。
意を決して無言で横を通り過ぎる。たくさんの人がいるはずなのに、啜り泣くような声だけがよく聞こえていた。喜多はふと横に視線を向けると睨むような、そして羨むような視線を向ける彼女らと目が合ってしまい、さっと横に視線を変えた。
「ひ、ひとりちゃん、打ち上げの場所にすぐ向かおう!」
「あっ、え、はい!」
なにもわかっていない後藤の手を掴み、喜多は小走りで駆けて行った。少しでも早く離れたいということだけ考えていた。
「「結束バンド、グランプリおめでとう!!!」」
打ち上げ会場に着くと、すでにたくさんの人が訪れていた。いつもの星歌、PAさん、廣井だけでなく、司馬やSIDEROSの面々もいた。
「ありがとうございます!」
さっきのことは忘れたかのように嬉しそうに話す三人に、喜多は落ち込んだ心を上げられずにいた。
「どうしたの?いつもの貴方らしくないじゃない」
「大槻さん……実は……」
ふと先輩バンドマンで、前年度グランプリを取った大槻に先ほどの出来事をゆっくりと話し始めた。
「ふん、そんなことで悩んでたのね。他を引き摺り落とすなんて当然じゃない」
「引き摺り…落とす……?」
「あのね、未確認ライオットにどれだけのバンドが参加してると思ってるの?地区すら出られなかったバンド、地区から最終ステージに進めなかったバンド、どのバンドも本気で悔しくて悔しくて、上手くいかなくて解散したバンドなんて山のようにあるわよ」
そんなつもりはなかった。言われてみれば確かに、自身は結束バンドのメンバーで楽しくエスカレーターのように段々と上がっていく舞台にいただけで、その下にいる人を見ていなかった。
ふと今までの活動がどれだけのバンドの夢を破ったのか考えると薄ら寒いものを感じた。
「後藤ひとりのプロ級のギターの腕、山田リョウの作曲編曲能力、伊地知虹夏のバンドメンバーの舵取り、そしてあなたの人を魅了する力……他のバンドがここまで上手く噛み合っているそうそうないわ」
「大槻さんはどうやって……どうして大丈夫なの……?」
ふと泣きそうな顔をする喜多。他人の顔を窺って、バランスを取りながら生きてきた喜多にとっては残酷な現実だった。
「たくさんの人の夢を破ったからこそ、バンドをやめられない。私の手で終わらせた願いが、ちょっと辛いからやめるなんて簡単に許されないのよ……
多分、他の三人はわかっているから落ち着いているように見えるだけ。プロの音楽家なんてほんの一握りよ……」
どこか遠くを見るように呟く大槻さんからは力強い気持ちを感じた。大槻の放った言葉は強烈だが、どこかすとんとはまったような気がした。
「ちょっとー、ヨヨコ先輩なにしてるんスか。おっぢ…ぼっちさんに言いつけますよ」
「長谷川さん!大丈夫です!大槻さんに色々聞いていただけなので!」
「ほんとっスか?ヨヨコ先輩ほんとコミュ障なんスよね〜」
横で漫才みたいなことを繰り広げる大槻と長谷川にくすりと笑いを漏らした。
帰り道、静かな道を歩いていく後藤と喜多の二人。無言の中、意を決したように口を開く。
「ひとりちゃん、私がプロなんて目指していいのかな……?」
普段の陽のオーラとは異なる雰囲気に後藤は目を離せられずにいた。
「あっ…えっと、さっきの大槻さんとの話ですか……?」
「ひとりちゃん、聞いてたの?恥ずかしい……プロになりたいって夢がこういう現実だと知らなかったのよ……キラキラしているだけかと思っていて……」
「ごっごめんなさい……止めようと思ったんですけど……
えっと…私たちがグランプリ取れなかったら踏み台は私たちでした、多分……それに、私は喜多ちゃんがボーカルじゃないと嫌です……絶対成功するなんて言えないですけど…なんというか……」
「ありがとう!明日からもっと練習しないと!あんなやつに負けたなんて思われると悔しいわ!お願いね、ひとりちゃん!」
「あっ、は、はい!」
先ほどまでのどこか迷っているような雰囲気が変わったことに後藤はほっとしていた。結束バンドは一つ上のステージへと進んでいった。