一部背景推理バレが有ります。ご注意ください。
母親と二人で貧しいながらも幸せな生活を送っていた少年は、ある日突如として現れた自分と同じ顔の人物に母親を連れ去られてしまう。
母親を取り戻すも、彼女は既に正気を失っていた。いつかきっと戻ると信じて介護を続けるが――。
そんな、エウリュディケ荘園に来る前の夢を見ていたイタカの話。
ごうごうと北風が通り抜ける音が木々の間を木霊する。雪を乗せた強風は寒いを通り越し、肌を幾億もの針で隙間無く刺し続けているような痛みを与えてくる。身体の末端である指先や足、それに唯一露出している顔周りは、痛み以外の感覚は消え失せてしまっていた。
それでも、少年は吹雪の中を歩き続ける。鼻で息をすると鼻の奥が痛くなってしまうので口で呼吸をするのだが、呼気の水蒸気がマフラーに付着し、すぐに凍って極小の粒となって白粉化粧を施し、吐息の熱で溶けてを繰り返して口元を濡らしていた。
分厚く積もった雪をスノーシューで踏みしめて、ようやく目的地まで辿り着く。そこには小動物用の罠があり、兎が一羽かかっていた。兎は全てを諦めた様子で微動だにしていなかったが、あと数歩で少年の手が届く所まで近づくと、弾かれたように駆け出そうとして、盛大に失敗した。その足には細い縄が食い込んでいて、人の手でなければ外れそうに無かった。
少年はマフラーに隠れた口元に笑みを浮かべた。腰のベルトに吊っていたナイフを取り出してかじかんだ手でしっかりと柄を握りしめ、罠から抜け出そうともがく兎を押さえつけ、慣れた手つきでその首に刃を突き立てて一息に切り裂く。兎の足を持ち、頭が下になるように持ち上げると、鮮血が真っ白な雪の上を彩り、致命傷を負いながらも未だに逃げようとする兎が暴れる度に赤い花を増やした。
やがて兎の動きが鈍くなり、滴る血もわずかになる。少年はナイフを鞘に戻して、まだわずかに動いている兎と目線を合わせるように持ち上げて、一言呟いた。
「今日はごちそうだ」
古びて錆びた蝶番が軋み、家人が帰宅したことを知らせる。
「お母さん、ただいま」
少年は防寒具を脱いでコート掛けに引っかけ、ベルトに吊ったナイフを棚に置いて、獲物の入った袋だけを手に暖炉の前に向かう。
薪ストーブの前にある椅子には女性が一人。少年の母親だ。
彼女は縫い物をしていたようだが、頬をリンゴのように赤くさせて帰ってきた少年を見て驚き、そして心配そうに膝にかけていた毛布を少年の肩に羽織らせた。
「おかえりなさい。まあ、こんなに冷え切って……早く火に当たりなさい。風邪をひいてしまうわ」
先程まで自分が座っていた椅子に少年を座らせ、母親はストーブの上に載せてあったヤカンを手に取り、棚からマグカップを取り出してお茶を淹れ始めた。
ピチチ、と愛らしいさえずりと共に、雪玉のような小鳥が少年の肩に飛び乗る。くりくりとした黒いまん丸の瞳に少年の横顔を写し、甘い声で同居人の帰還を歓迎していた。
「ただいま、おちびさん」
ふわふわの胸に人差し指の先を埋めてくすぐると、小鳥はそっちじゃないと言わんばかりに後ずさりして、指の腹に頭を押しつける。小鳥の言う通りに後頭部辺りを撫でてあげると、満足そうに目を細めて、ふっくりと羽毛を膨らませた。
彼(もしくは彼女)は、怪我をして飛べなくなっていたのを少年が拾ってきて、そのまま家に居着いてしまった鳥だ。すっかり少年一家に懐いてしまって、怪我が治っても一向に外に出ようとしない。少年達も、この愛らしい鳥を無下に追い出すことは出来ず、こうして一緒に暮らすことにしていた。
「こんな吹雪の中、一体どこに行っていたの?」
「罠を確認しに行ってたんだ。ほら見て、兎が捕れたんだよ!」
「まあ、凄いじゃない!」
袋から取り出された兎を見て、母親は目を丸くする。すぐにその口元には笑みが浮かび、今夜の献立に豪華な一品が追加されたことを喜んだ。
「お母さん、最近具合が悪そうだったし、カブと芋の薄いスープだけじゃ元気になれないと思ってさ。栄養のあるものを食べてゆっくり休んで、早く良くなって欲しかったんだ」
少年の言うとおり、ここ数日ほど、母親は「具合が悪くて食欲が無い」と言って、あまり食事を取っていなかった。少年がこの寒波の中、罠を仕掛け、吹雪だろうが毎日獲物がかかっていないか確認しに行っていたのは、母親のためだったのだ。
母親は目元に薄らと涙を滲ませて、感慨深そうに微笑みを浮かべる。
そして、誇らしげな少年を優しく抱きしめた。少年の体は冷え切っていて冷たかったが、そんなことは、母親にとっては些細なことであった。
「ありがとう。あなたみたいな素敵な息子に恵まれて、本当に幸せよ」
「えへへ……」
「そんなあなたに、ちょっとしたプレゼントを用意したの。そこの戸棚を開けてごらん?」
母親から促された少年は、言われるままに戸棚を開ける。
そこに鎮座していたのは、少し不格好で、何段も積み重なったパンケーキ。まろやかなバターと、香ばしい小麦と、甘酸っぱい木イチゴのジャムの香りが鼻腔をくすぐった。
「誕生日おめでとう!」
母親から言われて、少年は気付く。
そういえば、今日は自分の誕生日だった、と。
「どうしよう、凄く嬉しい……! 前にケーキを食べてみたいって言ってたこと、覚えててくれたの?」
「あれより見てくれは良くないけれど……」
「そんなこと無い、凄く美味しそう!」
少年はキラキラと目を輝かせて誕生日ケーキの姿を目に焼き付ける。犬の尻尾がついていたのなら、きっと千切れんばかりに振っていたことだろう。
しかし、少年はふと何か思いついたのか、数秒ほど固まると、訝しげに母親を見やった。
「もしかして、これのために自分の食料を切り詰めていたとか、ないよね?」
小麦粉、バター、ジャム。少年一家の生活では、どれも滅多に食べることの出来ない食材をふんだんに使ったパンケーキは、言わば最上級のごちそうだ。
それこそ、普段の食費を切り詰めて用意しなければいけない程の。
「そういうのは子供が気にすることじゃないの」
ばつが悪そうに、しかし有無を言わさない声色で母親は答える。それはもう、イエスと答えているようなものだった。
「ケーキが食べられるのは凄く嬉しいけど、自分の身を削るようなことはやめてよ! 僕はお母さんが健康で居てくれれば、それで充分なんだから」
「……じゃあ今日は、兎のシチューとケーキを二人で食べましょう? お母さん、実はお腹がペコペコなのよ」
「賛成!」
恐らくここが、少年の幸せの絶頂期だっただろう。
出来る限り自給自足の貧しい生活。けれど、少年にはそれで充分だった。母親と共に暮らし、あまり好きでは無かったが文字や宗教、礼儀作法を教わり、たまにお気に入りである雪の怪物の話をせがんだり。
そんな生活が永遠に続くと、少年はそう思っていた。
あの日が来るまでは。
「早く隠れて!」
外に干していた燻製肉を取りに行っていた母親が帰って来るや否や叫ぶ。相当取り乱していて、何も無いところで足をもつれさせて転びかけるほどだった。
「お母さん、どうしたの急に……」
「いいから早く!」
今まで見たことの無い程の剣幕に、少年は何も言えずに口を噤み、母親が指さしたクローゼットの中に入った。
母親は普段少年が狩りに行く時に携帯するナイフを少年に持たせて、両手で彼の頬を包み、真剣な表情で言う。
「いい? どんな音が聞こえても、絶対に出てきちゃ駄目。静かになって、何の音も聞こえなくなるまで出てこないで」
少年は何も言えなかった。何と答えれば良いか分からなかったのだ。ただ静かに、小さく数回頷いた。
「良い子ね。私の可愛い息子、愛してるわ」
母親がクローゼットのドアを閉めたほんの数秒後。バンッ! と大きな音が鳴ったと思ったら、何人もの足音と母親の悲鳴が小屋に充満した。
「赤髪の魔女はここか」
「へぇ、あの女でさぁ!」
喧噪の中で辛うじて聞き取れた会話に、そんな言葉が聞こえた。
魔女? お母さんが魔女だって? あんなに信心深かったお母さんが?
オンボロであちこちガタがきているクローゼットは扉がちゃんと閉まらず、わずかに開いている。クローゼットの奥に張り付くようにして隠れていた少年は、何を思ったか、そっとその隙間から外の様子を窺った。
武装した何人もの男に押さえつけられ、鎖で拘束されて叫ぶ母親。
松明を掲げて「魔女」を糾弾する大勢の人。
そして、赤いローブを着た、自分と同じ顔の人物。
少年の思考が止まる。何が起こっているのか理解出来ず、呼吸をするのも忘れ、時が止まったかのように固まった。
「ナザニール様、いかがいたしましょう」
「あの場所へ連れて行け」
「殺さなくて良いので?」
「魔女が犯した罪を白状させなければならないからな」
「承知しました」
ナザニールと呼ばれた自分と同じ顔の人物は、周囲の人間に指示を飛ばし、嫌な笑みを浮かべる。まるで自分がそうしているかのように見えて、少年は吐き気を覚えた。
何人もの人の声に混じり、ジュリジュリと小鳥のさえずりが聞こえた。赤ローブの人物の肩に、同居人たるあの小鳥が降りたのだ。
しかし、普段少年に甘える時のように愛らしく羽毛を膨らませるのでは無く、その小さなくちばしでつつき始める。攻撃しているのだ。
しかし、小さなくちばしでは傷を付ける事すら叶わない。赤ローブの人物はうっとうしそうに小鳥をはたき落とし。
「殺せ」
その一言で、小鳥は近くに居た男に棍棒でぷちりと潰されてしまった。白くてふわふわだった羽毛は肉色に染まり、破裂した腹からミンチになった臓物が漏れていた。
赤ローブの人物達は母親を連れて、少年の存在に気が付かないまま去って行く。
そうして誰も居なくなって、ごうごうと風の吹きすさぶ音しか残らなくなっても、少年は動くことが出来なかった。
人間という生物は野生を忘れている。
不安と焦燥感に焼けたはずの少年の頭の片隅で、そんなどこか冷め切った思考が浮かんだ。
足跡を辿って近隣の村に向かった少年は、あの自分と同じ顔の人物が向かっただろう、大きな石造りの教会らしき建物に侵入することに成功した。それも、驚くほど簡単にだ。
見張りとは名ばかりの信者達は気配を隠そうともせず、かといって常に殺気を纏って圧をかける訳でもない。ぺちゃくちゃと無駄なおしゃべりをして、注意もそぞろに突っ立っているだけ。そんな彼らの目を掻い潜って地下室に侵入するのは、猪を狩ることに比べたら、よっぽど簡単なことだった。
母親は地下室に居た。天井から吊り下がった鎖に繋がれ、少年と同じくらいの身長の赤いローブを着た人物が彼女の前に立っていた。
彼は何かを話しているようだが、母親の耳をつんざく絶叫と、地下に居て尚聞こえる吹雪の音、そして焚き火台の勢い良く燃える炎の音にかき消されて、何を言っているのかまではわからなかった。
だが、母親に付けられた傷や火傷の前には、そんなことはどうでも良かった。
赤ローブの男が焼きごてを焚き火台に戻した時に、その顔がちらりと見えた。
少年と同じ銀髪。少年と同じ碧眼。そして、少年と同じ顔。
間違いなく、母親を連れ去った人物だ。
少年はそれを理解した瞬間、山猫のように音も無く彼に襲いかかった。
髪を掴み、思いっきり引いて床に叩き付ける。完全に意識の外からの不意打ちに、彼は抵抗する暇も無く仰向けに転がる。抜けたり千切れてしまった髪の毛が数本、少年の手に残っていた。
「な、お前は――」
彼が何かを言う前に、その喉にナイフを突き立て、引き裂く。
ぱっと赤黒い飛沫が飛び散り、喋っている途中だった彼の喉からは、声か吐息になるはずだった空気がブクブクと血で泡を作ってはすぐに割れてしまう。一瞬遅れて激しく暴れ出し、滑らかな石材の床に赤い花弁を散らした。
少年はナイフを投げ捨てて抵抗する彼を押さえつける。
不意に、彼と目が合う。彼の目には、新月の夜より深く濃い闇色の憎悪が色濃く写っている。
そして、そんな彼の目に映った自分の顔は、彼と同じ顔をしていた。
徐々に抵抗する力が弱まり、ついにぴくりとも動かなくなる。それでもしばらく少年は、彼を押さえつける力を弱めることは無かった。
母親のうめき声とすすり泣きがようやく耳に届くようになって、少年は立ち上がる。
「兎と大して変わらなかったな」
母親を家に連れ帰れば、全てが元通りになると思っていた。
しかし、それは幻想に過ぎなかったと理解するに、そう時間はかからなかった。
起きている間はすすり泣くか、怯えて悲鳴を上げるだけになってしまった母親は、時々人の言葉を話すものの「許して」「助けて」「やめて」のどれか、あるいはそれらの類語しか叫ばなくなった。いくら少年が優しく、根気強く話しかけても、もうその人物を息子だと判別することが出来なかったのかもしれないし、自分に拷問を与えた人物なのだと誤認しているのかもしれない。あるいは、反射的にそんな言葉を口にしているだけで、最早人間らしい理性や知恵を失っていたのかもしれない。彼女の言葉は最早言葉の体を成しておらず、ただの鳴き声になっていた。
拘束しておかなければ逃げだそうとし、酷い時には自殺をしようとする。だから少年は、母親に首枷をつけて逃げないようにして、着替えなどの必要な時以外は四肢を拘束するようにした。
食事は泣き叫んでマトモに受け付けないため、彼女のために流動食を作って無理矢理食べさせる。口に指を突っ込んで開かせて、そこに時間をかけて少しずつ流し込む。何度も指を食いちぎらんばかりに強く噛みついてきたし、そうして苦労して食べさせても殆ど吐き出してしまう。その上、吐き出したもので毎回ベッドや服を汚した。
排泄物も垂れ流しで、赤ん坊のようにおしめをしていないといけなかった。
狂ってしまった母親の介護を続けるうちに、少年は少しずつ、しかし確実に、心身共に疲弊していく。
こんなはずじゃなかったのに。いっそ死なせてあげた方が良いのかもしれない。と、浮かんではいけない後悔と考えが頻繁に脳裏をかすめるようになったある日。
その日、少年は狩りに行っていた。疲労困憊の状態では中々上手く獲物を捕らえることが出来ず、やっとのことで親とはぐれたうり坊を一匹捕まえた時には、既に日は落ちかかっていた。
体を引きずるようにして帰ってきた少年は、疲れていたのか、玄関をくぐるまで気が付かなかった。
鍵が開いていたのだ。
それに気付かず家に入って、彼が見たのは――。
「――……くん、イタカくん!」
大きな声に驚き飛び起きる。イタカと呼ばれた少年は、マッチングの待機中に、ついうたた寝をしてしまっていたらしい。冷や汗でぐっしょりと濡れた額と首元が気持ち悪くて、一度仮面とフードを外し、マントの裾で乱暴に拭った。
目の前には、このエウリュディケ荘園では最古参――つまりはイタカの大先輩――である、レオ・ベイカーが居た。心配そうに彼の顔を覗き込む様子からは、サバイバーを追い、攻撃をするハンターとは思えないお人好しの雰囲気が感じられた。
「大丈夫かい? 随分とうなされていたようだが……嫌な夢でも見てしまったのかな」
「……そう、だね。そんな感じ」
イタカは曖昧に答え、椅子に座り直す。
起きたばかりで意識がハッキリしていない彼は、曖昧な思考でこんなことを考える。
――こんな人、居ただろうか。
先程まで見ていた夢は、紛れもない自分の過去だ。途中で悪夢は中断されてしまったが、あの後、色々とあって、このエウリュディケ荘園に来た。
しかし、このエウリュディケ荘園での暮らしの中で、レオが居たという記憶が無いのだ。
何十人ものサバイバーと、何十人ものハンターが荘園に居て、毎日のように「ゲーム」に興じている。それは確かに自分の中の知識としてある。だが、頭の片隅にある記憶が言うのだ。「そんな人は居なかった」「僕はこんなに大勢と荘園で出会った記憶は無い」と。
悪夢を見たせいでそんな奇妙なことを考えるのだろう。そう結論づけたイタカは、眠気を振り払うように首を振って、外した仮面を被り直した。
今は協力狩りに参加しているため、向かい側にはもう一人分の椅子が設置されてある。本来ならレオはそこに座っているべきなのだが、イタカの様子が心配なのだろう。彼の目線に合わせるように身をかがめて、厳つい顔立ちを八の字になった眉で台無しにして、椅子に戻ろうとはしなかった。
「ゲームには参加出来そうか? もし無理そうなら、代わりにジャックか誰かを代役に――」
「平気」
レオの言葉を遮って、イタカは話題を逸らす。
「僕より、あなたは大丈夫なの?」
イタカはちらりとサバイバー達が座る長テーブルを見やる。正確には、その中の一人。麦わら帽子を被って、緑色のエプロンをつけた、そばかすも相まって歳不相応に幼く見える女性を、だ。
下手したら自分より年下に見える彼女を指さして問いかける。
「あの人、あなたの家族なんでしょ? 攻撃出来る?」
「それがルールだし……もう、慣れてしまったよ」
それに、とレオは続ける。
「私は良い父親では無いからね」
そう呟く彼の目には、娘に対する深い愛情が見て取れた。しかし、その言葉は奈落より深い後悔と諦観で彩られている。イタカはふと、あの日捕らえた兎のことを思い出した。
イタカは彼らの過去を何も知らないし、今まで知ろうとすらしていなかった。だが、二人の再会は、喜ばしいことばかりでは無かったのかもしれないということだけは感じ取れた。
「そんなことは無いと思うけど」
「ああ、すまない。気を遣わせてしまったね」
「いや、別に慰めようとか、そういうんじゃないよ」
会話を続けるつもりなんて無かった。
だが無意識に、口から言葉が溢れ出た。
「あの人を見つめる目が、昔の母さんと同じだったから」
言ってから少し気恥ずかしくなって、仮面を被っていて表情が見えないことを良い事に視線を逸らす。それでも、これだけは言っておかなければ、とイタカは続ける。
「あなたは良い父親では無かったかもしれないけれど、それでも、自分の子供を愛せる親なんだろうなって、僕は思うよ」
心の底から我が子を愛する、親の感情。
イタカはそれを良く知っていた。だからこそ、彼は言い切った。
「……そうかな」
「そうだよ」
しばしの沈黙。レオは愛娘を静かに見つめ、イタカはそんな彼の姿を見つめていた。
どのくらいそうしていただろうか。ゲーム開始のブザーが鳴った。
イタカとレオは、各々の獲物を手に立ち上がる。
「さあ時間だ。……本当に休まなくて大丈夫かい?」
「それはこっちの台詞。僕はあのお姉さんを見つけても、手加減はしないから。僕と言う存在が何者かを、サバイバー達に知らしめてやる」
「……なあ、もしあの子が最後まで残っていたら、逃がしてあげてくれないか?」
「大丈夫じゃないじゃん。他の人に代わる? ロビー先輩呼んでこようか?」
「いや、いい、いいんだ。聞かなかったことにしてくれ」
「……今回だけだよ」
ぶっきらぼうに言うイタカの言葉に、レオは少しだけ笑った。