自殺に失敗して自暴自棄(むてきのひと)になった女の子がネットの怪しい情報をもとに降霊術やったよ!

???「私のお姉ちゃんは語尾に♡つけたりしない! こんなの姉じゃない……」





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亡き姉を現世に呼び寄せたらなんか違う

 

 私の名前は合川(あいかわ)(まい)。今は15歳で、二日後くらいに投身する予定です。脈絡が無い、と思われるでしょう。ほんとは昨日死ぬ予定だったんです。でもうまくリスカできなくて、投げやりになってキッチンの吊り下げ式ランプシェードを使って首括ったら重みに耐えきれずにヒモが切れて、ついでにシェードも取れて私の頭を直撃したせいでエリザベスハットを逆さに被ったみたいな間抜け面を晒してしまいました。

 

 弱り目にあんまりな仕打ちを受けて、むしろ冷静な思考を取り戻した私は何もかも失敗したとき用に計画していた入水をキャンセルして、死ぬ前にやり残した事をやってしまおうと思いつきました。そうです、きっと頭の片隅に未練があったから今回は失敗してしまったのです。そうに違いありません。死ぬことだけに集中できる環境を作ってあげれば次は損ないません。

 

 しかしながら、いざやりたい事を考えてみると中々思い浮かびません。積みっぱなしだった好きな作家の本は全部読み終えました。私にはとても似合わないからと、買うだけ買ってタンスの肥やしになっていたお洋服たちも1回ずつ着てみました。新作コンビニスイーツもあらかた食べてしまって──ヒモが切れたのはこれが原因だったかもしれません。恨めしい──やりたい事はとっくに無くなっていました。

 

 死ぬために現世への執着を見つけ出そうとしている矛盾に気づいた私は、全部めんどくさくなってベッドに飛び込みました。こういう時はクリアな頭で考えなければ。二時間だけ昼寝して、その後にまた考えよう。

 

 そう思い、ナイトテーブルに置いた目覚まし時計に手を伸ばし──その隣に置いてある写真立てが眼に入りました。そこには二人の少女が並んで映っています。右手側の少女は未だ顔にあどけなさを携え、満面の笑みを浮かべています。たった四年前まで、私はこんなにも素敵な笑顔を浮かべることができたのです。

 

 幼い私の隣にはよく似た顔の、それでいて私よりも落ち着きを感じさせる少女が中学の制服を身に纏い、微笑を浮かべています。実の姉だった百瀬(ももせ)姉乃(しの)は、私と2歳しか変わらないのに私よりずっと冷静で、頭が良くて、弱みを見せてくれないところが玉に瑕なまさしく完璧なお姉ちゃんでした。

 

 ──この写真を撮った年の暮れ、姉は通学中に自動車事故でいってしまいました。するとまるで、それまで二人の間を支えていた糸が切れたみたいにして両親の仲は険悪になり、ついには離婚。私は母に引き取られて、苗字も百瀬から合川に変わってしまって。

 

「会いたい」

 

 意識せず、口から言葉が溢れていました。近いうちに姉と同じところに行けるのは分かっています。でも、だからこそ。生きることができなかった姉が、生きることを放棄した私を見てどう思うのか。そうです。それだけが不安でした。空の上に──もしくは冷たい土の底に──行くまえに姉と話をしたい。

 

 明確な未練を覚えました。息を吸い、吐いている間にもその気持ちはどんどん強くなっていき、しかしそれは決して生ているうちには叶わないものです。またしても行き詰まった私はベッドの上でゴロゴロと寝返りを打ち──そのうちにふと、あるやり方を思い出しました。

 

 未だ姉が死んで間もなかった頃。現実を受け入れられなかった私は、姉ともう一度言葉を交わしたい一心で、ネットの海に転がる多くのバカみたいな方法で姉を現世へ引きずり戻そうと本気で考えていました。

 

 そのうちの一つ。掲示板で聞き齧っただけの降霊術もどきのことを、何故か詳細に思い出したのです。もちろん、時が立って年齢的にも精神的にも成長した今では本当に上手くいくなんて微塵も思っていませんが、どうせ死ぬんですから試さない手はありません。今世最後の思い出作りくらいに考えながら、私は儀式に必要なものを調べるため、スマホに打ち込みました。

 

 ひとりかくれんぼ、と。

 

 

 

 思い立ったが何とやら。あの後直ぐに必要な品々を買い揃え、その日のうちに私は決行することに決めました。それから時間は過ぎて現在深夜3時前5分。窓から朧げに差し込む月明かりと手元のスマホの光以外の光源がないのでひどく暗く、家の中も外も物音一つなく静まり返っています。始める時間が決まっているというルールは私に有利に働きました。この時間帯は母が家にいないので私一人になるからです。

 

 そんなわけで、まずは手順に沿って下準備から。まだ姉が生きていたことから家にあるシュ○イフのテディベアを使うことにしました。昔、父が私と姉に買い与えてくれた色違いのテディベア。私は白で、姉はブラウン。姉が持っていたのは棺に入れて燃やしてしまったので残っているのは私の方だけですが、せっかくなら姉との思い出の品を使うことにしました。姉との思い出の品を手元に置いていたら決心が鈍るような気もして。

 

 このテディベアに──もちろん姉乃と──名前を付け、背中をカッターナイフで切り開き中綿を全て取り出した後、代わりに生米と私の一筋の髪束、それから姉の遺骨をひとかけら中に詰めます。こうすると任意の死者を呼び込めるのだとネットに書いていました。

 

 詰めたら切り開いた部分を赤い糸で縫い合わせ、余ったのはぬいぐるみの胴体にグルグルと結びつけました。最後にぬいぐるみの口に小さく切れ込みを入れたら完成です。続いて自分の隠れる場所を寝室のクローゼットと決め、そこにコップに入れた塩水を置いておきます。

 

 これらの準備を終えた頃にはちょうど3時になっていたので、ぬいぐるみに「最初の鬼は(まい)だからね」と3回唱えて浴室に行き、水を張った洗面器にそれを沈めた後、家中のありとあらゆる照明を消して周りました。そうして包丁を持って浴室へ戻り、「姉乃見ーつけた」と3回唱えてからぬいぐるみの胸に包丁を突き立てて、「次は姉乃ちゃんが鬼ね」とまたも3回言ってからあらかじめ決めておいた隠れ場所に隠れます。

 

 クローゼットのクローゼットの真ん中に置かれた下着類や通帳や貴重品類を入れた3段ボックスの裏側に潜む形です。時期的に使わないコートや買ったきり一度も開けていないブーツの箱を自然に配置して、正面から私の姿が見えないようにします。聞こえるのは自分の息遣いだけ。他の音が一切しないので呼吸がとても煩いように感じました。ひたいの汗を拭おうとした右手は、自分でも無意識のうちに汗をかいています。気を紛らわそうと頭の中で数字を数え続けますが、一定のテンポで数えられている自信がありません。

 

 十分にも、丸一日にも思える時間が過ぎました。しかしながら、いつになっても物音一つ聞こえてきません。浴室から出てリビングに向かうには閉めてきたドアを開けなければいけないので、リビングと扉一枚で繋がっている寝室にいれば開閉の音が必ず聞こえてくるはずなのです。

 

 ……頭の中でふんわりと時間をカウントし続けて、もう何十分と経っている気がしますが未だ変化はなく、何の音も聞こえません。正確にはここからだと浴室内の物音は届かないので、もしかしたらぬいぐるみはそこで何かしているのかもしれませんが、それにしたって何もない浴室に十分近くも居座ったりしないでしょう。

 

 そうして、クローゼットで身を潜めているうちに冷静な思考が戻ってきました。自分がやっていることがひどく馬鹿らしく思えてきたのです。こんなことをして、自分は何がしたいんだろう。自分の生死も自分で決められず、あまつさえ死者にその答えを求めている。なんだか自分がすごいバカのような気がして、それまでの緊張がふっと解けるのが自分でも分かりました。

 

 その時です。

 

 ──ガチャリ

 

 ドアの取手を掴む音が、静かな家の中でやけに大きく聞こえました。部屋に入ってきたのでしょう。ドンドンと床板を重く打ち鳴らす、人の足音のようなものが少しづつ近づいてきます。

 

 しゃらしゃらしゃらしゃらしゃら。

 

 ブラシで床を擦る時のような、そんな音が不気味に響いています。ガチャリ。これはきっと寝室のドアを開く音でしょう。今、クローゼットの扉一枚を隔てた先に何者かが間違いなく存在しています。

 

「妹ちゃん、ねぇ妹ちゃん。いるんでしょ?」

 

 少しくぐもってはいますが、間違いなく姉の声でした。何度も記憶を辿り、何度も夢で聞いたのです。間違いようがありません。扉の向こうには──死んだはずの──姉がいる。私は成功したのです。しかしその声に、矛盾するようですが言い難い違和感を覚えました。何かが違う。

 

「妹ちゃん、どこかなぁ♡ どこに隠れたのかなぁ♡」

 

 具体的に言うと語尾に「♡」でも付いていそうな、生前の姉の姿からは想像もつかない猫撫で声でした。

 

「あっ、待ってやっぱりまだ無理まだ会えない心の準備できてない妹が尊い♡ 眉唾な儀式で私を呼び寄せるくらい会いたがってるとかめちゃくちゃ可愛いし私と色違いだねって言って大事そうにいつも抱えてたこのテディベア今まで持っててくれたのとか嬉しすぎかよ♡」

 

 しゃらしゃらしゃらしゃらしゃら。

 

 さっきから響いている不気味な音も気になりますが、姉としか思えない声で姉とは思えないことを宣うあれがなにより不気味でした。手順に間違いがあったのかもしれません。そうでなければこんな化け物は生まれないはずです。敬愛する姉の声で姉を侮辱されるのはひどく不快でした。

 

 一度終了して、やり直そう。そう思い体を動かしかけたところで、それまで感じなかった匂いが鼻腔をくすぐりました。覚えのある香りです。それもそのはずで、それは私が普段使いしているシャンプーの匂いでした。……姉が生前愛用していた物でもあります。だから私もこのシャンプーを使い始めたのですから。

 

 匂いのもとは間違いなくあのぬいぐるみでしょうが、どうしてシャンプーの香りを漂わせているのかが不思議です。いくら浴室から来たとはいえ、それこそ頭から被りでもしない限りここまで匂いが付いたりしないはずです。しかし、クローゼットの扉を隔てていてもはっきりと分かるほど、なんなら少し付け過ぎなくらい強く主張していました。一体どういうわけだろう。そんな私の胸の内を見透かしたかのようなタイミングで、ぬいぐるみは再び話し始めました。

 

「ていうか妹ちゃんがあのシャンプー使ってるのって絶対私の影響だよねだって昔は私とは別のやつ使ってたはずだもんねもしかしてあれかな私のこと忘れないように匂いで思い出せるようにって同じシャンプー使い始めたりしたのかなだとしたらあまりに尊すぎるんだけどそんな幸せがあっていいのかな脳が溶ける♡ 年々薄れて、都合よく改変されていく記憶の中だけの存在になった私の匂いだけでも忘れないようにとかソシャゲの過去編イベントで出てきそうな悲しいストーリーがあったりしちゃったり♡ そうだったらほんとに嬉しいな最初浴室でそれに気付いた時つい興奮してシャンプー飲んじゃったもんねあぁでもこんなこと知られたら絶対軽蔑されちゃうなでもでも都合よく口に切り込みがついてるのが悪いんだよおかげでボトル飲み干しちゃったし元々半分以上使用済みだったから量的にもちょうどよく味わえたよね♡ それに、なんてったって使用済みなのがそそるよね飲めって言ってるようなもんだよね♡」

 

 私は確信しました。こいつは姉ではありません。断じて。確かに一部の人の中には自分の推しと同じシャンプーを使うだけに飽き足らず飲んでしまうちょっとあれな方々がいるのだと知識では知っていましたが、私のお姉ちゃんはそんな変態的なことをしたり言ったりするような人では決してないのです。幼少期の私が口汚い言葉を使ってしまった時に優しく、それでいて反論を許さない凛とした声音で叱ってくれたお姉ちゃんは冗談でもこんなことを口走ったりしません。──しゃらしゃらしゃらしゃらしゃら──あとさっきからうるさいですねこの音何なのでしょう。

 

「あってか待って妹ちゃんの歯ブラシ美味し過ぎてやばいいい香りするしほのかに甘いんだぁ♡ 私に歯があったら思いっきり噛み締めたのにままならないなぁいやでも十分過ぎるほど幸せであることにはかわりないよね妹ちゃんの口腔粘膜に触れたものが私の体の中をかき回してるのを想像したら心の子宮がキュンキュンするよぅ♡」

 

 音の正体は恐らく、ぬいぐるみのはらわた──もとい生米と歯ブラシとが擦れあって鳴っていたのでしょう。とりあえずあの歯ブラシは早急に処分することを心に決め、どうやって地べたから飛び移ったか私のベッドに潜り込んで「全身で妹ちゃんを感じるぅ♡」とか「妹ちゃんの匂いに侵される♡」とかほざいて一人で絶頂しているあれを、ただのぬいぐるみに戻そうと一歩足を踏み出し──その瞬間、クローゼットの扉が勢いよく両側に開かれました。

 

「あぁ、ここにいたんだね、ようやく見つけたよぅ♡ 私の愛する人♡」

 

 見つかった……いえ、まだです。コートと靴の箱の影にすっぽりと収まっている私の姿は向こうから見えていないはずです。姉と違って小柄な体型が役に立ちました。ここまで来たら後はどうにか隙をついてあいつに塩水を浴びせるだけです。私は床に置いていたコップを音を立てないようにそっと取り上げて一口含み、いつでも決着をつけられる体勢を整えました。

 

 ぬいぐるみはまるで私のいる場所を分かっているかのように私のもとへ近寄ってきます。そうして3段ボックスの裏に隠れる私に気付く──ことは無く、さも当然のようにボックスの引き出しを開けました。

 

「これが私の愛する人の……妹ちゃんの生下着♡ 年相応のデザインばっかりだと思ったらちゃんと奥の方に大胆なのも隠してるじゃんおませさ──」

 

 あれが全てを言い切る前に素早く移動すると、私はコップの塩水と口に含んでいたのとを人の下着でよがってるあれに思いっきり吹きかけました。

 

「え"ちょっと待ってなんでいるのどこから聞いてて、まって妹ちゃんから口移しで水貰うとか無理耐えられない許容値超えてる唾液美味しい絶頂するからぁ♡」

 

「妹ちゃん、大好きぃ」

 

 最後にそう言って姉の声をした何かは消え去り、後には歯ブラシを咥えシャンプーの香りを漂わせる動かないテディベアだけが残りました。悪夢のような出来事でした。できることなら今すぐ記憶から消してしまいたいくらい。私はあれが姉であるとは信じたくありません。私の知っているお姉ちゃんとはかけ離れています。……でももしかしたらあれがお姉ちゃんの本当の姿で、私の前ではそれらを全部押し殺して完璧な姉を演じ続けていたのかもしれないと、そうも思いました。姉との記憶を思い返してみると、私はいつも甘えっぱなしだった気がします。もしかしたら、姉は私のために完璧なお姉ちゃんを演じることに疲れてしまって、あんなにふりきった行動に出るようになってしまったのかもしれません。

 

 あのぬいぐるみは最後に私のことを大好きだと言いました。記憶の中の、病院のベッドの上で息を引き取る直前の姉も同じことを私に言いました。大好きだ、と。私はその時泣いてばっかりで、その言葉に返事をすることができず──そのまま姉は亡くなりました。

 

 手のひらの中のテディベアを見ます。相変わらずシャンプーの匂いをプンプン振り撒く、でももう二度と口を開くことも動くことも無いだろうそれ。見つめているうちに死ぬ気が失せてきました。昨日の今日で顔を合わせたらきっとお姉ちゃんの自尊心的な何かが壊れてしまうでしょう。だからそう、あくまで姉のために。私はもう少しだけ生きることに決めたのです。

 

──ありがとう、私の大好きなお姉ちゃん。

 

 

 ……それはそれとして、テディベアと歯ブラシと空のシャンプー容器は次の日まとめて庭で火に焚べました。叶うなら、昨晩の記憶ごと燃えろ。




元ネタ
ひとりかくれんぼ


……明らかに企画の趣旨とずれてる気がする(白目

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