”え、インタビューですか? はい。
そうですね。提督に直談判で直言しようとする
代わりに「次の作戦では自分を使え」と言う陳情が……”
軽巡大淀のインタビューより
「司令官! 本日の戦い、朝潮は感服致しましたっ!」
執務室を出ると、直立不動で敬礼を決める朝潮型長女がいた。
「……俺が出てくるのずっと待ってたの?」
「はいっ!」
「……そ、そうか」
その、何だ。
色々不味い状況だ。今日の空襲は色々目立ち過ぎたのだ。今後について漣と協議せねばなるまい。
と、困ってはいるものの。
敬意を向けられて素直に嬉しい気持ちも当然あるわけで。
「良い勝利だったそうじゃない! 次は私たちの作戦も頼むわよ!」
出撃組の足柄にサムズアップされ、
「よっ! 次はオレを使えよな?」
と、天龍に背中を叩かれる。
たった半日で何が変わったってのかね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「今度こそやばいんじゃないですかね? ご主人様」
夕暮れの、誰も居ない食堂。漣が問う。本日のねぎらい(と言う名の迷惑料)にと振舞われたカップケーキを一口にしつつ。
空襲を撃退した我が鎮守府は、艦載機を放った潜水空母の存在を突き止め、新型ブースターの回収まで成功したのだ。
流石にメディアにまで露出する事は無かったが、上からはそれなりにお褒めの言葉を頂いた。
一部艦娘たちからの評価も、上がって
……自覚はしている。
この後に控える決戦まで、やる気がないと思わせておきたかった。
もはや”奴ら”も俺を小役人とは思うまい。あのタイミングで保身より勝利を優先して、自らを囮にまでしたのだから。
ここで選択を間違えると、木葉先輩と
「とにかく、邪魔が入る前に事を進めないとな。鎮守府内でも誰もいない場所は行かないようにする。時が来るまでそれで持たせる」
何しろここには艦娘が四六時中歩き回っているのだから。
仮眠はこまめに取って、仕事は夜しよう。夜戦組が寮をうろうろしている筈だから、警報を慣らせば誰かしら駆けつけるだろう。
「悪いが、お前も昼寝て夜に仕事するの付き合ってくれ」
「仕方ないですね。おkですぞ」
と言うか、これだけやって何かされるようなら何をやっても駄目だろう。
大丈夫とは思うが。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
視界が開けた。
目の前を覆っていたのが頭に被せられた革袋だと知って、俺は自分の甘さを痛感した。床に押さえつけられて、両手両足も動かない。
拳銃も取り上げられたな。当然ながら。やっぱあれ、
俺を取り囲んでいる制服の集団は……。
「どーも憲兵さん。提督です」
軽口の返答は顔面への蹴りだった。
目の前がチカチカした。鼻の骨でも折れたろうか。
そう彼らは憲兵隊。基地職員が艦娘や女性軍人、民間人に狼藉を働かないよう取り締まる軍の警察だ。
「津田大佐、残念ながらあなたには今の任務から外れて頂きます。もうすぐ迎えの〔オスプレイ〕がやってきますので」
流石だ、退路まで用意してやがる。
そこまでして何をどうする気だ?
「……理由は?」
反徒を率いている大尉が眼鏡をくいっと上げた。
聞いた話では何人かの艦娘は『間宮』で雑談する仲だったと思う。他の憲兵たちもそれなりに古参で、艦娘たちとの関係は良好だった筈だ。
つまり、随分前から網を張られていた事になる。
綾郷司令が掴み損ねるほどには。
「『艦娘に狼藉を働こうとした』で良いんじゃないですかね。ちょうど我々は憲兵ですし」
そいつはありがたくて涙が出るね。
無事帰ってもその後も無事でいさせてくれるとは思わんが。
とにかく、時間を引き延ばして時間を稼ごう。救いがあるかは怪しいけれど。
「お前達、何を知っている? この行動は明らかに国益を損ねるものだ。先輩、木葉提督を売ったのはあんたらか!?」
せめて少しでも状況を長引かせようと質問を浴びせる。これで答えてくれるくらいお馬鹿さんなら大分助かるのだが。
「知りませんよ。私たちは命じられてここに来て、命じられてこうしているだけです」
だろうな。
仮に状況が逆転して彼らを捕えても、大した情報は得られないだろう。
憲兵たちは能面のような顔で俺を見下ろしている。すぐに行動に移さないと言う事は、どうやら時間を必要としているらしい。おそらく〔オスプレイ〕を待っているのだろう。
「漣は?」
彼らに艦娘が制圧できるわけも無いが、自分を人質に脅されている可能性もある。一応聞いてみた。
「さあ? 基地のシステムは落としましたので、今頃それどころじゃないのでは?」
やられた! システムが落ちた混乱に乗じたわけか! 幾らなんでもそこまでやるか!
まさかそこまで掌握しているとは。外の敵なら明石か夕張が防いでくれただろうが、信用する相手に背後から撃たれては……!
「何故ここまでやる? 今深海棲艦と戦闘になったら大被害を出す! 俺だけでなく、仲間を裏切るような真似を……」
「仲間?」
再び顔に激痛が走る。
コンクリートの床に鮮血がぶちまけられる。
大尉はおもむろに胸ポケットからロケットを取り出して見せた。
「娘は難産でね。無事生まれた時は、無神論者を返上するほど神様に感謝しましたよ」
優し気な瞳でそれを開き、再びポケットに仕舞う。
足元で成されている流血には気にも留めない。
「女房が名門の幼稚園に入れるって張り切っていた矢先の戦争ですよ。電話するたびに不安そうな声を聴きます。私は2人を守るためなら、艦娘
「くらい」と言いやがった。
悪いな。それを言った時点で、あんたは俺の敵だ。
「……あんたらは、船乗りじゃねえ」
3回目の一撃、今度は目だろうか。
体を気遣うよりも、最後まで言い切ってやらなければ気が済まない。
「フネを信頼して身をあずけない奴は船乗りじゃねえ。あんたたちに海軍の軍服は似合わねえ。
今度は耳に激痛。踏みつけられたようだ。
毎日毎日海風に晒される船乗りは、自分達をこの言葉で誇る。「潮気のついた船乗り」と。海風の潮を浴びて生きる。フネと共に生きる。
それが船乗りだ。それが提督だ。
大尉が拳銃を抜く。周囲の憲兵たちの表情が驚愕に変わり、急いで取り押さえようと駆け寄るが、大尉はそれを一喝で止めた。
「どうせ彼は死ぬのです。少し手間が増えるだけです」
ぐりぐりと頭を押さえる足に踏みにじられる。
相当に苛立っておいでだが、それはこちらも同じ事だ。
「それならば、貴様は化物どもと最後まで一緒にいればいい!
売り言葉に買い言葉かもしれない。死にぞこないのやけっぱちかもしれない。だけど俺の返事には、もう迷いはなかった。
「ああ! そうしてやるさ!
言う事は言い切った。言ったあと自分でも驚いた。切った啖呵に微塵の後悔も抱いていない事に。
がちゃんと薬室に弾丸を装填する音が聞こえる。
すみません、先輩。すまん、漣。すまん、赤……。
『なかなかいい啖呵でしたね』
スピーカーから声がした。