【旧作】『仮免提督といじわる空母』【ログ】   作:萩原 優

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第13話「仮免提督は作戦を発動する」

”予感がした。これは大変な戦いが始まるぞ、とな”

 

戦艦長門のインタビュー

 

 

 

 その日は皆が交代で看病してくれた。身体は大丈夫でしたかと気遣われ、昨日は大変でしたねと労われた。ありがたくて涙しそうだったが、夢は何時か終わる。俺の場合半時も続かなかったけれどな。

 そして今後の方針について話に来た3人に、まず俺は宣言した。

 

「俺の顔面を酷い事にした大尉以下憲兵諸君の処遇だが、そのまま捨て置く事にしよう」

「ええっ?」

 

 よほど驚いたのか漣まで仰天した様子だった。付き合いが一番長いのにな。

 長門と赤城は、驚くと言うより不快そうにしている。反徒として銃殺刑に処するとでも思ったのだろうか。先輩の件で疑惑もあるしな。

 

「あいつらには何も無かったように装って、向こうから来る情報を流してもらう。じきにばれるだろうが、有用な情報を持ってくる可能性もあるしな」

「そんなにうまく行くんですか? 逆にこちらの情報を流されたりは?」

 

 案の定というか、2人とも懐疑的だ。だが今回は大丈夫と踏んでいる。

 

「監視は十分つけるさ。それでも裏切ろうとするなら、その時こそ『艦娘に狼藉を働いた』と言って送り返せばいい。あの大尉、随分と愛妻家みたいだが、愛する家族に軽蔑の目を向けれるのはどんな気持ちかなぁ」

 

 くっくっ、と笑ってやる。俺だって先輩の事を許せないのは同じだ。

 ドン引きした様子の3人がいたたまれない表情で生暖かくこちらを見ていた。

 

「提督……それはあまりにも」

「ご主人様、お布団の上で死ねませんよ?」

 

 余計なお世話。俺は必要と感じたら断固やるのだ。だいたい、次に送り込まれてくる憲兵が白と言う保証は無い。

 赤城は大げさに溜息を吐いて、話題を切り替えた。

 

「で、一切合切吐いて頂きましょうか?」

 

 何を、とは聞き返さない。彼女たちが一番知りたい事を話せばいいのだから。

 

「分かってる。もう隠す必要もないし、鳳翔との約束もあるしな」

「鳳翔さん?」

 

 一瞬怪訝そうな顔をされたが、すぐにそう言う事かと理解したようだ。まあ、居酒屋『鳳翔』で絡んだからな。

 あとは、にやにやと見守る漣と、微笑を浮かべる長門がいる。

 

 俺は事のいきさつを順番に話してゆく。

 

 俺と前任が旧知の仲である事。

 前任は何者かの罠にはまって行方不明になった可能性が高い事。

 自分は先輩の後を継いで、わざと無能なふりをして着任した事。

 あの憲兵たちは黒幕の走狗である事。

 

 特に、先輩が行方不明になった下りは皆ショックを受けたようだ。

 長門は静かに口の端を下げ、赤城は消え入るような声で「赦さない」とつぶやいた。

 

 話した結果、皆に明かすのは様子を見てと言う事になる。

 

「動揺する娘もいるでしょうから」

 

 との事だ。

 

「それで、あなたと前提督はどういう関係なのだ?」

 

 来るであろうと予想していた問だった。何処から話したものか思案する。気になっていたようで、赤城だけでなく漣まで早く話せと視線で催促してきた。

 

「戦争が始まった直後、俺はそれなりに酷い状態でな。自衛官として戦えなくなった俺を励まし……っていうのかな。まあ立ち直られてくれたのが木葉先輩ってわけだ」

 

 茫洋とした言い方だが、詳細を離してドン引きさせる事もないだろう。それに、話そうとしても何かの力が働くかのように、心がそれを拒否する。隠す理由など無いと言うのに。

 

「で、釣りやらハイキングやら飲み歩きやら、物のない時代にいろいろやってくれたな。少しずつ”生きる力”みたいなものを与えてくれたわけだ」

「うん、あの方なら、やりそうだな」

 

 長門の相槌には前任への信頼が感じられた。共に戦場に立った信頼が。

 

「まあ、時期としちゃ3か月も無かったと思う。俺に提督としての資質がある事を教えてくれて、養成機関に推薦してくれた」

 

 「提督」は、艦娘と共に戦う軍人の中で最上級かつ特殊なものだ。提督がいなければ、艦娘の神通力は半減する。

 彼らは艦娘と信頼を結び、指揮を執ることで力を引き出す。そう言う意味で、信頼を損ねつつ戦うような俺のやり方は危ない橋を渡っていたと痛感する。

 

 そして、提督の条件は「妖精が見える事」。艦娘を補佐し、共に戦う妖精が何なのか。それは良くわかっていない。彼女らを直視できる提督の資質を持つ者は少数で、何故か水兵や漁師、水運関係者など、海に関わる仕事をしている者が多い。

 1人でも多くの艦娘を戦場に送るため、提督の育成は急務。そんな中で俺は適性アリと判断された。

 

「で、先輩はここに来たわけだが、それからも何度か話したり手紙をやりとりしたよ。艦娘の戦いや鎮守府の運用についてはあまり教わらなかったが」

「ちょっと待ってください。全く教わらなかったんですか!?」

 

 驚かれようとも、それが真実なのだからしょうがない。

 

「おう、だって考えて見ろ。あの人が自分を囮にするような無謀な作戦考えるか?」

「……ないですね」

 

 赤城が答える。それはもう呆れきったように。

 

「まあそう言うわけだから、全力は尽くすが過度に期待しないでくれ」

 

 完全なる居直りだが、前任と同じパフォーマンスを期待されても正直難しい。

 そしてそれは必要ないだろう。これだけのメンバーに恵まれたのだから。

 

「それで、硫黄島はどうなさるんです?」

「もう漸減作戦は終わるのだろうな?」

 

 それはそうなんだがな。

 なかなか難しい問題がある。あいつらが唯一の内通者じゃない可能性もあるしな。

 

「もちろん、作戦は行うつもりだ。まだまだ条件が足りない。皆に発表するのはもう少し……」

 

 俺の煮え切らない反応に答えは――。

 

「この期に及んでですか?」

「せっかく皆が見直してくれたんだ。ここでまた信頼を損ねるやり方は賛成できないが……」

 

 分かっている。「地の利」は得た。「人の和」は、まあ何とかする。だが「天の時」がまだなのだ。そしてそれまでは、敵だけではなく味方である内地の人間にすら漏洩は許されない。

 

 が、確かにここで意地を張れば「人の和」まで失われかねない。信頼が欲しいなら自分から誠意を見せるべきだろう。

 

「分かった。漣、悪いが非番の艦娘を講堂に集め……」

 

 俺の命令は飛び込んできた大淀に遮られた。その慌てぶりを見て、俺は勢いよく立ち上がった。

 

「来たか!」

「はい! 〔そうりゅう〕より入電! 硫黄島の敵艦隊に出撃の動きあり、だそうです!」

 

 ようやく、胃痛に苦しむ日々とサヨナラできそうだ。多分だが。

 

「蒼龍? 彼女は今日非番で出撃していない筈ですが?」

そっち(艦娘)じゃない。海上自衛隊の潜水艦〔そうりゅう〕だ。艦娘は飯を食わんといかんから、潜りっぱなしは無理だ。その点現用型は『長時間隠れて偵察する』事の一点で艦娘を上回るからな。古巣に掛け合って目を光らせてもらってたわけだ」

 

 もちろん、その他の点においては艦娘には遠く及ばないがな。

 さて、それじゃ命令変更だ。俺は内線を放送用に切り替えると、丹賑島鎮守府全体に通告した。

 

『総員、現在の作戦及び作業を放棄! 全艦娘及び全隊員は講堂に集合せよ! 艦隊は只今を以て総力戦に突入する!』

 

 息をのむ一同を順番に見やり、俺は宣言した。

 

「行こう! 決戦の時だ!」

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