【旧作】『仮免提督といじわる空母』【ログ】   作:萩原 優

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第14話「仮免提督は決戦に臨む」

”その時の盛り上がりは良く覚えています。

だんだんと考えるようになったのはそれからですね。この人は、信じて良いんじゃないかって”

 

空母翔鶴のインタビュー

 

 

 

「潜水艦隊、敵艦隊と接触しました。戦艦10隻以上!」

 

 いいぞ、見積もった戦力から外れていない。ここまでは予想通りだ。何らかの手段で自己増殖する深海棲艦とは言え、そこまでの急速な戦力増強は無理だろう。

 

「イク達に伝えろ。手筈通り遠距離から魚雷を撃ち込んで足止めせよ」

 

 常識的な命令だと思ったのだが、取り次いだ大淀は苦笑と言うか済まなそうと言うか。妙な表情を浮かべていた。

 

「それが、『戦艦1隻に魚雷命中! 速力低下中!』だそうで」

「おい! 作戦聞いてないのかよ!」

 

 出てきたのは叱責と言うより、ツッコミだった。遠距離から撃ち込んで当たるわけがない。勝手に有効距離まで接近したのだ。いきなり独断専行とか、先が思いやられる。無事だから良かったものを。

 大艦隊の輪形陣を突破して戻って来るとか、凄腕じゃ済まないぞ。

 

「それがですね。『提督は海自の潜水艦に浮気して、酷いのね!』だそうで……」

 

 ……やっちまったな。確かにフォローは入れておくべきだった。とは言え命令違反を見逃すわけにもいかない。大淀からレシーバーを受け取る。

 

「駄目なものは駄目だ。命令違反だから後で説教!」

 

 レシーバーから一斉にブーブーとヤジが飛んできた。しょうがねぇな。

 

「ただし、戦果を挙げたのも事実なので、帰還後特別食にお頭を一匹ずつ付けてやる」

 

 今度は歓声が耳に突き刺さった。現金なもんだ。

 

「これからは命令厳守だぞ?」

『りょーかいでち!』

 

 大淀にレシーバーを返し息を吐いた。これが提督業か。つ、疲れる。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――半日前

 

「さて、これより硫黄島奪還作戦の骨子を説明する」

 

 宣言と共に、講堂は大いにざわつく。それはそうだ。昨日まで漸減作戦がどうだとか寝ぼけた事を言っていた提督なのだ。ついでに顔を腫らしてミイラ男みたいになったヴィジュアルも。

 

 演台から見た艦娘たちの反応は、素直に期待する者、半信半疑な者、まだ俺を信じられない者の3種類といったところ。

 これからの話で最初のグループを少しでも大きくしなければならないが、先に鳳翔との約束を果たさねばならない。

 

「それと、その前に言わねばならない事がある。今まで俺の腑抜けた作戦指揮と振る舞いによって、諸君を不安にした事を詫びたい。済まなかった」

 

 ざわざわと。声が大きくなる。そりゃそうだ。着任して数か月で公開謝罪をする提督なんざ俺ぐらいのものだろう。頭を上げたら、鳳翔と目が合った。小さく拍手する仕草をされた。「よく頑張りましたね」とでも言うように。あいつには敵わん。

 

「軽巡大井です。今までの行いを謝罪ひとつで帳消しにしたい、と?」

「ちょ、大井っち!」

 

 大井が挙手し、過激な質問をする。上官に対し恐ろしく反抗的だが、言っている事はその通りだ。

 

「そうは言わない。この戦いで俺を不必要と判断したら、煮るなり焼くなりして欲しい」

 

 再びざわめきが起こる。そりゃ今までの俺はこんな物言いしなかったものな。次の艦娘が手を挙げる。

 

「重巡高雄です。提督……木葉中将は罠にかけられたと言うのは本当でしょうか!?」

 

 その質問が来たか。当然出るべき疑問だが、誤魔化さず真実を伝えるつもりだ。

 

「不明だがその可能性は十分にある」

 

 それを告げた時、高雄がパイプ椅子から立ち上がり、身を乗り出した。先輩が残してくれた資料では、彼女との関係は良好とあった。かなり慕われていたのだろう。

 

「あの憲兵たちが……!?」

「ちょっと待ってくれ。まずは落ち着け」

 

 話が不穏な方向に流れ始め、慌てて軌道修正する。

 

「確かにあいつらが前任の行方不明に関わっている可能性はあるが、憲兵たちは黒幕をおびき出す餌だ。血気にはやって手掛かりを無くすことはしないでくれ。気持ちは分かるが、ここは堪えてくれよ」

 

 隣席の愛宕に肩を抱かれるように、高雄は座りなおす。

 他にも殺伐とした空気を纏う者数名。この件に関しては長門はともかく赤城もかなり殺気立っていたからな。頼むからやけを起こさんでくれよ。

 

「では、まず前任の作戦をそのまま使用しない理由だ。旧作戦は正攻法。主力部隊を南下させて艦隊決戦で敵を削り、弱体化させた後内地から呼び寄せた上陸部隊と合流し、これを奪取する」

 

 先輩率いる丹賑島鎮守府の活躍で数を減らした深海棲艦であれば、奇策は必要ない。その筈だった(・・・)

 

「だがこの作戦は古い。正確にはアップデートが必要だ。前任が搭乗する輸送機への襲撃に、先の基地施設を狙ったミサイル攻撃。深海棲艦は確実に『戦術』を身に着けつつある」

 

 持って回った言い方に耐えかねたのか、瑞鶴が手を挙げる。

 

「五航戦瑞鶴です。つまり、どう言う事ですか?」

 

 合いの手ごくろーさんと頷いて、本題に切り込む。

 

「……俺が深海棲艦を指揮するなら、『籠城』と言う手を使う」

「あっ!」

 

 赤城、長門他、何人かの者が愕然としている。彼女たちは戦術に造詣があるのだろう。その中に瑞鶴が居たのは少しだけ意外だったが。

 

「陸に乗り上げたフネは沈まない。徹底的な攻撃を加えて完全破壊するしかないが、それを艦隊全員でやったらどうなるか。攻略は困難を極め、下手をするとダッチハーバーの北方艦隊から挟み撃ちを食らう」

 

 静まり返った講堂で、俺はひとりPCを操作する。プロジェクターに映されたのは、機動部隊が写した偵察写真だった。

 

「これは……?」

「俺の着任以来、諸君に攻撃してもらった地上施設だ。これは艦娘にとっての燃料(アブラ)のようなものを保管する施設であることが判明している」

 

 幾らなんでも初耳だと。艦娘たちは半信半疑のようだ。

 

「知らんのも仕方ない。大本営から通達があったばかりの最新情報だ。これに加えて俺たちは散々油槽船を標的にしてきた。これで燃料が枯渇したら、何が起きる? 答えて見ろ瑞鶴」

 

 彼女は、何で自分がとばかりこちらを一瞥しつつ、立ち上がって答えた。

 

「ええと、捨て鉢になって突っ込んで来るか、逃げちゃうかじゃないんですか? あ、あと敵から奪おうとするかも」

 

 良くできました。加賀を失った彼女が、ずいぶんとストイックにやっているのは知っていたが、ただの技術馬鹿になっていないのは素直に敬服する。抜擢も考えてもいいレベルだ。

 

「おう、100点満点だ」

「そりゃどうも」

 

 信用頂けないようで、半眼で返された。まあ、仕方がない。

 

「で、今回敵は一番目と三番目を選択した。奴らは一直線にここへ向かってくる。俺たちは、それを向かえ撃てばいい」

 

 勢いよく手が上がった。彼女は食い気味に立ち上がる。

 

「重巡足柄です! つまり、大規模な艦隊決戦を行うと?」

「そう考えてくれて構わない」

「任せてちょうだい!」

 

 次々と出てくる質問は、少しずつ前向きなものが増えて行く。

 

「軽巡川内! 夜戦! 夜戦は!?」

「ああ、めいっぱいやらせてやる」

「やったあ!」

 

「軽巡天龍だ! オレも出してくれるんだろうな?」

「主力が撃ち洩らした敵を掃討してもらう。ゲロ吐くほど忙しくなるぞ」

「そう来なくっちゃ!」

 

 次第に講堂の熱量が上がって行く。

 その事実に、俺はかつてない手ごたえを感じていた。

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