”私と提督が変ないたずらの応酬をしているなどと、ありもしない噂を流すのは止めて貰えますか?
私はやってません。向こうから一方的に構ってくるだけです”
空母赤城の弁明インタビュー
実のところ、まだ気に食わないと言う気持ちも大きい。
彼の言を信じるならば、着任以来の振る舞いは
だからと言って溜め込んだ鬱憤が霧散する筈もなく――。
ついやっちまったのです。青春の雄叫び大公開を。
普段の赤城を知ってくれている皆は、あの所業を自分がやったと未だに信じない者も多い。ええ、はちゃけました正直。
「あ、赤城さん。お疲れ様っぽい!」
「もう出撃準備ですか?」
ぶらぶらと歩いていたら、第二艦隊として先発する駆逐艦たちが集まって来る。これから工廠で艤装の調整だろう。
「ええ、私は出撃前の精神統一と言ったところですよ」
「流石です!」
「いいえ、大した話ではありませんよ。皆さんこそ、ご武運を」
ひとりひとり頭を撫でてやる。
「ねえ赤城さん、あの放送って結局何だったの?」
そして爆弾は投下される。無邪気にも陽炎が核心に触れてしまい、すぐに不知火が口を塞ぐ。駆逐艦たちは息をのむ体で赤城の反応を伺っている。
「決まってるわよ! 素直になれない男の人をリードしてあげたのよね! レディの鑑だわ!」
艦隊のお姉さん。
頼れる一番槍で、皆を励ます艦隊の和み。
そう言う自分を窮屈に感じたことはない。
ただ、”そうでない自分”も厳然として存在するわけで。
「そ、その通り。コミュニケーションです!」
「コミュニケーション、なのです?」
完全に出まかせである。
と言えど、一度口から出た言葉は戻っては来ず……。
「彼は、この時代で言うコミュ障と言う奴なんです。皆さんと仲良くなりたくても素直になれない可哀想な人なんですよ。だから私が一肌脱いだと言うわけなんですよ」
ああー、また(違う意味で)悪評を広げてしまった。まさかちょっといじわるしたくなったからとは言えず。
皆は「おおー!」と感嘆の声を挙げている。どうしましょう。
「流石赤城さんです! 司令官の悪評を許せなかったんですね!」
吹雪に向けられた視線で、赤城はもう取り返しがつかない事に気付いた。それはもう疑いひとつないキラキラした目だった。
「ま、まあ私は気遣いできる人なので」
吹雪から視線を逸らした時、気付いてしまった。彼女の言葉はあまり間違っていないと。
自分は、許せなかった。皆を守る為に敵に身を晒せる指揮官が、虜囚の身で自分達と共に戦うと誓ってくれた彼が。踏みにじられるままだと言うのが。
『
あの言葉は、自分だけでない。程度の差はあれ皆の心にそれなりに響いた筈だ。自分たちは船。人が水面を歩けないように、自分達もまた人を必要とする。
人と共に戦う。
それが彼女たちにある、根源的な使命であり、存在価値だ。
だからこそ、前任提督を奪った者たちは赦せない。あの日、何も救えなかった自分自身も赦せない。
要するに、空母赤城はあの憎たらしい仮免提督をやっかんだまま、結局は受け入れたのだ。
認めざるを得ない結論にたどり着いた時、クリップボードで頭をポンと叩かれた。
「お前は何を言っとるんだ?」
「あ、司令官さん、お疲れさまなのです」
よりにもよって、様子を見に来た提督と鉢合わせたらしい。諸々は置いておいて、この男とは巡り会わせが悪いというか。
「お前がそう来るならこちらも遠慮はいらんな」
「な、何ですか突然」
警戒して後ずさるも彼の膨れ面は、笑みに変わっていた。何やら企んでいそうだが、周囲の目がある手前露骨に警戒するわけにもいかない。
「いままで世話をかけてしまった。だが、俺はお前にとても感謝してる。仲直りの印にこれを」
駆逐艦たちから再び「おおーっ」と歓声が上がる。
差し出されたのは1枚の板チョコ。戦争前はコンビニで安く買えた菓子は、この物不足で貴重品となっていた。
わざわざ感謝の言葉とともにそんなものを持ってくるとは、
それでもまあ歩み寄るのは悪い事じゃない。と言うか、チョコ食べたい。
「ま、まあそこまで言うのでしたら……」
愛想笑いして手を差し出し……バチン! と何かに挟まれた。
「あーっはっは! 今時これに引っかかる奴がいるとはなぁ!」
こ、この……。
爆笑するひねくれ者に、今アイアンクローしたらさぞ気持ちよかろう。そんな事を思う。
「……怒りますよ?」
本当は「ぶっ〇しますよ」と言いかけたのだが、駆逐艦たちの手前自粛。艦隊のお姉さんのイメージは守らねばならないのだ。
「悪かったよ。だが放送の件はこれでチャラだ。ほら、このチョコは皆で食っちまえ。他の奴には内緒な」
「わー、ありがとうございます!」
代表して不知火が包みを破いて仲間に配っていく。赤城は自分に渡された分を仏頂面で受け取る。
「……戦いの前だから、
どちらかが居なくなった時、それは未練になる。その前に手打ちにする。彼の考えそうな事だが、その妙な律義さが嫌らしく感じた。
提督の胸中は覗けなかった。彼はただ首を振る。
「お前とは対等に行きたいと思っただけだよ」
本当か? 尋ねようかと思ったが、やはり皆の目を気にした。とりあえず信じる事にする。
「今後も”対等に行く”わけですね? なら、次の仕返しを考えませんと」
「お手柔らかにな」
提督は手をひらひらと振った。
なけなしの休憩時間をわざわざ使ってきたのだろう。踵を返した彼は、小走りで執務室に帰って行く。
結局、自分が受け入れられないのは、彼のあの面倒くささなのだろう。艦娘たちと触れ合えば、少しはそれも改善できるだろうか。
赤城はとりあえず思考を中止し、手の中にあるチョコレートを楽しむことにした。