諸々の事情で二章連載までまだかかりそうなので、ちょくちょく短編を投下させて頂きます。
”提督が一歩を踏み出したなら、私ももっと人間を知ろう。そうと思ってな”
戦艦長門のインタビュー
ヘリポートに次々着地する〔オスプレイ〕を見上げ、俺は敬礼した。
ようやく硫黄島の敵艦隊は排除した。これから占領作戦の始まりだ。
先の海戦では海自の世話になったので、作戦の詳細はお任せしますよと。そう振ったらあちらさんもフラストレーションを溜めていたようで、
「悪いようにしないから、作戦の主導権はこちらに持たせてほしい。津田大佐も古巣は海自であることだし」
などと笑顔でもみ手された。
艦娘向けの嗜好品(と言うか菓子と酒)1ヶ月で手を打った。無欲な人だと驚かれたが、あいつらのコンディションの方がよほど大事な問題だ。
海軍のエライ人も、これ以上俺だけに手柄を立てさせるより海自に恩を売った方が良いと考えたんだろう。
ともあれ、内地から攻略部隊が送り込まれてきたことで、俺は向かい入れに奔走することになる。
そして、今目の前にいるのが200名の精鋭がここに居る。
「道中お疲れ様でした。
目の前の指揮艦は、意外と細身だった。だが、俺が体当たりしても簡単に受け止めるだろう。野戦服の下に、詰め込まれた筋肉が見えた。
「指揮を執ります金城です。受け入れ感謝します。それと、敬語は結構です。私はまだ二佐です」
「失礼、この間までただの一尉だったもんでな」
もともと提督の階級なんて権威もへったくれもない。持っている技術や能力に稀少性があるのと、上位の階級の方が艦娘も従うだろうと言う安直な発想でそうなっただけ。俺の肩書なんて、
向こうもそれを分かっている筈だが、こちらを立ててくれるのはありがたい。
彼ら海援隊は、海自が誇る対深海棲艦のスペシャリストだ。彼らは常に深海棲艦を研究し、妖精制作の武器でいかにダメージを与えるかを研究している。
もっとも、主敵は離島に上陸してくるゲリラ部隊だ。今回のように拠点に籠る敵を排除する事も前提としているが、流石に艤装を取り付けたフルスペックの艦娘には敵わない、が――。
「とりあえず、食堂に飯を用意してあります。艦娘たちと交流されてもいいでしょう。ただ……」
「分かっています。狼藉を働いて作戦を壊すような者はいませんよ。いれば既に後ろから撃たれている」
そう言いつつ、金城二佐はくっくっと笑う。何がおかしいのか。
「いや失礼、私も娘が男どもの中に放り込まれたら同じことを言いますよ」
「……? 俺は妻帯して無いが?」
金城は吹き出す。こらえきれないと言った体で。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「どう思う?」
海援隊の隊員たちを眺めている足柄を見つけた。何故かドヤ顔で腕を組んでいる。
彼らの印象を訪ねてみたところ、彼女の評価は予想以上に高い。
「戦ったら相当苦戦しそうね。こっちが艤装なし、向こうがフル装備だとして、4、5人が相手だとかなりきつい戦いになりそう」
「ほお、そこまでか」
5人がかりと言うのは一見情けなく聞こえるが、彼らは軍艦1隻を5人で相手に出来ると言っているのだ。
もっとも彼女達はフネだから、海上を歩けない人間とは得意分野が違う。仮に彼らが敵だとしても戦いは成立しないだろう。
「まあ、これも交流だ。何か勝負に誘ってみても良いんじゃないか? 向こうもそのつもりだろうし」
「いいの!?
隊員たちを舐め回すように見始めた。エリート男子を前にした女性の反応じゃないだろそれ。向こうさんだって「妙齢の女性」を前にしているんだし、お近づきになりたいだろうに。
まあ、傷つけたら殺すがな!
などと要らぬ保護者面をしていると、海援隊の列から2人組が出てきて、艦娘達の和に向かってゆく。
「ねえ、止めましょうよ先輩。何か問題起こして海軍さんと揉めたりしたら……」
「別に禁止されてるわけじゃねーだろ? 公務中に女の子と話せるんだぜ。しかも公然と!」
なんか力説してるが、確かに昔の俺だったらそんな風に考えるかもな。しかしあの先輩後輩、妙に既視感ある。
そして、「先輩」が選んだ相手は天龍だった。あいつ外見に反して気さくで話しやすいしな。
「なあ、基地内の見学をしたいんだけど、案内頼めないかな?」
天龍は周囲をきょろきょろと見まわし、自分を指さす。
「へえ、どうしてオレなんだ?」
どうやら自分が名指しされた事が意外な様子。一方彼女がナンパを引き受けてくれて、安堵する駆逐艦が数名。ほとんど心配されてないのは彼女への信頼ゆえだろう。
「そりゃ皆さん美しいけど、遠巻きに見てる子より、物怖じしない強い女性の方が打ち解けやすいかな? と思ってね」
「強い? そうか、そうだよな!」
思いっきり嘘くさいぞ。普通に彼の好みだったんだろうなぁ。
「あの先輩、そろそろ……」
後輩と言えば、相方の後ろに隠れて事の成り行きを静観している。大変不安そうに。小動物か!
「うふふ、面白い話をしているわねぇ」
ギラッ!
深海棲艦もかくやと言う眼光に晒されて、2人は本能的に棒立ちになる。
「おう龍田! こいつらがオレの事強いって!」
向き直った天龍の表情が、不穏なものに変わっていく。流石に剣呑な空気を感じ取ったようだ。
「あらぁ、それは楽しそうねぇ」
2人組は、既に後ずさりつつある。情けないと言うなかれ。俺も怖い。
「うふふ、でも天龍ちゃんとお付き合いしたいならね、それなりの覚悟も必要よ?」
ギラッ!
うーん、この視線は熊でも殺せるな。
龍田を前にしては、精鋭とか提督とかそう言う話ですらなくなるんだよ。実際彼らは撤退を決断したようだった。
「す、すみませんでしたぁ!」
まあ、彼らは運が悪かっただけにしてもだ。変な下心であいつらに接したらどうなるかは御覧の通りだ。
とは言え、2人をきっかけに話しかけて来る者が出始める。何しろ深海棲艦と同じ力を持つ艦娘である。彼らが強者であればこそ、相手を知ろうと望むだろう。
「じゃあ、私も狩って来るわ!」
足柄が駆けて行く。「狩る」と言っても、ナンパ的な意味ではなく、文字通りのモンハン的ハンティングだろう。
だがまあ、これでいい。うちの艦娘たちも、もっともっと外の世界を知って欲しい。たくさんの選択肢から、自分で選び取って欲しい。
戦いが終わった後、幸福を掴めるように。
「ビッグセブンの長門だ! 海援隊の精鋭に、一手指南頂きたい!」
戦場で指揮を執るような力強さ。手にはふたつの柔道着。艦隊の柱は吠えた。隊員たちの面構えを1人ずつ丁寧に確認した後、そのうち1人に道着を差し出した。
「あなたにお願いしたい」
差し出されたのは、さっきまで龍田に怯えていたあの”後輩”だった。
先輩が、何故かぴゅうと口笛を鳴らした。
「驚きました」
開口一番、金城二佐が言う。何の話だ?
あれよあれよと言う間に、その場にいた全員が武道場に移動。たちまち試合は始まった。普通に考えれば、膂力で長門に敵う人間など存在しない。
だが、二佐は語る。
「まさか結城三曹を選ぶとは思いませんでしたね。こと体術に関しては、私を含め隊内で敵う者はおりません」
まじですか!?
曰く、彼はいわくつきの道場でクレヨンを握る前から猛訓練を受けた人間凶器だとか。小動物みたいと言う第一印象を内心で詫びた。
「まあ、艦娘と互角以上に
なるほど、人は見かけによらないと言うのは、艦娘と同じだな。しかしそんな凄腕を一瞬で見抜いた長門にも脱帽だ。
試合場の2人は、じわじわと距離を詰めていく。審判は公平を期する、と言う長門の主張の為、海援隊の曹士がやってくれている。
「どうした? 緊張するタマでもあるまい?」
外見こそ緊張しまくっているが、彼の所作は至って落ち着いている。艦娘でも長門を前にしたら平静でいられない者だって多い。これだけで彼の存在感に気付いた艦娘も多くいるだろう。
「感謝します。艦娘相手にどこまでやれるか、それを知りたかった」
「ふっ、胸を借りるぞ」
長門はそれほど柔道をやり込んではいないと言っていた。純粋な技量は、恐らく結城三曹が上。一方膂力の方は圧倒的に長門が勝っている。
2人はじわじわと距離を詰める。
「組手に持ち込まれたら結城の負けは必至です。一瞬の隙をついて投げ技で方を付けようとするでしょう」
金城が解説してくれた。要するに睨み合いになると言う事だな、と勝手に解釈する。が、予想は外れた。
長門が動いた。一気に踏み込んで袖を取ろうとする。小細工無し、策を弄するならスピードを全力で上げる。実に彼女らしい。
が、三曹はそれを受けなかった。全力で後方に跳ぶ。長門はこれを追撃し――見事に釣られる。
気持ちのいい投げだった。すぱん! と音を立てて、彼女の体が畳を打った。
「これは……驚愕するしかありませんな」
金城二佐が感嘆の息を吐く。長門は足で突っ張って着地。そのまま結城三曹を転がして固め技に入ろうとする。彼は体を捻って拘束から逃れ、素早く後退。間合いを広げる。
まさか艦娘、しかも長門と互角にやり合うとは。
結局、持久戦に持ち込まれた結城三曹が抑え込まれ、長門の勝利に終わった。皆ハトが豆鉄砲を食らったような目で見ている。うちの艦娘には人間を侮る者も存在する。それは大いに改善されるだろう。彼には良い仕事をしてもらった。
「良い試合でした。ですが、僕もまだまだのようですね」
軍隊で「僕」は厳禁だが、うっかり出したそれに、俺は親近感を覚えた。あれは相当に悔しがっている。
長門が手を差し伸べる。
「私はビッグセブンの長門だ。あなたは?」
三曹は一瞬逡巡して、彼女の手を取った。
「
長門は呵々と笑う。あいつそう言うの好きだからなぁ。
「なぁに。チャンスはまだある。そうだろう?」
2人はがっちりと握手した。
両陣営から拍手が響き渡る。一方で海援隊のメンバーたちが不穏な、いや不敵な視線を送ってきていた。「自分なら勝つ」とでも言いたげに。
「せっかくだ。他にも艦娘に挑戦したい者はいるか?」
隊員たちが総立ちになり、足柄が身を乗り出して挙手する。
「次は射撃でどうかしら!」
相手の得意分野で勝負しようとするのは彼女らしい。
……1人で全員倒すとか言いかねないところがアレなんだがな。
こうして即席の交流会は大成功となった。鳳翔や間宮たちが冷めた料理を温め直すのを見てすげえ謝ったりもしたが。
後ほど長門に勝負の意図を聞いてみた。
「皆少しずつ歩き出しているんだ。私だけが立ち止まっているわけにはいくまい?」
良くわからずにいる俺の背中を、すれ違いざまパンと叩いた長門だった。