第二部までもうちょっとだけお時間いただくので、今回も短編をお届けします(`・ω・´)ゞ
"艦娘の出演は受けが良いんですよ。容姿も良いし、歌も上手いし。
でもまあ、戦時下だからたまたま休暇じゃないと来てくれない事が残念ですね"
イベント運営者のインタビュー
「お願いします! 那珂ちゃんはこの日の為に練習したんです!」
「頼むよ提督! しばらく夜戦は我慢するからっ!」
ぴったり90度のお辞儀を眺め、どうしたもんかと頭を掻いた。目の前には今だ頭を上げない川内と神通。昨今、川内型3名の活躍は著しいものがある。それだけに聞き届けたいところだが、可能かと言うと微妙なところだ。
「ねえ2人とも、もういいよぉ……」
一方片隅で気まずそうにしているのが今回の当事者、軽巡那珂だ。
こいつ、普段無遠慮に見えて自分の事になるとごり押しとか出来なくなるな。
事務方の大淀に視線を送る。反応は芳しい物では無かったが。
「私も何とかしてあげたいですけど、暫くは内地行きの便が無いんです。最短で来週末になってしまいます」
当鎮守府は小笠原諸島北東500kmに位置する絶海の孤島。艦娘たちの活躍で深海棲艦の活動は低調だが、素早く内地に移動するには、横須賀のオスプレイを呼び出すしかない。頻繁に呼び出せるものでもないから、非番の艦娘が内地に遊びに行くのは、それなりの運とタイミングが必要。
「それじゃ遅いんだよっ!」
川内が身を乗り出してまくしたてる。
いつもの夜戦云々でもここまで食い下がって来なかった。
「せっかく非番の日と開催日程が合ったんだよ! 何とかするのが提督ってもんじゃ……」
実はこいつも我儘は言わんほうだ。夜戦が絡まなければだが。
「……どうされます?」
俺は少しだけ思案する。
「でも、当人がいいって言ってるのに周りだけ盛り上がるのってどうなんだ?」
「提督、少々お耳を……」
許可を出す前につかつかと進み出た神通が、俺の耳を引っ張った。悲鳴を出す前に、彼女は囁く。
(那珂ちゃんの性格を知ってるでしょう!?)
そりゃ分かってるよ。
那珂は普段色物と言うか、賑やかしを演じている。その実、内面は責任感の塊だ。
人より自己主張ややりたい事があっても、決して我を通そうとしない。自分だけが優遇されるべきでないと思っているし、勝手をして誰かが割を食う事を極端に恐れる。
だからこそ姉として、本人がポロリとこぼした希望を何とかしてやりたくなったのだろう。それは俺も同じなわけで。
俺はすこしだけ思案し、決断を下した。
「やらせろ」
「……っ!」
川内姉妹は、何故か顔色を変えて後ずさる。
なんだその反応?
「提督の人っていつもそうですねっ…! 艦娘のことなんだと思って……!?」
「ちげーよ! お前こそ俺を何だと思ってるんだ!? 東京のライブイベントを
あっさり希望が通ったためか、那珂はきょとんとした顔で俺を見つめてくる。
「あと、川内と神通は殺気を引っ込めろ」
「……ちっ」
「今後は誤解を招く表現は自重してくださいね?」
今日の秘書艦漣は耐えきれず爆笑する。大淀も失笑を隠さない。……俺の信用の無さ凄いわ。
「本当に!? 本当に良いの?」
「ちゃんと理由があっての判断だから気にする必要はない。大淀、来週の定期便を前倒すように頼むから、予定組んでくれ」
「わかりました」
いいよ、と。
俺と大淀が太鼓判を押して、初めて彼女は嬉しそうにジャンプした。
「後でなんか変な要求とかしませんよねっ? 何かするなら私にだけに……!」
「そのエグいネタを引っ張るな!」
そして、周囲に迷惑が及ばないとしると、途端にアイドルに戻る。
逆に言えば、彼女が元気なうちは鎮守府は大丈夫という事だな。
◆◆◆◆◆
「到・着! きらーん☆」
新宿のグランド・ゼロ脇の公園に設営されたステージは、厭戦気分の払拭目的もあってかそれなりに気合が入っていた。
目の前にはかつて都庁だった瓦礫が積み上げられている。戦争で再建は後回しなのだ。
横須賀の妖精たちが協力しなかったら、瓦礫の片付けすら覚束なかったかもな。
「良いから喉の調整でもしてこい。
「はぁい!」
元気に手を振って走り出す。
何しろスペースだけならいくらでも広く使える。戦争前ならありえない話だが。
「では、私は受付を済ませてきます。おふたりは場所取りを」
神通の背中を見送り、川内と会場をふらふら歩いた。移動時間もあって、早い時間からは来られなかったから、場所は少し後ろになった。
「提督、何企んでるわけ?」
突然、川内が聞いてくる。
「企んでるとはひでーなぁ。そんなに信用できんかね」
まあ、普通に考えたら公務を曲げてまで艦娘の福利厚生を優先しないわな。
「ある程度は信用してるから言ってるんだけど?」
遠慮のない素直な評価なのが、逆に信頼を感じた。俺の思い上がりでなければだが。
「お前らにはさ、人間を知ってもらいたいんだよ」
「人間? 提督は知ってるし、基地や町の人たちも……」
「もっと広くだな。こうやってイベントに参加するだけでも、色々な顔、色々な表情があるだろ」
いつか戦いが終わった時、ずっと島に籠っていられるとは限らない。だからこいつらには街に出て、人と出会って、人を知って欲しい。
「だから、お前も他の奴も、何かあれば連れ出すぞ」
その分俺の仕事が増えるが、と言うのは言わぬが花だ。
「まあ、提督が
「ほっとけ」
まあ、俺もライブイベントなんて初めてだし、楽しみにさせてもらおう。
最初の一歩が楽しいものになるか、苦いものになるか。
それは分からないが。
◆◆◆◆◆
「凄かったぁ! 楽しかったぁ!」
思いを言葉に出来ないもどかしさか。
横須賀に向かう電車で、那珂はずっと熱気に任せて「楽しかった」を繰り返していた。
「最高でした! とっても良かったわ那珂ちゃん!」
今日の神通は甲斐甲斐しい。マネージャーよろしく、汗を拭いたり飲み物を渡したり。
「提督! ちゃんとカメラに収めて頂きましたね?」
「その質問何度目だ。帰りの機内で確認すればいいだろ」
まあ、楽しかったなら何よりだ。
海自時代はこんなイベントに良く駆り出された。ゲームとコラボしてカレーイベントやったら、人が集まり過ぎて横須賀の街から一時的にカレーが消滅したりな。
そんな経験を思い出したからなのか、俺も楽しかった。
「次の開催は3か月後だったか? こんな直前に言うのは止めて早めに相談しろ」
「えっ!」
「なんだ? もう出たくないのか?」
那珂は必至に顔を左右に振り、神通はにこにこ笑っている。
川内も普段と違う景色を楽しんでくれたようだ。
「……なあ、あれ艦娘じゃね? ライブ出てたのか?」
「ちっ、何でこんなところでサボってるんだよ。こっちは物不足でろくに肉も食えないってのに……」
「税金で戦ってるんだから、きっちり働けってんだよなぁ」
これ見よがしな嫌味で、那珂は信じられないような顔で固まった。
振り返った川内達が、妹をストレスのはけ口にした2人組を静かに睥睨し、文句を言おうと足を踏み出す。
「……2人とも、駄目だ」
「でもっ!」
「那珂に任せろ」
拳を握った川内が、2人組に背中を向ける。神通は最後まで俺に抵抗したが、那珂の一言で視線を落とした。
「ふたりとも、大丈夫だから」
彼女は顔を上げ、2人組に向き直るとライブの時と同じ、最高の笑顔で手を振った。
2人組はばつが悪そうに俺たちから視線をはずす。
居心地が悪いのか、彼らは次の駅で降りて行った。
彼らも行き場の無い不安をぶつけてきただけ。
悪いのは深海棲艦であり、この戦争である。
権威や脅しで黙らせることは可能だが、それはきっと那珂が望まない。
アイドルだから。
「なあ、お前はどうしてそこまで出来るんだ?」
切り出した言葉は、自分のコンプレックスによるものだろうか。
他の鎮守府には、歌わない那珂だっているそうだ。ならば何故彼女は歌うのだろう?
それに返した言葉は、なんとも彼女らしいものだった。
「うーん、理由は良くわからないかなぁ。ただ歌うのが好きで、みんなに聴いてもらうのがもっと好きだからかな? 川内ちゃんや神通ちゃんが喜んでくれたらもっともっと嬉しい!」
「那珂ぁ!」
「那珂ちゃん!」
感涙あまって姉二人が彼女を抱きしめる。なるほど、こんな真っすぐにに歌われたら、助ける気になっちまうな。
お前はもしかして、本物のアイドルかもしれんなぁ。
ライブの様子はネットで公開され、それなりのPVを叩き出したそうだ。
中でも彼女を喜ばせたのは、運営に届いた一通のメールだった。
『戦争への不安から、悪口を言ったのに笑いかけてくれた。曲を聞いてみたら素晴らしかった。
ごめんなさい。ありがとう。
那珂ちゃんのファンになります』
それを受け取った時、彼女ははにかんだ笑顔で言った。
「アイドルって楽しいね! 提督、ありがとっ☆」
「……そうか」
これはあまり言いたくないのだが……。
この時必死に仏頂面で取り繕う俺を見て、漣と赤城が下を向いて肩を震わせていた。