【旧作】『仮免提督といじわる空母』【ログ】   作:萩原 優

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リメイク版の『仮免提督といじわる空母・改二』に25.7.5まで掲載していた第1話です。

現在別のエピソードに差し替えたため、ログとしてこちらに残しておきます。


【過去ログ】
(改二版)旧第1話「提督は今日も愛される」


Starring:駆逐艦漣

 

 祭りだ♪ 突撃だ!

 

 始めまして。当泊地の秘書艦第一号、駆逐艦漣です。

 

 物語が始まる前に、うちのご主人さま――この泊地の提督がどんな人か知ってもらいたいですぞ。他の鎮守府と同じように、我らが提督も艦娘の為に頑張る人です。でも時々迷走する時がありまして、それが騒動になる時があるのです。ちょうど今執務室で発生している「騒動」の発端も、それが理由なのです。

 

 

 

「すみませんでした!」

 

 深々と頭を下げるのは妙高型一番艦の妙高さん。その妙高さんに後頭部を押さえつけられてごめんなさいしているのが、那智さんと足柄さんです。

 

「話が見えないのだが?」

 

 戸惑ったように返答するのが、泊地司令である津田(つだ)宏武(ひろむ)提督です。まだ大きな戦いは経験していませんが、空母戦ならお手の物。艦隊旗艦の赤城さんとのコンビは、艦隊に力を与えてくれます。ちょっとだけひねくれ者ですが、面倒見の良さならどの鎮守府の提督にも負けません。漣は初期艦なので、そんな愛される提督はわしが育てたのです。どやぁ。

 

「あんたは黙ってなさい」

 

 そんな人に容赦ない一言を浴びせたのが、秘書艦第三号の霞ちゃんです。謝罪を受ける立場のご主人さまがなぜ黙っていなければならないのか。なんて聞いたりしたらその100倍言葉が返ってきます。大変頼もしいのです。

 

「那智、足柄。二人ともクズ司令官に飲み代を出してもらってるそうね」

 

 腕組しながら問い詰めますが、お二人とも心外そうです。

 

「私たちは酒をねだったりなどしていない。一緒に飲んだ時、いつの間にか会計が済んでただけで」

「そうよ。それで翌日払おうとしたら、受け取ってくれなかっただけで」

 

 妙高さんがため息をついてますな。そりゃそうです。

 

「あなた達、最初は仕方なくても、繰り返したら提督も出すのが普通になっちゃうでしょう?」

 

 言葉に詰まり、完全に反論できない様子です。お二人の名誉のために言っておくと、お金にだらしないのは嫌う人たちです。でもご主人さま相手だと、つい甘えたくなっちゃうんでしょうね。その気持ちも分かるから、よけいに頭が痛いのです。

 そして霞ちゃんが、締めくくります。

 

「ギルティよ」

「ううっ」

 

 お二人はがっくりとうなだれた様子。ささやかな甘えが大事になっちゃった感じです。

 

「まあいいじゃないか。二人と呑むのは楽しいし、足柄はよくカツカレー作ってくれるだろ。あれで相殺と言う事にしようや」

 

 予想通り全部水に流そうとするご主人様です。罪人二人の目に輝きが戻りましたね。でも霞ちゃんはまだ言い足りなさそうです。

 そこでとりなしてくれたのは、秘書艦第二号の赤城さんです。

 

「まあまあ。お二人とも反省してるようですし、責任追及はこれまでとしましょう」

 

 古参で実力者、おまけにご主人さまが前線を任せる相棒。そんな赤城さんは実質艦隊のボスです。問題はその取りなす人もまた、利害関係のない第三者じゃない事なんです。つまり赤城さんも共犯だったりします。

 

「あんたもよ赤城。仕事で本土(内地)に同行した時、必ず何か(おご)らせるそうじゃない」

「うっ」

 

 あーあ。藪から蛇が出ましたね。でも赤城さんは不満そうです。

 

「私は別に大それたことはしてません。大体この泊地の艦娘なら、多かれ少なかれお世話になってます」

 

 断固主張する赤城さんですが、正規空母にも遠慮気兼ねしないのが霞ちゃんなのです。追撃の手は緩めません。

 

「それがエスカレートしてるって言ってるのよ。高いラーメンを梯子(はしご)させたそうじゃない。この物不足の時に」

 

 あ、眼を逸らしましたよ。本人には悪いですが、赤城さんならやりかねないです。

 

「あの時は正当な勝負(・・)の結果です」

 

 赤城さんも引きません。「勝負」とはご主人さまと赤城さんが楽しそうにやっている変な賭け事です。この前の基地祭の時は、夜店の型抜(かたぬ)きで勝負してました。熱くなりすぎて苦情受けましたよ。小学生ですかね?

 しかも負けた方への罰ゲームは過激化の一途をたどっています。この前なんか負けたご主人さまは「提督参上! 仏恥義理(ぶっちぎり)!(笑)」と書かれた旗指物を腰につけて仕事してました。皆笑いをこらえるので必死でした。

 

「あまりうるさい事は言いたくないのですが。お二人の罰ゲーム合戦に、何人かから苦情が来てます」

 

 妙高さんに差し出された匿名の嘆願書を受け取ります。十通くらいありますぞ。試しに一通開いてみます。

 

「えーと。『あの。私たちの司令官で遊ばないで欲しいです。あ、あの。ごめんなさい』だそうです」

「……後で羽黒にフォロー入れておきなさいよ」

 

 と霞ちゃん。赤城さんもこれには素直に応じます。もう匿名でも何でもありませんね、これ。まあ良いんですけど。

 

「とにかくこれは、私と彼とのコミュニケーションですから」

 

 赤城さんも引きません。その気持ちも分かります。赤城さんのいじわるを受けるようになってから、ご主人さまは良く笑うようになったことを。多分ですが赤城さんはそれも分かっていて、自分の提督を励ます為にやってくれています。

 

「俺もこいつに勝つまで止める気はないぞ? レクリエーションみたいなもんだ。ラーメンの十杯や二十杯奢ったぐらいで……」

「十杯? 二十杯?」

 

 霞ちゃんの眉間がぴくぴくと動きます。

 

「あんた、そんなに奢らせたの?」

 

 目を泳がせたと言う事は、事実なんですね赤城さん。

 

 ――ったくいつもあんたばっかり。

 霞ちゃんは声を出さず、そんな風に唇を動かしました。この話題はこれまでの方が良さそうです。

 

「そうそう! 霞ちゃんは、あんまり奢って貰ったりしませんね?」

 

 言ってから気付きました。フォローのつもりの言葉が、霞ちゃんにとっては爆弾だった事に。霞ちゃんは奢らせるつもりはなくても、甘えはしたいのですよね。いつもご主人様のちょっとしたねぎらいの言葉を、すごく嬉そうにしてます。当人たち以外では公然の秘密ですね。

 

「当然よ。私は他人に甘えるほど意地汚くないし。ちゃんと線を引くのが普通よ」

 

 気持ちと正反対の事を言わせてしまいました。心の中で手を合わせました。

 

「そう言えば、この間『間宮』で怒られたっけな。俺も霞のそう言う部分尊敬してるから、今後も無理に奢ろうとするのは止めておくよ」

 

 事もあろうに、この人はそんな事を言い出します。

 

「そ、そうね」

 

 ご主人さまは気付いたげるべきだと思います。霞たんが思いっきりしょんぼりしている事に。ごめん霞ちゃん。後でそれとなく言っておくから。

 

「そんな事はいいのよ! 漣、あれ出しなさいあれ!」

了解(おk)、皆さんこちらをどうぞ」

 

 話を誤魔化すため露骨に話題を切り替えてますが、気の毒なので皆スルーです。そして執務机に置かれたのは、泊地司令の給与明細。個人情報ですがどうせ本人も隠す気ないので良いとします。

 

「ふむ、これは」

「凄いじゃない!」

 

 那智さんと足柄さんが感嘆の声を上げました。そうご主人さまのお給料は凄いのですよ。考えれば当然です。一個艦隊と泊地を運営すると言う重責を、完璧にこなしているのですから。ただ問題がありまして。

 

 タイミングよく、執務室のドアがノックされます。

 

「鳳翔です。例のものをお持ちしました」

「入ってきていいわよ」

 

 鳳翔さんが手筈通り来てくれました。何やら困ったような、申し訳ないような顔をしています。それもそのはずで。

 

「先月提督が『居酒屋鳳翔』で使われた飲み代ですが」

 

 差し出されたメモ書きに皆さん青ざめています。漣も最初に見た時には、天を仰ぎました。

 

「この額はその、ひょっとすると」

 

 那智さん、多分考えている通りです。

 

「ほとんどが同席した子にご馳走した分かと」

 

 その時、妙高さんはうつむいて額に手をやり、那智さんは引き攣った笑いを浮かべ、足柄さんも現実逃避するように視線を逸らしてます。

 

 「これは……」と言葉を失う那智さん。

 「……えぐいわ」と顔を引きつらせる足柄さん。

 

 赤城さんはガチでショック受けてますね。でも漣は心を鬼にして、更なる証拠を見せなければなりません。

 

「あとですね。これはご主人さまがこっそり負担してる、艦娘全員の進水日祝いとか談話室のお菓子とか、海防艦たちが読む本とかの概算です」

「そ、それは経費じゃないのか?」

 

 那智さんがすがったわずかな希望は、霞ちゃんが切って捨てたのでした。

 

「そんなもの、経費で落ちるわけ無いじゃない」

 

 二人は天を仰ぎました。執務室に気まずい沈黙が流れます。

 

 実は今日の「会議」は、霞ちゃんの発案です。これに妙高さんと鳳翔さんが同意してくれて、漣も協力する事にしました。ちょっと甘え過ぎちゃってる艦娘の皆さんにくぎを刺しつつ、ご主人さまに自覚(・・)を促すつもりだったのですが。いざ数字を突きつけられると自分まで罪悪感がします。

 

 もう分かって頂けたと思うのですが、この人は公私の境界があまりにも希薄なのです。本人的には、かわいい孫に玩具を買ってあげるおじいちゃんみたいな感覚らしいです。それは良いのですが、そこからが大問題です。

 

 ご主人さまは私たちに何かする事で、無意識に心の傷を癒している。漣はそうなんじゃないかと思っています。皆の世話を焼く姿は確かに楽しそうなんです。でも時々、辛そうな目をするんです。漣は初期艦だから、実は事情を知っています。皆にはとても話せないような苦しいものです。

 新しく来た()とかは、向き合ってくれる良い提督だと喜びますけど、でも本当の提督を知ると、皆決意します。この人を壊しちゃいけ(・・・・・・・・・・)ない(・・)と。

 

「提督も、本当にいい加減にしてくださいね。ご自分だって、将来は結婚して所帯を持たれるんでしょう? 貯金は必要ですよ?」

 

 妙高さんが念押ししますが。

 

「けっこ……!」

 

 関係ないところで赤城さんと霞ちゃん、足柄さんまでが変な声を出してました。思うところはありますが、武士の情けでスルーしますよ。妙高さんはさらりと聞かなかった事にして、お説教を続けます。

 

「海外艦の子たちも合流したばかりで、これから艦娘もどんどん増えて行くんですよ? ご自身をいじめるのは止めてください」

「それはそうだな。俺の考えが足りなかった。結婚は特にする気は無いが」

 

 この場の全員が、お互いに謝罪し合います。そして最後に鳳翔さんが、皆が一番伝えたかったことを伝えてくれました。とても優しい顔で。

 

「大丈夫です提督。皆あなたについてゆきますよ」

 

 皆も強く頷きます。そうです。甘えるとか奢るとか、本当はそんなのどうでも良いんです。ただご主人さまが自分を大切にしてくれないのが皆嫌なのです。ついつい甘えちゃってた人たちも、その思いは一緒だと思います。

 

「そうか。皆もありがとな」

 

 ご主人さまは「またやっちまったな」とでも言うように苦笑して、背もたれに体を預けました。嬉しさを顔に出してしまった漣は、本当にチョロいです。でも皆の顔がぱっと華やぎます。

 

 しかしながらここで終わりませんでした。

 

「……あなたは」

 

 赤城さんが聞きました。とても不満そうに。だって、赤城さんはずっとご主人さまを励ましてきたから。

 

「あなたは思わないんですか? 高給で豪華な暮らしがしたいとか。何か欲しい物を買おうとか。自分の為に何かしたいとか」

 

 それはただの質問ではありません。どうしてあなたは自分の幸せを見ないのですか? そんな叱責です。赤城さんは誰よりも相棒を気にかけてくれてます。だからこそ一緒に馬鹿やってくれている。その事は皆にも――もちろん霞ちゃんにも――ちゃんと伝わっているのです。

 

「そうだなぁ」

 

 本人は世間話を振られたくらいの認識ででしょうけど、全員が固唾(かたず)をのんで言葉を待っています。自分達に尽くしてくれても、ご主人さまがご主人さまを大事にしてくれないと意味が無いんです。

 

「お前らの時代、海軍の偉い人は皆フランス料理食ってたろ? 立派だったり、有能だったりする人はそれでいいんだと思う。でも国が負けてるのに、ただフランス料理食べてるだけの人も居たわけだ。俺は高給に浮かれてそう言う提督になっちまうのが、どうにも怖くてなぁ」

 

 ご主人さまがそれを言った瞬間、場の空気が不穏なものに変わりました。漣もいらっと来ました。あなたはどれだけ自己評価低いんでしょうね。

 流石の野暮天(やぼてん)も、皆が揃って怖い顔をしている事にやっと気付いたようです。霞ちゃんが肩を怒らせてますし、那智さん足柄さんも真顔になりました。

 

「つまりあんたは、自分(私たちの司令官)がフランス料理すら(・・)食べるに値しない提督だと思っている。そう言いたいわけ?」

 

 霞ちゃんが問い詰めます。

 

「え? いやまあ。そこまで言いたいわけでは」

 

 言い(つくろ)ってももう遅いです。ここの艦娘なら、誰だってこの発言は怒りたくなりますね。

 

「鳳翔さん。お願いできますか?」

「お任せください」

 

 妙高さんと鳳翔さんが頷き合ってます。もちろん漣も一肌脱ぐつもりでありますぞ。どうするって? とびきりのフランス料理を食べさせて、ご主人さまが皆の自慢の提督であると思い知ってもらうんです。

 

「専門外ですからレシピは限られますが、高級店に負けない物を作って見せます。居酒屋鳳翔の沽券にかけて」

「酒だ! 最高級の物を内地から取り寄せよう!」

「いいえカツよ! 極上のアグー豚を手に入れて見せるわ!」

 

 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た。

 

 ご主人さまはきょとんとしています。皆がなんで怒ってるのか、まるで分かって無いんですから。一度本気でぶっとばした方が良さそうです。

 

「ええと。事情はよく分からんのだが、皆でフランス料理を食べるのか? それなら俺が……」

「あなたは黙ってて下さい!」

 

 また自分で材料費出そうとしやがりましたね? 赤城さんにぴしゃりと言われ、ご主人さまは肩を落としてます。艦娘たちの情熱に火をつけちゃったんだから、何もかも遅いのです。

 

 数日後並べられたのは、銀座(ザギン)の高級店もかくやと言うくらいのフルコースでした。本人は状況が読めなくて青くなってましたが、赤城さんが、

 

「食べて頂かないと、もう二度と御馳走は受けないし、皆にも受けさせません」

 

 と宣言したことで観念しました。最初は恐縮しまくってましたが、美味しそうに食べてくれました。後でお礼も言ってくれましたから、感謝の気持ちは伝わったと思います。なお他の皆もご相伴に預かって、その日のディナーはフランス料理でした。さすがに

+フルコースまでは無理でしたが、それでも大好評でした。

 

「本当に、世話が焼けますね」

 

 ふふんと笑う赤城さん。それは貴方もですけどね。でも、いつもありがとうございます。

 

 ともあれこれで丸く収まった。そう思ったのですが――。

 

 

 

「ちょっと司令官、これ何?」

 

 その翌日、執務机の置かれた貯金箱に気付いたのは霞ちゃんでした。聞かれたご主人さまは何故かドヤ顔で胸を張ります。何か変な空気が。

 

「おおよく聞いてくれた! 皆の作ってくれたフランス料理が美味かったから、今度皆で食べに行く為の貯金をだな。ん? なんでそんな怖い顔してるんだ?」

 

 執務室に霞ちゃんの怒号が響きました。思わず耳を塞ぎます。

 

 そして漣は確信してしまったのです。たとえご主人様のトラウマが解消されたとしても、結局この人の本質は「かわいい孫に玩具を買ってあげたがるおじいちゃん」なのだと。

 

 だから今日も我らが提督は、皆から愛されているのであります。もちろん、漣も。

 

 

 

 そんな艦娘たちと困った提督の物語は、その着任当日から始まるのです。

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