【旧作】『仮免提督といじわる空母』【ログ】   作:萩原 優

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第8話「提督のお昼休み(3日目)」

”結局、体を動かす事に艦娘も人間もないようだな。汗を流してしまえば、迷いも辛さも吹き飛んでいる”

 

戦艦長門のインタビュー

 

 

 

 武道場に来たのは本当に思い付きで、そう言えばそんな施設もあったなと思い浮かんだわけで。艦娘たちが一斉に並んで拳を突き出し、「破ッ! 破ッ!」とかやってたらさぞや壮観だろうと思い。要するにどうでもいい野次馬根性を発揮してしまったに過ぎんが。

 

「提督か。お疲れ様」

 

 ひとり形の練習をしていたのはビッグセブンの長門だ。彼女には本当に世話になってるなと思う。長門が皆を抑えてくれなければ、俺はもっと難しい舵取りを迫られたろう。

 

 彼女は苦笑と共に武道場を見回した。

 

「最近は陸奥が付き合ってくれるんだが、今日はちょうど出撃でな。私ひとりと言うわけだ」

 

 随分広い施設なのに勿体ない。そんな事を漏らすと、長門は言う。苦虫をかみつぶしたような顔で。

 

「ほんの少し前、木葉中将(前任)が行方不明になられるまではそれなりに(ひと)もいたよ。今は皆不安なのだ。実戦的な砲撃や雷撃の訓練をしたがるし、教える方もそれに付き合わねばならない。地味な体術をやり込む者は減ってしまった」

 

 ここにも鎮守府の現実があるわけだ。焦りはつのる。

 

「深海棲艦を相手にするのに体術は必須なんだ。組み付かれたら41cm砲も役に立たない。体ひとつで引き剥がさなければならないからな」

 

 それを分かっていながら、実践訓練を重視せざるを得ないと言うわけか。それならばちゃんとした訓練メニューはちゃんと作らんとな。神通にでも相談してみるか。俺が無能者の仮面を外せたらだけどな。

 そんな事を考えていたら、長門の咳払いが聞こえた。

 

「本来”提督”ならば既に対処している問題だぞ?」

 

 出来の悪い生徒に苦言するように説教をして、肩の力を抜いた。まあそれ以上は言うまいと。

 

「大丈夫、焦っているのは提督だけではない。皆もあなたと同じだ」

 

 俺が焦っていると看破してくれた彼女の信頼に、俺は目下応えられていない。

 

「そう言えば、お前は俺を提督と呼んでくれるんだな」

 

 何の気なしを装って尋ねてみる。彼女はそんな事かと再び苦笑して、言った。さも当然であるかのように。

 

「提督――木葉中将が後任と認めた男だからな。モラトリアムはまだある程度はあるぞ」

 

 武人の艦娘は快活に笑う。いや、艦娘は皆武人か。

 それでも、俺は演技めいたものを感じてしまった。本当に自信満々なら、彼女はこんな物言いはしない。何となくそう思った。

 

「失望させないようにするよ」

 

 俺には、それだけ言う事しかできない。

 

「そうだな……。仲間を見捨てたり、不必要に切り捨てたり。そんな事をしたら一発アウトだが」

 

 冗談めかして語るのは、彼女の本心だろう。もし俺が味方(艦娘)を消耗品扱いする指揮官なら、長門は俺を躊躇なく撃つ。

 

「なあ、前任ってどんな提督だったんだ?」

 

 彼女の笑いが止まる。そして懐かしむようにある方向を見やった。屋内だから一見分からないが、あちらは内地。先輩が消息を絶った場所がある。

 

「あったかい人だった。いつも優しい目で艦娘()たちを見てくれていたよ」

 

 武人のように振舞う彼女が能力ではなく人柄を語った。それだけ慕っていた証拠だろう。

 

 俺は後任としてその信頼を引き継がねばならない。出来る自信は全く無いのだけど。

 

「あまり心配するな。あなたにはあなたのやり方があるだろう? 極論すれば嫌われ者の独裁者でも構わない。皆を無事に連れ帰ってくれるならな」

 

 確かに極論すればそうだ。そんな言葉に反発を感じるのは、俺がまだ好かれたいと言う過ぎた希望があるからかもしれない。能力も人徳も足りないと言うのに。

 

 それでもやるべきことをやるしかないわけで……。

 

「私としてはそろそろ隠した爪の片鱗くらいは見せて貰いたいところだ」

「買い被りだよ。俺の指揮ぶりを知ってるだろう?」

「ふふふ、行き当たりばったりの小役人が、特定の施設や補助艦艇だけ狙い撃ちにするかな? しかも、ああも執拗に」

 

 ……やはり、長門の目は誤魔化せんか。

 

「たまたまだ」

 

 ノーコメントとばかり、両手を上げて見せる。ここで種明かしは出来ない。まあいいと、タオルを首にかけた。鍛錬の時間は終わりらしい。

 

「まずは一回全部吐き出したらどうだ? 案外うまくいくんじゃないか?」

「……そんなもんかね」

 

 曖昧に笑って、俺もその場を去る事にした。そろそろ仕事場に戻らねば。

 

 去り際の長門が、何か気付いたように立ち止まった。

 

「そう言えば提督、あなたの軍装はすべて海軍の物なのに、拳銃だけ新しい(令和の)ものなのだな」

 

 心臓の音が太鼓の様に一発、胸を打った。こいつは……知っている?

 平静を装って観察する長門に、何らかの意図はなさそうに見えた。恐らくただの興味だろう。

 

「自衛隊の正式拳銃だよ。初実戦以来使っていて、思い入れがあってな」

 

 世間話みたいなものだから、この程度の返答で良いだろう。実際彼女も気にしてはいない。

 

 人間が深海棲艦と戦うには、新型の武器より妖精が制作した第二次大戦の装備の方が何故か有効だ。よって俺も南部式や浜田式を使うべきなのだが、まあ拳銃はどうせ実戦では使えないと重きを置かない提督も多いから、別に変には思われまい。

 

「じゃあ、また後で」

 

 動揺の残滓を悟られないよう、武道場を後にする。務めて平静を装って。

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