僕がヒロさんの身に起こった異変に気付いたのは、今から三年も前のことだった。ヒロさんがこの家に同居するようになってから、初めての秋の頃だ。裏庭の温室で薬草の手入れを終えた僕が談話室に入ると、ソファーに座ったまま居眠りをするヒロさんの珍しい姿を見つけた。気温が涼しくなり始めた季節だったから、風邪をひかないようブランケットを取り寄せ、手に持ってヒロさんに近づいたとき、その変化に気付いた。
僕がたてる微かな物音に反応する、尖った大きい黒毛の耳。人であるなら存在すべき場所に、肌と同じ色の耳は見えない。尾こそ確認できないが、少なくとも「頭部だけ」は僕が知る獣人のものになっている。僕は素早くヒロさんに睡眠を深める魔法をかけた。
全身魔法スキャンの結果、ヒロさんは人間から獣人に『なりかけている』状態だった。耳は変化したけれど尻尾はなく、筋力の数値が徐々に獣人のデータに近づいていた。僕がこれまで変化に気づかなかったのは、この変異が非常に遅効で、かつ健康という点では全く問題がなかったからだろう。筋肉の質も筋力トレーニングの結果と判断できる程度で、本日になって急速に進行したみたいだった。
僕は見落としてしまった。耳を生やす程度の魔法が、服用すらしていないのに身体を猫のものへ完全に変える効果の強さを。猫語を理解できるほどに、脳を変化させた異常さを。
後遺症が残った時点で、魔法薬全般を対象とした打ち消し薬をヒロさんに飲ませていれば、今の結果はなかっただろう。ここまで症状が進行してしまえば、変化途中で別の魔法薬を投与することはできない。今の中途半端な状態で症状が固定されてしまう可能性が高いためだ。それは材料に乏しいこの世界では、防ぎたい事態となる。
僕はヒロさんに獣人の特徴を隠す幻覚の魔法を掛けた。現在発症している変化が完全に終わるまでは、何も手を打つことができない。だけども知れば、彼はそれを利用しようとするだろうから。ヒロさんに気づかれないように元に戻さなければ。
──まあ、それは無理だったのだけど。
完全に思考が停止しているのか微動だにしないヒロさんを眺めながら、サッと魔法でお茶を用意する。久しぶりの日本茶に、少しでも精神が癒されてくれればよいのだけど。そっと湯呑を差し出せば、ゆっくりと手に持ってじっと湯呑の中身をヒロさんは見ている。わあ、眉間のしわが凄い。
猫舌になったつもりはないのに、と呟かれたので、獣人それぞれに原種の再現に幅があるよと伝える。先輩にハイエナの獣人がいるけれど、顎の力が凄いので骨もかみ砕いていたよ、と言えばヒロさんは猫の特徴とは、と悩んでいた。混乱しているのだろうけど、すでに思考が今の状況を利用しようとしているね。うん、やっぱりすぐに戻そう。
「非常に優れた平行感覚と、柔軟性と、瞬発力の極めて高い身体能力。他には足音の消し方が上手いことと、あと体臭が少ないらしい」
「忍者か」
スマホで猫に関する記事を見ながら言えば、即ツッコミを入れられた。確かにそうとも捉えられる。猫は忍者だった……?
「まあ、隠した理由はわかったよ。これは迂闊に報告できないし」
深呼吸をしたヒロさんは苦笑いをした。色々僕に言いたいことはあるが、この場では収めてくれたようだ。ヒロさんのこういうところが公安に配属された理由のひとつと想像でき、僕がなにかと彼を気に掛ける理由である。この人放っておいたらあっさり殉職とかしそうだ。しかも誰かを庇ってとか、そういう代償で。
「とはいえご安心を。別の魔法薬を参考にして、元に戻る魔法薬は開発済みだよ。日本に帰ったら服用してね」
「開発済みなのか。だから黙って、ん? ……悠君」
「なに?」
「治験は誰が?」
「僕だけど」
回答にはデコピンが返された。心配してくれているのは解るけど、他に被験者いないのだからしょうがないでしょ。
* * *
「今日は夕方まで待機なんだな」
「うん、日中は人目があって動けないからね」
心の安静と説明に時間を取られたため、衝撃のオレの獣人化発覚の日はさっさと眠ることになった。いろいろ質問したいのは山々だったが、今すぐオレの体をどうにかするより公爵からの無茶振りを解決することが優先だからな。
オレと悠君は用意された朝食を食べながら、今後の予定を話し合っていた。
「堂々と部屋を出たら尾行くらい付けると思うよ、あの御仁は」
「あーやるやる。絶対やる」
「そんな状態なんて動きにくくて嫌だもの。それに何も動いていないのに解決した、あたりで済ます方が都合がいいからね」
縛りプレイは好きじゃないんだけど、と口をとがらせる悠を、オレは目を細めて眺めていた。オレの視線に気づいた悠君は、何だと目で促してくる。
「いや、悠君の本当の素ってこんな感じなんだなーって」
「素と言っても、猫を被っていたつもりはないけれど」
「いやいや、ずっと敬語からため口になっただろう。萩原達にも敬語のままだから、アイツら結構気にしているみたいだぞ」
オレの指摘に悠君はキョトンとした表情を見せる。あれ、もしかして敬語は無自覚なのだろうか?
そう考えていると、悠君は、萩原さん達はお巡りさんだからとポツリと言った。あれ、オレは?
「え、ならオレは?」
「ヒロさんはヒロさんだよ」
「じゃあゼロは?」
「優秀なお巡りさん」
「飛田さんは?」
「苦労人のお巡りさん」
どうやら悠君の中では役職がまず前に出るらしい。きっちりし過ぎるほどに、その人物の役に対応している。これはおそらく悠君の処世術の一つだろう。魔法の世界で随分身分の高い先輩がいたようだし、TPOに則って礼儀を持って相対しなくては、色々問題があったのだと思う。
それはそれとして、オレは口元を手で覆い、そろりと視線を横に流す。何とも言えない心持で口元が緩む。気安くなった悠の言動が、警戒心の強い猫が懐いたようで、オレにとってかなり嬉しかったのであった。
侍女たちが食べ終わった食器類を回収し、紅茶の用意をしてから部屋を出た後、悠君はオレに書類の束を手渡した。
「はい、今日の夕方に向かう国と、その属国扱いの国についてのデータ」
「ああ。……これは随分と、絞っているな」
「そう、やりすぎだね。自国の産業が衰退しても止めないなんて」
公爵に暗示をかけていた者の出身は、その属国扱いされている国だ。ヴェスパニア鉱石を用いた兵器の開発を推していたのは、自国でも使用するためだろう。反旗を翻す計画の一部だったのかもしれない。資料には直近数年の両国の産業の生産高についての数値が記載されている。本日向かう国をA国、属国扱いされている国をB国で記されてあった。搾取されているB国の数値が目減りしているのはともかく、何故かA国の数値も減少傾向にある。
安く買い叩けるB国の製品は、A国内でたっぷりマージンを取って販売される。しかし、その金額はA国内で生産されたものよりは価格が安いため、A国の消費者が其れを購入するのは当然の成り行きだ。つまり、B国の製品ばかりが売れ、A国内の産業があおりを受けている。本来であればここまでの衰退を国が許すはずがないが、参照として添付してある現政権の個人データを見るかぎり、個々人の儲けを優先しているようで、国のトップとして役に立っていないのだろう。
オレとしては、この個人データを悠君がどうやって入手したのかとても気になるが、聞いても答えてくれないと思うため、これも流しておく。
「つまり、A国によるB国の属国化を解除できれば、今回の一連の問題は解決する、ということだね」
「いや、随分な無茶を言われたよなぁ」
「規模が便利屋じゃあないからね。まあ、やらないといけないのだけど」
大丈夫、プランはあるよ。そう言って悠君が取り出したのは、クリップで写真が留められた資料。
A国の軍人ねぇ……うわ、まだ若いのに元帥って凄いな。生家は代々文官を輩出する名家で、親族の反対を押し切って軍人の道へ。統率力や人格その他諸々に問題はなく、正しく任務を全うする優秀な軍人。
「それ故に軍部は完全に彼の手中みたいだね。B国がつけ込む隙のない、もの凄くクリーンな来歴だったよ」
「わー、どこで手に入れたんだろーなー、そのB国内部の情報。それで、彼に接触してどうするんだ?」
「ちょっとクーデターしてもらおうと思って」
「待って」
* * *
男にとって、人生は苦難に満ちたものではなかった。上流階級といえる国の中でも歴史の長い家に生まれ、勉学を苦痛に感じたことはなく、身体を思い通りに動かすことを億劫に感じたこともない。それらは全て男に新しい世界を与え見せるもので、何かを習得する努力をしたという記憶もない。出来のいい息子と言われ褒められることは、出来る事だけをしたつもりの男は、何故褒められるのかと疑問すら抱いていた。
流されるままに生きていた男の転機となったのは、実家の書庫に紛れ込んでいた書類の中身。祖国の事実上の属国である、隣国に課せられた税の一覧だった。現代において異様なほどの重税、恵みを根こそぎ奪った後には、どれほど残されていただろうか。男が学校で学んだものは耳障り良く改ざんされた数値で、この内容は後戻りが出来ない文官になった後に知るものなのだろう。文官の任命を受けた際に記入する誓約書には、機密保持のため退職後は他の職業に就職できないと記載されていることは、この国に住む者なら周知の事実なのだから。
ひとつ疑問があるとすれば、この書類は新しいものではなく、すでに紙の端は黄ばんでおり、記載された日付も十年以上前のもの。誰が、どういった意図でこの書類を男の実家の書庫へ紛れさせたのかはわからないが、好意的に解釈するのなら、祖国の、隣国への対応に憤った人間がいたのだろう。今の男と、同じように。
両親の勧めるまま文官への進路を選ぶ予定であったが、男はそれを選択肢から外した。その道は進みたくないと、生まれて初めて強く願ったからだ。
軍人の道を選んだのは、隣国に駐在している部隊があると知ったためだ。駐在部隊への所属は希望すれば叶ったため、新兵として部隊に組み込まれてから自らの目で見た隣国は、活力というものが感じられなかった。表通りこそある程度の活気はあるものの、少し路地裏に進めば建物の壁に背を預け、通路にうずくまる人間の姿は珍しくない。その手足の細さと、じっとりと男を見る疲れ切った目を、男は決して忘れまいと心に決めた。
軍を笠に着て無体を行う者を、規律に厳しい上官にそれとなく伝えていけば、男の狙い通り軍の内部からそんな人間が減っていった。昇進してからは自ら規律違反として部下を締め上げ、そんなことを続けているうちにいつの間にか軍のトップに立っていた。男は生家の意向が働いたことを察する。政府だけでなく軍部の伝手も太くしたいのだろう。男は何も言わず粛々とその地位を受け入れた。但し、利用させるつもりは微塵もなかったが。
軍のトップに立って、隣国の民を軍人からの暴力という点では守れていると思っている。だが、実際の商いや国同士の交渉については、軍人の立場からはなにもできない。政治の上層部の輩、奴らの薄汚い顔の情報は手元に集まっている。しかし、警察が奴らに取り込まれているせいで、この情報をリークしたところで誰一人逮捕者は出ないだろう。
それでもいつかはこの情報を預けるに値する者が出てくることを願い、情報を集める日々だった。
そんな毎日が続いたある冬の日。男の前に彼が現れた。
『精が出ますね』
時間は夕方を過ぎ星が輝き始めたころ。勤務予定時間を越えていたが、書類をまとめるため執務室に残っていた男に、いつの間にか現れていた彼が声を掛けた。
彼が立っていたのは、音もなく開け放たれていた窓の前だった。男は携帯していた拳銃に手を伸ばしながら、どうして警報が鳴らないのかと疑問に思う。窓が開いているということは、外壁を伝ってか何かして侵入したのだろうが、窓に付けられたセンサーによって、盛大にベルが鳴るはずなのに。
警戒する男に向かって、彼は仮面で隠れていない口元、形の良い唇の端を緩く吊り上げた。貴方に何かをするつもりはない、少し質問をしたくて訪問したと、柔らかな口調の英語で彼は話した。
『なんの質問だ』
『いえ、どうして貴方はクーデターを起こさないのかなと疑問に思いまして』
小首を傾げて発せられた声音はどこか無垢な幼子を感じさせた。まったくその内容は愛らしいものではないが、と男は目を細める。
『動機も、上層部の首を飛ばせる良い証拠もお持ちのようですのに、一向に使用する気配がないでしょう』
幼気さすら感じさせた声音と違い、仮面から覗く黒い目には何もそこに感情を載せていなかった。それなのに、何もかも見透かされているような感覚に、男は背筋を震わせた。それを誤魔化すように、男は彼の目をしっかりと見返した。
『何を知っているか、と問うのも無駄か。
……わかりきったことを聞く。武力を使って事を成せば、我が国も隣国も巻き込んで自滅するからだ』
もし男が武力によって現政権を引き落とせば、隣国も同様に武力によって属国から脱出しようとするだろう。そうなれば男としても隣国と戦争の道を選ぶしか他ない。しかし、ただでさえ疲弊している両国が、物も人も失う戦争に耐えきれるはずがない。
そして得をするのは、両国以外の隣国だ。これ幸いと全て平らげに来るだろう、人道的支援の名目の元に。
男の言葉に、彼はゆっくりと横にかぶりを振った。
『いいえ、いいえ。確かに武力を用いた方法ならば、そのような結果になることはございましょう。
しかし、私の指摘しているのはそれではございません。真っ当な貴方様の職務を利用したクーデターです』
『両国治安維持法はご存じですか』
もちろん男は知っていた。両国の取り決めとしてあからさまに不平等な条約が結ばれた中に、その両国治安維持法がある。これは治外法権等を持たず、平等に「我が国の法」に則って裁こうというものだ。これは警察ではなく、軍が違法を犯したものを取り締まる。隣国に駐屯している一番の理由は、これを用いて我が国に反乱の意思がある者をつぶすためだった。
これがどうしたのかと問いかけようとしたとき、男は天啓が下りたか如く、彼が言いたいことを理解する。
『お気づきになられたようですね。
ええ、この軍が違法を犯したものを取り締まる対象は、隣国だけではありません。今まで使用されたのが“隣国”に向けてというだけで、“この国”も対象なのですよ』
ほら、何故やらないのか疑問に思ってもしょうがないでしょう?
彼の言葉に、男は呻いた。最初から手元にピースはすでに揃っていた。不可能だと決めつけるのではなく、どうやったら成し遂げるかと考えていれば、もっと早く自力で結論にたどり着けていただろう。
『これで固いおつむも多少は柔らかくなりましたでしょう?
──この国と隣国を救えるのは貴方様だけ。あまり時間をかけすぎると、耐えきれなくなるものが出てきますよ』
第三者にどれほど迷惑をかけても、成し遂げようとしたり、ね。にんまりと笑った彼は、そう言いながら自らの胸を指で叩いて示した。
『なので、出来るだけ早めにお願いいたしますね?』
そんな声を残して、彼は窓枠から飛び降りた。体を壁に隠しながら階下を覗き見ても、人の姿は見えない。
言動から察するに、彼は第三者ですでに迷惑を掛けられた側に所属しているのだろう。第三国介入の警告ついでに唆しにでも来たのか、終始にこやかに振舞うだけで内心を掘り下げることすらできなかった。
『──だが、いいだろう。貴殿に乗せられてやる』
もとより機会を伺っていた身。進む方向が定まったのならば、足を踏み出すことに躊躇はない。スマホを手に取り、通話先の人物が己と同様まだ居残っていることを確信しながら、男はコール音を聞いていた。
* * *
ガタン、と音を立てて開いていた窓が閉まるのを確認して、悠は窓の真上の壁に張り付きながら息を吐いた。全体重を支えている指先にさらに力を籠め、するすると登って屋上までたどり着く。ひょっこり顔を出すと待機していたヒロと視線が合い、にんまりと悠は笑みを向けた。
「だーいせーいこーう。ただいまヒロさん」
「おっ、おかえりー。お疲れ悠君」
悠はよいしょ、と最後の壁を跨いだ後、胡座をかいた膝にノートパソコンを載せているヒロの隣に腰を下ろした。
「おかえりなさい、悠さん」
プラプラと手を振って指先の血の巡りを促している悠に、幼い少年の声が掛けられる。
「ただいま、ノア。お手伝いありがとうね」
「ううん、僕も灰色猫の一員だもん。しっかり手伝うよ!」
日本の家で留守番をしていたノアズ・アーク。彼が今回手伝うことになったのは、ノアズ・アークの存在をヒロにばらしたことがきっかけだった。
朝の時点で作戦の概要を話し終わった後、悠はノートパソコンを触りながらふと思い立ったように顔を上げた。
「そうだヒロさん。どうせだから一人紹介したい子がいるんだ」
「紹介したい子?」
「うん。実は灰色猫で働くメンバーで、セキュリティを担当している子だよ。……さ、自己紹介できるかな?」
悠はそう言うなり、くるりとノートパソコンの画面をヒロに向けて回転させた。
「はーい。はじめてお話ができるね!
こんにちはヒロタユウキさん。僕はノアズ・アーク、セキュリティエンジニアとして勤務している人工頭脳だよ」
「は?」
ノートパソコンから発せられる少年の声に、正確にはその内容にヒロは画面を凝視する。そこにはひらひらと手を振る笑顔の少年が映し出されていた。
理解が追い付いつき、受けた衝撃を流すように、ヒロは深く深く息を吐いた。
「ああ、はじめましてノアズ・アーク。オレのことはヒロでいいよ」
「わかったよ。僕のこともノアって呼んでね」
「了解、よろしくなノア。……さて悠君」
「はい、キリキリ話します」
悠は両手を上げて降参のポーズをとりながら、ノアズ・アークが雇われることになった経緯をヒロに説明する。
「守秘義務と、特異な存在で基本的人権の対象外なのを考慮して、お口にチャックしてたと」
「ヒロキくんはあの社長に開発援助をもらっていたから、持ち主だと主張するには障りがある。表だってノアを守れないんだ。
だから僕のところに匿ったのだし」
自己判断で新しくプログラムを作成できる人工頭脳なんて、全世界であらゆる組織が欲するに違いない。ネット上の世界ではたとえ罠にかけられたとしても、自力で解決してしまうだろうノアズ・アークだが、物理的なサーバーという安息地があるに越したことはない。
「だからヒロさんもお口にチャックしておいてね。バラすと警察庁のセキュリティがとんでもないことになるよ」
「一般市民には被害がいかないようにするから、そこは安心してね」
「流れるように脅すんじゃない」
朗らかな声で掛けられた言葉は、全く爽やかなものではなかった。
「わかった、ゼロや飛田さんもダメなんだな?」
「ダメ」
「了解。あらゆる方法でオレからアウトプットしない、OK?」
「OK」
諦めたように肩をすくめるヒロに、満足気に頷く悠。二人のやり取りを傍観していたノアズ・アークだが、画面上で元気に飛び跳ねながら挙手をしていた。
「ねえねえ、僕も今回のミッションを手伝いしたい!」
「おっとノア、また僕のPCを占拠して話を聞いていたね。他のPCでは絶対にしちゃだめだよ?」
「あ、これがターゲットのいる施設の見取り図とセキュリティの詳細図だよ」
「既に手伝っているだと。僕に拒否権はないのかー」
目を手で覆って仰いで嘆く悠に、ノアズ・アークが出した図に引いていたヒロは恐る恐る訊ねた。
「悠君、これいつもなのか?」
「いやいや、流石に今回が初めてだよ。ノア、帰ったらヒロキ君と一緒にやっちゃいけないリスト更新するからね」
「はーい、ごめんなさーい」
ヒロは穏やかに叱る悠と子供らしく謝るノアズ・アークを見て、悠が保護することでノアズ・アークの暴走を防いでいるのだと理解した。
そんなこんなで強制的に手伝うことになったノアズ・アーク。現在軸にて彼は後五分でセキュリティを正しいものに戻すよと告げる。
「了解。じゃあ拠点に戻ろうか。ヒロさん手を」
「はいよ」
悠に差し出された手の平の上に、ヒロは促されるまま己の手を重ねる。悠が軽くその手を握った次の瞬間、僅かな魔力光を残して彼らの姿はその場から消えた。