歪んだ。
「悠君?」
資料をめくる手を止めた僕に、ヒロさんが訝し気に声を掛ける。僕は彼に反応を返さずに、異変を感じ取った方向に顔を向けた。
以前感知した『数年前の歪み』とは種類の異なった、しかし遥かに規模の大きい歪みはあっさりと陽炎のように消えさり、残響を拾おうと意識を研ぎ澄ませていた僕はふうと小さく息を吐いた。
「……なにかあった?」
「わからない」
集中していた僕の邪魔をしないようにか、向かいのソファーで息を潜めていたヒロさんがそっと聞いてくる。僕は首を横に振って否定した。
大元を辿ろうにもすぐに消えてしまったそれを、他の誰かへ説明することはできない。僕以外の皆は、先ほど唐突に変わってしまった世界を受け入れるしかないのだから。世界からの優しさとも言い換えられる改変を、はね除けた馬鹿者はたぶん僕だけだろうから、わざわざ説明して自覚させるのはあまりに惨い。
だから、僕から伝えられることはただ一つ。
「嵐がくるよ」
これから訪れるだろう脅威の告知だけだった。
* * *
一月十五日の夜、僕は一人で愛車のノートニスモSを運転していた。
この車は萩原さん達から司法試験合格祝いにプレゼントされたものだ。押し問答の結果、抵抗の甲斐なく押し切られて新車を贈られてしまった。確かに忙しくて運転免許証を取得するのが遅くなったけれど、皆気合い入れて貯蓄しなくてもいいのに。過剰にいただいた分は、食事会の料理を数段豪華にすることで無理矢理還元したよね。いらん気を使うんじゃないって小突かれたけれど。
僕が珍しくも単独行動中なのは、ヒロさんが飛田さんに駆り出されているからだ。しばらく安室さんが海外に出張中のようで、人手不足のため多少強引に連行されていった。ヒロさんは先日の僕の反応を気にして、離れることを渋っていたけれども。
そんな訳で、僕は久しぶりに一人でうかれて依頼先に向かったのである。ノリで作ったケーキ持参で、だ。そんな僕に依頼者は目を丸くしていたけれど、和やかに依頼を遂行できたのだから特に問題ないだろう。うん。
監視の目がなくてのびのびできる解放感もあるけれど、少しばかり寂しい気持ちがあるのはヒロさん達には秘密にしておこうと思う。
少し小腹が空いたころ、進行方向にコンビニを見つけた。調度良いと敷地内に入り、駐車してエンジンを切ろうとしたときに、感覚になにか掠めるものがあった。
動いている、いいや、収束している。
まるで台風の中心に風が集まるように、いくつもの流れがある地点へ動いていく。
この流れの先に、先日の歪みの核がある──僕は消していたヘッドライトを点灯し、再び車を動かした。
感じ取った差異は進むにつれ段々強くなっていく。僕は核を見落とさないように気を付けながら車を走らせた。流れに沿って直線的に向かうことが出来れば早いのだけど、流石に他人様の屋根を走るわけにはいかない。車でさえなければ箒で飛んで行けるというのに。
迂回しながらたどり着いた先は住宅街だった。そこで、ふらつきながら歩く小さな姿を僕は見つけた。真冬の一月で、傘も差さずにずぶ濡れになりながら、壁を支えに歩く小さな子どもを。
「そこの君!」
車を停車して慌てて駆け寄れば、僕の声と足音に気づいたのか、幼い少年がゆっくり顔を上げた。大きな青い目と白い肌に貼り付く黒髪の持ち主は、ツイステッド・ワンダーランドで美形を見慣れた僕でも驚くほどの、ヴィル先輩やルーク先輩が目を付けそうなとても美しい少年だった。年齢は就学前後だろうか、どこかぼんやりとこちらを見ているためか、子ども特有の生気が薄れて人形のように思える。
僕はざっと少年の状態を確認する。頭部に包帯、体格に合わないサイズの大きい衣服に寒さになのか震えた身体。──尊厳を踏みにじられた可能性も考えて、刺激しないように近寄りすぎず、膝をついて視線の高さを合わせた。
「こんな真冬に傘も持たずに歩いていたら、風邪をひいてしまうよ」
「あ、えっと」
「とりあえずこれを羽織ってね」
着ていたコートを脱いで慌てる少年に被せる。濡れた服を乾かさないと改善しないが、ないよりはマシだろう。多少寒さが和らいだのか、コートを掴む少年の表情がわずかにゆるんだ。
「すみません」
「いいえ。どうして一人で歩いていたのか聞いてもいいかい?」
僕の問いに少年は目を泳がせたが、黙り込んだままだ。初対面の人間が信用できないのだろう。できれば早く暖房が効く車の中に移動してほしいけれど、彼の同意がないと怖がらせるだろうし、色々と問題だ。
「僕が無理なら、お巡りさんなら話せるかな?」
「……信じてもらえないから、いいです」
「……そっか。お巡りさんに話したけど、真面目に取り合ってくれなかった?」
頷いた少年を見て、頭の中で仮想お巡りさんにアイアンクローを掛ける。少年が抱えている事情を察することはまだできないけれど、正直に打ち明けたのに伸ばしたその手を払ったのだろうか。
大人に其れをされたら、子どもは黙り込むしか選択肢が無くなるというのに。どこの交番か所属を聞いてヒロさんにチクろうと心に決め、そっと頭の包帯に手を伸ばした。
「これは頭を打ったのかな、もう病院には行った?」
「医務室みたいな所で、手当てして貰いました。頭は、後ろから殴られて気絶して」
その回答に思わずぽかんと口を開けたまま言葉を失った。
後頭部を殴られて意識消失したのに、手当で終了って嘘でしょう。確実に脳震盪起こしているのに。──もしかしてその警官や手当てした人間は、どうやって負傷したかって説明も、信じなかった?
「ごめんね、抱えるよ」
「うわっ!?」
僕は少年に一言謝ると、小さな体躯を被せたコートごと抱え上げた。車の後部座席に座らせ、シートベルトを付ける。
「まずは病院に行った方がいい。検査ができるちゃんとした病院に」
「いやでも、オレ元気で……ってぇ」
「まだ頭が痛むのか……!」
慌てていた少年が頭を抑えるのを見て、僕は舌打ちをしそうになった。落ち着いて、と軽く少年の肩を叩くが、しばらく痛がった後少年は意識を失った。何処から少年が歩いていたのかわからないけれど、脳震盪当日に運動しているんだ、脳へのダメージは相当なはず。
「近くの病院、CT取れるようなとこは遠いか……!」
ならしかたないと、僕は急いで近くのコインパーキングに駐車し、エンジンを止めて自宅へ『飛んだ』。
* * *
悠が少年の負傷を魔法で検査し処置を済ませた後、少年の保護の連絡を受けた弘田と飛田が到着した。
「保護した少年は?」
「まだ意識が戻っていないけれど、深刻なダメージは抜いたよ」
「他者による脳震盪を起こす威力の後頭部殴打でしたね?」
「ええ」
悠から少年が警察に取り合って貰えなかったことを聞いた二人は、浮かない顔をしていた。実証がないと動けないのが警察だとはいえ、まさか正しい事件の聞き取りすらできずに、被害者の適切な治療処置が遅れたという事態。そんな話を聞けば部署違いとはいえ心に沈むものがあった。
「すみません、忙しい時に連絡をしてしまって」
「いえ、そろそろ弘田を戻すところでしたから」
「ちゃんと仕事は終わっているからさ」
気にしないで、と弘田は明るく笑ったが、悠はこれは終わらせただけだなと察する。おそらく残業しているだろう他公安警察官達に、今度差し入れを持たせますと感謝の念を悠は送った。
悠は二人を連れて少年を寝かせた部屋に向かう。ドアを開けて見えた、ベッドに横たわって昏々と眠る小さな姿に、警察官の二人は痛ましそうな表情を浮かべた。
悠が浮かべたモニターには、意識の覚醒がもうすぐだと数値に出ている。それを二人に伝えようとしたとき、少年のまつ毛がふるえた。咄嗟に悠は手を振って、少年に見られる前にモニターを消した。
「あれ、ここは……」
「目が覚めたかい」
「! ……あっ、さっきのお兄さん」
ぼんやりと天井を見ていた少年に悠が声を掛ければ、小さな肩がびくりと跳ねた。目に警戒を宿して声の主をねめつけた少年だったが、悠に気づいて小さく声を出した。
「ごめんね、病院に行った後僕の家に連れて来たんだ。まだ痛むところはあるかな?」
「痛くない、です」
よかった、と悠は少年に向かって微笑む。少年はじっと悠をしばらく見つめたあと、小さく息を吐いた。少しだけ落ち着いてくれたかなと、気に障らない程度に観察していた悠は同じく息を吐く。
次に少年は見知らぬ大人二人について気になっているようで、さり気なくちらちら見ている。その稚い仕草に悠は口元を緩め、全員の自己紹介を含めて名前を告げた。
「自己紹介がまだだったね、僕は本田悠。便利屋をしているよ。こっちは弘田雄輝さん。便利屋のメンバーなんだ。もう一人は飛田さん。こっちはお巡りさんだよ」
「初めまして、少年」
「初めまして」
「……はじめまして」
じっと見つめながらこちらを観察する姿に、猫のようだと悠は思った。そして少年の落ち着きように、年齢よりも知能が高い可能性に気づいた。
「君の名前は教えてくれる?」
名前を訊ねられた少年は、口に出そうとしたところで躊躇う。疑念と恐怖が浮かび、小さな手を握りしめる姿を見て、悠はそっとその手を両手で包んだ。
「約束しよう。君の話がどんなに一般的ではなくても、笑い飛ばしたりしない。これでも便利屋で色んなことを知ってるんだ、不思議なことには慣れているよ」
パチリとウインクして見せた悠に、少年は目を伏せてか細い声で本当ですか、と言う。最近僕が出会った不思議なこと聞きたいか、と悠は悪戯っ気を含めて笑った。
「家に遊びに来る猫に食べられる草と食べられない草を教えてもらってね。でも、猫基準で食べられないからって庭に植えてたネギを全部踏まれたんだ」
「それは嘘だろ」
先ほどまでの儚げは何処に行ったのか、どうやって猫と話すんだよと胡乱な目で少年は悠を見た。反応の悪さを気にも留めず、本当だよとニコニコと笑う悠のフォローに、弘田はポンとひとつ手を叩いて相槌を打った。
「なるほど、この前落ち込んでたのはそれか」
「それなんだよ。危うくトマトの苗もやられそうだった」
「えっ、この話続くの?」
しかも本当にあったのかよ、と最初より幾分言葉が粗い少年が信じられないものを見る目で悠達を見て言う。その猫のような印象やテンポよくツッコミをしてくれる点に自分のマブ達を少し思い出し、悠は心の中でほっこりした。決して顔には出してはいないが。
「どうする?」
包んだ手をそのままに、悠は柔らかく目を細めた。強制するつもりはない。少年が話せないなら話せるようになるまで待つつもりであった。幸い、今のところ緊急の依頼はない。少年の家族から捜索願いが出ているかは後々確認するけれど、少年の心が落ち着くまで、この家で心身の療養をすればいい。
そう思って声を掛けた悠だったが、彼が想定するよりも少年の決断は早かった。
「俺の名前は、工藤新一です。今は何故かこんななりをしてるけど──気絶する前は十七歳の高校生でした」
そんな時折新聞を騒がせる高校生探偵は、まっすぐ悠を見据えていた。
* * *
怪しい男を尾行したら、拳銃の取引現場を見てしまい、証拠写真を取っているうちに背後から忍び寄ったもう一人の男に暴行を受けたと。聞けば聞くほど新一君が無謀すぎて、僕はつい彼の頬を引っ張りそうになった。クルーウェル先生なら鞭がしなって全力のBad boy判定をくらうところだよ?
素知らぬ顔をしているけれど、ヒロさんも飛田さんも今頭を抱えたいんじゃないかな。
「なるほどねぇ。後頭部負傷の後に変なカプセルを飲まされたと」
「毒が検出されない新薬だって言っていました。人間には試したことがないそうです」
「新一君が最初ってことか」
新一君の話を聞きながら、なるほどあの妙な反応はその薬かと納得した。治療のために彼の身体を魔法スキャンした際に、魔法薬に似た反応を検出したからだ。継続している反応のため、易々と解除できずにそのままにしていたのだけど、これは丁寧な検証が必要になったな。
「飲ませた男は二人組か……直前の事件の容疑者だったか」
「はい。全身黒い服を着た奴らで、一人は中折れ帽に黒いサングラスのがっしりした体つきの男で、もう一人は同じ中折れ帽に腰近くまでの長さの銀髪です」
……いまヒロさんが息を飲んだ。
後ろの様子に反応せずに、新一君の言葉をメモしていく。この件は人相書きをしない方がいいかもしれないな。
「そうだ、サングラスの男が銀髪の男を『アニキ』って呼んでました」
「名前は聞いていないんだね?」
「はい、なにも」
そう易々と呼び名は漏らさない、か。最低でも半グレで、最悪は規模の大きい犯罪組織か。未完成の新薬が手に入る立場となれば、最悪を想定するのが適正だろうね。遊園地って違法取引の現場になるのかぁ、知りたくなかったなぁ。
新一君はひとしきり話して疲れたのか目を伏せた。そろそろ一旦休憩を入れようと、彼に紅茶のお代わりの有無を聞く。頷いたので全員分入れる際に、ヒロさんに目くばせをしてキッチンへ連れ込んだ。
紅茶の準備をしながら、黙り込んでいるヒロさんに声をかける。
「新一君を襲った二人組、心当たりがあるの?」
「わるい、言えない」
「そう、いいよ。安室さんの許可もいるだろうから」
足りないお湯を沸かして、ちょっとつまめるようにサンドイッチも作る。夕方から気絶していたのなら、お腹が空いていることだろう。ヒロさん達も食べてないだろうから、いっそ簡単にスープも作ってしまおう。
冷蔵庫からキャベツを取り出すと、ヒロさんが僕の手からとりあげてスープ用でいいかと聞いた。よくおわかりで。
そのまま無言のまま二人で作業を続けたけれど、スープを煮込む段階になってから僕は口を開いた。
「今はまだ混乱しているようだけど、頭の良い子だね。観察力も記憶力も良くて話す内容も綺麗にまとめられている。
ただ、好奇心で動いてしまう悪癖があるのかなぁ」
「彼が生きているのは奇跡的な幸運だよ。本来なら──命はない」
「薬を投与しようとしなければ、か」
後頭部からの鈍器での一撃。これだけで致命傷になりうるというのに、わざわざ検出されない毒薬という触れ込みの新薬を使用した。男達がそんな遊びをしなければ、単純にもう一撃加えられていれば、新一君は今生きていなかっただろう。
「マウス実験が終わっているなら、そこそこの効果は見込めたんだろうね。人に早く試したかったのか……あちらも好奇心で動くタイプかな」
「んー、疑わしきは殺せのタイプだな」
「うわぁ、前にも聞いたなぁ、ソレ」
つまりは組織の規律に沿って動く、忠誠心の高い人間か。というか、前に聞いた初手で爆破してきた鼻の利く幹部とやらではないだろうか。新一君はほんっとうに運が良かったのだろう。
「どうやって説得しようかなぁ」
「……手伝ってくれるのか?」
十中八九、今と同じ生活ができなくなる彼に、どうやって制限された生活を受け入れてもらうか考えなくてはね。まずはご両親を呼び出す必要があるから、そこは飛田さんに手配してもらおう。
「下手な決定を押し付けられたら、なりふり構わず逃げ出すタイプだと思うよあの子。それに……投薬されたものは魔法薬に近い反応が出ていたんだ。このまま経過観察したい」
「な、るほど……了解、飛田さんにそう伝えておく」
魔法が関わっている可能性を知って、ヒロさんは即座に頷いた。不運な偶然の効果か、研究者の意図的な結果か……まあ、警戒しすぎということはない。
さて、随分な時間を二人きりにしてしまったけど、談話室の方はどうなっているかな。作ったサンドイッチとスープ、紅茶をワゴンにセットして、僕はワゴンを押した。
* * *
ふ、ふたりきりで残されてしまった……!
悠さんが諸伏を連れ出したため、被害者たる少年と二人きりになったのだが、談話室には沈黙が訪れていた。とても気まずい。
元々身体が大きい上に目つきも悪いというか、鋭い方なので、初対面の子どもには泣かれやすい。威圧感を減らそうと椅子に座ってはいるが、どれだけの効果があることだろうか。
彼は高校生探偵の工藤新一君が小さくなった姿ということで、一般的な子供よりは捜査一課の強面の刑事に慣れているだろうと予想はできるが、その見た目の小ささがよくない。
どうしても脳がか弱い子供と認識する。素の彼もまだ十七歳なので十分子どもなんだが。
「信じたんですか、あんな荒唐無稽な話」
「ん?」
「俺が、高校生の姿から小学生サイズになったって、非科学的だろ」
顔を向けても新一君と視線は合わない。彼はじっと自身の小さくなった手を見ているからだ。ヘッドボードとクッションに背を預けた姿は小さく、ぶっきらぼうな声音も合わさって酷く頼りない印象を持った。
「非科学的でも、君の話には一貫性があった。証言は客観的で、なるべく感情を排して伝えようと努められていた」
非科学的と言われて、まあ普通はそうなんだろうがと苦笑をしたくなる。
なにせ、こっちは悠さんという魔法使いと三年ほどの付き合いだ。箒で空を飛んだり、一瞬で服を変化させられたり、指を振るだけで飲食物が現れたりを見てきたんだ。年齢が変わることもあるだろう、って思える上に、実際に性別を変えたという話を聞いたことはある。
「悠さんが言っていたが、俺たちには不思議なことに縁があってな。それでまあ、受け入れやすかったという事もあるだろう」
むしろ、悠さんなら今の新一君の状態を治せるのではないだろうか。それとも何かできない理由が、と考えて、彼が毒薬を飲まされたことを思い出す。
そうだ、彼はおそらくあの組織のメンバーに殺されかけた。もし生きていることが判明したら、新一君は再度危険に晒されるだろう。下手すれば、彼の大切な人間ごと全て殺される可能性もある。悠さんはだからあえて戻さないのかもしれない。彼の危機は全く去っていないから。
それならば、これから新一君は……今までの人生を捨ててもらうことになるだろう。まだ十代の子どもが、だ。
「だが、君の話を笑い飛ばした警察官がいたことは、すまなかった」
僕達は公に謝罪なんてできない立場だ。任務のため合理を優先にして、少数の市民を踏みにじることもある。そうしなければ守れないものがあると知っているから。
だからといって、情がないわけではない。理不尽を強いられる誰かに憤ることはある。その被害者であり、これから全てを失う彼に、せめて大人として頭を下げたかった。
椅子に座ったままで、軽く頭を下げるだけ。そんな傍目には軽い謝罪を、新一君は少しの沈黙の後受け取ってくれた。
「別にいいです。貴方じゃ、ないですし。信じてもらえて嬉しかったですから」
困ったような声音で、おそらく僕の立場も考えて、まだ子どもの彼が大人びた判断を下す。なんとも言えないもやもやを胸に残しながら、僕は頭を上げて新一君と視線を合わせた。
ぽつりぽつりと二人でたわいない話をしながらしばらくすると、悠さんがサンドイッチとスープと紅茶を運んできた。
なかなか戻ってこないと思ったら。ひとまず夜食がてら休憩することになったらしい。少しばかり恨めしく思うも、空腹でもあったので単純にありがたい。
それに、二人きりになったことで新一君と話せたことは、良かったと思ったのは間違いない。
なお、具だくさんのサンドイッチはとても美味しかったです。