時はU-20戦目前の、15日間の合宿中。
卑劣なサッカー協会の手引きにより、スポンサーに撤退されたブルーロックは金欠に陥ってしまう。
その打開策としてブルーロックがとった行動は……何故か女装喫茶を開くことだった!

※pixivにも掲載してます。

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ブルーロック11傑による女装喫茶

 

 

「こんなん、完全にフザケてんだろ……」

 

時はU-20との決戦に向けての最終合宿15日間、その7日目。時刻10時。

青い監獄(ブルーロック)”11傑、潔世一は現在の状況に辟易していた。

 

「俺が女装とか……ッ!マジで誰得だよ!」

 

慣れないスカートの裾をおさえて叫ぶ。

そう、現在の彼の姿はボブヘアのウィッグを被った女装姿──ヴィクトリアンなメイド服に身を包んでいた。

 

「では、1日限りのブルーロック女装メイド喫茶、開店しまーす!」

 

帝襟アンリ──彼女は何故か男装スーツ姿──の元気な声が、急造改築された食堂に響く。

ゾロゾロと客──ほぼ女性客ばかりが入店する中、潔は頬を引きつらせて渋々ながら注文を取りに動いた。

──フットボールで世界一のストライカーを作るための“青い監獄(ここ)”で、なぜ彼がこんな姿を晒しているのか。

時は12時間前に遡る──……

 

◆◇◆◇

 

 

「予算はとっくの昔に尽きてましたが、とうとう明日の食費すら困難となりました」

 

最終合宿6日目、21時。

ブルーロック職員、帝襟アンリの悲痛な声がミーティングルームに響く。

改定三次選考(セレクション)適性試験(トライアウト)を経て。U-20戦に向け最終合宿を繰り広げていた“青い監獄”の面々に、無常すぎる現実の壁がブチ当たっていた。

 

「ちょちょ!?飯も食えねぇってどんだけカツカツなんだよ!?つーか、ついこの前食い放題出来てたじゃん!」

 

「最初の300人から35人まで減ってんだぞ!どこでムダ金使ってんだ!?」

 

五十嵐栗夢と雷市陣吾、練習終わりで汗だくな彼らから至極最もな意見が叫び散らされる。

この言葉に“青い監獄”総指揮、絵心甚八の細身が動いた。

 

「うっせぇ慎め。流石の俺もこの展開は予想外だったが、ちゃんと策はある。黙って聞け」

 

異様に細長い首の裏に手をやり、魚眼チックな死んだ目がギロリと睨む。両名はその覇気にたじろいだ。

絵心ですら予想できない事態。それは“青い監獄”プロジェクトを今まで支援してくれていたスポンサーたちの、急遽脱退だ。

 

「どうやら、お偉いさんは俺たちを潰すためなら手段を問わないらしい」

 

お偉いさん、とは日本フットボール連合の運営者たちである。彼らから圧力を掛けられたのか、この最終合宿が始まる日からパッタリと支援が止まっていた。

中でも緊急性が高いのは、食料事情だ。

今日までは既に仕入れていた食料で賄えていた。だがそれも底を尽き、残るは非常時の備蓄のみ。

流石の絵心もこれには参ったらしい。

 

「メシが食えないのはさすがにマズい。だから俺は、休息日と定めていた明日に大博打を打って出ることにした」

 

「大博打?」

 

何やら不穏な言葉にストライカーたちが訝しむ。

そんな彼らを余所に、絵心の背後にブォンと立体映像(ソリットビジョン)が大画面で浮かび上がった。

 

『“青い監獄”緊急金策案(アルバイト)!顔面偏差値レギュラー11傑による擬似奉仕活動(ホストクラブ)開催!!』

 

デカデカと現れたその文字と共に、その下には見知った11人の『顔』が並んでいた。

 

「……」

「……」

「……」

 

「……なにか質問はあるか?諸君」

 

「大アリに決まってんだろ!?!?!?」

 

半数以上の人間から絶叫が響いた。しかし絵心はまったく意に介さず後頭部をポリポリ掻く。

 

「もっと具体的な質問を寄越せアホども。はい、雪宮剣優」

 

さっそく挙手した人物──雪宮剣優を促す絵心。

 

「はい。では僭越ながら、もっといい方法はなかったのでしょうか?まだ概要だけですが、採算が取れるのか非常に怪しい文面です」

 

「お前はいつも良い質問(パス)をくれるな」と前置きをし、メガネの位置を正す絵心。「恐れ入ります」と雪宮もメガネの位置を正した。

 

「質問に答えよう。まず、この提案を受ければ大手飲食業と契約が結べる。そしてアチラさんは採算は度外視で、目的(メイン)は広告らしい。そして締結した瞬間から食料の供給を開始してくれるそうだ。良かったなお前ら」

 

「良くねぇ!……いや、良いのか?つーか顔面偏差値ってなんだよ!?誰がいつどーやって決めた!?」

 

あまりの好条件に雷市が一瞬納得しかけるが、直ぐに声を荒らげて質問する。だが反抗心による反射的な質問なのであまり中身は伴っていない。

絵心はため息をついて答える。

 

「お客サマからの投票だ。事前にお前らのプロフィールを公開し、給仕する11名を選んでもらった。今ここに表示されているヤツ以外は基本裏方だ」

 

プロフィールとは言うが、選ばれた11人を見るにほぼ確実に『顔』で選ばれている。選ばれなかった人間は、そこはかとなく渋い表情を作った。

 

「あわわわっ、俺バイトした事ないよォ!何すればいいのぉ!?」「俺に任せろ、すべてオシャにこなしてやる」と時光青志、蟻生十兵衛。

「ほーん。ま、僕はええで。楽しそうやん」「メシ食えないのは辛すぎっから、裏方だろうがなんだろうがやるっきゃねぇべ!」と氷織羊、七星虹郎はノリ気だ。

ストライカーたちの動揺の波は広がり続けるが、どちらにせよコレをやらねば明日にも飢える。彼らに選択肢はなかった。

そんな中。

 

「フン、ダルい事させやがって。お前らだけでなんとかしろ」

 

“青い監獄”11傑、現No.1ストライカー糸師凛が不機嫌を微塵も隠さず去ろうとしていた。

彼はU-20戦……というより糸師冴を越える(殺す)ために、休息日である明日も自主練に割く予定だったのだ。こんなお遊びに付き合ってる暇はない。

だが、絵心はそんな彼を逃さなかった。

 

「糸師凛、お前はこの投票(アンケート)でTOP3に入る。そんなお前が出なきゃアチラさんのメンツが潰され、食料供給の話も当然ナシになるだろう。……飢餓状態であの糸師冴に勝てるか?」

 

「……チッ。元はと言えばテメェのミスだろ。それを俺たちに押し付けてんじゃねぇよ、ヒョロメガネ」

 

凛の毒舌が炸裂するが、絵心は「ああ。確かに俺のミスだ、すまない」と頭を下げた。

あっさり謝罪してきた総指揮に、凛はつまらなそうに「フン」と横を向くだけだった。

絵心は言葉を続けた。

 

「今回は俺のミスだが、しかしこの企画をやる理由は金と食料以外にも幾つかある。ひとつはオーバーワーク気味なお前らの休息の監視と、後日“青い監獄”で開催されるU-20戦時の観客流動のシュミレーションも兼ねている」

 

来るU-20戦は“青い監獄”施設中央のメインスタジアムで開催される。だがそこへ至る通路はおろか、“青い監獄”施設全体が部外者立入禁止の聖域(サンクチュアリ)。急遽勃発した今回の試合をスムーズに展開するため、調整は必須であった。

 

「そして最後に『即興(アドリブ)』への慣れだ。慣れぬ接客、雑務、好奇の視線……、試合本番とまではいかないが、その緊張感を少しでも味わえるまたとない機会になるだろう」

 

数ヶ月間、ここまで第三者の目が無い状況でサッカーをしてきた。衆目の面前で緊張するようなメンタルの持ち主は居ないと思うが、慣らしておいて損は無いだろうと判断だ。

 

「へぇ。エゴすぎてとうとう頭オカシくなったのかと思ったけど、結構考えてんだね。ダルいことには変わりないけど」

 

「ほんとにな。まあ、サクッと終わらせればいいだろ」

 

凪誠士郎の感心と小言に、同調した御影玲王が軽く言う。かつての私生活でも注目される事が多く、かつなんでも出来る(オールラウンド)な玲王に心配事は微塵もなかった。

 

「俺は裏方かいな。ま、何でもいいけどな」

 

「ホストって事は女の子と遊べんの?なら願ったり叶ったりだし」

 

烏旅人、乙夜影太も特に拒否感はないらしい。

 

「……なんか、変なことになったな。つーか俺選ばれてるし……」

 

「よかったじゃん♪ま、たまにはこーゆー息抜きもアリっしょ♪」

 

「俺はなんか、イヤな予感すんだけど……」

困惑する潔世一に蜂楽廻はいつもの楽観的思考だが、千切豹馬だけは何か懸念があるようだった。彼の人生経験上、こういうイベント事での『流れ』はだいたいひとつの結果に集約しやすい。

 

「……」

 

段々とこのイベントを受け入れる空気が流れる中。そんな彼らの背後で馬狼照英がただ一人、無言で佇んでいた。

こうして士道龍聖を除く“青い監獄”ストライカーズの緊急金策案(アルバイト)は始動した。

 

 

◇◆◇◆

 

「うわー……なんかメッチャ動きづれー……」

 

慣れないスカートに翻弄されながら、慣れない接客をしていく潔。そんなぎこちない彼に女性客は特に文句を言うことも無く、淡々と注文(オーダー)していくのが返って彼の緊張感を促進させていた。

 

「ほーら潔!スマイルスマイル♪」

 

「うおっ!?って蜂楽!お前自分の仕事は!?」

 

手間取る潔に、その背後から蜂楽が接触してきた。今の彼の格好はコスプレ感満載の露出の激しいザ・メイド服に、ロングウェーブのウィッグを被った姿だ。童顔な顔が妙にマッチしている。

 

「いやー愛する相棒が困ってたから来ちゃった♪お姉さんたちも『別にいいよ』って送り出してくれたし」

 

そう言って蜂楽は自らに振り分けられた区画(ポジション)に手を振ると、そこの客から手が振り返された。放ったらかしにされても全く気にした様子は見受けられなく、目の前の客からも妙に生暖かい眼差しを向けられている。潔は気張っている自分がバカらしくなり遠い目をした。

 

「潔くん、蜂楽くん。ダメじゃないですか、ちゃんと仕事しないと」

 

「あ、二子。……二子、か?」

 

小言を囁かれ、その聞き覚えのある声に振り向けば、そこには二子一輝と思しき人物がいた。

目隠れボブヘアにクラシカルなメイド服が着せられ、さながら人形のような出で立ちである。

 

「なんか……メイド服に着られてるな、お前」

 

「うるさいですよ。君こそ、そこら辺にいるアルバイトの女子高生みたいな没個性を発揮してますよ」

 

毒を吐かれ「んなっ!?」とアホ面を晒す潔。しかし去る二子の耳が赤くなっていることに気付き、思わず苦笑した。彼もこの女装喫茶(アルバイト)には遺憾らしい。

 

「あーあ。せっかく二子は目ん玉まん丸リンなんだし、髪上げた方が似合うと思うんだけどなー」

 

「言ってやるな蜂楽。アイツ、謎におでこ見られるのコンプレックスだし」

 

「へー、そーなん?」とその情報に悪い笑みを浮かべた蜂楽。あ、教えない方がよかったかな……と潔が心中で二子に謝っていると、ゴロゴロと台車の転がる音が響いてきた。

 

「ん?なんだ?」

 

「あ、玲王だ。それに……運ばれてるのは凪?」

 

蜂楽の言う通り、毅然と歩いくるのはギャルソンヌ・ルック調のメイド服に身を包んだ長髪の玲王だ。そして彼が押す台車には、ゆめかわ系のメイド服にボサボサロングヘアの凪がぐったりと寝そべって乗っていた。190cmの体躯は台車から盛大にはみ出ており、机や椅子の角にぶつかり「いて、痛いって玲王」と苦情を出しているが、当のメイドは無視。

と、台車がピタリと停止。慣性の法則でゆめかわ凪が「ぐぇ」と転がった。

 

「たいへんお待たせしました。凪誠士郎、ゆめかわ風ダウナー仕上げです」

 

ムダに堂の入った仕草でカーテシーをする玲王。その下で「仕上げられました」と凪が地べたで胡座をかくが、「埃が付くだろ」と直ぐに玲王に立ち上がらされた。

 

「んー、2人とも似合ってるね♪しっかり者とぐーたらメイドさんの凸凹コンビだ」

 

「……一応聞くけど、凪はなんでそんなぐったりしてるんだ?」

 

「髪重い……服もすげー、邪魔……」

 

半ば予想通りの答えに「着替えさせるの大変だったんだぞ」と玲王(保護者)のため息がこぼれた。潔は「はは、ごくろーさま」と割と本気で労った。

「ほら、働くぞ」「めんどくさい」といつもと変わらぬ調子の2人を見送ると、少し余裕の出てきた潔は周囲を見渡した。

 

「お待たせしました。マンデリンとガトーショコラです」

 

対格の区画(ポジション)、ロングパーマの雪宮がダイナーなメイド服で恭しく給仕しており。

 

「美しすぎる俺が持ってきてやったぞ。レモネードオシャンティーだ」

 

その隣では蟻生が物理的にも精神的にもはるか高みから接客(ウェイター)をしており、袴のメイド服はどこか花魁チックな色気が醸し出ていた。流石は元祖オシャの求道者。誰よりも美しく着こなしている。

 

「ちゅーす。注文は以上でお揃いですか、お姉さん方」

 

色気と言えばもう1人、乙夜も妖しい魅力を振りまいて接客していた。チャイナ風メイド服にしな(・・)を作る姿は自然、長いウィッグを艶めかしく耳にかけながら接客(ナンパ)している。

 

「なんか、みんな割と馴染んでんな……」

 

顔面偏差値で選ばれた11傑(イレブン)らしいが、何人かは完全に適正レベルな動き出し(ムーブ)だ。思いもよらぬところでフットボール以外の特技を見せられた形である。

 

「せやな。俺も乙夜があんなにノリ気なんは意外やったわ」

 

「あ、烏。……て、お前はなんでフツーにスーツ姿なんだよ」

 

背後から忍び寄ってきた殺し屋、烏がニヒルな笑みを浮かべて立っていた。潔の言う通り彼はスーツ姿で、その異名に相応しい貫禄が滲み出ていて非常に存在感がある。

 

「お前はメイド姿も凡なんやなぁ、潔。ま、俺以外にもおんで、スーツのやつ。動きづらそうなお前らのサポート(ボーイ)や」

 

烏の目を追えば、確かにスーツ姿──女装組(11傑)をサポートするように動く黒服たちが。

 

「あああ、すみません!カップが割れちゃいましたぁ!」

 

「時光、お前は重労働以外は控えてろ。接客はオシャな俺たちがやる」

 

髪を逆立てたスーツ姿の時光が食器を下げようとしたが、その握力でカップを潰してしまっていた。幸いケガはないようで、蟻生が素早くリカバリーに入る。

 

「誰が何のサポートだって?」

 

「……時光はしゃあないやろ。ほなあっち見てみぃ」

 

若干気まずそうな烏に促されれば、そちらには着崩したスーツにちょんまげヘアを解いた我牙丸吟が蜂楽の世話を焼いていた。

 

「え、コレ食っていいのお姉さん?ありがとございにゃす♪」

 

「コラ蜂楽、餌付けされるな。……え、俺にも?じゃありがたく」

 

客からのおすそ分けを躊躇なくもらう2人。蜂楽の頬についた食べカスを拭ってあげる我牙丸だが、本来の奉仕相手はそっちのけだという事に気付いていない。

 

「……サポートってどういう意味だっけ?」

 

「俺も分からんくなってきたトコや。……いや、あっちはマトモそうやで」

遠い目をし始めた烏だったが、とある一角に希望を見つけた。

 

「……」

 

「斬鉄くん、今度はコッチです」

 

「(無言で頷く)」

 

二子からの指示に、剣城斬鉄が素早く動いていた。スーツ以外は普段と変わらぬ出で立ちだが、黙って仕事する彼はこの上なく格好が良かった。喋るとバカが露見するので、二子から沈黙指令(コーチング)が出ているのだ。結果、彼が理想とする必殺仕事人になっているのである。

 

「ようやくマトモなん見つけて安心したわ。ほな、俺は乙夜んトコ行くわ。足引っ張るんやないで潔」

 

「うっせー。分かってるよ」

 

烏は持ち前の両翼(ハンドワーク)で軽快に仕事をこなしながら、持ち場へと去っていった。

残された潔。烏にああ言われた手前、もう泣きごとなど言ってられなかった。

 

「うっし!俺も気合い入れて頑張るか!」

 

「邪魔だヘタクソ。通路の真ん中でつっ立ってんな」

 

入れ直した気合いが即座に吹き飛ばされる。その高圧的な言葉に振り向けば、そこには髪を下ろしたスーツ馬狼が両手にトレイを持って明らかにピキっていた。

 

「てめぇ……さっきからずっと見てりゃ、仲間内でくっちゃべってばっかじゃねぇか。働かざる者食うべからずって言葉、知ってっか?」

 

馬狼は意外にも几帳面すぎるほどに几帳面だと知っている潔は、しまったと思った。

そんな馬狼に給仕を任せたら、こちらまでそのレベルを要求されるのは明白。

潔はなんとかそれらしい言い訳を考えた。

 

「それは悪かったよ。けど、この慣れない服装に戸惑ってんのも分かってくれよ。お前はスーツでいいけどさ、俺は……」

 

「チッ、なら俺の邪魔しねぇように隅で大人しくしてろ、ブサイク」

 

「誰がブサイクだ!?」と反発しようとしたが、仮に女装姿を褒められても複雑な気分になるだけだと思い至りグッと堪えた。言いたいことを言い終えた馬狼は「フン」と鼻息ひとつ、配膳、片付け、アルコール清掃とキビキビ働く。本当に潔が隅っこで見ていても平気そうなレベルだ。

だが流石にそんなワケにはいかないので、「待てよ馬狼」と微力ながら動いた。

と、そのタイミングで男装アンリが再び声を張り上げる。

 

「えー、ではお客様の流れも落ち着いてきたので、ここで“青い監獄”顔面偏差値アンケートTOP3に登場していただきたいと思います!」

 

改装大食堂の灯りが落とされ、アンリの隣の通路にスポットが当てられる。

全員の注目が集まる中現れたのは、まずはスーツ姿の七星だ。慣れないスーツに着られてる感がなんとも初々しい彼の手に引かれ、その1人目が登場した。

 

「No.3、奥ゆかしさに反してキレのあるパスで刺す、京都人の氷織羊くんです!」

 

「僕に投票してくれた人、ありがとなぁ。精一杯奉仕させてもらうで」

 

現れたの氷織は、和服ロリだった。髪型はそのままに本当に和服ロリメイド服を着ただけだが、それがあまりにも自然体すぎた。ミニスカートから覗く鍛えられた御御足がなんとも艶かしい。

 

「氷織さん、なんかヤケに慣れてるっスね」

 

「実はけっこーやるねん、女装。それでユースのチームメイトの性癖捻じ曲げんの楽しゅうてな。クセになってん」

 

「え」と固まる七星。「冗談やで」とケロッと氷織。暗がりの中から「ほんまエロいわぁ。アレには監督(コーチ)も困ってたで」と誰かの関西弁が響いたが、全員聞かなかったことにした。

 

「そ、それではっ!続いてNo.2の登場です!」

 

男装アンリが気を取り直して注目を逸らした。

 

「“青い監獄”プロジェクト始動から、常に抜群の成績を誇っているストライカーの超新星(スーパースター)、糸師凛くんです!」

 

「チッ、わざわざ紹介すんな」

 

現れたのは黒髪ロングストレートなエドワーディアンメイドの凛……なのだが、その目つきが鋭すぎた。

遠くからでも分かる長いまつ毛に切れ長の瞳、本来なら美点となるはずの要素が尽く攻撃に割り振られている。威嚇などという言葉では生易しい、言うならば『殺意』が込められていた。恥じらいなど微塵もない。

 

「こんなくだらねぇ事に時間を使いやがって。おい、エゴ野郎は何処にいる?」

 

「え?あ、絵心さんなら……まあ、その内顔を出しますよ?」

 

聞かれたアンリは何故か歯切れ悪く答える。凛は再びの舌打ちを打つと、スカートの裾を鮮やかに翻して動いた。

 

「さっさと客を掃くぞ。潔、きびきび動け」

 

「うえっ!?俺!?」

 

急な名指しで狼狽える潔だが、その背後の馬狼からも指名が入る。

 

「いや、潔はヘタクソだからどいてろ。お前の客は俺が喰ってやるよ」

 

と正反対の指示が下る。潔を挟んでメイド長と執事長がバチバチと視線で火花を散らした。

 

「コイツは俺の餌として使う」

 

「コイツは俺が喰うんだよ」

 

士道がU-20へ誘致されて以来殴り合いのケンカは無くなったものの、潔を巡り凛・馬狼間の衝突がしばしば見られていた。まさかこんな状況でも争う2人に辟易した潔は、コッソリ蜂楽の下までそそくさと逃げ出す。

 

「にゃはは♪モテモテだね潔」

 

「あんなんにモテても嬉しかねー……」

 

確かに馬狼のスーツ姿はキマっており、偉丈夫も相まってSP感溢れる頼れる感じだ。が、その実態は潔を喰らわんとする獣のソレだ。

凛だって目つきは人殺しのソレだが、そのキツい視線すらも整った容姿のアクセントとして機能している。(彼女)に殺されたい人が居てもおかしくないほどの魔性の美しさだ。潔は別に殺されたくないが。

その点、隣にいるコスプレメイドかいぶつは変人ではあるものの、サッカーが絡まなければ基本無害だ。

ようやく安住の地に戻れたことで一息ついた潔の横で、我牙丸がハッとなにかに気づいた。

 

「凛でNo.2で、まだアイツが来てないって事は……」

 

「まぁ、アイツがNo.1なのは頷けるな。なんたって素で『お嬢』だし」

 

「それではっ!栄えあるNo.1に登場していただきましょう!かつてその足に重い枷を背負うも、どん底から一気に駆け上がってきた韋駄天、千切豹馬くんです!」

 

ライトアップされた一点。そこに佇むのは千切豹馬その人だが、その顔は深紅の髪の毛よりも恥辱で真っ赤に染まっていた。

 

「……っクソ、早くライトアップ止めろよオイ!」

 

その叫びに呼応するように照明が戻るが、それでも皆の注目は彼に注いでいる。

着せられているのはセーラーメイド服だ。しかもネコミミ尻尾付き。手には猫の手を模したグローブまで装着されている。

尾の先端から辿れば、ミニスカから伸びる屈強な足を必死に隠そうと猫の手で裾を抑える姿がたいへんもどかしく。

ネコミミヘッドドレスを見れば、彩られた赤髪がポニーテールで纏められ、赤く染まる素の耳が見放題である。

そんじょそこらの婦女より綺麗で、美しく、そして可愛らしい千切豹馬(お嬢)。彼は数多の好奇の視線に耐えられず、逃げるように潔たちの方へ来た。

 

「おー、まさしくお嬢ですな。びゅーてほーびゅーてほー」

 

蜂楽が覚えたての英語(?)で褒め称える。千切はキッと睨むが、彼らのメイド姿を見て諦めたようにため息を吐いた。

 

「あぁもう……お前らも女装してるから怒るに怒れねぇ。なんで結構ノリノリなヤツらが多いんだよ……」

 

その言葉に潔が同調する。

 

「ホントそれな。動きにきぃし謎の恥ずかしさで俺も参ってるよ」

 

「えー?面白いじゃーん」

 

「ま、14時閉店までの辛抱だ。俺もフォローするし」

 

楽しんでる側筆頭の蜂楽に、いつも通りの我牙丸が参ってる組の背中を叩く。潔と千切は再びのため息をひとつ、その目に生気を宿らせた。

 

「そうだな。着ちまったモンは仕方ねぇ。やるぞ千切」

 

「マジか……。まぁ、俺だけくよくよしてんのもいい加減ダセェか」

 

ポニテの先を指でクリクリしながらも、千切は覚悟を決めた。

元チームZの攻撃の要たちが動こうとした、その時。場内がまた暗くなった。そして再びの男装アンリにスポットが当てられる。

 

「あれ?まだ何かあるのか?」

 

潔たちの疑問を他所に、アンリの妙に生き生きとした声が響いた。

 

「えー、11傑が揃い踏みとなりましたが、ここで特別枠(ワイルドカード)に登場してもらいたいと思います!」

 

特別枠……?と、潔たちも疑問符溢れる中、ニッコニコなアンリが彼らの名を呼び上げた。

 

「雷市陣子ちゃんと、絵心パチ美さんでーす!」

 

「だァもう!マジで出んのかよ!?」

 

「パチ美よりかはマシだろう。黙って働くぞ」

 

「んなっ、雷市!?」

 

「それに絵心もかよ!?」

 

現れた彼らに潔、千切が驚く。どちらもやはり女装姿での登場だ。

雷市は金髪外ハネロングにフレンチメイド服で着飾られ、不服感満載の目とギザ歯が妙にマッチしていた。体の線は雄々しいしガニ股だが、それも含めて『女装』という行為が似合いすぎていた。

一方、絵心パチ美は。

日本人形を思わせる尼削ぎ──いわゆるおかっぱセミロングに、これまた和を強調する着物メイド服での登場だ。遠目から見ればそれこそ日本人形と見紛う綺麗な出で立ちだが、接近(インファイト)した途端それは間違いだと気付く。

不気味。

隈が目立つ目はギョロリと死んだ魚のようで、体の線は細いが浮き出る筋肉と血管が生々しさを演出。

そして極めつけはその長すぎる首。細くて、しかし筋肉質な長い首がひたすら怖い。端的に言って呪われそうな立ち姿だが、どこかマニア受けしそうな魅力が匂っていた。

 

「いやー絵心さんが意外と従順に着替えてくれてビックリしましたよ!もっとこう……『ふぁっくおふ!』って言われるかと思いましたもん」

 

アンリが下手で可愛いモノマネを披露する。肝心のパチ美は黒縁メガネの位置を正しながら、ボソリと呟いた。

 

「元はと言えば俺の采配ミスだ。お前らだけに負担を掛けさせるワケにはいかないだろう。……正直、屈辱以外の何ものでもないがな」

 

どうやら絵心にも負い目があるらしい。その償い方法が一緒に女装とはなんとも微妙なラインであるが、あの絵心がここまでフザケる事など金輪際ないだろうと思うと不思議と許せた。

そこから先はもう、全員揃ってヤケクソである。

 

「ウルァ!いつまでも見てんじゃねぇ、食ったらさっさとお帰り下さいやがれ!」

 

雷市の叫びを皮切りに仕事を再開する面々。

やる気……というより覚悟を決めた彼らの仕事ぶりは、無難を極めた。

全員が全員、今までの人生をほぼフットボールに時間を割いてきたのだ。接客などほとんどが初めての経験であり、加えて慣れない装いには終始翻弄される。

それでも彼らは頑張った。

全員ストライカーなだけあって、目標(ゴール)があればそこまで一直線だ。この場合の目標とは閉店時間の14時である。

レギュラー11傑&特殊2人とボーイ役6名のフルメンバーが出揃い、現在時刻10時30分。途中順繰りで30分の休憩を挟めば、1人あたりちょうど3時間。

その地味に長い戦いは苛烈を極めた。

斬鉄が客の残り物に手をつけバカが露見したり。

配膳中、潔が落とした中身入りコーヒーカップを凪がスーパートラップで救ったり。

ボーイ七星がお姉さん方に人気を博したり。

千切へ粘着質に絡んだ客を烏と乙夜が厳重警護(コンビネーションプレス)したり。

凛と馬狼が文句を言いながらも、誰よりも仕事はカンペキにこなしたり。

あの絵心が他人に給仕するという、よく考えれば激レアな映像をアンリがコッソリ撮影しているのがバレて結局FUCK OFFされたりと、本当に長い戦いだった。

──そして、3時間後。

 

「ありがとうございましたー!」

 

最後の客を見送り、自動ドアが閉まった瞬間。全員がドッと息を吐いた。

 

「っつ、疲れた……ッ」

「精神的疲労がハンパねー」

「もう、脱いでいいよな?」

 

口々に不満が溢れ、次々にメイド服が床へと叩きつけられる。さすがに肌着は女物ではないので、ほぼほぼボクサーパンツだらけの雄々しい空間が瞬く間に出来上がった。

 

「おつかれ、才能の原石ども。だが脱ぎ散らかすな、レンタル品だぞ」

 

絵心だけはいまだ着物メイド服を着たままそう注意する。二子の「どうして脱がないんですか?」という質問に「脱ぎ方が分からなくてな」と吐露。

 

「皆さん、お疲れ様でしたー!メイド服回収しまーす、脱ぎ方分からない人はコッチ来てくださーい」

 

そんな時、アンリが部屋に入ってきた。

今回の企画は何を隠そう彼女の発案で、出資してくれた大手飲食業は彼女のツテで拾ってきたものだ。そのため、女装メイド喫茶というコンセプトも少なからず彼女の意見(趣味)が入っていた。

その責任からか、率先と後片付けする彼女と企業スタッフ。みるみるうちに“青い監獄”は元の姿に戻っていき、30分後にはキレイさっぱり喫茶店は跡形もなくなっていた。さっきまでの光景は夢だったのでは?と思うほどの早業である。

 

「今日はもう終わりだ。各自、本来の予定である休息に入ってくれ。俺ももう休む」

 

「あ、待ってください絵心さん!それじゃあ皆さんも、お疲れさまです!」

 

いつもの姿に戻った絵心甚八がアンリと共に退出する。その歩みは少しだけフラついており、然しもの彼も中々のダメージを受けていたらしい。

しかしそれは他の者も同じ。あの蜂楽でさえも少しだけ疲労の色を感じさせていた。

 

「あー疲れた。楽しかったけど、慣れないことはあんまりするものじゃないにゃあ。ねー千切ん♪」

 

「……もうツッコむ気力もねぇ……」

 

壁にもたれてズルズル座る千切。彼だけ猫メイドをさせられたダメージは計り知れない。ノーマルメイドたちは気の毒そうに見るしかなかった。

 

「……飯、食うか」

 

玲王がボソリと呟く。比較的ダメージの少ない彼は、疲れによりダルさMAXの凪を背負って食堂口へ向かう。

ピピッ、ともはや聞き慣れた音とともに出てきたのは、熱々のステーキ。

 

「お、ステーキ。そういえば、もう食いモン出るのか」

 

若干復活した凪の呟きに、一同の腹の虫が一斉に鳴り始めた。途中で休憩を挟んだ時から食料の供給はあったのだが、その時は喉を通らなかったのだ。気分的に。

 

「食うべ食うべ。食って明日に備えるっぺ」

「せやなぁ。凛くんも食べるやろ?よそってきたげよか?」

「余計な気を遣うな。そんくれぇ自分でやる」

 

ゾロゾロと列を為すストライカーたち。知らず知らず内に、昼食兼夕食はお疲れ様会の様相を呈した。

 

「そういえば、他の人たちってどうしてんの?喫茶店の料理だってプロの人たちがやってたし、裏方仕事とかなくね?」

 

潔がふと疑問を感じたが、両頬を目一杯膨らませた蜂楽は「知らない(ひははい)」。傍らから馬狼が「汚ねぇ食い方と盛り方だな、クソガキ。つーかンなもん俺が知るかよ」と罵る中。

雷市が答えた。

 

「ああ、なんかU-20のVTR視て研究だとよ。まあ妥当な時間の使い方だよな」

 

奉仕活動(メイド喫茶)を記憶の彼方に消した雷市が久方ぶりの肉を頬張る。

確かに、食料のない中で時間を有効活用するならそれが妥当だろう。まさに裏方仕事と言える働きだ。

と、そこで自動ドアが開いた。

 

「南無阿弥陀仏アーップ!ムサい男の映像ばっか視てられっか!俺もお姉さん方とイチャつきに来たぜー!」

 

やかましい輩──イガグリの唐突な参上に全員が振り向き、そして目を剥いた。

 

「イガグリお前……っ、なんだよその格好は……!」

 

潔が震える声で指を差す。

ネコミミを付けたズレたウィッグから坊主頭が覗き、塗りたくったであろう口紅がブサイクを加速させている。

着方が分からなかったのか、メイド服には大量のシワが。なんなら裸足である。

本当にお姉さん方に会いに来たのか疑わしい、なんとも痛々しい五十嵐栗夢の女装姿であった。すでに元チームZ以外のメンバーは彼の存在を意識の外に弾き出し、食事を再開している。その存在をなかったことにされていた。

 

「さっき通路に積まれてたのを拝借(マリーシア)してきたぜぇ!まさか女装してるなんて思わなかったが、お姉さんに可愛がられる為なら仕方ねぇ、キュートなイガグリちゃんを披露してやるぜぇ!……で、お姉さんは?」

 

「もう終わったよイガグリ。ザンネン」

「見苦しいから着替えてこい。……こうして見ると、似合うだけ俺はまだマシだな」

 

やはり11傑と選ばれなかった者とでは、女装時の顔面の格差が顕著らしい。たくさん可愛がられた(トッププレイヤー)千切は少しだけ気分を持ち直した。

こうして“青い監獄”緊急金策案事件は無事に幕を閉じた。

 

「え……ちょっ、俺出オチぃ!?」

 

「おい、なまくら坊主。メシが不味くなるからさっさと消えろ」

 

「うわ……俺、No.1のご機嫌歪めちゃってるぅ?」

 

 


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