ただの勘違いだったんだと、そう思いたい。

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 誰しも、生きていれば恐ろしいことの一つや二つ、経験はあると思うんだけど。中にはやっぱり説明できない不思議なことってのもあるんだよね。

 

 高校の頃、肝試しに行った時にそれは起こった。

 進路が決まり、免許を取ったこともあって、当時の俺はとにかく出かけたくてたまらなかった。同じく進路の決まっていた奴等を連れてよくうろちょろしていたんだけど、近隣の観光スポットに行き尽くした俺たちは、刺激を求めてそこに向かった。

 

 その廃墟は、地元では有名な場所で、一家心中が起きた場所だとかでちゃんと曰く付きだった。

 特に一家が首を吊っていたという寝室が()()らしくて、友達の間でも宙ぶらりんになった婦人を見たとか、いるはずのない子供の泣き声が聞こえるとか、そんなアレコレを聞いてた。

 

 

 で、深夜0時。薄暗い山道を登りきり、車を庭先に止めて、ようやく廃墟とご対面する。

 

「暗すぎだろ、何も見えねえ」

 

 廃墟に繋がる細い分かれ道を進むところまでは、国道沿いだから多少明るくはあったものの、いざ廃墟の前まで来ると本当に何も見えないんだよね。月ってこんなに眩しいんだなって気持ちになるくらいに。

 

 懐中電灯とケータイのライトで、ひとまず屋敷を照らしてみると、割れた窓ガラスや蔦に巻き付かれた外壁などがわかった。雰囲気あるな、と誰かが呟いたのも束の間、端の方に書かれた「〇〇参上!」みたいな落書きで相殺されたけど。

 

 

「なー、どうせなら肝試しやんね?」

 

 たしか、一番ワルガキだったAが言い出したんだったと思う。

 ルールは簡単で、一人ずつ中に入って、寝室まで行って帰ってくれば終わり。

 いちおう証拠として、一人目が部屋に置いていったお菓子を回収して戻ってくる。ただ、それだけだとつまらないから、各自別々のコースで寝室を探して競走しよう、ってことになって。言い出しっぺのAが帰ってきたのを合図に、俺たちは館に入ったんだ。

 

 

 

 

 

「埃くせえ〜」

 

 Cが少し咳き込みながら言った。踊り場には蜘蛛の巣が張っていて、正直あまり入りたいとは思えない。熱気と湿気でムワッとしてるのもあって、だいぶ気持ち悪かった。

 

「さっさと回って帰んべ」

 

 懐中電灯の光が三方向に分かれた。俺は右側の部屋、Bは左側、Cは二階。

 

 拍子抜けなことに、二つ目の部屋が寝室だったので、その時点で俺の肝試しは終わってしまった。椅子の上に置かれたチョコをひとつ取って、部屋を出る。

 

「わっ!」

 

「なんだよ」

 

 部屋を出ると同時に驚かせてきたのはBだった。少しだけびっくりしたけど、それを隠して小突く。

 

「いや、何もなくてつまらんからさ。この調子でCもおどかさん?」

 

「別にいいけど。あいつビビリだからいい反応するかもな」

 

「オレ、いいの持ってきたんや」

 

 Bが取り出したのは長髪のウィッグだった。ほら、幽霊のイメージでよくある感じの、眼とかまで隠れるヤツ。

 

「……俺のこともそれでおどかせばよかったんじゃね?」

 

「いや、お前が叫んだらCにバレるやん」

 

 もっともな理由だった。早速準備に取り掛かるということで、Bは階段脇の暗がりに身を潜めてた。「すぐ出てもつまらんから適当に雰囲気盛り上げてくれ」とのことなので、ニヤっと笑いあったあと、俺は二階に向かった。

 

 不安げに伸びる懐中電灯の光を見て、「おい、C!」って声をかける。

 

「急にでけー声出すなよ。何?」

 

「寝室見つかった?」

 

「いんや、まだ」

 

「何部屋見た?」

 

「そこの一室だけ」

 

「ヘタレめ」

 

 指さした部屋は抜け殻のように空っぽで、何に使われてたのかまったくわかんなかった。

 

「折角だから他も見てみようぜ」

 

「ええ」

 

 嫌な顔をするCを連れて、適当に二階を見て回る。真っ暗な浴室は、ぽっかり穴が開いたような浴槽に雰囲気があって怖かったし、ぬいぐるみがポツリと置かれた子供部屋などは、聞いていたエピソードを思い出して普通に悲しくなった。

 

「うわっ!」

 

「うるせえな、なんだよ」

 

「いや、そのぬいぐるみ……」

 

 Cが指さしたぬいぐるみの腹部を照らす。よく見れば、へその辺りが破れてて、そこから綿とか謎の粒とかが溢れてた。

 

「うわ、キモ……」

 

「バチ当たっても知らないよ」

 

 南無阿弥陀仏、と唱えるCを尻目に部屋を見れば、子供部屋には不釣合いな大きさの鏡台があることに気づく。なんか入ってないかなって引き出しの一段目を開ければ、なんか紙が入ってた。

 

「……ナニソレ?」

 

「禁后って書いてあるな、よくわからん。二段目も同じだ」

 

 じゃあ三段目も同じだろうな、と興味を失ったので開けるのはやめた。そんなことよりも、鏡の脇にBの持ってたウィッグと同じような物がかかっているのが問題だった。スペアだろうなたぶん、ここでバレたらインパクトが薄れちゃうから黙っといてやるか。

 

「そろそろ他行こうぜ」

 

 そして廊下に出た、その時。Bが階段から上がってくるのが見えた。先程のウィッグで頭と顔全体を覆い、カーテンでも巻き付けたのか身体を白装束で包んでいる。

 

 Cが「ひっ」と掠れるような声を漏らしたのを聞いて、内心で笑いを堪えた。いやこれは騙されてもしゃあないな、って思いながらね。

 二階に辿り着いたBは、こっちに歩いてくるかと思いきや逆に廊下の窓の方へ向かっていった。その様子と、微かに響く何かを咀嚼するような音に首を傾げているうちに、窓から身を乗り出して落ちていく。

 

「は、B!?」

 

 咄嗟に奴の名前を叫ぶと、後ろから「何?」となんでもないような反応が聞こえた。振り向けば、ウィッグの隙間から瞳を覗かせたBが、身体に汚ねーカーテンを立ってた。

 

「おどかす前にネタバレすんなや、もう」

 

「いや、だっていま……え……?」

 

「おせーよ」

 

 この辺で、待ちくたびれた様子のAも合流した。なのでBと一緒にCをおどかそうとしてたこと、そしていま見た怪現象の話をすると、最初は「何担いでんだよ」って信じてない様子だったけど、でも。

 

「……あのさ、俺くん。この窓……」

 

 Cが指さしたところを見て、あ、と固まる。窓枠には木材が打ち付けてあって、とてもじゃないけど開けられそうにない。

 ならアレは……いったいどこに消えた? 

 

 

 俺たちの真剣な様子で、ようやくやばさに気づいたらしいAに連れられ、速攻で帰った。幸い道中は何もなかったけど……それでも、いまでも忘れられない出来事だった。

 

 

 どこかで聞いたけど、人って、めちゃくちゃな低確率で壁をすり抜けられるらしい。あの時のもそういうことだったらいいな……と、そう願ってやまない。

 

 

 

 

 

 

 

 








ひとりかくれんぼ/禁后/十の十四乗分の一

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