時間は飛んで今は秋。
第11回目の私の人生は過去一で楽しいと言っても過言では無い。
雄英高校に入学してから、というか相澤くんに出会ってから早半年。体育祭や職場体験、ヒーロー仮免許試験など大きなイベントがいくつか。そして毎日がイベントと言っても差し支えない、日々プルスウルトラ日進月歩のヒーロー基礎学。
気がつけば私と相澤くん、ひざしくん、朧くんの4人で4バカと呼ばれるようになっていた。*1……ひざしくんと朧くんはともかく、私と相澤くんはバカではないだろう。巻き込まれた感が否めない。
まあ何にせよ、あれだ、今までの人生があまりにクソ過ぎたのだとヒシヒシと感じる。
世界が混沌に落ちた超常黎明期で無個性ゆえ無力で何もできず死んだり、生まれて直ぐに捨てられて拾われずにそのまま冷たくなったり、珍しい個性だったせいで攫われて実験体にさせられた上に
……改めて、今までの人生があまりにクソ過ぎたのだとヒシヒシと感じる。今までの生で幸せと感じたことなど、どこだかの研究者が出した超常特異点の論文を読んだ時くらいだ。人類が滅べば私の転生先もいなくなるじゃんやったー、と言う意味で。
とりあえずAFOは10回死んで欲しい。
閑話休題。
散々死に急いでいた私だが、かなり幸せな今世に身を置いた今、そこまで急ぐ必要を感じていない。「願わくばこのまま平和が続いて欲しい……」などと言えば、まるで何か悲劇が起こる前触れのようで嫌だが。
別に、相澤くんに殺してもらえれば*2それでいいのだから、死ぬのは今でも10年後でも構わなくて、だったらもう少し幸せに生きてもいいのでは……なんて思ってしまうのだ。
まあ、それで相澤くんが私より早く死んでしまっては元も子もないので、もし彼の前で死ぬ機会があればそれは逃さない気ではいる。
「相澤くん、私が死ぬ時は私の個性を消してね」
「……わかった。いつも言ってるけど、そんなにやばいのか?その個性の暴走は」
「やばいね。とんでもなくやばい。街1つ滅びるレベル」
「マジ?責任重大じゃんショータ」
相澤くんには「私が死ぬと私の個性が暴走して大変だから、私が死ぬ時は私の個性消してね」と言っている。転生云々を話しても信じて貰えなそうなので。
この半年間で結構信頼関係築けたし、今秘密を打ち明ければ信じて貰えそうではあるけど、今更面倒だしね。……信頼関係、築けてる……よね……?
……そんなことはさておき。
今、雄英高校ヒーロー科一年の間でのビックイベント、インターンが近づいている。
そしてインターン先が決まっていないのはこのクラスで2人だけだ。
「早く決めなよ、相澤くん、朧くん」
「そういうはちみつだって決めてないだろ?」
「いや、私はもう決まってるよ。相澤くんが行くところに行く」
「おいおいさらっと惚気けるな。やっぱりお前らデキてんだろ?そうじゃないならそれはそれで羨ましいぃぃぃ!」
「まあ概ねそうかな」
「違う。天井が勝手に言ってるだけだ」
「くっそ羨ましいぃぃぃ!!」
4バカのうち、ひざしくんを除く3人でお昼を食べる。ひざしくんはインターンの話を先生としているため欠席だ。4バカのお昼ご飯は決まって屋上。いいね、なんか凄い青春してる気分。
「おっいたいた屋上少年団」
「少女もいますよ」
と、そこへ香山先輩がやってきた。……今日はちゃんと服を着ている。心做しか朧くんも残念そうだ。
香山先輩とは昨日初めて出会った。何かと(もっぱら露出度に関してだが)話題の香山先輩だが、朧くんが拾ってきた子猫を預かってくれたり、私たちのインターン先の心配をしてくれたりと滅茶苦茶良い人だ。
そんな先輩は、私たちが気になっていた件の猫(先輩命名:おすし)の様子を動画で見せてくれた後に本命の話を切り出した。
「『行き先のない子はうちで引き取るわよ』って言いに来たの」
どうやら
◆
香山先輩、もといミッドナイトのインターン先であるハイネスパープルの事務所にインターンに行くことになった私達。現状、インターンはとても順調である。
「ハニーキャプター!」
「はいっ」
相澤くん、もといイレイザーヘッドにより個性を無効化されたヴィランの身体を大量の
これが私の個性「甘い蜂蜜」だ。蜂蜜を生み出してそれを操る個性。粘度の高い蜂蜜は、相手を包み込むだけで簡単に拘束が可能なのだ!
そんなわけで私のヒーロー名は「ハニーキャプター」、蜂蜜の捕縛者だ。
「怪我人搬送終わりました!!」
朧くんが勢いよく報告してくる。うんうん、朧くんが市民救助、相澤くんが個性無力化、私が拘束。なかなかいいチームなんじゃないだろうか。機動力の朧くん、搦手殺しの相澤くん、捕縛の私。いい具合に役割分担できている。
最近は戦闘訓練でも相澤くんの成績は良い。目の保護のゴーグルを付けたってのもそれを助けているだろう。
相澤くんが強くなれば強くなるほど相澤くんが長生きできて私が先に死ぬ確率が上がる。
インターンとはいえ、ガチでヴィランと戦うのだ。当然、そこには死の危険がある。まあだからこそ死ぬチャンスでもあるのだが、私より先に相澤くんが死んだら元も子もない。常に気を引き締めておかねば。
「っと、ハニーキャプター!そっちにまだ残党がいる!異形型個性だ無効化できない!」
「了解」
さて、私の個性は一見戦闘に向いていないように見える。というか、実際向いていない。正確には「戦闘で使えるようにした」というのが正しい。弱さが罪であることはこれまでの人生で痛いほど学んだからね。今世ヒーローを目指す以上個性強化には力を入れた。
そんなわけで、大量の蜂蜜を繊細に操ることが可能になった私は切り札を編み出した。蜂蜜を身体全体に纏い防御を固め、尚且つ機動力を落とさない。
名付けて。
「パーフェクトフォーム!」
極限まで無駄を削ぎ落としたその蜂蜜の装甲は真球。そこから脚だけを露出し、蜂蜜の操作と合わせて高速移動を可能とする!
その姿は……
「「「ダッッッセェェェェ!!!」」」
……他のヒーローには不評のようだが。
相澤くんはそうは思わないよね。近距離戦では相手を蜂蜜に包み込むことで拘束、遠距離戦では相手の攻撃を無効化し、高速移動で相手を捕える。我ながら完璧、実に合理的だ。
確かに見た目は、脚が生えたボーリングの玉みたいで少し不格好だけど、むしろそのアンバランスさがいいというか。
そうだよね、相澤くん。……相澤くん?なんで目を合わせてくれないのかな?
ヴィランは無事捕獲できたが、私のパーフェクトフォームは不評のようだった。
そんなこんなで、私はなかなか順調、結構平和なインターン生活を送れていた。
そんな生活は突然終わりを告げた。
◆
『相澤くん!付近の市民を今すぐ避難させて!』
私、相澤くん、朧くんでパトロール中、香山先輩からの電話が入った。
途端、轟く悲鳴倒壊する建物。音の方向を見てみれば、でっぷり太った5mを越える巨体の、カエルのようなヴィランが街を荒らしているのが見えた。
2桁を越える前世で、やはり2桁を越えて経験してきたもの、濃い死の予感が頬を伝った。どうやら平和な日常パートは終わりらしい。
ヴィランがこちらを攻撃してきた。私たちの背後のビルにビームのようなものを放つと、崩壊し瓦礫が降ってくる。
「
近くの市民に降りかかる瓦礫を朧くんがカバーする。が、そのせいで自分に落ちてきている瓦礫に対処できていない。
朧くんが瓦礫に埋もれてしまう。
「白雲!!おい白雲……ウソだろ!?」
珍しく動揺する相澤くんを横目に、直感的に思った。
『まかせたショータ!』
瓦礫の方から聞こえてくるのは底抜けに明るいいつもの朧くんの声だ。どうやら無事らしい。
が、依然として状況は最悪。どうやらヴィランは「ストック」という個性を持っているらしく、与えた攻撃を吸収し、吸収した攻撃を背中にあるコブにストックしているらしい。そして、吸収した攻撃は好きなタイミングで使うことができる。
道理で先程の攻撃に見覚えがあるわけだ。あれはヴィランが吸収したひざしくんの攻撃だったのか。
同期もヒーローも全滅。今動けるのは私と相澤くんだけだ。
はぁぁぁぁ……。どうやら頑張るしかないようだ。
「イレイザーヘッド、抹消よろしく」
「……了解」
相澤くんが覚悟の決まった目をする。いいね、カッコイイ。
まずは手始めに相澤くんと2人で殴りかかる。ゴムのような質感。手応えはなし。
こりゃあ打撃じゃダメっぽい。
私たちの攻撃を鬱陶しがるヴィランが
……しかし、相澤くんは常時個性を無効化できるわけではない。いずれ来る瞬きの瞬間にあの不発弾は爆発してしまう。結局、これでは個性発動のタイミングをずらすことしかできない。
「地上で戦うのはまずい!周囲に被害が出る!」
「ぽいね。それに、打撃も効いてない」
相変わらず戦況は不利だ。
『がんばれショータ!みんなを守れるのはお前だけだ!』
と、そこに朧くんの声が響く。
そうすると、不思議と力が湧いてくるんだなぁこれが。……やるしかないか。
「引き続き抹消よろしく!オーバースイートで行く!」
「了解!」
私はヴィランの巨体を踏み付けて跳躍し、頭の上を位置取る。プカプカと蜂蜜に捕まって浮かぶ私はかなり隙だらけだが、相澤くんが個性を消しているおかげで距離をとれば攻撃は届かない。
これなら、ヴィランが使う
ヴィランは個性が使えないことに混乱している。その隙に、そのでかい口に大量の蜂蜜を食わせる。糖尿病間違いなし。そしてそれ以前に窒息が待っている。
Over Sweetなんて技名付けたけど、やってることは蜂蜜で口塞いで酸欠にさせるだけだ。ま、ジャイアントキリングするなら搦手はかかせないよね。
けど、それでヴィランの攻撃が止まる訳ではない。苦しそうにもがくヴィランの背中のコブが私に向かって放たれる。相澤くんのおかげで不発化したそれを空中に弾き飛ばしつつ、冷や汗を垂らす。
結局この状況、いずれくる相澤くんの瞬きの瞬間に反撃食らっちゃうんだよねぇ……。
「天井!そろそろまずい!」
相澤くんから個性の限界の自己申告が来ると同時、ヴィランが一斉にコブを放ってきた。
タイミングは最悪だ。私めがけ飛んでくるそれを避ける手段は、個性解除による自由落下しかなかった。
重力に引っ張られ落ちる身体は、しかしヴィランの攻撃を避けきれず。背中に個性の爆発を受け、地面に叩きつけられる。
鳴ってはならない音が身体から聞こえた。
「天井ッ!」
駆け寄って心配する相澤くんの声が遠のく。こりゃあ、いよいよヤバそうだ。
今じゃもう何度目かもあやふやなくらい味わった感覚だ。体の熱と共にゆっくりと意識が薄くなる感覚。何か呼びかけてるらしい相澤くんの言葉も聞こえなくなってきた。
幸い、ヴィランは気絶させられたようだ。最後のあの攻撃も、倒れる前の悪あがき程度だったのだろう。何にせよ、相澤くんが無事ならそれでいい。そもそも、私の死はむしろ望む所だったのだから。
人生11回目の走馬灯が走る。どうやら長すぎる人生に脳がボケてしまったらしく、思い浮かぶのはここ最近のことだけだ。相澤くんにひざしくん、朧くんと、たまに香山先輩。思い出の中の人たちが生きているなら、まあそれでいいか。
人生の9割はクソみたいなものだった。けれど残りの1割は、今世の、それもつい最近だけは、悪くないものだったなぁ……。
そうだ、死ぬ前に相澤くんに伝えないと。死ぬ時に、私の個性を、消してくれって……。
……口が重い。……上手く、動かない。
ダメだ、これだけは、絶対に、伝えなきゃ……。
「……っごぼ、ざゎ、ん」
「……ッ!天井、喋るな、すぐに医者が来てくれるはずだ。それまで安静に……」
「あい、ざわくん、だいすき」
ふふ。言えた。
「天井……?天井……!?おい!しっかりし──」
こうして私の11回目の人生は終わり、同時に私の転生も終わり、私は永劫回帰の地獄を拒絶することに成功した。
……筈だったんだけどなぁ……。
「先生、これは?」
「そうだね、いずれ来る覚醒の時に蛹となり君を守るもの、かな」
「なんだよそれ」
「ま、防御特化な脳無だと思っていればそれで構わないよ。ゲームで言うところのタンクさ」
「へぇ……」
感覚でわかる。どうやら「転生」の個性は発動
つまりこれは、相澤くんが私の個性を消し忘れたせいでまた転生が起こったとかじゃなくて、どうやら私、天井はちみつは、奇跡的に一命を取り留め、それどころかついでに強くしてくれやがったらしい。
とりあえずAFOは11回死んで欲しい。
死んだと思ったヒロインが敵の手によって改造されて、洗脳された状態で戦わさせられるのっていいよね。
ちなみに天井さんは、10回転生しているとはいえそのどれもが早死にしているので、精神年齢はそんなに高くありません。そのためちょっと優しくされただけで惚れます。チョロインです。