相澤くーん、私を殺してくれよー   作:科葉諸友

3 / 6
再開

「ねぇ、相澤君。私を殺してくれない?」

 

 それが天井が俺に話しかけてきた最初の言葉だった。それまで無表情を崩さず事務的にしか人と話さなかった彼女が、急に満面の笑みで自分対象の殺人教唆をしてきたのだ。当然、俺と彼女の関りは困惑から始まった。

 今となってはもう当時の彼女の意図は分からない。ただ、彼女との思い出の記憶の中で一番鮮明に輝くのはこの記憶だ。それだけ印象深い強烈な言葉だったというのもあるし、それを言う彼女の異質さが一番良くわかるから、というのもある。その声色は明るく、本気でそれが救済であるかのように殺してくれというのだ。狂気でなく正気、希望に満ちたその眼差しがかえって恐ろしかったのを覚えている。

 

 

 容姿端麗才色兼備で奇人変人。なぜか入学二日目で高校デビューをする。近代史のテストで教科書とは違う学派の答えを書いて「こっちの方が正しい」と主張する。OBとして雄英高校を訪れ、ヒーローに関する演説を行ったオールマイトに対し「今代は君なのか!ぜひともあいつをぶっ殺して欲しいものだ!」と突然話しかける。相澤消太のことが大好きで頻繁に「殺してくれ」と頼む。

 天井はちみつの噂は瞬く間に広まり、総評としてヤバいやつであると認識された。

 

 それに対し、俺、山田、白雲の間ではその逆、案外天井はまともであるという認識が生まれた。話してみれば、まあ一般の価値観とのズレはあるが、普通に雑談に興じる。戦闘訓練もまじめに行うし、正義感もきちんとある。倫理観は、まあ、なくはない。

 いつ暴れだすか分からない猛獣ではなく、むしろその逆、何かしらの目的のためだけに生きていて、それが絡まないことにはとことん無頓着な、ある意味理性的な人間だった。

 その「目的」に俺が絡んでいることもなんとなく分かった。とにかく、俺は彼女と友好関係を築いていた。

 

 

 何かある度に天井は俺に絡んできて、俺はそれを拒まない為、結局何かあると俺は彼女と一緒にいた。いや、何もなくても一緒にいたが。

 戦闘訓練やふとした授業でのグループワーク、昼食や休み時間、入学してから半年間の思い出はどこを振り返ってもしれっと彼女がいる。

 

「相澤くーん、私を殺してくれよー」

 

 いつだったか、特に用事のない昼休み、天井がそう零した言葉が酷く記憶に残っている。胡座をかいて楽にしている俺に後ろからしなだれかかりながらだ。

 その時は「まだそんなことを言っていたのか」と呆れを交えて返したが、今思うとやはり不思議だ。そう言う彼女は口調こそ猫が甘えるような、例えるなら普通の人が辛い時に「死にたい」と零すような言い方だったが。何となく、嘘をついているように感じられなかったのだ。

 横を見れば鼻が当たる距離にあった彼女の顔は、どんな顔をしていたのだろうか。今ではもう見ることは叶わない。

 

「なんで殺してくれなんて言うんだ」

 

 そう聞くと、彼女はこう答えた。

 

「死にたいんだ。別に死ねればいいから、今でも後でもいいんだけど。ただ、できればさっさと確実に死にたいから、君に殺して欲しいの」

 

 彼女はこと死生観に関してはとことんぶっ飛んでいた。完成されていたとも言える。他者の死に関しては犬猫だろうと「可哀想」「悲しい」と言えるのに、自分は「死にたい」と宣う。しかも本気でだ。

 何が彼女をそうさせたのかは分からない。もっと彼女と深く関わっていれば、彼女に自分の命の価値を知らせることができたのだろうか……。

 

 

 天井は、俺のことが好きであることを全く隠さなかったから、そのことで随分とからかわれたのも覚えている。あんなに好意を寄せられているのに何もしないなんて、相澤はホモだとか、実は出家しているんじゃないかとか、主に山田を中心にあることないことを言われた。

 ……今思うと、もっとその好意に真剣に対応すべきだった。

 

 ひしゃげた四肢、下がる体温、血で赤い地面、血の色のない唇で。

 

『あい、ざわくん、だいすき』

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「はぁ……」

 

 久しぶりにこの夢を見た。

 災害救助訓練を行う訓練場に向かうバスの中、仮眠から目が覚めてため息をひとつこぼした。

 後悔は消えない。だが、それに打ちひしがれるのはもうとっくに止めた。もう、天井や白雲のような犠牲が出ないように、俺は今の仕事をしているんだ。

 

 バスから降り、13号と合流する。

 

「オールマイトは?」

「先輩それが……」

 

 彼女いわく、オールマイトは通勤時の活動により()()()()をかなり使ってしまったらしく、仮眠室で休んでいるらしい。

 

「不合理の極みだなおい」

 

 仕方ない、訓練を始めるか。

 

 当初の予定通り13号が生徒たちに個性使用に対する心構えの演説を行う。よし、きちんと聞いているな。

 そして、その演説が終わったと同時。

 

 ヒヤリと背中に冷たいものが走った。

 

 一見非合理に見えるが、こういった時、経験に裏付けられたプロヒーローの()は当たる。

 それに従い、施設の中央、噴水がある広場の方へ視線を向けると、そこには黒いもやのようなものが浮いていた。そのもやは次第に広がっていき、その中から人の手が見え──

 

「一かたまりになって動くな!!13号、生徒を守れ!」

 

「ヴィランだ!!!」

 

 

 

 

 生徒を13号に任せ、ヴィランの群れを相手する。

 遠距離攻撃してくるのは攻撃の瞬間だけ個性を消し無力化、近接個性もそう。異形型個性は捕縛布で対処する。

 ヒーローは一芸じゃ務まらない。一対多のヴィラン戦闘も想定済みだ。

 

 戦った感想としては、弱い。一応戦える程度の個性持ち、それも何の訓練も受けていないような一般人の集団といったところか。

 ただ、にしては数が多すぎる。これだけの数を集め、まとめるにはそれなり以上の組織が必要となるはずだ。つまりこいつらは寄せ集めの雑魚兵。主犯格が紛れているか、はたまたこれ自体が囮で本命は別にいるか。

 

「23秒」

「本命か」

 

 秒数を呟きながら飛び出してたヴィランに捕縛布で牽制しつつ向き合う。

 全身に手のようなものが着いた不気味なファッションをした男。そしてその隣に、()()()()()()()()()()()()()()()()()。他のヴィランとは全く違う、犯罪を躊躇わない凶悪なヴィラン特有の気配。こいつが主犯格だ。

 

「24秒」

「20秒」

「17秒」

 

 捕縛布を交えて、周囲の寄せ集めヴィランの雑な攻めを防ぎつつ手のヴィランと戦う。

 見せた隙を逃さず、その懐に肘で一撃を与える。が。

 

「動き回るので分かり辛いけど、髪が下がる瞬間がある。一アクション終えるごとだ。そしてその間隔は段々短くなっている。無理をするなよイレイザーヘッド」

 

 そう言うヴィランが掴んだ俺の肘が、ボロボロと()()始めた。

 

「──っ!!」

 

 そういう個性か。瞬時に個性を消しつつ、殴って反撃。寄ってきた雑魚ヴィランを対処する。

 

「その個性じゃ……集団との()()決戦は向いてなくないか?普段の仕事と勝手が違うんじゃないか?君が得意なのはあくまで「奇襲からの短期決戦」じゃないのか?それでも真正面から飛び込んできたのは生徒に安心を与えるためか?」

 

 不気味にこちらの分析を語るヴィラン。そして、その間全く動かない隣の女。

 

「かっこいいなあかっこいいなあ。ところでヒーロー。本命は俺じゃない」

 

 背後に気配。直感的に避けると、元いた場所には太く黒い拳が置かれている。見れば、脳がむき出しになった鳥のような頭を持つ、全身が筋肉に包まれた黒い大男がいた。

 

「対平和の象徴、改人“脳無”」

 

 まるでお気に入りの玩具を見せびらかすように、悪趣味に男が笑った。

 

「──っ!!」

 

 脳無と呼ばれた大男の個性を消すが、その異様に速い動きは変わらない。あの筋肉は自前のようだ。

 踏み込みでコンクリートの地面をへこませ、空振りの拳が空気を大きく震わせるそのパワーはオールマイトを彷彿とさせる。

 

 こいつはまずいかもしれない。避けるのに精一杯になりつつ、状況を分析する。

 攻撃は大雑把。技術のない力任せの攻撃だ。だからギリギリ捌けるが、当たったら致命的だろう。

 手の男と球の女は楽しげにこちらを見たままだ。アイツらにとってはお遊びのようなものなのだろう。コレに手男の攻めまで加わったら流石に対処できない。相手が遊んでいる今のうちに対策を取らないと。

 

 捕縛布を脳無の拳に絡め威力を軽減し、その腹を一発殴る。

 硬い!分厚いゴムを殴ったような感触。すかさず離れ再度攻撃の対処をしつつ、冷や汗をたらす。相手に疲労した様子はない。

 

「動けるなヒーロー。だが、お前の攻撃は効かない。こいつの個性“ショック吸収”だ」

「ぐっはぁ……!」

 

 ついに脳無の攻撃を捌ききれず、まともな一撃を腹に食らう。アバラが数本逝く音がした。

 

「オールマイトを殺せる脳無だ。当然パワーもそれ以上だ」

「ぐぁ……はっ……!」

 

 一度壊れた均衡は一気に崩壊する。体勢を崩した俺に脳無が追撃し、遂には馬乗りになって殴られる。

 個性を消してもなくならない超パワーは相性が最悪だった。

 

 万事休す。このままでは生徒たちに被害が出る、といったところで。

 

「もう大丈夫、私が来た」

 

 オールマイトが到着した。

 亜音速で雑魚ヴィランどもを蹴散らし、脳無から俺を救出する。

 

「相澤君、現状は」

「あの黒いもやのようなのが転移系個性、手が付いたのが触れたものをチリにする個性、黒いデカいのは衝撃吸収に超パワー。そして、そこの頭が丸い球で覆われたのはまだなにも動いていません」

「わかった、大男は私が引き受けよう」

 

 オールマイトと役割分担を決め、再び死柄木に対面する。

 

「空気読めないなぁ、ヒーロー。お前はもう攻略済みなんだよ。さっさと倒されろ。()()、俺を守れ。さあ、ここからは二対一だ」

 

 そう言った死柄木の周りに、琥珀色の流動性をもった物体が漂い始める。

死柄木を()つつ攻撃を仕掛けるも、“蜜蝋”の個性で防がれてしまう。なるほど、そういう個性か。なら、攻撃の時だけ蜜蝋の個性を消し、守りの時に死柄木の個性を消すだけ──

 

「ぇ」

 

 らしくない声が漏れ、思わず攻撃が止まる。

 だって、それは。その顔は。

 

「どうしたヒーロー……。もしかして、知ってる顔か?ハハハッ、お友達が脳無の()()になっちまってたか?そりゃあ傑作だなあ」

 

 悪辣に笑う死柄木の後ろ、()()によってその頭を覆っていた球状の蝋が消え露わになったその顔は。

 髪色は黒に()()()いて、その髪が顔半分を覆い隠しているが、間違えようがない。

 

「天井……!」

 

 

 




原作と違う点がいくつか。相澤先生は白雲くんだけでなく天井さんの死も経験しているので、ジャンプ漫画における特異現象「友人恋人の死ブースト」が原作より大きく働いた結果、強化されています。そのため脳無の攻撃に原作より長く耐え、オールマイト到着後も戦う気力が残っています。

当初は、相澤くんの幼なじみで早死にして、転生して相澤せんせの教え子に生まれ変わって雄英高校1Aに加わろうかと考えていたのですが、こっちの方が相澤せんせが曇るかなって♡
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。