TSっ娘ハーレムとか正気か?~世界救って女の子に囲まれるはずが、パーティーは全員元男だったんだがどうすればいいですか~   作:恥谷きゆう

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戦いの終わりと宴と

 亡霊騎士の鎧を速やかに弔った後で、俺たちは後方で街を守っていた精霊騎士たちと合流した。

 彼らは帰ってきた俺たちを歓迎してくれた。

 彼らはゾンビたちが消滅したことから、俺たちが亡霊騎士を倒したことが分かったらしい。

 

「──本当に、ありがとうございました! 貴方がたはこの国の救世主です!」

 

 ソフィアの一件で知り合った精霊騎士、ララが感動しきった声で言う。

 それに応えたのは優しい顔をしたソフィアだ。

 

「たしかにキョウさんたちが頑張ったのは事実ですが、民を護っていた皆さん、精霊騎士もまた大事な役割を果たしていたと思いますよ」

 

 彼女もまた、祖国では騎士として民を護った騎士だった。

 護る戦いがどれだけ大変で重要なものかよく知っているのだろう。

 ララの瞳は少し潤んでいるように見えた。

 

「まあ、一番頑張ったのは僕だけどね!」

 

 割って入ってきた空気の読めないシュカがドヤ顔で胸を張っている。

 その能天気な様子に、場の雰囲気が幾ばくか和んだ。

 

「……それで、被害はどのくらい?」

 

 ヒビキの問いにララは真剣な表情で答える。

 

「街には被害はありませんでした。精霊騎士の被害も合戦の規模に対して、軽微です。殉職した騎士たちは、後ほど丁重に弔われることでしょう」

「……そうですか。後ほど、花を手向けさせてください」

 

 厳かに言ったソフィアに、ララは小さく頭を下げた。

 

 勝利の中にも敗北がある。亡霊騎士を打ち倒したといえど、彼の残した傷跡が消えることはない。

 残酷な戦いの世界では、瑕疵のないハッピーエンドなどほとんど存在しないのだろう。

 俺は歴史の敗者となった亡霊騎士のことを思い出した。

 全てを奪われて、その歴史すら改ざんされた生前の彼。

 

『勝者にできる手向けなど、敗者の分だけ精一杯生きるのみじゃよ』

 

 俺の心の声を聴いていたかの如く、ツルギの声が頭に響いた。

 

 

 ◆

 

 

 共和国の中心部まで戻ると、多くの祝福と感謝の声に迎え入れられた。

 お偉いさんらしき人に感謝を伝えられて、少なくない報奨金をもらう。

 夜にはパーティーが開かれるので、俺たちにも参加して欲しいとのことだ。せっかくもてなしてくれるというのなら、断る理由もない。

 俺たちは来賓としてパーティーに参加することになった。

 

「まったく、こんなもん俺が着る意味あんなのか……?」

 

 慣れないスーツにブツブツと言いながら、パーティー会場へと入る。

 履きなれない革靴は、違和感はあれど不思議な程に足に馴染む。これが高級品というやつか。

 パーティーにはドレスコードというものがあり、俺たちもちゃんとした服を着なければならないらしい。そうでないと周りから浮いてしまうのだろう。

 長い伝統を持つ共和国のパーティーは、まるで貴族の社交界のように煌びやかなものだった。

 

 更衣室の前に立って彼女らを待つ。

 すると、聞き覚えのある声が遠くから聞こえてきた。

 

「お、おい。これは本当にボクが着るものなのか?」

「フフ、いえいえ。バッチリですよ、ヒビキさん」

「えー、ヒビキだいたーん」

「うるさいシュカ! お前も似たようなものだろう!」 

 

 着替えながら楽しそうに話す三人。

 その声音からは照れがありながらも新しい装いにワクワクしていることが感じ取れた。ドレスは着るのにも時間がかかるのだろう。それからしばらく、彼女らは会話をしながら着替えているようだった。

 

「──ほら、できたんですからいきますよ」

「待って……キョウ君に見せるってなるとそれはそれで緊張するっていうか……」

「なんだシュカ。今更になって怖気づいてるのか?」

「ムッ……怖気づいてないし! ちょっと恥ずかしいだけだし!」

 

 騒がしい声が近づいてきたかと思うと更衣室のドアが開く。

 そして出てきた三人の装いに、目を奪われた。

 

 先頭で出てきたのはソフィアだった。

 落ち着いた様子でドレスを着こなす彼女は、こういったことに慣れた様子だ。

 清廉な雰囲気によく合うドレスは、白を基調にところどころに藍色がちりばめられている。コルセットから広がるスカートはくるぶしのあたりまでふんわりと覆い、上品な美しさを演出している。

 

 次に出てきたヒビキは派手な格好に慣れない様子で、もじもじしていた。

 ソフィアと対照的な深いワインレッドをメインにしたドレスは落ち着いた雰囲気を醸し出している。大きく露出した肩部分や胸元につい目を奪われてしまいそうだ。

 スタイルの良い彼女が着ると、暴力的なまでの魅力になるドレスだ。

 

 最後に背中を丸めて出てきたシュカは、二人に比べて装飾の少ないドレスだった。エメラルドグリーンの中に白が混ざっていて、彼女の快活な印象を損なっていない。

 細い体付きに沿うように流れるドレスの足元には大きくスリットが入っていて、健康的な脚部に目を奪われてしまう。

 

「……あ、あのキョウさん。黙って見つめられるとこちらも困るといいますか……」

 

 俺はソフィアの声にハッとする。三人は頬を赤らめながらもじもじとこちらを見ていた。

 

「わ、悪い。さ、さあ、じゃあ行くかー!」

「キョウさん」

 

 誤魔化すように背中を向けて先を急ごうとする俺を、ソフィアが呼び止める。

 

「私たちのドレス、どうですか?」

 

 こっぱずかしいから誤魔化そうとしたのに……。

 しかしソフィアの少し震えた、不安と期待が入り混じったような声を聞いて無視するわけにもいかなった。

 俺は振り返って……眩しい彼女らからちょっと目を逸らして、やけくそみたいに言った。

 

「ああ、似合ってるよ、最高だ!」

 

 俺の言葉を聞いた三人は、ドレスにも負けないほどに魅力的な笑顔を見せてくれた。

 ……危なかった。コイツらがTSっ娘じゃなかったら惚れてるところだったぜ……! 

 

 

 煌びやかパーティー会場は中心がダンスフロアになっていて、好きなタイミングでパートナーと踊れるらしい。

 その説明を聞いて、シュカがさっそく目を輝かせて俺の手を取った。

 

「キョウ君、踊ろう!」

「いや踊るってお前踊りとか知ってるのか?」

「知らないけど、自由ならなんとかなるでしょ!」

 

 相変わらずの恐れ知らずだ。先ほどまでの恥ずかしそうな態度はどこに行ってしまったのか。

 軽やかな足取りのシュカに手を握られて、ダンスフロアの中心に誘われる。

 周囲の視線が俺たちに集中している。先ほど戦功者として賛辞を受けたばかりの俺たちは注目の的だ。

 そんな状況でもシュカは遠慮とは無縁のようだ。出鱈目なステップを踏んで、俺を振り回し始める。

 

「アッハッハ! 音楽にノるって楽しいね、キョウ君!」

「これはノってるって言えるのか!?」

 

 グルグル回って何が何だか分からない。シュカに振り回される俺はステップとも呼べないステップを踏んでいる。

 最初は困惑するばかりだった。けれど、場の雰囲気と軽快な音楽のおかげかなんだか楽しくなってきた。

 

「……ハハッ! やられっぱなしってのも性に合わないよな!」

 

 今度は俺の方からシュカの手をぐいと引っ張ってリードする。

 日本にいた頃、学校でダンスを少しやらされた記憶がある。うろ覚えのステップを踏んで、くるくると回る。

 そして、シュカの腰に手を当てて彼女に接近する。

 

「キョ、キョウ君……?」

 

 間近に迫ったシュカの顔は薄っすら紅潮していた。

 近くから見ると、今日のシュカが薄っすらと化粧をしているのが分かった。普段の飾り気のない様子とは大違いだ。

 控え目なアイライン。薄い色のリップ。チークを乗せているのか、血色も普段よりよく見える。

 

「……綺麗だな」

 

 半ば無意識に口をついて出てきた言葉に、自分で恥ずかしくなってしまう。体がカッと熱くなった。どうやら音楽にノせられていたのは俺も一緒だったみたいだ。

 けれども、俺以上に恥ずかしがっているのはシュカの方だった。

 

「えっ……ぁう……」

 

 チークの薄い赤よりも真っ赤になった頬を隠すように、シュカはパッと後ろを向いた。大胆に開いた背中に目を奪われてしまう。

 彼女は、真っ赤な顔のままでおずおずと俺の方を振り返る。

 

「その、僕なんかが化粧なんてしてて、変じゃない? 男だか女だか分からない振る舞いしておいて……」

「変ではねえよ」

 

 動揺している俺が言えたのはそれだけだった。

 けれどシュカは、それだけでホッとしたような表情を浮かべた。

 そしてすぐに、真っ赤になった頬を隠すようにそそくさとその場を去って行った。

 

「あ、おい! 俺を置いていくな!?」

 

 ダンスフロアの中心で置き去りにされた俺はまるでプロポーズに失敗した男みたいだった。

 

 しかしうろたえる俺の元に、新たに近づいてくる影があった。

 

「──キョウさん。私とも、一曲踊ってくださりませんか?」

 

 煌びやかドレスを着こなしたソフィアは、そう言って紳士のように華麗に一礼した。

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