TSっ娘ハーレムとか正気か?~世界救って女の子に囲まれるはずが、パーティーは全員元男だったんだがどうすればいいですか~   作:恥谷きゆう

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女の子が二人。これはハーレム

「シュカ……おいシュカ、大丈夫か?」

 

 頬を叩く。我ながら、自分で締め落としておいて大丈夫かとは何事だと思ったが、ここで目を覚ましてくれないと困る。

 息はあるから死んでないはずなんだが……。

 

「う……」

 

 シュカがわずかに呻き声を上げながら目を開ける。

 それを見た俺とヒビキは、安堵のため息を漏らすのだった。

 

 意識がはっきりしたらしい彼女と話をする。もう殴りかかってくる元気はないらしい。

 

「とにかく、もう戦いは終わりだ。そもそもシュカは『宵闇の蝙蝠』を潰しに来たんだろ? それなら俺たちと立場は同じだ。敵対する理由はどこにもない」

「ちぇーつまんないのー」

 

 起き上がったシュカは、不満げに唇を尖らせた。

 コイツ、どんだけ戦うのが好きなんだ。

 

「ヒビキを殴った謝罪は?」

 

 少し力を籠めて睨むと、シュカは微妙に頬を赤らめながら目を逸らした。おい、なんだその謎の反応は。

 

「ごめん二人とも、勘違いで殴っちゃった!」

 

 軽い! 飲み物間違えて飲んじゃった、くらい謝罪が軽い!

 

「……まあ、いいさ。そもそも攻撃したのはボクだからな」

 

 ヒビキはそんなに気にしていないようだった。

 彼女が許すのなら、と俺はこれ以上言い募るのをやめる。

 

「それでその、殴った手前あれだけど、僕も君たちについていきたいんだけど、いいかな? 多分勇者の使命を果たすんでしょ? 僕は役に立てるよ」

 

 彼女がわずかに頬を赤らめながら聞いてくる。

 

「え、シュカが? ……まさか、俺のことが好きになってしまったりしたのか!?」

 

 これはまさか、美少女ハーレムメンバー第一号の誕生か!?

 俺の言葉に、シュカは激しく動揺し始めた。

 

「へっ、そ、そんなわけないじゃん! ていうか僕は男だし」

「…………は?」

 

 一瞬何を言ったのか理解できなかった。

 サラシを巻いた胸を惜しげもなく晒している彼女は、どう見ても可愛い女の子だ。

 

「いや、いやいやいや、どう見ても」

「いやあ、なんか禁断の秘境? とかいうところに強い奴がいるって聞いてさ。それで行ったら、不思議な霧に包まれて、気づいたら女の子になってたんだよねー」

「……」

 

 うそ、だろ?

 

「だよねーって軽いな。男に戻りたいとか思わないのか?」

 

 ヒビキがシュカに問いかける。

 

「うーん、でも女の子の体って柔らかくて、僕の戦い方に合ってるんだよね。ちょっとパワーには欠けるけど、技術でカバーすればいいし!」

 

 ぐっと拳を握る彼女。どうやら本当に自分がどちらの性別なのかどうでもいいと思っているようだった。

 

「ボクには到底至れない考え方だな。というかなんで基準が戦いだけなんだよ。もっと大事なこと色々あるだろ」

 

 同じTSっ娘であるヒビキとしては、シュカの考え方は理解できないようだった。

 傍目から見れば、美少女同士が会話しているようだ。しかし実際は……。

 

「お前ら……」

 

 フルフルと体を震わせながら、俺は彼女たちに向かって叫んだ。

 

「なんで俺が関わる可愛い女の子は全部TSっ娘なんだよ! おかしいだろ! 俺はTSっ娘は対象外って言ってるだろ!?」

 

 くそ、ハーレムパーティーが欲しい。

 

「あっはは。話してみるとキョウ君は結構面白いね。そんな強さを持っているのに、最終目標は女の子とイチャイチャすることなの?」

「いやいや、普通だろ。男なら夢見るだろハーレム。たくさんの女の子に囲まれて、いっぱいラブコメするんだよ」

 

 元男二人に言うが、両方ともきょとんとした顔を見せる。

 

「関係を持ってる女の子がいっぱいいたら面倒事も増えそうじゃない?」

 

 おいシュカ、俺の夢をぶち壊すようなことを言うのはやめろ!

 

 

 とりあえず、冒険者ギルドに「宵闇の蝙蝠」を壊滅させたことを伝えなければ。既にその場にいた構成員は全員気絶させてある。

 自警団への通報は周囲のスラム街住民がしたらしく、男たちが彼らを牢屋へと連行していった。

 

 シュカは俺たちより先に拠点に殴り込んでいたようだ。二階から騒音がしたのはそういうことらしい。

 多分、俺たちが来なくても「宵闇の蝙蝠」はシュカの手によって壊滅させられていただろう。

 

 冒険者ギルドに来ると、シュカがやけに張り切っていた。

  

「ギルドとの交渉は任せてよ! 僕はS級冒険者だから向こうも知ってるはず!」

 

 意気揚々と、胸を張って受付に行く彼女の後ろについていく。しかし、ギルドの受付嬢の反応は冷ややかだった。

 

「S級冒険者のシュカ様? あの、本人ではないですよね。申し訳ありませんが代理人の受付は……」

「いやいやいや! よく見てよ! 僕がシュカだから!」

「いえ、獣拳王のシュカ様と言えば、犬獣人の男性と聞いています。ギルドの証明書にもそう書いてあります」

「あー、だから、諸事情で女になっちゃっただけだから」

「いえあの……」

「ハッハッハ!」

 

 俺たちのやり取りを聞いていたらしく、後ろに控えていた冒険家が笑い声を上げた。

 

「お嬢ちゃん、いくら獣拳王に憧れてるからって本人を名乗るのはダメだろ!」

「いやいや、可愛いもんじゃねえか! 『僕がシュカだ!』……なんて、ダッハッハッハ!」

 

 ばか笑いをする男たちは本当に楽しそうだった。

 それを見たシュカが、怒りに犬耳をピクピクさせる。

 

「コイツら……本気でぶん殴ってやろうか……!」

「ま、待て待て待て! お前がここで暴れたら建物が崩壊するだろうが!」

 

 何より目の前の男たちが心配だ。半殺しで済むだろうか……。

 

「あー、受付さん。宵闇の蝙蝠の討伐任務を完了した。ボクたち三人でだ。倒した奴らに聞けば分かると思う」

「はい、報告は既に上がっております。勇者、キョウ様とその仲間の皆様、王国に蔓延る犯罪組織、宵闇の蝙蝠の首領を捕らえてくださり、本当にありがとうございました!」

 

 受付嬢の言葉を聞くと、冒険者ギルドにどよめきが上がった。『宵闇の蝙蝠』の悪名は、共和国の中でも広まっていたようだった。

 

「難易度Bの依頼を達成いただけましたので、キョウ様のパーティーはDランクからBランクに昇格です。おめでとうございます!」

「「おおー」」

 おお、と再び歓声。周囲の反応から察するに、Bランクというのは結構すごいことらしい。

 

「だから、僕はSランク冒険者だって! そんなちまちまランク上げる必要ないって!」

「うんうん、シュカが話すとややこしくなるから、黙ってようなー」

「もごもご」

 

 シュカのうるさい口を手でふさぐ。唇の柔らかい感覚に内心動揺する。クッ、コイツは中身男だってわかってるのに……!

 

「これからは、各地の冒険者ギルドで高位の依頼を受けることができます」

「へえ、例えば他の都市に行ってもってことですか?」

「ええ」

 

 それはちょうどいい。

 

「皆さんが冒険者として名前を上げたいのなら、まずは王都に行くことをお勧めします。この街は比較的平和なので、高位冒険者向けの依頼は少ないです」

「だってよ、どうする、キョウ」

 

 ヒビキは俺に聞いておきながらも答えが分かっているようだった。

 

「そりゃあもちろん、王都に行ってもっともっと名前を上げて、ハーレムパーティー作りに行くに決まってるだろ!」


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