TSっ娘ハーレムとか正気か?~世界救って女の子に囲まれるはずが、パーティーは全員元男だったんだがどうすればいいですか~   作:恥谷きゆう

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清廉潔白なお姫様

 教会というのはこの世界では怪我人が集まるところらしい。血の匂いのする治癒院と、清潔な礼拝堂のような建物の二つが隣接して「教会」と呼ばれているらしい。奥には居住部分らしいものもちらりと見える。

 

「怪我の方はこちらにお並びください。順番に案内しております」

 

 建物の外まで結構な長さの列ができている。並んでいるのは歴戦の戦士たちなのか、と思えば、老人の姿が目立った。

 特に目立った外傷は見えないが、彼らはどんな怪我をしたのだろうか。

 

「おいキョウ。眩暈がしたりしないか」

「ああ、大丈夫。左腕がピリピリするくらいだな」 

 

 列に並んだ俺に、ヒビキがついてきてくれた。毒で急に倒れられたら困る、とは彼女の言葉だ。

 ちなみにシュカは「ここまで来れたら大丈夫でしょ!」とどこかに行ってしまった。薄情な奴め。

 

「……どう見てもキョウより重傷な奴はいなそうだが……救急外来とは違って融通利かないのか。キョウ、もうちょっと大袈裟に痛がってみたらどうだ? 地面に這いつくばって『左腕が……俺の封印された左腕があああああ!』って叫んだら優先的に通してくれるかもしれないぞ」

「ドン引きされるだけだわ!」

 

 この世界でそんなことしたら、本当に悪魔でも憑いたんじゃないかって大騒ぎになるかもしれない。

 中二病がネタにならない場所。それが異世界だ。

 

「すいません、出血している方がいらっしゃるようです。先に通して差し上げてください」

 

 奥から、可愛らしい、けれど澄み切った女の子の声がした。

 すると、並んでいた人たちが一斉に道を開けた。俺に先に行けということらしい。

 ありがたく列の前に行くと、俺は声の主である少女と相対することができた。

 

「ッ!」

 

 その美貌に、俺は目を奪われた。

 

「毒ですね。直ちに治療致します」

 

 高貴で、触れることすら憚れるような美しさを持った少女だった。

 艶々した金色の髪が背中まで伸びている。青色の目には、確たる意思が籠っている。十代半ばだろうか。可愛らしさを残した顔は、優しそうだ。

 

「あ、ああ。お願いします」

「こちらに座ってください」

 

 彼女の前に座る。ヒビキが俺の後ろに立った。

 目の前の少女が、目を閉じ手を合わせた。

 

「主よ、この者の穢れを祓いたまえ。クレンジング」

 

 淡い光が俺の傷ついた左手を包み込んだ。痛みがひいて、うっすら感じていた手の痺れもなくなっていく。

 

「お、おおー! すごい! ありがとうございます美人さん」

「いえいえ、主の恵みの一端を分け与えたにすぎません」

「お名前はなんて言うんですか?」

「へ? 私ですか? ……私はソフィアと申します」

「ソフィアさん、ありがとうございました!」

 

 改めて名前を呼んで感謝を伝えると、彼女は意外そうに目を開いた。

 

 

「いやあ、すごい可愛かったなあ、あの子」

「あれが多分姫聖女ってやつだぞ、キョウ」

「え? あれが? いやいや、確かに気品があって可愛かったけど、お姫様があんなところで俺と話してくれるわけないじゃん」

「お前、列に並んでる人の会話を聞いてなかったのか? みんなソフィアに会うために大した怪我もしてないのにあそこに来てるみたいだったぞ」

「へえ……」

 

 あれか。整骨院に老人がたむろして雑談してるみたいなもんか。

 

「しかし、あんな人数を1日で治療してやるなんて、まさしく聖女だよな。王族なんて悠々自適の生活を送っても文句は言われないだろうに、よくやるな」

「ああ、日本で言うボランティアってやつか?」

 

 あるいは滅私奉公と言うべきか。

 それは凄い。けれど、俺はその気持ちがあまり理解できなかった。

 別に、ボランティア、つまり人にタダで尽くすことを馬鹿にする気はない。

 でも、理解できない。俺は自分勝手な人間だから、対価なしに他人のために働くなんて御免だ。それなら、自分のために時間を使う。

 

「本当にやりたくてやってんのか? ……なんてのは、ちょっと穿った見方かもな」

「キョウ?」

「なんでもない。ああそうだヒビキ。先に戻ってくれ! このまま王都をぶらぶらしてくる!」

「おいキョウ、どこ行くんだよ! ……ちゃんと夜までには宿まで戻ってくるんだぞ! 変な奴についていくなよ!」

 

 お前は俺のオカンか。ヒビキの心配性は、こっちに来てから悪化したように思えた。


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