TSっ娘ハーレムとか正気か?~世界救って女の子に囲まれるはずが、パーティーは全員元男だったんだがどうすればいいですか~   作:恥谷きゆう

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強引だって

「ソフィア、二日後の休日に教会を抜け出さないか?」

 

 開口一番の俺の言葉に、彼女は大きく目を見開いた。

 

「俺たちパーティーメンバーで今度デアルト山まで観光に行くんだよ。ソフィアも見に行かないかなって思ったんだけど……やっぱり忙しいか?」

「……別に急用があるというわけではありませんが、でも私は」

 

 わりとモノをはっきり言う彼女にしては珍しく、言いよどむ。

 それは断り切れない、というよりはむしろどう答えていいのか分からない、という風に見えた。

 

「あれだ、ソフィアがどうしたいのか、それを聞かせてくれ」

「……」

 

 何か考え込むように黙り込んでしまうソフィア。

 

「私がどうしたいかですか。……よく、分からないですね」

 

 なんだそれ。そんなの考えるまでないだろ。

 そう思ったが、俺は黙って彼女を見て言葉の続きを待つ。

 

「行きたい、とは思っているんだと思います。けれども私には責務があります。私を必要としてくれる人がいます。みんなが頼ってくれます。だから、行くわけには……」

「ソフィア」

 

 彼女の言葉を遮り、俺はもう一度先ほどの言葉を言った。

 

「ソフィアがどうしたいのか、それを聞かせてくれ」

「……」

 

 彼女は、空虚な笑顔のまま固まってしまった。前から彼女の歪みには薄々気づいてたが、思ったより重症だ。

 治療の名手である彼女だが、自分の心まで癒すことはできないらしかった。

 

 ソフィアと話していて、分かったことがある。完璧に見える彼女だが、その精神はひどく不安定だ。

 

 何が原因かは分からない。自分を律している、を通り越して苛んでいると言えばいいか。みんなに頼りにされて、治療や社交などを毎日こなすのはつらい。そう思っているはずなのにそれを表に出すまいというこだわり。

 

 そんな不安定性は、放っておけなかった。俺はもうすでに、彼女の優しくてけれどもどこか強かさを感じるあり方に惹かれいた。

 彼女の人間性に惹かれたのだ。彼女と信頼関係を結んで恋仲になれればどれほど幸福だろうか、と思えるほどに。

 

 ソフィアは俺の問いに答えを返せない。自分がどうしたいのか。それすら言葉に出せない。言葉に詰まり、下を向く。

 

「私、は……」

「ええい、もう分かった! 今度の休み、攫ってでも来てもらうからな! お姫様を攫うなんて大変なことになるからな! それが嫌なら自分で来いよ! じゃあそういうわけで決定!」

 

 多少強引になってしまったが、いいだろう。

 俺は自分勝手なのだ。自分の都合で他人を振り回すし、気に入った人間には幸せになってほしい。

 俺はソフィアに少しでも幸せになってほしいのだ。

 彼女がそれを願っていなくても、俺がそうあってほしいのだ。

 

 

◇ 

 

 

 俺が出合わせたTSっ娘二人に、初対面のソフィアはペコリと頭を下げた。

 

「初めまして。私はソフィアと申します。本日は一日、なにとぞよろしくお願い致します」

「おおおお、おいキョウ! どんな脅しをしたらお姫様を連れてこれるんだ! 元の場所に返してこい! 怒られるじゃすまないぞ!?」

 

 動揺するヒビキ。もともと新しくできた友人を連れていくと言っただけで、二人には誰を連れていくのか伝えてなかった。

 

「へえ、本物のお姫様だ! 僕はシュカ、よろしくね!」

 

 犬耳をピコピコさせながらシュカが挨拶する。

 それに対して、ソフィアは丁寧に頭を下げた。

 

「はい、よろしくお願いします」

「なんだかソフィアは不思議な雰囲気を纏った人だね。強者の雰囲気はあるのに、肉体はあんまり強くなさそう……うん、よく分からないから一回戦わない?」

「え、それはその……」

 

 ソフィアが困ったような笑みを浮かべる。

 

「シュカ! お姫様と殴り合いをしようとするんじゃない! 間違いなく死刑だぞ!」

 

 シュカがソフィアを殴ったら一発で大怪我させると思う。

 みんなの人気者のお姫様大怪我させたら死刑の前に私刑に遭うかもしれない。

 

「ええー、極まった騎士の雰囲気を感じるんだけどなあ。うーん、残念」

「そんなわけないだろ。むしろソフィアは運動音痴だ」

「え、そうなの?」

「ああ、腕立って伏せ一回もできない程度にな」

「きょ、キョウさん、それは恥ずかしいのであんまり言わないでほしいのですが……」

 

 この前ソフィアって運動音痴だよなって話をした時のことだ。

 「キョウさんは私を舐めすぎです! 見ていてください!」と言って腕立て伏せを始めた彼女だったが、結局一回もできずにダウンしていた。

 

 赤面するソフィアはやっぱり可愛い。ああ、できれば俺のヒロインになってくれないだろうか。

 

 シュカに代わって、今度はヒビキがソフィアに話しかけていた。

 

「ソフィアさん、もしかしてコイツに騙されていないか? こいつはハーレムを作りたいって言って憚らないクソ野郎だぞ。愛想の良さに騙されちゃダメだぞ」

「いえ、その点はさんざん聞いているのでよくわかっています。それに、キョウさんは私などに興味がないでしょうから」

 

 ……めちゃくちゃ興味あるけど!? お姫様とのラブロマンスに憧れて仕方ないけど!?

 相変わらずソフィアの自己認識はよくわからない。どうしてその美貌を持っていて、自分が男に好かれないと思っているんだ?

 

「本当か?」

 

 ヒビキが俺にジトっとした目を向けてくる。

 

「あ、ああ! ソフィアはいいやつだからな! 善意につけこむような真似、俺がするはずないだろ!」

「おい、目が泳いでるぞ」

 

 クソ、幼馴染のヒビキの前では嘘がすぐばれる!

 

「ふふ、やっぱり話に聞いていた通りの面白い方々ですね、キョウさん」

「ああ。まあ俺ほどじゃないけど!」

 

 さて、4人の顔合わせも済んだことだし、いよいよ登山だ。

 

「しかしキョウ。お姫様を連れてくるのにやることが登山なんてセンスがないんじゃないか?」

「うるせえ。もともとここに来ることは決めてたんだからしょうがねえだろうが」

「私はいいと思いますよ、登山。普段なら絶対にできないので、良い経験をさせてもらっています」

 

 ああ、本当にソフィアはいい子だな。どこかの眼鏡TSっ娘にも見習わせたいものである。

 

「じゃあ、早速行こう! きびきび行こう! レッツゴー!」

 

 ぴゅう、と駆け出していってしまうシュカ。速い。間違いなく本気で走っている。

 追い付けるわけがないだろ、と俺とヒビキは呆れながら見ていたが、ソフィアだけは違った。

 

「よしっ、私も」

 

 だっ、と駆け出すソフィア。しかしその足はシュカと比べようもないほど遅い。高校のクラスに彼女がいたら一番を争う遅さだろう。

 加えて、山道は足場が悪い。少し行くと、ソフィアは足元の根っこにひっかかった。

 

「あっ」

「ソフィア!?」

 

 ずしゃああ! と顔面のあたりから地面に落ちるお姫様。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 彼女を抱え起こして様子を見る。幸い顔に傷はないようだ。咄嗟に手をついたらしい。

 お姫様の顔に傷をつけたらそれこそ責任取って結婚しないとだったぜ……。

 

「あっはは。少し張り切り過ぎてしまいましたね」

 

 自分の手を見て苦笑いするソフィア。見れば、切り傷がついている。

 

「ちょ、ちょっと待ってろソフィア。今傷の消毒を……」

「いえいえ、私は自分で治せますので」

 

 ソフィアが小さく詠唱すると、傷口に光が灯り治療が始まった。さすが聖女。

 

「心配しなくて大丈夫ですよ。この通り、すぐに治せますから」

「いやいや、そうは言っても心配はするって」

 

 あんな顔面ダイブされたら誰だって気を遣うだろう。

 しかしソフィアは、少し驚いたような顔を見せた。予想外のことを言われた、というような不思議なリアクションを見せるソフィア。

 

 その様子には気づいていないのか、ヒビキはソフィアに声をかける。

 

「シュカの馬鹿は放っておいていい。多分一人で山頂まで走って行ってすぐ帰ってくる」

「そんなことが……?」

 

 ヒビキの言葉に、ソフィアは大きく目を開いた。

 しかし、ヒビキによるシュカの分析は間違っていない。彼女は体力馬鹿だし鍛錬馬鹿なので、俺たちの想像を超えてくるのだ。

 

「ゆっくりでいいさ。ボクだって体力には自信がないんだ。正直登山なんて気が向かなかったくらいだ」

 

 少しだけ微笑んでみせたヒビキの様子に、ソフィアは興味を持ったらしい。彼女から問いかけを投げる。

 

「ヒビキさんは魔法使いなんですよね。キョウさんとはどこで知り合ったんですか?」

「ああ、キョウが勇者であることは知っているか? ボクはキョウの故郷からの友人だ。――といっても、姿が大分変わってしまってな。キョウが獣のような欲望を解放してボクを食っちまったら、ボクたちの友人関係はおしまいになる」

「おい、誤解させるようなこと言うな!」

 

 お前を食おうとしたことなんて一回も……いや、見た目だけはいいから結構あったな。

 

「誤解だと? この前だって――」

 

 彼女が何かまずいことを言おうとしている予感がして、俺は彼女を買収する方に舵を切った。

 

「ああー、わかったわかった! ソフィアにそんなこと教えるな。何が食べたいんだ。言ってみろ。ケーキか? 肉か? その胸のでけえ脂肪を満足させてやるよ!」

「おまっ、ノンデリにもほどがあるだろ!」

「お前に対するデリカシーなんかとうの昔に消えたわ!」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら歩いていると、隣から忍び笑いが聞こえてきた。見れば、ソフィアが口を抑えて静かに笑っていた。

 

「フフ。仲がいいんですね」

 

 ……そんなストレートに言われると、少し困るな。俺の横のヒビキは少し頬を赤らめて視線を反らしていた。クッ。この眼鏡、可愛いのが癪だ。


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