TSっ娘ハーレムとか正気か?~世界救って女の子に囲まれるはずが、パーティーは全員元男だったんだがどうすればいいですか~   作:恥谷きゆう

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傲慢の魔剣を鑑定しよう

「それで、お前はどうしたい? さっそく魔物でも倒しにいくか?」

 

「いやいや、それより先にやることあるだろ」

 

 

 

 俺は、彼女の体をズビシッと指さした。

 

 

 

「その恰好目に毒なんだよ! さっさと服買いに行くぞ」

 

「……お前、どこに目つけて言ってるんだ?」

 

 

 

 ヒビキの眼鏡の奥からジトっとした目線を感じる。どうやら、俺の視線がまた大きな胸の方に寄っていることがばれていたらしい。

 

 少し早口になりながら、俺はごまかした。

 

 

 

「いや、それもあるけどさ、魔法使いなら杖持てよ。なんか魔法の威力上がるんだろ?」

 

 

 

 しかし、俺の言葉にヒビキは気まずそうに顔を逸らした。

 

  

 

「いや、ボクは金がないが……」

 

「それくらい買うって。そもそもお前の場合始まりがイレギュラーだったわけだろ? 普段ならお前におごるなんて死んでも御免だけど、今回は特別だ」

 

「……本当にお前は」

 

 

 

 呆れたような声音だったが、口角がわずかに上がっている。相変わらず素直じゃない奴め。

 

 

 

「それにさ、連れている女の子が貧相な見た目だと俺が貧乏みたいだろ? ハーレムが遠のくじゃん!」

 

「――あぁ?」

 

 

 

 こわっ。急に無表情になったヒビキが俺を睨む。美人は怒ると怖いということを、俺は身をもって実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、買った買った! いやあ、結局ヒビキのスカートは買えなかったな。見たかったけどな、ヒビキがミニスカートでプルプルしてる姿!」

 

「だから、絶対に履かないって言ってるだろ!」

 

 

 

 ヒビキが顔を赤くしながら俺に言う。その頭にはとんがり帽子。彼女の今の姿は、眼鏡っ娘魔女といったところだろうか。黒いローブもよく似合っている。動きを邪魔しない落ち着いた色のロングスカートがその下でひらひらしている。

 

 豊満な胸が隠れてしまったのがやや残念だろうか。

 

 

 

「……ああ、これで中身がヒビキじゃなかったらなあ」

 

「おい、人の姿を見てため息を吐くのはやめてくれないか」

 

 

 

 ヒビキが嫌そうに言う。

 

 

 

「それで、キョウの方は武器を買う必要はなかったのか?」

 

 

 

 俺自身が買ったのは、動きを邪魔しない程度に体の一部を守る鎧だけ。武器の類は買ってない。

 

 

 

「いやあ、それが召喚された時に武器もらってさ。これ、傲慢の魔剣って言うらしいんだけど、かなりいい武器っぽいんだよな。まあ、鞘から抜けないんだけど」

 

 

 

 ググ、と力を籠めるが魔剣はやはり抜けない。

 

 

 

「それなら一層他の剣を買った方がよかったんじゃないか?」

 

「いや、こっちの予備の剣よりも良さそうなのがなかったからさ。当分はこれで」

 

 

 

 傲慢の魔剣と一緒に下げて居る長剣は、決して悪いものには見えない。傲慢の魔剣が使えるようになるまではこちらを使えばいいだろう。

 

 

 

「抜けない魔剣を抜く方法か……そうだキョウ、鑑定は剣には使えないのか?」

 

「おっと、その手があったか」

 

 

 

 ヒビキの言葉に従って、傲慢の魔剣に鑑定を使う。すると、すぐに結果が見えた。

 

 

 

 

 

名前 傲慢の魔剣 

 

ランク S

 

製作者 ムラマサ

 

 

 

800年前、狂気の刀鍛冶ムラマサが作った七罪の魔剣、その一振り。

 

自らが認めた主以外には剣を抜くことすら許さない。

 

ひとたび抜けばたとえどんな強敵であろうと跪かせることができるという伝説の魔剣。

 

しかし、使用者には著しい精神汚染が発生する。そのため、使用者はほとんど全員が発狂して無残な死を遂げている。

 

 

 

 

 

「なんてモノ押し付けてくれてるんだあの召喚士どもおおおおおおお!」

 

「おいキョウ、その剣一回抜いたんだろ? 大丈夫か!? なんか急に破壊衝動が襲ってきたりとか……」

 

「いや、全然そういう影響は感じないな」

 

 

 

 俺の言葉に、ヒビキはほっとしたように息をついた。

 

 

 

「なあキョウ。その危ない魔剣、いっそ売ったらどうだ?」

 

「――声がさ、したんだよね」

 

「は? 声?」

 

 

 

 急に芝居がかった声を出し始めた俺に、ヒビキはちょっと呆れたような目を向けた。

 

 

 

「傲慢の魔剣を抜けた時、幼い女の子の声がした。その声が、俺を主として認めてくれたっぽいんだよね」

 

「まず武器が喋るのが信じられないが……それが本当だとしたら、どうして今は剣を抜けないんだよ」

 

「多分、まだその時じゃないと思うんだよな。――俺が思うに、コイツは運命の刻を待っている」

 

「はあ」

 

 

 

 ヒビキが気の抜けたような声を出す。おい、俺のテンションに付き合ってくれよ。

 

 

 

「時が来たら、コイツは俺に力を貸してくれる。そんな予感がするんだ。俺とコイツは信頼し合える。だってコイツ、生きてるんだぜ?」

 

「あー、そうか。そんな時が来ればいいなー。いいからさっさと寝るぞ。明日から冒険者ギルドで働くんだろ」

 

 

 

 まるで興味ないような声を出したヒビキは、さっさと片づけをすますと反対側のベッドへと入っていった。

 

 

 

 ちなみに俺たちの宿の部屋は同じだ。見た目美少女のヒビキを一人で寝泊まりさせるとどんな目に遭うか分かったものではないからだ。

 

 

 

 

 

 その日、俺は傲慢の魔剣を抱いて寝た。まるで卵を温める親鳥のように、俺は魔剣を大事に大事に抱えて寝た。

 

 きっと、心を通わせれば力を貸してくれる。俺はそう信じていた。

 

 

 

 朝が来る。期待を込めて剣を握り力を籠めるが、傲慢の魔剣はうんともすんとも言わなかった。

 

 

 

「おいヒビキ、見てくれ! 一晩一緒に寝ても魔剣抜けないんだけど! 自慢の頭脳でなんとかしてくれ!」

 

「ふあ……? 知らんわ。だいた昨日お前『時が来たら……』とか言ってただろ。大人しく待てよ」

 

「いや、俺は今、カッコよく魔剣を振る自分を女の子に見せつけたいんだよ! ハーレム! 俺のハーレムはいったいいつ!?」

 

 

 

 信じられない! あんなに誠意を籠めて一緒に寝たのに! なんて傲慢な剣なんだ!

 

 

 

「うるさい。つべこべ言わずに出かけるぞ。今日からさっそく勇者として活動するんだろ。」

 

「おっと。そうだった」

 

 

 

 ひとまず傲慢の魔剣の剣は後回しにして、俺とヒビキは勇者としての第一歩を踏み出した。


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