TSっ娘ハーレムとか正気か?~世界救って女の子に囲まれるはずが、パーティーは全員元男だったんだがどうすればいいですか~   作:恥谷きゆう

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友情の再定義

 キョウとソフィアが戦っている間、僕は情けなく地面に倒れ込んでいることしかできなかった。

 ソフィアが倒れ、キョウが窮地に陥った今でさえ、だ。

 

 意識が朦朧とする。忌まわしい幻聴が絶えずボクの耳を蹂躙する。

 あの黒い波動のようなものを食らってからずっとそうだ。悪夢の中にいるみたいに、自由が効かない。

 

 体は全く言うことを聞かない。無様なうめき声を出して地面に転がることしかできない。

 

 なんとか意識を集中させて、ボクは目の前の光景を分析した。

 

 

 突然魔法都市に現れ、住民の大半を無力感した瘦身の男と、キョウは一人で戦っていた。

 シュカはボクの隣で同じように呻いている。おそらく、ボクと同じく体の自由が効かないのだろう。

 ソフィアは先ほど騎士の力を使った影響で動けない。

 

 ボクが、キョウを助けなければ。

 そう思っても体に力が入らない。

 

 自分の内側から力が吸い取られてるような感じだ。魔力を出せない。魔法の一つも行使できない。

 

 何よりも、強制的に頭に入り込んでくる「悪夢」が、ボクの精神を蝕んでいた。

 

「お前は足手まといだ」

 

 幻聴の中で語り掛けてきているのは、才川(ヒビキ)──男の頃の自分だった。

 

「お前に何ができる。根暗で、プライドだけ高くて、まともに人間関係を築けなくて、大事な時に決断できない。キョウに迷惑をかけるだけじゃないか。どうしてまだのうのうと生きているんだ?」

 

 うるさい。そんなこととっくの昔に分かってる。

 それでも彼のために、ボクを助けてくれたキョウのために頑張るって決めたんだよ。

 

「何の意味がある? 頑張るだけじゃ何の意味もない。役に立てない人間であるお前はキョウから離れるべきじゃないか? 現に今、あいつはとても困っている。お前が役に立たないからだ」 

 

 ……その通りだ。でも、ボクが一番キョウのことを分かっている。たとえボクが役立たずでも、そういう意味では唯一無二だ。

 

「ソフィアは頭が良くて、キョウのことを考えている。彼女がいれば十分だ」

 

 ッ……でも、ソフィアとシュカは彼が日本にいた頃を知らない。

 

「そうやって優越感に浸っているのは本当に滑稽だな。気色悪くて、キョウみたいにまっすぐな人間にはとことん不釣り合いだ」

 

 ──そんなこと、分かってんだよ! 

 

「分かってるんならどの面下げてここに来たんだ。お前なんて奴隷として男に尽くす一生がお似合いだったんじゃないか?」

 

 ……。

 

 もはや、キョウの姿は見えない。幻聴は視覚にまで影響を及ぼしていた。ボクの視界に映るのは、真っ暗闇と冷たい目でボクを見つめる才川響(ボク)のみ。

 使えない。役に立たない。助けられてばっかり。そんな言葉ばかりが脳の奥に突き刺さる。

 

 

 キョウと瘦身の男の会話が、まるで水面でも通しているみたいに遠くに聞こえてくる。

 

「哀れだな、お前。仲間は寝ている。誰も助けに来ない。連れてくる人間を間違ったんじゃないのか?」

 

 思わず、身を固くする。その問いの答えは、今のボクが最も聞きたくないものだった。

 暗闇の向こう側にいるキョウの言葉に耳を澄ます。

 

 いったい、彼は何と言うのだろうか。

 ボクは、彼の言葉に耐えられるのだろうか。

 

 

 

 

 

「お前に何が分かる。あいつらは俺にはもったいないくらいのいい奴らだ」

 

 力強い言葉が響き、ボクは胸を撫でおろした。

 けれど、反対側から冷たい問いかけが響いた。

 

「本当にそうか? よく考えてみろ」

 

 瘦身の男がそう言うと、暗闇は昏さを増した。おそらく、先ほどボクたちや都市の人を飲み込み、昏倒状態にした黒いオーラを再び出したのだろう。人のネガティブな感情を湧き起こし、立ち上がれないほどの絶望の底に叩き込む力だ。

 

 それらはまだ無事な人間、キョウのもとへと向かって行く。

 

「もう一度聞くぞ。鬱陶しいくらいに希望に溢れているお前。周囲の人間はお前に何もしてくれない。今俺を倒そうとしているのはお前だけだ。人間は他人を助けない。それでも、お前は仲間たちの価値を信じるのか?」

 

 ボクに向けているわけではない言葉が、胸に深く突き刺さる。

 キョウがどう答えるのかが怖い。彼が仮にボクに価値がないと言ったら、いったいボクはどうすればいい。

 

 思い起こされる、奴隷としての記憶。

 矮小な体で鉄格子に閉じ込められた記憶。食事すら満足に取れない不自由な生活。

 彼に見捨てられたら、ボクはまたあそこに戻るのではないか。

 

 けれど、それでも、キョウの答えは変わらなかった。

 

「いいだろ、別に。助けてもらいたくて付き合ってるわけじゃない」

「そうか。では、誰の助けも得られず死ね」

 

 彼が走る音がする。剣を振る音。やや遅れて、何かが斬れる音。

 その瞬間、ボクの視界は回復した。

 まるで、もっとも見たくない景色を見せようとしているみたいだった。

 鮮血が舞う。腹のあたりを切り裂かれたキョウが、地面に倒れ込んだ。

 痩身の男が乱暴にキョウを蹴りとばす。力の入っていない彼の体が、僕のすぐそばに転がってきた。

 

 血の気の引いたキョウの顔が、僕のすぐそばにあった。

 手を、取る。冷たい。

 

「ァ……あ、ああああああ!」

 

 結局、ボクは助けられてばっかりで何一つ役に立てないのか? 

 彼がこうやって倒れるところを見るしかないのか? 

 

 なあキョウ、教えてくれよ。ボクは、生きている価値があるのか? 

 

 目を閉じる。もう、現実なんて見たくなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 キョウの手を握って目を閉じた後。

 気づけば、ボクは知らない場所にいた。

 

 真っ白な空間。

 直感的に、先ほどの幻覚の続きだと悟る。

 けれど、先ほどまでのそれとは違いどこか現実と地続きな場所。

 そこには、ボクとキョウだけがいた。

 

「なんだこれ……夢?」

 

 キョウがぶつくさ言いながら立ち上がる。

 その胸には先ほどの傷はない。

 

 彼の姿に一瞬安堵を覚える。

 けれど、これは夢だ。現実の彼は、ボクの目の前で倒れ込んだ。

 

「キョウ……?」

「あ、ヒビキ? 夢の中だと無事なのか?」

 

 目を丸くしたキョウがこちらに近づいてくる。いつもの様子と変わりはない。

 

「よかったー。ヒビキが無事なら、とりあえず心配事は一つ解決だな!」

「い、いいわけないだろ! お前は斬られて……ボクは……何もできなくて……!」

 

 思わず叫んでしまう。彼のなんでもないような態度が苦しい。

 

「まあ、ソフィアがいるなら死なないだろ。多分助けてくれるって」

 

 明るい様子で笑うキョウ。その姿に、僕の胸の中にあったドロドロしたものが溢れ出してきた。

 

「……そうだな。ソフィアはお前の役に立てるもんな。さっきだって最後まで一緒にいて、キョウの足を引っ張らずに。でも、僕は別だ。僕には何もできない。何もなかったんだ」

「……ヒビキ?」

 

 ダメだ。こんな姿、キョウに見せたくない。

 けれど、言葉が口を突いて出てきてしまう。醜いボクが表に出て来てしまう。

 

「ボクはお前と対等な友人だとずっと信じていたんだ……けれど実際どうだ。奴隷になってからお前に助けられて、命の危機をお前に助けられて、それでボクはお前の危機に何にもできなかった! こんなので、お前の友人だなんて名乗れるのか? ボクは、お前よりずっと弱い人間なのに!」

 

 ああ、どうしてこんなにも本音が抑えられないのだろうか。

 感情を隠すのは得意な方だと思っていたのに。

 この体のせいか? すぐに動揺して弱いボクが出てきてしまうのは、女になったからか? 

 

「ヒビキ……」

 

 沈黙を保っていたキョウが口を開く。

 

 ボクはそれを見て、恐怖に息を呑んだ。

 失望されたかもしれない。否定されるかもしれない。絶縁されるかもしれない。

 そんなボクの思考は、彼の言葉に打ち切られた。

 

「なんでそんなこと言うんだよ」

「……え?」

 

 彼の目を直視する。その瞳は、あの日ボクを救った時みたいに強い光を灯していた。

 

「どうして俺とお前が友達であることに対等だとか役に立つだとか言い出すんだよ」

「だって……納得できないだろ! お前は最後には誰かを助けられる奴で、ボクはいっつも助けられてばっかりで……」

「──関係ないだろ!」

「ッ……」

 

 彼の一際大きな声に、ボクは口を噤んだ。

 キョウの瞳が鋭くボクを捉える。

 

「ソフィアもお前も、真面目な奴っていうのはどうしてそんなに自分を低く見積もるんだよ。俺が何回お前に助けられたと思ってるんだ。試験範囲を教えてくれて、留年を回避させてくれて、くだらないバカに付き合ってくれて」

「そ、そんなことじゃ……」

「やったことが大きいか小さいかとかどうでもいいんだよ! 何度も言っただろ。俺にとって俺が楽しいかが全てだ。……お前にやってもらっことは楽しかったんだよ。試験前だってのにくだらない話をしたり、テスト結果でいちいち騒いだり、そういうものをお前がくれたんだ」

「でも……」

 

 嬉しい。けれども、そんな言葉を本当に僕が受け取っていいのだろうか。

 

「いい加減気づけよ。俺はずっとお前も必要としていたんだ」

「ッ……」

 

 必要としていた。その言葉は、ボクの胸に深く突き刺さった。

 

「だから、さ」

 

 彼は軽く笑った。

 

「俺と一緒に、みっともなく足掻いてみないか?」

 

 彼の手を取り、ボクは──

 

 

「ッ……ァ」

 

 倒れ込むキョウのすぐ隣で、ゆっくりと起き上がった。

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