TSっ娘ハーレムとか正気か?~世界救って女の子に囲まれるはずが、パーティーは全員元男だったんだがどうすればいいですか~   作:恥谷きゆう

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吹っ切れた幼馴染とネガティブ少女

 魔法都市が正面から敵の侵入を許し、あわや都市全滅の危機だった今回の事件は、かなりの大事になった。

 

 一日もしないうちに王城から騎士たちが派遣され、事情聴取が行われた。

 事情の説明については、ソフィアが率先して騎士たちに話してくれたおかげでスムーズに進んだ。

 

 俺が証言したところで信憑性とか全然なかったし、ソフィアに感謝だ。

 

 騎士たちはついでにソフィアに王都に帰ってきてくれないか、と懇願していたが、ソフィアは「駆け落ち中ですので」の一点張りでそれを切り捨てていた。

 

 

 増援戦力として騎士が集結したが、魔王ルサンチマンは配下を一切引き連れていなかったため、杞憂に終わった。

 どうやら、あの昏い目をした魔王は独りだったらしい。

 

 

 魔法大学は今回使われた強力なスキル──『虚無のオーラ』を防げなかったことを重く見て、防壁強化のために研究することを決定したそうだ。

 ヒビキいわく、『精神干渉への対策が必要』とのことだ。

 どうやら、あの黒いオーラ自体に殺傷力はなく、人の体の中でネガティブな感情を増幅されるものだったらしい。

 

 あの魔王のスキルランクはSS。一瞬でネガティブな感情を増幅された人々は、絶望に沈み悪夢の中でずっとうなされていたそうだ。

 悪趣味なスキルだ。

 

 まあ、スキルがどれだけ凶悪で、この国がどんな風に対応していくのかは、正直俺にはあんまり関係ない。

 どっちかって言うと、あの経験を経て友人たちにどんな影響があったのかの方が大事だ。

 

 

 

「ソフィア、もう治療は大丈夫なのか?」 

「ええ。この都市の聖職者の皆さんが引き受けてくださいました。それに、外傷のある方はほとんどいませんでした。やはり、精神攻撃の類は厄介です。……部外者の私では、心の傷は治せませんからね」

 

 少し寂しそうに呟いて、ソフィアは薄く笑った。

 

「まあ、別にソフィアのせいじゃないだろ。聖女だろうと、スキルがSSだろうと、できないものはできないんだろ? それくらい誰でも分かるって」

「……お気遣い、感謝します」

 

 そんなに気負う必要ないのに。そう言ったところで、責任感の強い彼女は聞き入れてくれないのだろう。

 

「そう言えば、ずっと忙しくてあまり話せていなかったのですが。キョウさんの話を総合すると、ヒビキさんが自力で『虚無のオーラ』を打ち破ったから、今回の魔王ルサンチマンは討伐できた、ということでよろしいのですか?」

「まあ、そうだな」

 

 後々分かってきたが、皆を昏倒させたスキル、『虚無のオーラ』はあいつの持つSSクラスのスキルだったらしい。

 

「ヒビキさんはキョウさんを助けるために絶望の淵から這いあがって来たと……本当に、お二人は仲が良いのですね」

 

 少し顔を伏せて言うソフィアに、特に考えずに答える。

 

「まあ、今では唯一の同郷出身だからな」

「けれど、きっとそれだけではないのでしょう?」

 

 彼女の言葉に、ちょっと黙る。

 

「キョウさんはその程度の縁でヒビキさんを大事にしているわけではないでしょう?」

「まあ、な」

 

 正直に話すのも気恥ずかしいな。そう思って、俺は少しの間空を見上げた。

 

「最初は、どちらかと言えば俺の苦手だと思ってたんだ。理屈っぽくて、冷静で」

 

 ヒビキと初めて出会った頃のことを思い出す。小学生の頃、淡々と自分の意見を話している彼の姿。

 

「でも、どこまでも公平だった。自分も他人も、両方を厳しい目で見て、正しい判断を下そうとしている。そういうのは、自分勝手で自分に甘い俺にはできないからな」

 

 ないものねだりというか、羨ましさとか、そういうものだったのかもしれない。

 

「それで興味を持って、気づけば俺に必要な奴になってた。俺には見えないものができて、俺にはできないことができる。ヒビキは、そういう凄い奴だ」

 

 語り終わってから、ちょっと気恥ずかしくなる。

 

「ま、まあ本人には絶対言わないけどな! 調子乗ってうざいから!」

「いえ、その……」

 

 ソフィアの気まずそうな声。不審に思って彼女の視線を先を見ると、そこには顔を真っ赤にして立ち尽くすヒビキの姿があった。

 

「ッ……お、おうキョウ。盗み聞きするつもりはなかったんだが……タイミングが悪くてな」

「……」 

 

 重たくて気まずい沈黙が下りる。

 なんだこれ。地獄か。

 ソフィアも流石に気まずかったのか、わざとらしくヒビキに話しかけた。

 

「ヒビキさん。用事はもう終わったのですか?」

「ああ。大学の方でちょっと話を聞いてきたんだ。しばらくここには来ないからな」

「そうですね。知識を交換するのは良いことです」

 

 ここでの目的だった、魔法の知識のレベルアップはだいたい達成できた。

 それに、ヒビキの悩みもだいたい解決したらしい。

 あの日以来、ヒビキは少し明るくなった。

 

「キョウはもういいのか?」

「ああ。できれば先生してくれた茶髪のお姉さんともっと仲良くなりたかったんだが……」 

 

 俺が後悔を語ると、なぜかヒビキの視線が鋭くなった。

 

「ああ。あの人言ってたけど、実は男より女の人の方が好きらしいぞ」

「そうなのか!? ……それなら仕方ないな。百合に挟まるのは大罪だからな」

「そうだぞ」

 

 ヒビキから貴重な情報を得たので、俺はキャンパスでの恋愛を諦めた。

 クソ……知的お姉さんとの恋愛物語を描きたかったぜ……。

 

「今噓つきさんが一人いらっしゃったような……それはともかく、シュカさんはどちらに?」

「あれ? そう言えば……いつもなら『次なる強敵に会いに行くってことだね!』とか言って意気揚々と準備しそうなものを」

 

 そんな話をしていると、向こう側から見覚えのある影が歩いて来た。

 

「シュカ、遅かったな」

 

 シュカは『虚無のオーラ』を食らって以降、あまり喋らなくなった。

 落ち込んでいるのは察せられたが、明るい彼女のことだからすぐに元通りになると思っていた。

 

「おいシュカ、出発するぞ。もう行けるよな?」

 

 けれど、いつまで経っても彼女は無口なままだった。

 やはり元気のない彼女に声をかける。

 

「うう……」

 

 返事がない。ずっとブツブツと何事か呟いている。

 

「おいシュカ、どうした……?」

「うう……ボクは弱い……」

「……どうした?」

 

 様子のおかしい彼女に恐る恐る声をかける。

 

「弱いんだ……弱い……弱い……」

「……?」 

 

 下を向いて小さな声で話すものだから、上手く聞き取れない。

 うるさいくらいに元気に話すシュカらしくない態度だ。

 

 俺は彼女の言葉を聞くために、ぐっと耳を近づける。

 すると、シュカはガバッと顔を上げた。

 

「うわああああ! 終わりだああああああああ!」

「うわっ! 急に叫ぶな!」

 

 鼓膜が破れたかと思ったわ。

 しかしシュカは俺の様子には全く気付いていないようで、また下を向いてブツブツ呟き始めていた。

 まるで感情のジェットコースターだ。

 

「戦えないならボクがここにいる意味ってなんだ? なぜ生きて……なぜ生まれて……ああ、人生というのはつまり……」

「おい、シュカ? なんかお前中身入れ替わったか?」

 

 もっとこう、ウザイくらいポジティブなキャラだっただろ。

 なぜここまで落ち込んでしまったのだろうか。こういう時どうやって慰めたらいいのかとか、良く知らないんだけど……。

 

「ああ、むじょー……」

 

 ……いや、このふざけた物言いはそんなに落ち込んでないかも。

 

「だあああ! いいから、行くぞ! 歩いて、新しい景色見て、飯でも食ったら気分も晴れるだろ! ほら!」

 

 どのみち、ここにいても何も変わらない。ちょっとすれば元に戻るだろう。

 そう思って、俺は彼女の手を引いて魔法都市を出ることにした。




第二章はここまでです
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