TSっ娘ハーレムとか正気か?~世界救って女の子に囲まれるはずが、パーティーは全員元男だったんだがどうすればいいですか~   作:恥谷きゆう

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精霊について

 ソフィアのいる本棚のあたりには、呪いなどについて纏められた本が納められているようだった。

 ソフィアが興味を持ちそうなものとは少々異なるラインナップに驚く。

 

 「あら、キョウさん」

 

 禍々しいタイトルの並ぶ本棚の真ん中で、ソフィアは涼しい笑みを浮かべてこちらに手を振ってきた。

 

 「ソフィア。こんなところで何を読んでるんだ?」

 「はい、これです」

 

 ソフィアが見せてきた本のタイトルは『古代の魔剣について』だった。

 その単語を見て、ようやく彼女の行動の意味が分かった。

 

 「これって……まさか、『傲慢の魔剣』について調べていたのか?」

 「ええ」

 

 俺は自分の腰に下がっている剣を意識した。

 太古に造られた呪いの剣。意志を持つ謎の武器。

 以前、ソフィアは傲慢の魔剣について、「危険だから手放した方がいい」と警告してくれていた。

 俺としては少なくない時間を共にした魔剣を手放すのは気が引けたのでそのままにしていたが……どうやら彼女はまだ関心を持っていたようだ。

 

「あまりにも古い代物ゆえに参考文献がまったく存在しなかったのですが……流石は大図書館ですね。探していたものを見つけることができました」

「俺の為に調べてくれていたのか……」

「ええ。前にも言いましたよね。その剣は、いずれキョウさんの身を滅ぼすと」

「考えすぎじゃないか……?」

 

 そんなに悪い奴じゃない気がするんだけどな。

 しかし、ソフィアの目は真剣だった。

 

 「いいえ。こちらの書物は私の考えが間違っていないことを証明してくれました。見てください」

 

 ソフィアが指さしたページには古めかしい文章がつらつらと書かれていた。

 

「――刀匠ムラマサの打った刀にはいずれも強力な自我が存在していた。そのどれもが邪悪で秩序を崩壊させようとするものだった。これは刀に彼の激しい憎悪が籠った結果だと考えられる。王に対する怒り。殺意。そういったものが凝縮して王殺しの魔剣――七罪の魔剣は誕生した」

 

 ああ、鑑定結果にもそんなこと書いてあった気がするな。

 最初の方に傲慢の魔剣のステータスを見た時のことを思いだす。

 

 800年前、狂気の刀鍛冶ムラマサが作った七罪の魔剣、その一振り。

 自らが認めた主以外には剣を抜くことすら許さない。

 

「七罪の魔剣に宿る自我、その正体は極東では付喪神と呼ばれるものであり、この国では精霊と呼ばれる存在と考えられる」

「……コイツが、精霊?」

 

 ソフィアの読み上げた文章に驚く。

 精霊っていうか、もっとこう禍々しい奴を想像してた。なんというか、悪魔みたいな?

 

「ええ。私も精霊というものについて詳しく存じませんでしたが、調べてみると七罪の魔剣の特徴とも一致します」

「……というか、そもそもの話なんだが……精霊ってなんだ?」

 

 そこまで話を聞いて、俺はさっきから気になっていた疑問を口にした。

 急に新しい言葉をいくつも出されても理解できない。

 正直なところ、ここの受付で話を聞いていた時からずっと俺は話題についていけないままだった。

 そんな問いを口にすると、急に横合いから飛び出してくる影があった。

 

 「――キョウ! どうやらボクの説明が必要みたいだな!」

 

 突然、ハイテンションなヒビキが本棚の向こうから飛び出してきた。

 急に大きな声を出されたので、俺とソフィアが肩をびくりと震わせる。

 

「ヒビキ、もしかして楽しすぎて変なテンションになってるか?」

「細かいことはいい! 精霊についてだったな。ボクが説明してやろう!」

 

 ヒビキはノリノリだ。 

 けれど、説明の前に一つ言うべきことがあるだろう。

 

 「ヒビキさん。図書館では静かに、ですよ」

 

 ニコニコしていたヒビキは、ごもっともな注意を受けてシュンと肩を落としてしまった。

 

 ◆

 

 少しばかり移動して、大図書館内の閲覧室。

 長机と椅子がいくつも置かれて、本を読むことができるスペースになっている。

 その端っこの方に陣取って、俺たちはヒビキの説明を聞くことにした。

 

 「精霊という存在はほとんどこの国でしか確認されていない。受付の人の言っていた通り、時代と共に世界から姿を消した存在だからだ」

 

 先ほどよりもだいぶ声を抑えたヒビキがそう切り出す。

 

 「ただ、大昔にはありふれた存在だった。そもそも、魔法というのは精霊の力を借りて発動するものだったみたいだ。その時代の魔法を指して精霊魔法だとか、古代魔法だとか呼称される」

 

 古代魔法……なんだか惹かれる響きの言葉だな。俺の中の童心が「カッコイイ!」と叫んでいる。

 

 「その正体は魔力の塊のような存在だった、と今の学者は推測している。空中を漂う魔力が何らかの意思を持って集まった存在。それが精霊だ」

 

 魔力の塊……なんだか抽象的な話になってきたな。

 

「……その話を聞くと、やはり魔剣の正体は精霊である、という私の仮説は正しいように思えますね」

 

 ヒビキの説明を聞いたソフィアが真面目な顔で頷く。

 

「魔剣の意思は魔力によって構成された疑似人格です。キョウさんの腰にある魔剣にも、強大な魔力が籠められていますのが分かります」

「なるほど。……そうなると、一つ考慮するべき情報がある」

 

 ヒビキが人差し指を立てて説明を始める。

 

「精霊は人間との契約によって縛られる存在だ。人間側が契約に従い続けている限り、契約者である人間を害することはできない。魔剣もまた、使用者を傷つけるのは契約上難しいはずだ」

 

 ますます悪魔みたいな奴だな、精霊。

 

「なるほど。その特徴は私の調べとも一致しますね。……魔剣のような邪悪な力を持つ道具は、人間を誘惑して『魂』を得ようとします。契約とは魂を縛るもの。魂の所有権を得ることができれば、もはや契約の縛りなど無いようなものです」

「……魂? なんか傲慢の魔剣がそんなこと言ってたな」

 

 二人の目がこちらを向いた。 

 俺はあの時聞いた言葉を思い出しながら口にした。

 

『――小僧、貴様の魂をよこせ』

 

 二人の表情が大きく変わったのが分かった。

 どうにも、これは俺が思っているよりもずっと重大な問題だったらしい。

 

 俺はこの世界に来てからずっと腰にぶら下がっている剣を改めて見る。

 傲慢の魔剣は相変わらず沈黙したままだ。自らの話題に対して反応する様子もない。

 

「……なるほど、確かにソフィアの言う通りだな。ボクも色々調べてみよう。せっかく大図書館に来たんだからな」

「ええ、ありがとうございます。心強いです」

 

 頭の良い二人は完全に意志を共有できたように頷き合っている。

 事の重大さは分かったが、どうにも俺にできることはあまりなさそうだった。

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