紅に手を引かれてたどり着いたのは、30年前に見たあの屋敷だった。
気になったので紅に問い掛けてみた。
「ここが紅のお家?」
すると紅は満面の笑顔で、
「そうよ!そして、今日から貴方のお家!!」
と言った。
紅の名付けによってか僕の口調が幼く?というか紅の語彙に引っ張られてるみたいだ。
すると屋敷の中から見覚えのある紅い女が現れた。
「こうして見るとまるで姉弟のようですね。久しいですね黒き存在よ。」
「違うわ、お母さん。黒は黒よ!私の弟!!」
「あら、ふふ。そうですか。すみませんね、紅。」
そうして紅い女は此方を向いた。
僕は挨拶でもしようと口を開いた。
恥ずかしいが、言うか?
「・・・あー。久し振り?これからよろしく。か、義母さん?」
紅が俺の姉なら、この紅い女は僕の義理の母になるんだと思う。
すると紅い女――僕の義理の母?は目を真ん丸にして驚いたあと、微笑んだ。
「ふふ。母ではなくアカコでいいですよ。黒き存在、いえ。
「ああ。よろしく、アカコ。」
「ええ。よろしくお願いします、黒。」
そうして僕、出雲 黒は紅とアカコの家族になった。
◇◇◇◇
僕が紅とアカコの家族になってからは、時間があっという間に過ぎていった。
アカコに稽古を付けてもらったり(ボコボコにされた)、紅と筍を採りに行ったりしたことは今も覚えている。
そうして、あれから60年がたったころ。
僕は青年へと成長し、紅は立派な女性に成長した。
それに対比するようにアカコは体が衰え、寝たきりになって行った。
そしてある日、アカコの寿命が来た。
「紅、どうか幸せになりなさい。 黒、紅をたのみましたよ。」
「お母さん?」
「アカコ、逝くのか?」
「ええ。黒、貴方の幸せも願っています。私の子供
僕たちに「幸せになれ」という言葉を残して――アカコが息を引き取った。
その後のことはあまり良く覚えていない。
アカコの体は空に溶けるように消え、彼女の身に着けていた服しか残らなかった。
僕と紅はアカコの身に着けていた服を庭の端にある紅の父親の墓の隣に埋め、アカコの墓を造った。
僕はアカコと紅の父親の墓に死後の国がもし有るのなら、二人がまた会えますようにと手を合わせた。
隣を見ると、紅も手を合わせていた。
その後、今更になって僕は気付くことになる。
――運命は残酷だと。
◇◇◇◇
アカコの墓を作って少しがたった。
僕と紅は屋敷の整理や、遺品の確認等をしていた。
するとアカコの部屋の机の上に遺書があった。
見つけた遺書には次の様なことが記してあった。
①自分の遺品は好きにしていいこと
②自分の部屋の箪笥の一番上に紅への贈り物と手紙が、上から2番目に俺への贈り物と手紙が仕舞ってあること
③二人共幸せに生きて欲しいこと
「・・・アカコ。」
「お母さん・・・」
涙は枯れたと思っていたが、未だ枯れてなかったらしい。
遺書に涙が落ちないよう、着物の袖で涙を拭う。
「・・・遺書に書かれていた箪笥を見よう。」
箪笥にはアカコが偶に着ていたような太極図が描かれた前掛けの付いた着物のような道士服と、大きめの背嚢が仕舞ってあった。
手紙を広げる。
――黒へ
――貴方が此れを読んでいるという事は、私が何らかの要因で死んだのでしょう。
――貴方には私が黒専用に作製した道士服一式と私が昔使っていた旅の道具一式を贈ります。
――この道士服はとある妖怪の産み出す糸で私が作ったため、貴方のことを守ってくれるでしょう。
――前掛けの方には万が一のために貴方の【ありとあらゆるものを曖昧にする程度の能力】によって貴方が曖昧にならないようにするための術が織り込んであります。
――ですが、修行は怠らない様に。
――貴方にはこれから様々な出会いと別れを経験するでしょう。
――紅は貴方より早く死ぬでしょう。それに絶望せず、見聞を広め、友を、愛するものを作りなさい。其の為には旅に出ると良いでしょう。
――幸い、私が能力で見た限りでは貴方の旅には辿り着く場所がある。縁を大切にしなさい。
――困ったり悩んだりすることも有るでしょう。ですが、立ち止まらず貴方の答えを出しなさい。其れが貴方の助けとなるでしょう。
――長々と書いてしまいましたが、一つ言いたいことがあります。
――黒、貴方は私の自慢の息子です。背を伸ばし、胸を張りなさい。
――愛しい息子、黒へ母より
「・・・アカコ。いや、母さん。ありがとうございましたっ。」
隣を見ると紅
僕達は二人で大声を上げて泣いた。
そりゃあもういい歳して、泣きじゃくりまくった。
そして僕達は泣き疲れて寝た。
◇◇◇◇
ある日、紅が吐血して倒れた。
紅の体からは霊力と妖力がたれ流しになっていた。
当て嵌まる症状はアカコの遺した本の中に記述があった。
――不治の病、死に至る病と。
「紅、大丈夫か?」
「ええ。今日は未だマシな方ね。」
「そうか。何か僕に出来ることはあるか?」
「うーん。じゃあ黒、お願いを一つ聞いてくれる?」
「お願い?まぁ、僕に出来ることなら。」
すると紅は一拍おいてから語り始めた。
僕は唐突に理解した。紅はこの話が終わったら、死ぬのだと。
「・・・私ね、一度旅をしてみたかったの。でも、私はもうすぐで死ぬ。自分の死期って案外わかるもんなのね。だから、私が死んだら"私の全部"をあげる。私を、一緒に連れてって?」
「紅・・・」
「黒、泣かないで。私はこれでも結構満足してるの。私達には誰しも終わりが来る。私は其れが来てしまっただけ。」
「でも。」
「'でも'も、'だって'も無しよ。私の最後の我儘。黒、私の家族。どうか幸せになってね・・・」
紅は息絶えた。
僕は瞼を閉じようと紅の顔に手を当てた。
瞬間、紅は光になって僕の中に流れ込んできた。
コレは紅の魂と能力?!
――黒、私は貴方と共に有る
ふと、紅の声が聞こえた気がした。
「わかったよ。紅、僕はもう泣かないよ。」
――それでこそ私の弟ね!!
――ええ。私達の自慢の家族です
「え?」
庭にある墓の方にゆらりと幻が見えた。
直ぐに消えてしまったが、「頑張りなさい」と言われた気がした。
◇◇◇◇
屋敷の片付けは終わり、旅の準備は整った。
取り敢えず100年ぐらい能力の修行したし。
能力で入れられる容量を曖昧にして何でも入るようにした背嚢に必要な物を詰め、
「うん。いい感じだ。」
屋敷の外から門を閉じる。
屋敷に僕以外が辿り着け無いように"曖昧にする結界"を張る。
よし。
出発だ。
「母さん、行って来ます。」
こうして僕の旅が始まった。
――思い出の場所を背に。